「午前中に何とか仕上げてくれ。もう材料は届いているはずだ。」
「うけたまわりました。何とか尽力してみます。」
電話が切られると、急いで本城博士は手術室の方へ向かった。
博士は手を洗浄し終わると、助手の霧子に手伝ってもらいながら手術着に着替えた。
「先生、オペの準備、整いました。」
「ごくろう、霧子くんも着替えたまえ。すぐに始めよう。」
手術室の扉が開くと、手術台が3つ並び、それぞれに成人男性が一人ずつ寝かせられていた。
どの男も傷痕が多く、幾多の戦闘をくぐりぬけてきたかのような、逞しい筋肉を誇示している。顔は厳つく、威圧感のある面立ちばかりだ。
全裸で横たわる彼らは既に体毛を剃られ、三者とも大きく実った大人の陰茎を、茂みに隠すことなく外気に晒していた。
「ち、ちくしょうっ! おいジジイ! てめー俺たちをどうするつもりだ!」
男の一人がわめいた。暴れようとするが、その身体は皮のベルトに締め付けられ、身動き一つ取れない。
像を縛っても千切れることのない拘束具に縛られては、どれだけ鍛えられた肉体を持つ男でも太刀打ちできるものではなかった。
「お前さんの雇い主からの依頼だよ。最近、お前たちは娘さんに手を出そうとしたらしいじゃないか?」
「えっ!? そ、そんな、一緒に遊んでやっただけで…。」
扉の奥から霧子がやってきた。長い髪の毛をきちんと抗菌キャップに納めている。
「先生、お待たせしました。」
「麻酔をかけてやってくれ。これ以上うるさいのはたまらん。」
まだ何か言っている男に麻酔がかけられる。効果はてきめんで、すぐに彼は寝静まってしまった。
3人に同じ処理が施され、酸素マスクを被せられると、本城博士は3つの手術台の高さを調整した。
「さて、霧子くん。オーダーの内容はなんだったっけな?」
霧子は忙しそうに資料をめくった。どこか楽しげにページをめくっていく。
「ええと、『ボディーガードとしての強化サイボーグ改造、及び不要能力の削除』だそうです。」
「つまりは戦闘マシン化ということか。」
本城博士はため息をついた。大仕事になりそうだ。
「可哀そうだが、まあ、自業自得だよな。」
霧子がくまなく男の硬く熱い肉体を消毒液で濡らしていく。メスを手にとって、本城博士は妖しく濡れた一人目の身体に切り口をいれた。
本城工房は知る人ぞ知る、人体改造専門の外科施設である。
階級市民制が導入された近未来のある国に、本城工房は合法クリニックとして拠点を構えている。
階級制度により、上級市民は下級市民を私有物にできた。その場合の下級市民には一切の人権は無く、上級市民に何をされても文句ひとつ言えないのである。
ひとたび奴隷化された下級市民を、自分好みに生体改造するのはもはやブームと言えた。
たとえ四肢を切断しても、手や足の本数を増やしても、動物の器官を融合させても、何も問題はない。下級市民はその意思すら自分のものではないのだ。
今本城博士のまな板にのっている男たちは、ある政治家の上級市民を守るボディーガード達だった。
彼らはここに連れてこられる前までは雇われの身とはいえ人権があった。しかし、一人娘と遊んであげているところを見た雇い主の激怒を買って、彼に買い取られてしまったのだ。
そうなればもう人間ではない。彼は即刻本城工房に連絡をいれ、彼らの改造を依頼した。
本城博士はしばらく仕事が無かった為に、すぐその依頼を請け負った。
そして、今に至る訳である。
博士の滑らかな指の動きによって、男の身体は次々と料理されていく。
まず全身の皮をはがし終わると、それをパーツごとに変質液の中でじっくり漬け込む。
次第に皮膚は黒くなり、叩くと、かんかんという金属のような音を立てる柔軟性の高い硬質なものに仕上がった。
