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正午を迎え、ひとまず朝食もまだだった博士と霧子は、朝昼兼用の食事を取ることにした。
霧子はあまり食欲がわかなかった。というのもつい先ほどあんな大改造手術を終えたばかりだというのに、目の前の本城博士がみるみるソーセージを平らげていってしまうからだ。
「ん? どうしたね霧子くん、食事はちゃんと摂らないと、身体が持たなくなっちゃうぞ?」
「ええ、はい、そうですよね…。」
博士の食べているソーセージがどうしても去勢手術のことを思い出させてしまう。霧子はトイレに行くと言って退席した。
「はーあ、やっぱり向いてないのかなあ、こんな仕事。」
便器に座ってため息をつく霧子。元々はちゃんとした医療医師になるつもりだったのに、何故だか募集にあぶれてしまい、本城博士の元にたどり着いてしまったことを後悔し始めていた。
今までは医学の知識もあったことで何とかやってこれたが、まだ処女の彼女にとって、今日の午前中の出来事はショッキングだった。
気弱で異性と付き合ったためしのない自分が、すぱんすぱん、と男のペニスを切り取って、ゴミ箱に叩きこんでいったあの記憶がよみがえると、何故だか腹の奥がきゅんと唸るのだ。
「ふう、霧子くん、ちょっと来てくれ。」
博士に呼ばれて霧子が向かった先は、施設の裏にある物資の搬入口だった。
着いた途端、霧子はぎょっとした。後ろ向きに停まった運搬用トラックから出てくるのは、男、男、男ばかりの群れであったからだ。
真ん中に穴の空いた長方形の布を被せて、腰をひもで縛っただけの原始的な服装しか纏っていない男性の群れが、自分の横を通り過ぎていくたびに霧子は目を指で隠した。
布の隙間から、ぶらぶらと揺れる萎えた陰茎が見え隠れしているからだ。
「では、確かに203番牧場からクローン30体、確かに届けましたので。」
「ご苦労様です。明日の10時にまた来てください。」
クローン、という言葉に霧子が目を開くと、確かにみな同じ身長、同じ髪の色、同じ顔立ちをしているのが確認できた。
霧子にとって、同じ人間が30人も一緒に歩いているのはかなり恐ろしい光景に見えた。
「さ、お前たちはこっちだ、おいで。」
本城博士の手招きに従って、クローンたちは連れて行かれた。
人間牧場は階級制度がつくられたのと同じ時期に登場した。
市民権と人権をはく奪された下級市民の中から、優秀な体細胞クローンを作り上げ、目的に合わせて育成していくことを目的とし、全国に約700ものファームを展開している国家事業だった。
つくられたクローンは臓器提供用に使われたり、血清、抗体、輸血用血液などの採取のほか、戦闘改造され戦地投入されたり、性玩具に改造されて高価な値段がついたりと様々な用途に使われる。
新薬や兵器運用テストに使われる人体実験用のクローン体は年間約2000人を超えるとのデータもある。
彼らは生まれた時から人間扱いはされない。徹底的に服従を教え込まれ、与えられた通りの教育を受けて育つ。そして時期が来れば、肉体を好きなようにいじくりまわされる運命が待っているだけなのだ。
「さあて、これからが大変だぞ、霧子くん。」
布を脱いだ30人のクローン達が、長いベルトコンベアーに乗せられると、本城博士は背伸びをした。
「これから、30人分の移植用臓器を摘出保存する。大掛かりな流れ作業になるぞ。気を引き締めていこう。」
「あ、あの博士、私物凄くやり遂げられるかどうか不安なんですが…。」
霧子は午前中の3人連続改造でいささか疲れを感じていた。その上30体ものクローンを捌くなど、精神的にも肉体的にもおおよそ無理不可能と彼女には思われたのだ。
「ちゃんと食事を取らないからだぞ?」
博士のたしなめる声に身を縮める霧子だった。
「まあいいか、君には腹部を開帳してもらってから、彼らの陰茎を根こそぎ摘出する作業を担当してもらおうか。」
まさかここでも去勢手術を行うとは、霧子は思ってもみなかった。理由を聞いてみると、移植としても需要がある他に、生体ディルドをこれからつくるのだと言う。
