前作(アメリカン去勢デバイス)はこちら
山手線を渋谷駅で降りて、坂道を登ってから細い路地を右に入ると、その店は突然現れた。
2軒並んだうちの、左側の大人のおもちゃ店のような怪しげな雰囲気の店は「デバイスストア・テキサス」、右側のおしゃれな店は「オールタレーションショップ・フロリダ」という看板が出ている。
左側の店のショーウインドウには、今日の取材目的の「アメリカン去勢デバイス」や、リアルな男根のディオルドが並んでいる。
私は、左側の店の扉を開けて店内に入る。店は、間口6メートル、奥行き10メートルぐらい。照明が暗くて怪しい雰囲気である。
「こんにちはー、お電話しておいた「週刊近代」の小林といいます。」
「あ、どうも、お待ちしていました。」
奥にいた40歳ぐらいの男性店員から返事が返ってきた。
「私がデバイスストア・テキサス店長の高橋です。こちらが妻の雅恵。隣りのオールタレーションショップ・フロリダの責任者です。」
隣りのまだ20歳代半ばと思われる美人が、にっこり笑った。
紹介が終わると、狭い店内の中央にあるテーブルに案内された。
「さて、今日はどのようなお話をすれば。」
店長が切り出した。
「今回は『記者の衝撃の体験記!』というシリーズものの取材です。そうですね。まず、ここで取り扱っている商品のご紹介をお願いします。」
そう言いながら取材用テープをオンにする。
「まずは、もちろんこれ、『アメリカン去勢デバイス』です。」
店長が,先端が輪の形になっている大きなペンチのような道具をテーブルに置く。握り手の内側にはギザギザになっていて、外側にはレバーや青黄赤3色のボタンがあり、電源コードも付いている。
「これが主力商品ですが、他にもいろいろあります。ここは、アメリカの製造元の『テキサスデバイス社』の日本法人の直営ショップで、アンテナショップになってますので、市場動向を探ったり、新商品を試験的に売り出してお客様の動向を見るために、試験的な商品も並べています。日本法人と言っても、私が社長で妻が専務なのですがね。妻は、以前、アメリカン去勢デバイスの総輸入元だった商社でこれのセールスをしていまして、結構やり手だったので、その縁で日本法人を任されたわけでして。」
「他の商品はどのようなものがありますか?。」と私。
店長は、商品棚からいろいろな器具を持ってきて、テーブルに並べる。
「睾丸だけの去勢に使うのはエラストレーターやバジゾ、これらは家畜の去勢用器具を人間用に改良したものです。それからナッツクラッカー、これは胡桃割り器の原理で陰嚢の上から睾丸を潰します。こちらは、ペニスエラストレーターセット。陰茎の根元に強力ゴムバンドを嵌めて血流を止めて、ペニスを壊死させるのですが、睾丸と違って陰茎は48時間以上しないと壊死しませんので、排尿を確保する金属カテーテルや、その間にゴムバンドを自分で取ったりしないように、局部をカバーして施錠する貞操帯がセットされています。」
私は、持ってきた取材用デジカメで撮影する。
ところで店の奥に気になるものが見える。
「あの、ギロチンみたいなのは。」
「ペニスギロチンです。首の代わりに男性器を切断するギロチン。」
「読者が興味を持ちそうです。あれも写真を撮りたいのですが、ギロチンだけだと殺風景なので、使用中の光景があるといいですね。」
「あなたがモデルをしたらいかがですか。シャッターなら妻に押させます。」
「私がですか。でも仕方ないかな。じゃあ、お願いします。」
私はズボンとパンツを床まで下ろして、ペニスギロチンの前に立つ。厚い木でできたギロチンの枷は、刃物が通る外側はまっすぐだけど、内側は人間の前陰部と腰の曲線に合わせて削ってあるようだ。中央の穴には男根がすっぽりと収まるようになっている。
店長は、私をギロチンに固定してから、枷に付いた3本のベルトを、私の腰の左右と股間に回して、腰の後部で結び、力一杯締め上げる。私の前陰部は枷に密着して、自然に男根全体が穴からぎゅーとせり出した。
穴から出た私の男根の根元が、鉄板で挟まれて、引っ込まないようにされる。
