告白
ボクのそこには、
もう何もない。
ただ平らな肌と、
おしっこをするための小さな穴だけ。
友達が持っている、
あの『しるし』は、
きっとあの暑い道路のどこかに、
溶けて混ざってしまったんだ。
でも、
不思議だね。
鏡を見なくてもわかる。
ボクの空白は今、
世界で一番きれいな『空白』になっている。
悲しくなんてないよ。
だって、空白になったってことは、
ここから何にだってなれるってことでしょう?
ボクは、
まだ誰も書いたことのない物語を、
この新しい肌の上に書き始めていくんだ。
告白
目の前で響いた、「爆発音」。
それは、世界に巨大な亀裂が入るような、乾いた爆発音だった。
大型トラックのタイヤから剥離した塊の質量は、
物理法則に従い、
無垢な少年の空白へと正確に収束した。
「痛い」と思うより先に、
視界は真っ赤な夕焼けから、
無機質な「空白」へと反転する。
宙を舞う視界の中で、
見た。
自分の身体の一部であったはずの肉塊が、
陽炎の向こう側へと、
放物線を描いて弾け飛んでいくのを。
それはまるで、
不要になったパーツを切り離して大気圏に突入する、
孤独なロケットのような光景だった。
しかし、
その軌跡は驚くほど静かだった。
トラックのバースト
救急救命室(ER)の冷徹な記録
【緊急オペ記録:症例番号 70X-3】
● 外傷状態: 会陰部から恥骨上部にかけての広範な皮膚および軟部組織の欠損。
陰茎および両側精巣の完全な外傷性切断。
尿道膜様部の破断。
● 処置: 挫滅組織のデブリードマン(壊死組織除去)後、残存する尿道を会陰部へ転位。
陰嚢跡地は皮弁形成(皮膚移植)、血管吻合(血管をつなぎ合わせ)により完全に平坦化。
● 所見: 男性としての生殖機能保持は不可能。
しかし、骨盤底筋群の損傷は最小限に留まる。
この「滑らかな閉鎖」は、将来的な形成外科的アプローチにおいて特異な基盤となる可能性。
損傷した組織を取り除き、周囲の皮膚をつなぎ合わせて平坦化された。
深夜の病棟は、
消毒液の匂いと加湿器の微かな音に支配されていた。
乃雅は重い瞼を持ち上げ、そっとシーツの中に右手を差し込む。
かつてそこにあった、
不器用な自己主張を繰り返す「突起」を探して。
指先が触れたのは、
分厚いガーゼと、
その奥にある「絶対的な沈黙」だった。
起伏がない。
温度のゆらぎがない。
そこには、
磨き上げられた大理石のような、
あるいは一度もペン先が触れていない上質な原稿用紙のような、
なめらかな皮膚が広がっているだけだった。
「空白」ということが、
心臓の鼓動よりも大きく、
ドクンドクンと指先に響いてくる。
それは喪失感ではなく、圧倒的な「空間の獲得」に近かった。
少年の手術。
鏡の中の空白
病室の遮光カーテンの隙間から、
午後の陽光が鋭い槍のように差し込んでいた。
処置台の上に仰向けになった乃雅の視界には、
無機質な天井のジプトーン模様と、
執刀医の銀縁眼鏡の奥で光る冷徹な瞳だけが映っている。
「……よし。
今日ですべて抜くよ、
乃雅君」
ピンセットが微かに触れるたび、皮膚の突っ張りから解放される奇妙な感覚が走った。
ナイロン糸が抜ける小さな抵抗は、
かつて自分をこの世界に繋ぎ止めていた「男性々」という名の古い未練を、
一針ずつ解いていく作業のようでもあった。
最後のひと針が抜かれたとき、
そこには痛みも、
痒みも、
不快な違和感さえも残っていなかった。
「終わったよ。
……見てごらん。
とても綺麗だ」
先生から手渡されたのは、
使い古された円形のステンレス製手鏡だった。
それを震える手で受け取り、
息を吸うことも忘れたまま、
鏡を空白へと傾けた。
鏡の中に広がっていたのは、
彼が知っている「男の子」の姿ではなかった。
鏡の中の空白