トイレでの再会
「好きです!付き合ってください!」
高校の卒業式からの帰り道、後を付けてきた感じの誰かに突然告白された。
「はあ?」
反射的にそう答えただけだが、なぜか相手は取り乱す。
「まさか断られるとは⋯そうか、恋人がいるとか?」
脈略もなにもないうえに答える必要もないが、勝手に話は進んでいく。
「腹いせに別れさせてやる!#####⋯」
最後に呪文のようなセリフを聞いたところまでは覚えているが、そこで記憶は一旦途切れる。
あれからおよそ2年。
あれこれ大変だったが、なんとか派遣の仕事にありついた。
休憩もためらうほど忙しいことはあるが、それなりに充実している。
それに人間関係も悪くない。
さっきも通りかかった社員が電話番をかわってくれた。
このあと点検関係の来社予定があるが、それも対応してもらえるらしい。
しかし設備の方は微妙。
俺は男女共用のトイレのほうが入りやすいが、そういう人は少ないだろう。
それに丸見えの小便器があるので、他人とかち合うのはやはり気まずい。
幸い今は人の気配がない。
まだ余裕はあるが、今のうちに用を足しておくことにする。
ひとつしかない個室に入ると、和式便器をまたぐ。
スカートをたくし上げてから、慎重にストッキングを下ろす。
その下のショーツも蒸れて肌に張り付いていたが、めくるようにはがす。
毛の生えた部分に空気が当たると、少し気持ちいい。
でもそろそろ手入れしたほうがいいのかな。
男みたいに足や腹にも生えた毛とつながってなんてことにはならないだろうけど、気にはなる。
そんなことを考えていたが、作業をそこまでで中断する。
戸を叩く音が聞こえたのだ。
少しうわずった口調で何かゴチャゴチャと言っているが、その感じに聞き覚えがある。
元の俺の声、つまり喋っているのは多分この身体の主だ。
「ちょっと待ってくれ。いや、そこで済ませて出てってくれ。」
どうせ本人だから本来は音を聞かれても構わないんだろうし、見ても何とも思わないだろう。
そうはいっても恥ずかしいと思うのは、この身体が女だからか。
「ねえ、アタシが出したオシッコをこんなのが受け止めてくれると思う?紙もないのに?」
やはりそっちの用だったか。
話の流れからそうだと思った。
思わず今さっき露出した部分の前に手を添えてみる。
しばらくハンズフリーでやっていたので感覚を思い出せないが、俺の身体ならできるはずだ。
「もう!無駄口たたいてないで早く空けてよ!漏れちゃう!」
相変わらず話が噛み合わない。
あの時もそうだった。
支離滅裂な会話をしてそれで⋯
「#####!」
無意識に例の呪文のような言葉を口にする。
するとあいつが唱えた時と同じように意識が飛ぶ。
そしていつの間にかブースの外にたたずんでいた。
鏡の方を向いてみると、昔とはだいぶ風貌が変わっている。
ギリギリ肩にかかるかどうかの髪にアイドルのような化粧。
だが記憶のなかにある俺の顔だ。
しばらくなんとも言えない気持ちに浸っていたが、突然ムラムラしてきて我に返る。
小便が溜まっているせいだろうか。
それが出る部分が反応しているような感覚はあるが、存在感はあまりない。
それならまだ普通に出来るだろうし、大の方の感覚もない。
小便器の前でつなぎを確認すると、ちゃんとこういうとき用のチャックがついている。
その中に指を入れるが、なぜかイメージ通りにならない。
指を入れても、ひたすら平らな肌に触れるだけ。
肝心なブツを見つけられない。
あちこち触っているうちに指の先が何かの間に挟まれる。
その形は多少いびつだが、触ったことのある感触に俺は青ざめる。
特に敏感な部分に手が触れた瞬間、ついに膀胱が決壊した。
男の構造では狙えないであろう場所に、濃い色の水たまりができていく。
必死に止めようとするが、俺の意思とは関係なく垂れ流されている。
「へえ、立ちションしちゃったんだ。まあ自分で言ってたんだしね。」
「おいまさか⋯」
自分の用を済ませた女の声が俺の嫌な想像を肯定する。
「そうよ、あんたに付いていたものをお医者さんに小さく加工してもらったの。女のおチンチンってやつのかわり。」
⋯ということはつまり⋯
「わかってるでしょ。オシッコも白いアレもそこからは出ないわよ。そもそもタマももうないし。」
さっきまで似たような構造だったはずなのに、なぜか涙がこぼれてくる。
「思いがけず復讐ができてせいせいしたわ。」
俺が途方に暮れるなか、そんな言葉を残して去っていった。