「準備OK。じゃあ、これで撮影しますね。」
あとはギロチンの紐を引けば、鋭い刃が落下し、陰嚢陰茎ともスパッと切り落とされる状態。
このミジメな姿を、雅恵さんにデジカメで撮られていると思うと、私の男根は自然に屹立して、先っぽがヌルヌルしてきた。
ストロボが一閃する。
「撮影完了です。これでいいですよ。でも、わが社では、もっと優れたものを開発しましたので、その装置も後でご紹介しましょう。」
ベルトを外しながら、店長が言った。
「楽しみですね。ところであのディオルドも商品ですか。外のショーウインドウにもいくつかありましたが。」
私は、入口近くのケースを指差して聞く。
「そうですね。持ってきましょう。」
店長は、テーブルの上に5本のディオルドを並べた。
どう見ても本物に見える。
「これらは模造品ではありません。全部本物です。男性から切断してプラスチックで固めたものです。」
「そんなことができるのですか。」
「樹脂浸透保存、別名プラスティネーションという技術です。人体に含まれる水分を特殊ポリマーと入れ替えて、そのままプラスチックで固めてしまう方法です。これはシリコンで固めています。切断前の本物と変わらないので展示品向きですね。こちらはエポキシ樹脂で、半透明で色が茶色っぽくなっていますが、表面の滑らかさが優れていて、ディオルドとしてはこちらの方が使いやすいです。」
「作るのは簡単なのですか。」
「冷凍したり真空の中に入れたり結構大変ですけど、わが社では、容器の中に切断したパーツを入れておけば、それらを全部自動的にやってしまう装置も開発しています。」
「売り物ですか。」
「もちろん、こちらの陰茎だけのは10万円、こちらの陰茎と陰嚢が付いているのは17万円。こちらのいかにも大きいのは40万円。下に置いてあるのは元の持ち主の写真です。購入されたご婦人方はこれを見ながらナニされるわけです。」
見ると、身長、体重、年齢、顔写真のほかに、切断前と切断後の全裸の全身写真と局部のクローズアップ写真も付いている。
「元の持ち主はどうしてこれをここに。」
「隣りのオールタレーションショップ・フロリダで切断したんですよ。そちらにご案内しましょう。」
二つの店は中で行き来できるようになっている。
オールタレーションショップ・フロリダの中は、打って変わって明るくて、エステサロンのような感じだ。
それに面積も倍ぐらいある。
ゆったりしたソファーに座ってから、今度は雅恵さんに質問する。
「まず、お店の名前のオールタレーションとは何ですか。」
「Alterationと書きます。普通は変更という意味ですが、去勢という意味もあります。それからフロリダは、テキサスデバイス社の工場があるところです。本社はサンアントニオなのですが、工場はタンパベイにありますので。」
スラスラと、いかにもやり手のセールスレディだったろうなと思わせる返事が返ってきた。
「ここに来るお客はどのような目的で。」
「デバイスストア・テキサスはほとんどが女性のお客さんですけど、こちらは男性のお客ばかりです。
付き添いで女性がみえることもありますけど。皆さん、手軽に、安く、速く去勢してもらいたいという男の人ばかりです。」
「どのような男性がここで去勢してもらっているのですか。」
「まず圧倒的に多いのが、性器が邪魔だから去勢したいという男性。中には浮気の罰に恋人から命じられて、泣く泣くやってくる男性もいます。陰嚢だけ取る人と性器全部を切断する人と両方いますね。料金はどちらの場合でも1万円です。」
「切断した性器はどうするのですか。」
「持ち帰る人と置いていく人がいます。持ち帰る場合はホルマリン漬なら無料ですが、プラスティネーション処理だと、3万円かかります。この料金には、展示ケースとペニバン用の股間ベルトが付いています。置いていく人は、こちらで査定してディオルドとして価値があれば引き取ることもあります。3万円以上の金額が付かないと赤字なので、20歳代の青年かよっぽど巨根でないと引き取りませんが。」