こうなると弾丸すら中には通さない。その代わり、触覚は全部失われてしまうのだが。
露出した筋肉を見て、本城博士は唸った。見事なものである。稼業が荒々しいものだったため、無駄な繊維が全くない、はち切れんばかりの雄の肉体であった。
博士は取りあえず、神経の配列を変え、同時に人工神経を増設し、より効率のよい反射と運動機能を持たせることにした。同じ筋肉量でも動きが変われば強化したことと同じになる。
それから疲労を蓄積しないように、乳酸や老廃物を排除する機構をつくった。これで24時間働いても彼らは殆ど休息を必要としなくなった。
「さて、一旦テストを行おうか。」
黒光りする皮膚を3人の身体に戻して縫合し終えた本城博士は、彼らが覚醒すると今度は実験室に縛ったまま連れて行った。
「あ、ああ…、おれたち、どうなったんだ…?」
全身の異常な黒さに3人は戸惑いを隠せない。そして神経を増やされたことで、感覚は数倍にまで高まっている。改造されたのは運動神経だけだが、どうやら感覚神経までその影響を受けているらしかった。
「博士、射撃装置スタンバイ出来ました。」
始めよう、博士がボタンを押すと、ガラスの向こうの実験ルームに機関銃が現れ、壁に四肢を広げて括りつけられた全裸の男たちに向けられる。
「おいっ殺す気か!? やめろぉ!」
3人は泣きだしたが、コントロールルームにいる博士たちには聞こえない。
ばばばばばばばばばばばばっ
千を超える銃弾の一斉射撃が始まった。
ハチの巣に、なるかと思われた3人だったが、強化皮膚の厚い装甲によって逞しい肉体は傷ひとつ付いていなかった。
だが、まだ時間が足りずに未完成だった強化皮膚は、破れはしないものの着弾の衝撃を身体に通してしまった。その衝撃を、改造の余波を受けて高まった感覚神経がとらえる。
「おひぃいいいぃいいっ!!!!」
3人は死んでもおかしくないショックの嵐に吠えた。電気信号が身体を駆け巡り、3人の脳を直撃した。彼らにはどこがどう刺激を受けているのかまったく認識できないほどの、膨大な感覚が襲う。
博士と霧子が実験室に飛び込んできたときには、物凄い光景が広がっていた。
「ひひぃいああああいあああっ!!! あひいいいいっ!!」
3人は暴れ狂うようにして、男性器を大きくそり立たせ飛沫をあげながら射精していた。
大きく盛り上がった胸筋が揺れ、射精の勢いに合わせて鍛えられた腹筋が波打つ。精力旺盛な3人の大噴射によって、前方にはカルピスの瓶をいくつも割ったかのような池が出来ていた。
大きすぎる感覚がどうやら3人の脳のどこかを壊してしまい、伝達される情報が全て快感に置き換わってしまったのだ。彼らは今、人生で最も激しい快楽の渦に溺れている。
全身から送られてくる、ペニスを乱暴に擦り上げるような快感が止まらないのだ。
「霧子くん! まずいぞ、このままじゃ衰弱死してしまう!」
「コックリング持ってきました! なんとかこれで凌ぎましょう!」
駆け足で戻ってきた霧子の手には、男性器を縛り上げる輪っかが3組あった。
「手分けして嵌めよう。多少組織が壊死することになっても構わん。」
博士は一際大きくしなる男の性器にぐいぐいとリングを押し込んだ。淫水焼けした亀頭を過ぎると、後はすんなり太い幹を下りて根元を締め付ける。
すると洪水のようだった射精がぴたりと止んだ。だが射精活動自体は止まらないらしく、下腹部が若干膨れ上がる。
霧子は悪戦苦闘していた。霧子は処女である。勃起姿の男根など見たこともないのだ。ましてやこんなに荒れ狂う大木に対して、手が簡単で出るほど神経が図太いわけでもなかった。
「んんんんんーーーーっ。」
霧子がようやくおずおずと亀頭にリングを触れさせると、男はちょっとだけ嬉しそうに鳴いた。女性に自分の象徴を触られているのが壊れた脳みそでもわかったらしい。
