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最後に、30歳前後の熟練した戦士たちが向かった先へと場面を移そう。
そこには、この国が何故狂戦士の国と呼ばれるか、その所以があるのだ。
都市国家の中央に鎮座する王城の地下まで連れてこられた捕虜たちは、その光景に驚いた。
日の通らない地下であるはずなのに、天井全体が輝き昼間のような空間が広がっている。
大きな透明の卵のようなものが大量に並べられており、その中は濁った緑色の液体で満たされていた。
一体、あれは何なのだと捕虜の誰もが思った矢先、そのうちの一つが割れ、飛沫を飛ばしながら中から何かが這い出てきた。
それは人の形をしているが、巨大な体躯を持った褐色の生物だった。筋肉質で髪はなく、明らかに雄らしいのだがあるべき一物が存在しない。そのかわりに長い尻尾が生えている。
(狂戦士だ…。)
あの化物こそ、彼らの国を圧倒的な戦力で壊滅させた謎の狂戦士たちだった。魔導の力で造られた彼らは恐怖も痛みも感じない最強の兵器として恐れられていた。
一流の戦士ばかりを集めた捕虜たちは、まず体を洗浄された。
魔導機関で動くシャワーを浴びて、体中の垢をすっかり落とされると、捕虜たちはさらに詳しく肉体を調べられ、搬送されていく。
かっては数千の兵を率いる兵隊長の位に就いていた男は、納得のいかないまま不気味な垂れ幕で顔を隠した者たちに連れられ、ある一室に入れられた。
呪術的な文様が刻まれた石の台に全裸で寝かされると、まもなく魔導官らしき男が奥から現れる。
顔を覆う布をちらりと払い、男を見た魔導官は鼻を鳴らした。
「ふぅん。この男ならよい素材となるだろう。」
「な、なんの話だ?」
周りを囲む助手たちがぶつぶつと呪文を唱えると、男の手首、足首、頭に魔法のリングが嵌る。急激に体から力が抜ける男だったが、それでも感覚はしっかりと保たれていた。
「お前なら、よい狂戦士になれることだろうよ。」
朦朧とした意識の中、魔導官がつぶやくのを聞いた男は耳を疑った。狂戦士と自分が、一体どう関係しているというのだろうか。
魔導官はだらりと動かない男の腕と足を掴み、大の字に広げた。
助手から渡された壺の中身を男の体に擦り込むように馴染ませると、濃い体毛が全て抜け落ちていく。
魔導官は男性器を掴み、戯れに扱いてみた。人並み以上のそれは瞬く間に反応し、傘を広げ自己を主張する。
「ふっ。元気なことよ。」
自分の身体を弄ばれているのが下半身の疼きで分かり、男は屈辱感で一杯になった。
さらに魔導官は細い刃物を助手に運ばせ、男の身体を切っ先で撫でるように切り開いた。
不思議なことに男は痛みを感じなかった。それどころか内臓を直接鷲掴みにされても、血の一滴すらでない。ただ男は、得体のしれないことを我が身に施されている事実と恐怖だけを敏感に感じ取っていた。
魔導官の腕がスムーズに動いている。男の逞しかった全身の筋肉は、薬液に浸した針に打たれ、びくびくと増大している最中だ。
全身の骨が次々とそれに合わせ伸張し、体格がどんどん変化していく。いくつかの臓器が体内から抜かれ、脈打つ緑色の魔導臓器が空いた場所に詰められていく。
男は心の中で狼狽した。自分はあの化物になるよう改造されているのだということが、ようやく理解できたのだ。
だがその工程は男にとって、依然として痛みを伴うものではなかった。それどころか男は変質を始めた痛覚神経によって、それを快楽だと思うようにもなっていたのだった。
盛り上がる腹筋を縦に裂いた手術痕を魔導官が縫っていく頃には、肌の色も濃い茶色に染まり始め、男の身体は狂戦士化の兆候を見せ始めていた。
「おっと、忘れていましたね。」
魔導官は未だ勃起したままの男性器を握る。その部分も狂戦士化の影響を受けて、文字通り馬並みの巨大なペニスへと変身し、全身に行き渡る謝った信号のせいで先走りを溢れさせていた。
「これは切り落とさないと。どっかで子孫なんて造られたら溜まったもんじゃないからね。」
助手に命じて、とびきり切れ味のよい刀を取りに行かせた魔導官は、男のもはや不必要となった巨根を拳大の睾丸と共に一刀した。
強化改造された男根を落とすのはまるで丸太を切るようであったが、魔導官は一気に斬り降ろす。
男はこれまでにない快感を覚え、最後の絶頂を迎えた。
切られたペニスは白濁したエキスをまき散らしながら、千切れた蜥蜴の尻尾のように踊り狂う。それはしばらく収まらず室内を汚し続けた。
狂戦士を育てる卵の中に入れられ、緑の栄養剤が中を満たした時には、もう兵隊長として誰からも慕われていた男の魂はどこにもなかった。
「仕事ぶりはどうかね。魔導官よ。」
「これは国王陛下。このようなところまでご足労いただくとは、光栄の極みでございます。」
眼下に広がる、出来たばかりの緑の卵をながめ、王は腕を振り上げた。
「蛮族共が。これでまた狂戦士の数が増えたわ。」
「流石、戦士の国の捕虜共。皆逞しく質の良い素材が多くてはかどりましたよ。」
「うむ、そなたにはこれからもわが国の為に尽力してほしい。期待しておるぞ。」
御意、と頭を下げる魔導官は、目の前の王と同じ狂気の笑みを浮かべていた。
市場では肉屋が客を呼び込んでいる。
「さあさあ、いまからこの活きのいい奴隷野郎の竿をとるよ!よってらっしゃいみてらっしゃい!」
瞬く間に人だかりができ、その真ん中で、元は勇猛な戦士であった青年が身を震わせている。
大人も子供も、今にも泣き出しそうな脆い表情を見て笑う。
針を打たれ勃起した形のいいペニスに、肉斬り包丁が狙いを定めて振り降ろされる。
青年の悲鳴。そして目を開けた彼が見た先には何もない股間の茂みと、桶に落ちた自分のペニス。
永遠に自らの男が喪失したことがまだ信じられないといった、茫然とした表情を見た群衆はまた大笑いする。
ここは、そんなことが当たり前に起こる、狂った国なのだ。
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投稿:2010.11.01更新:2010.11.01
狂戦士の狂国(3)
著者 モブ 様 / アクセス 11574 / ♥ 5