「他の理由で去勢に来る人もいますか。」
「自分のディオルドを作りたいのが主目的という男性がいます。インポテンツで生の男性器が役立たずになってしまったので、切断してプラスティネーション処理した自分のものでペニバンを作って、妻を満足させたいという男性がよくいらっしゃいます。それから、遠距離恋愛や単身赴任で、プラスティネーション化した陰茎を女性の元に置いて置いて、普段はディオルドとして使ってもらい、会ったときは自分がペニバンとして使う男性もいます。こういう人たちは、陰嚢はそのままにして陰茎だけ切断していきます。」
「その他には。」
「いかにもうちの店というお客さんは、お金目当てで自分の性器を売り飛ばしに来る人ですね。隣りの店でプラスティネーションディオルドを販売していますので、その材料提供と言うわけです。うちは売値マイナス7万円で購入させて戴いてますので、10万円で売れる性器なら3万円お渡ししています。査定の結果、残念ながらお引取り戴くこともありますけど。」
「そんなに売り込みがありますか。」
「写真も付けて売るわけですから、よっぽど好青年か、よっぽど巨根でないと高額にはなりませんね。ですから、サウナや銭湯、公衆便所などに夫がスカウトに行くこともあるんです。これはという男性がいたら声をかけるわけです。うまく切断まで承諾させるのは百に一つぐらいですねどね。」
「実際の去勢処置はどうやってやるのですか。」
「後にある椅子が手術台です。」
と、雅恵さんは歯医者や耳鼻科にあるような椅子を示した。
「アメリカン去勢デバイスなどの器具で去勢するときは、下半身裸になってから、あの椅子に腰掛けてもらって使います。でも最近はもっといい設備が入りました。これを見てください。」
今度は、店の中央にある白い台を指差して言った。
マッサージに使うベッドのような台で、中央に直径5センチぐらいの穴が開いている。穴の周囲はドーナッツ型の金属リングになっていて、ベッドには身体を固定するためのベルトが付いていてる。
「まず、そしてここにうつ伏せに寝てもらい、性器をここの穴にインサートしていただきます。この金属リングは、アメリカン去勢デバイスのリングと同じ構造になっています。」
私は、リングの中をしげしげと眺める。
雅恵さんは、ベッドの横にあるコントロール装置を見せた。
「まずここの青色のボタンを押しますと、麻酔薬がリングにセットした6本の針で陰茎の根元に注射されます。次に黄色のボタンを押しますと、尿道に金属カテーテルが差し込まれてから、リングに仕込まれたワイヤーが陰茎の根元をギューと締め付け、血流を遮断します。その上で赤いボタンを押しますと、レーザーメスが作動して陰茎を輪切りにします。完全去勢の場合は、陰嚢も一緒に取ってしまいます。傷口は高周波電流で焼いて止血されます。数分たったらカテーテルを引き抜いて終りです。」
「これが、店長さんが言われた、ペニスギロチンよりいいものがあるというやつですか。」
「そうです。アメリカでも正式発売前で、日本にあるのはこれ1台です。麻酔、尿道確保、止血を全部やってしまいますので、断然優れています。係員がボタンを押さなくても、ほら」
雅恵さんはベッドの右上の大きなボタンを示した。
「コントロール装置を全自動に設定しておくと、このボタンを男性が自分で押すだけで、先ほどの過程を自動的に全部処理します。アメリカではプロフットボールの選手がこれを使って実際に去勢するTVコマーシャルを作成して、全米の度肝を抜く計画だそうです。」
「切断した男性器はどうなりますか。」
「リング下に、プラスティネーション用のタンクをセットします。ここに入ってきた男性器は、自動的に加工処理プラント装置に回されます。もし、ホルマリン漬でいいということなら、ガラス瓶を置きます。」
私はデジカメで撮影しながら聞いた。
「また、モデルをやりたいのですが。」
雅恵さんはにっこり笑って答えた。
「そう言われるだろうと思っていました。さあ、どうぞどうぞ。これは全裸になっていただきます。」