ぼとぼと落ちてくる青臭い精液が、胸にべったり付くのを我慢しながら、霧子は戒めのコックリングを男の根元まで通した。
その身を指で包むようにリングを動かすたびに、硬く脈打つあさましい肉茎を見て、霧子は嫌悪感でいっぱいになりながら処置を施し終えた。
ようやく3人全員の暴走射精が止まり、一安心する霧子だったが、本城博士は厳しい声ですぐに3人を手術室に逆戻りさせた。
「さて、大丈夫かね? 霧子くん?」
「は、はい、もうきれいになりましたので…。」
身体を洗った霧子はくんくんと匂いを嗅いで、精液の残り香が付いていないか確かめた。香水の匂いしかしない。
「よし、では再開しよう。」
再び並べられた3人の身体は黒いボディに大量の白い塊を乗せていた。彼らの顔は改造前の野性味ある威嚇が全くなくなり、快楽にこびへつらうかのような緩み方をしていた。
男性器は直立し、なおも射精しようと跳ねるばかりだ。コックリングのおかげで一滴も露を漏らさず、血流を阻害されて変色をおこしている。
「やはり、不必要な機能は最初に切除しておくべきだったか…。」
醜く勃起する肉棒を侮蔑の眼差しで見つめ、本城博士は言った。
「肉体の更なる改造の前に、彼らの完全去勢手術を行う。」
特別なメスを使い、一人目の下腹部に切れ目をいれると、せき止められた精液がどろりと溢れだした。
精嚢が破裂してしまったらしい。ドレーンで吸い取りながら、本城博士は電気メスを使って脂肪を裂き、恥骨を切り取って男性器の根元を目指した。
膀胱を損傷しないよう、丁寧に前立腺を切り離すと、海綿体の全てを掘り起こす。勃起したまま一人目の雄々しいペニスが離脱された。
輸精管を鋏子でちょんぎり、袋ごと二つの睾丸が切除され、完全去勢が完了する。ぽっかり開いた穴はひとまず放置され、二人目に作業が移った。
二人目は最後まで博士に悪言を垂らしていた威勢のよい男だった。3人で一番体格のよい男のペニスは、その形もサイズも立派なものだった。本城博士が去勢はもったいないと思ったほどだ。
しかし私情を挟むことは許されない。博士がメスを入れると、無駄のない脂肪分をかき分けた先に、血の滾る若者の巨根が全貌をあらわにした。
「どうだい霧子くん、君がこの男の去勢を施術してみないか?」
「えっ、でも未熟な私が、よろしいのでしょうか?」
何事も経験だ、と背中を押され、霧子は電気メスを握った。空っぽの腹腔に、肉に絡みつかれた巨大な男根が埋まっている。霧子にはない、悪魔の持つ内臓のような器官が、彼女の気分を困惑させた。
「み、見ててくださいよ博士。では、去勢開始します…。」
バナナのような幹を掴み、邪魔な枝を親株から剪定するような気持ちで、霧子はメスをペニスの根元に当てた。奥深くに埋まった男自身の肉が焼かれていく。
霧子の指がまわりきらない巨根は、ぐぐぐっと一回り大きくなって、ゴム製のコックリングをぷちん、と千切り飛ばすと、再び白濁した雄汁をまき散らし始めた。
「ほおおぉおおぉあああおおあおあーーーー!?!?」
昔から自分の雄らしい肉体にいつもこだわっていた男の、一番のお気に入りだった天を突く仏搭が、今は柔らかな女の手に抱かれ、射精を続けながら生きた身体から無残にも切り取られていく。
それすら気持ちが良いのか、男の尿道から溢れる精液は切断の進行と比例して増えた。
べきべきと音をたてて、立派にそそり立っていた一物が、また一人の男の股間から失われた。最後は鉄砲水のような勢いで、男は自分の全身に精子をぶちまけ最高の絶頂を終えた。
精と肉の詰まった男根の重量感を腕に感じ、霧子は打ちのめされたみたいにしばらく男の一物を掴んだままだった。
