いまや世界各国では死刑廃止が当たり前となった。しかし、この国ではいまだ制度が存続されており、新たな死刑判決も出続けている。国民感情が許さないという理由で国は態度を改めなかった。
ところが、世界的な人権団体が、この国の製品のボイコット運動を始め、それが広がっていくと、輸出に頼る産業が悲鳴を上げ始めた。ついに、経済界が死刑廃止を唱え始めた。だが、死刑賛成者の力は強く、議員立法による死刑廃止法は廃案となった。
経済界は、ついに、「宮刑を導入し、死刑と選択可能」という案を提出した。そう、去勢を行う刑罰である。人権団体はこれにもいい顔をしなかったが、「本人の選択が可能」という点を根拠に納得させてしまった。死刑制度自体は残ったため、死刑賛成者も受け入れざるを得なかった。宮刑の誕生である。
宮刑の方法だが、男性の場合、陰茎・睾丸ともに物理的に除去する方法が採用された。他国では、薬物注射による科学的去勢が行なわれているが、死刑の代替であるという事情から、物理的な切除となった。
女性の場合は卵巣切除および膣口の縫い合わせが検討されたが、女性死刑囚が圧倒的に少ないため、実施は先送りとなった。
ニューハーフなど、男性から女性になりたい人が、宮刑を受けたいために凶悪犯罪を行うのではないかという懸念があったが、「宮刑では造膣や豊胸は行なわない」「刑罰のあと、男性ホルモンを定期的に投与する」「宮刑を受けた者は戸籍の性別を変更することを禁止する」こととして、回避することになった。
20XX年、まずは現在の男性死刑囚に対し、宮刑への変更を希望するかのアンケートが行なわれた。98人のうち、なんと88人が希望するという驚くべき結果であった。
最初の宮刑執行は、大阪拘置所での実施と決まった。性別適合手術 (性転換手術) とは異なることを示すため、公開処刑となった。88人のうち、公開を許諾した2人が選ばれた。
9月末、ラジオ・テレビは言うまでもなく、インターネットでのストリーミング中継も行なわれての公開宮刑が始まった。事実上外科手術と同等であり、まだ刑務官の経験がないため、今回の執刀は性別適合手術の経験がある医師が取り行うこととなった。
アナウンサー「ついに日本でも宮刑が始まることになりました。本日はその第1回目をレポートいたします。刑務官、宮刑とはどんな刑罰なんですか」
刑務官「はい、今回取り行う男性の場合、陰茎および睾丸を切除します。性転換手術とは違うため、膣は作りません。また、男性ホルモンを定期的に投与するため、見た目が女性っぽくなることもありません。ただ、温和な性格になる可能性はありそうです」
ア「なるほど。ニューハーフになるわけじゃないんですね。犯罪をしてタダで性転換手術が受けられる、ということではないと」
刑「はい、そうです。世の中そんなに甘くありません」
ア「では、お医者さんにもうかがってみます。先生は性転換手術の権威だそうですね」
医師「はい、正式には性別適合手術と呼びますが、男性から女性の場合、陰茎を切るんじゃなくて、亀頭を残して陰核に作り換えたり、包皮を使って膣を作ったりします。宮刑の場合は、そういう行程が不要で、ちょん切るだけですから、非常に簡単です。あ、尿道だけはきちんと形成します」
ア「では、先生にとっては物足りないかもしれませんね」
医「いえいえ、尿道をどこに持っていけばいいかは難しいんですよ。膣を作らないだけに」
ア「先生、ありがとうございました」
いよいよ手術が開始された。
まず、局部の陰毛がすべて剃られていく。患者、いや、囚人にとって非常に恥ずかしい瞬間である。これは刑務官が取り行なった。
次は尿道にカテーテルを挿入した。これにより、尿道を確保することができる。
そして、いよいよ陰嚢にメスが入った。縦にあるシワに沿って切除し、そこから睾丸を取り出した。白い卵型の球体である。細いヒモみたいなものが精索で、これを切り離し、先を結んだ。
医師が睾丸を皿に載せて、テレビカメラに近づけた。別室にいるアナウンサーが叫ぶ。
ア「みなさん。これが睾丸です。いわゆる『金玉』です。金色じゃなくて白いんですねーー。魚では白子っていいますが、人間のもそうなんですね」
サービスなのか、医師がメスで睾丸を縦に裂いた。
ア「うわ。睾丸が割られました。男性には直視できないかもしれません。中身は小さい袋がいっぱいあって、細い管が見えます。ここで精子が作られるんですね」
こんどは、メスが陰茎を縦に切り裂いた。海綿体を尿道から慎重に切り取る。海綿体は体の奥にもあるため、それも除去していく。前立腺も、残しておくと快感を得られてしまうため、切り取ってしまう。
ア「陰茎をスパっと切り取るのではありません。それだと簡単なのですが、実はおちんちんは体の奥にも隠れているのですね」
尿道を陰嚢のあった付近に移動し、その周囲の皮膚を寄せて、余った部分を切り取って縫合した。カテーテルがちょこんとはみ出ている。これでほぼ完成だ。
ア「だいたい終わりに近づいたようです。もはや男性のシンボルは影も形もありません。見ていてゾッとするばかりです。ひょっとすると興奮してしまう方がおられるかもしれませんが」
宮刑中継放送は視聴率が80%を越えた。他のテレビ番組は視聴率がゼロであり、残り20%はワンセグやインターネット中継で閲覧したものと思われた。
以後の宮刑は非公開で行なわれる予定だったが、あまりに高視聴率のため、すべて公開せよという声があがった。これには人権団体のストップが入り、中継放送は行なわれないことになった。しかし、現場での見学は OK であり、週1,2回行なわれる宮刑執行の立ち会いは競争率の高い抽選を突破しなければならないものとなっている。
とはいえ、さすがに宮刑を受けたいと思う者は少なく、凶悪犯罪は減っていった。そのため、宮刑の実施は少しずつ減っていった。これ自体は喜ばしいことだが、何か寂しいのは気のせいだろうか。
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投稿:2008.10.21
宮刑のはじまり
著者 ルビィ 様 / アクセス 21301 / ♥ 6