私は、服を全部脱いでうつ伏せになった。私の男性器全部、陰茎も陰嚢も全部ドーナッツ型のリングの穴の中だ。
雅恵さんは私の背中や手首足首をベルトで止めた。
店長も手伝いにやってくる。ストロボが光る。
「今ひとつ感じがわきませんね。肝心の部分は身体の下ですし。」
「じゃあ、青ボタンを体験してみますか。」
「お願いします。」
雅恵さんがボタンを押すと、私の男根の根元にリングから突き出てきた麻酔針が刺さったようだ。すぐに局部が痺れてきた。きっと触っても無感覚になっていると思う。
「どうですか、黄色も行ってみますか。」
「これでけじゃ分かりませんから、よろしくお願いします。」
雅恵さんが黄色ボタンを押した。尿道にカテーテルが入ってきたはずだけど、私は何も感じない。男根の根元が締め付けられる感覚もない。
これじゃ体験記にならないなと思っていたら、雅恵さんが、
「これじゃ中途半端で記事に困るでしょ。最後まで行っちゃいなさいよ。さっきペニスギロチンで見たけど、あのときずいぶん大きくなっていたわ。本心は実は切って欲しいんでしょ。」
と言い出した。
さっきまでの取材のビジネスライクな口調が、なぜか一変している。
「見透かされていた!」と思ったけど黙っていたら、
「取材で宣伝してもらえるから今回は料金無料にしておくわ。プラスティネーションもサービス。どうする。」と聞いてくるので、あわてて、
「うん。よろしく。」と言ってしまった。
「じゃあ、行くわよ。」
と言いながら、雅恵さんが赤いボタンを力いっぱい押すのが見えた。
感覚はないけど「ジュ」という音がして、下の方から肉が焼けるような臭いが漂ってきた。
「5分間そのまま待ってね。」
頭の中が真っ白状態でじっとしていたら、5分たってカテーテルが抜かれたらしい。
雅恵さんがベルトを外して、「起き上がっていいわよ。」と言った。
私は起き上がると、初めて自分の局部を見た。
性器があった位置には、尿道口だけがあって、その周囲が円形に変色しているだけ。出血は全く無く、陰嚢も綺麗に無くなっている。
ふと見ると、ベッドの真正面に全身が写る鏡があるのに気づいた。
「こっちの方が見やすいから、その姿見の前に立って。」
といわれて、鏡に全裸の自分の身体を写す。
股間部はナルトを潰したような傷痕が見えるだけだ。
これで確かに『記者の衝撃の体験記!』は書けそうだけど、会社で同僚に何と説明しようかと思案していると、
「写真を撮りますか。それが終わったら服を着てもいいですよ。プラスティネーションディオルドは3週間後に受け取りに来てください。」
と、雅恵さんの声。また、ビジネスライクな言い方に戻っている。さっきの豹変は何だったんだろう。
ひょっとして、去勢の瞬間だけ変わるのかも。
私は、正面の写真と局部の写真を撮ってもらってから、服を着た。
パンツやスラックスの前がブカブカで変な感じ。ディオルドはまだ出来ないし、それより、これからはオシッコでも個室でしゃがまないといけない・・・・なんて考えていたら、そのオシッコがしたくなった。
「すいません。トイレを使ってもいいですか。」
と聞いてみたら、
「いいですよ。そこの左側です。うっかり立小便はしないようにお願いします。でも、男性用小便器は置いてないから大丈夫だと思いますけど。」
との返事。
「店長さんはどうしているのですか。」と聞くと、
「夫には小便器は必要ありません。あの人のモノは、あそこです。」
と指差された。
その先を見ると、額縁付きの板に取り付けられた巨大なプラスティネーションディオルドが、壁に掛かっていた。
「あれが・・・・・」
と、私が絶句していると、雅恵さんは片目をつむって、
「あの壁飾りを提供する。それが結婚の条件でしたの。」
と愉快そうに微笑んでいた。
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投稿:2004.01.21更新:2021.10.20
アンテナショップ(アメリカン去勢デバイスの続編です)
著者 名誉教授 様 / アクセス 20493 / ♥ 46