こんなずっしりとくる雄大なものを、私はとってしまったんだ。ある種の後悔と言うか、感動が霧子を包んだ。
「ど、どうでしょうか?」
「うーん、おしいね。切株が残ってしまったみたいだ。」
指摘された先には、骨に隠れていたのか、まだまだ先の方へ根を伸ばす彼の肉茎が残っていた。
本城博士は後でこの規格外に大きなペニスを生体標本にするつもりだったが、完全な形でなければ意味がなかった。博士は落胆する。
「もっと実習を積む必要があるね、次は彼のもやってみなさい。」
「はい、すみませんでした…。」
本城博士は彼女が中途半端に切り取った、見事な巨根をゴミ箱に捨て、彼の睾丸の大きさに目を見張り、保存用にビーカーの中へ両方とも入れておいた。
その傍らでは、最後の男の去勢に躍起となって取り組む霧子の姿があった。
ヒト相手にあり得ないような手術が終了しても、彼らの改造は終わらなかった。
完全去勢が終了した彼らの身体に、様々な機械が埋め込まれていく。全てボデイーガードとして最高のポテンシャルを引き出すための装置だ。
ほとんどの体内器官が機械と入れ替えられ、3人には半分も人間の組織は残っていない。
頭蓋骨が切開され、眼球は高性能光学センサーに取り換えられた。熱源探知も出来る優れモノだ。
まる出しの脳にもメスが入る。持ち主の命令を伝達する電子チップが埋め込められ、銀色の光沢が黄色い大脳の至る場所で輝いた。
霧子は一人モニターを操作し、彼らの脳に繋がったプラグから脳内の書き換え作業を行っていた。博士は別の仕事で手が離せないようだ。
記憶も自我も、護衛任務には必要ないので消去する。3人の男たちの意識は、自分の身体から追い出されつつあった。
「あ、間違えた…。」
性機能を司る部位の情報書き換えに失敗した彼女は手術室に向かった。
「ぐぐーーーー、ぐぐぅーーーっ!!」
彼女が切除に失敗した男根の元主が、増強改造された筋肉を張りつめて、湧きあがる快感にびくんびくんと腰を跳ね上げていた。活きのよい魚が水揚げされたかのようである。
思わず霧子は身構えてしまった。実験室で精液を被りに被った経験を思い出したのだ。
しかしもうその心配はない。彼の平坦に加工された股からは、もう永遠に何も出てはこないのだから。
股間に排泄物処理用のプロテクターを装備されて、彼らは依頼主に引き渡された。
「色々な兵装を内蔵させてもらいました。これは今回行った改造の詳細説明です。」
素晴らしい、と依頼主は本城博士をほめたたえた。命を狙われる危険性の高い政治家活動に、心強い盾が出来たことを彼は喜んだ。
午前中に依頼を入れて、僅か数時間で完成させた手際の良さを、彼は大変大きく評価したので、本城博士は恐縮な思いだった。
真っ黒な皮膚を日光に輝かせた全裸の3人が、主人の周りを囲むようにして去っていった。
逞しいサイボーグ姿の彼らは、裸であることを恥じることなく街を行く。機械の目には、およそ人間らしい知性の輝きはもうなかった。
そのころ、依頼主の一人娘はうきうきしながら待っていた。今日のお昼にボディーガードたちが帰ってくると、父から聞かされていたからだ。
いつも面白い話を聞かせてくれて、忙しい両親の代わりに遊んでくれる兄のような彼らがとっても好きだった彼女は、彼らが兄どころか男ですら、それどころか人間ですら無くなったことを想像もしなかった。
少女は父親の車の音を聞きつけるや否や、玄関に向かって走っていった。
2へ続く
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投稿:2010.11.19更新:2010.11.19
改造工房 霧子のいちばん長い一日(1)
著者 モブ 様 / アクセス 19528 / ♥ 6