「副業さ副業、それにだな、きちんと身体を使いきってやらないとクローン達が可哀そうだろう?」
まるで食べ物を粗末にしてはいけないみたいな言い方を本城博士はするが、しかしこの社会では極々普通のことだった。クローンは人ではないのだ。
「形も不揃いなく綺麗だし、彼らのペニスはきっと良いバイブになるさ。」
霧子の前に、クローンの一体目が流れてきた。ベルトコンベアーが停止し、裸の男が行儀よく手足をそろえて寝転がっている。
霧子は麻酔をかけ、身体を消毒した。さきほどの硬く引き締まったボディーガードたちと違い、確かに筋肉質ではあるが、養殖産のためか柔らかい手触りの肉質だ。
陰茎は萎えていてもかなりの長さがあり、およそ15センチはありそうな形の整った一品だった。経験豊かな浅黒いボディーガードたちの男根と見比べると、白くほっそりしている。
「うう、これが後29体もあるの…?」
泣きごとを漏らしながら、霧子は永久脱毛されている腹部をメスで切る。陰毛の生えていたところから腹筋を縦断し、胸の谷間を抜けて顎にぶつかるまで切り開くと、次は鎖骨に沿って両方に切れ目をいれ、その後、下腹の外側をなぞるように途中まで切る。
これでクローンの腹部は両開きの観音扉みたいな状態になった。
勇気を出して、霧子が筋肉ごと皮膚を持ち開けると、血管まみれの黄色い脂肪が内臓を隠して現れた。
脂肪を剥がし、内臓を露出させるころには、クローンの身体はカエルの解剖標本を彷彿とさせる、新鮮な臓器の生け造りにされていた。
「腹部の切開処置終了、これより陰茎の全摘出を行います…。うう…いやだなあ。」
ぶらんと垂れさがるクローンの男性器をつまみあげると、霧子はいやいやながらもメスを陰部に突きさした。意外と根が深く、なかなか全容が掴めない。
恥骨を破壊し、突き進む彼女の電気メスは順調にクローンの奥を切り刻んでいく。
生体の安否などどうでもよいのだから、彼女にとっては思ったよりも気楽なものだった。
ずるりと抜け落ちたクローンの、均整取れたペニスを拾い上げると、霧子は培養槽の中にそれを放り込んだ。若い細胞が活気に満ち、玉もついていない只の肉棒は勃起した。
あれが生きたディルドになるのか。霧子は肌色のきゅうりのようになったペニスが、これからどう使われるのかを想像してしまい、少しだけ股間を濡らしてしまった。
さきほど取れたばかりのペニスを一旦培養槽から出し、こっそりスカートをめくって己の花弁にあてがうと、もうそれだけで彼女は鼓動を強くし、びっしょりと女性器を迸らせた。
2人、3人と順調に開腹作業と去勢が進み、霧子が今執刀しているのは19体目だった。
「うう、何だか、意外と気持ちいいかも…。」
既に胴体の切り開きを終え、陰茎の切除に当たっていた彼女は興奮していた。
絡みつく肉を焼き切り、男の象徴を切り取ってやる行為が、いつの間にか霧子の中で快感に変わっていたのだ。
こんなものがあるくらいで、男どもは威張りくさって世の中にふんぞり返っているのか。自分の指さばきで為す術も無く刈り取られていく、この哀れな棒っきれがそんなに偉い代物なのか。
切り取った男根と共に、一応二つの金玉も培養槽へ突っ込んでいく。ベルトコンベアーを動かして、新しい素材をこちらに寄せる。
傷一つない身体のクローンが来るたび、それをめちゃくちゃに解剖したいという残虐な欲望が、霧子にこみ上げてくる。
男を虐げるという加虐性欲に支配されていく彼女は、何も知らないクローン達の純朴な陰茎を跳ね飛ばしていく度にエクスタシーを覚えた。
21体目のクローンに対して、彼女は陰茎を掴むと、激しく扱きはじめた。
麻酔の効いていないクローンは慌てた。完全な家畜管理の中で、彼らは自慰などしたこともなかったのだ。
「どう、キモチイイでしょ?」
クローンは寝転がったままうんうんと首を振って頷いた。未知の感触が電撃のようにクローンの身体を襲っている。彼は自分から腰を振って、霧子の指に包まれる己の肉棒をゆり動かした。
「でも残念、もうすぐなくなっちゃうのよ。この棒はね。」
その言葉と同時に、クローンはあっけなく果てた。初めての射精経験にクローンは目を白黒させた。ファームでは尿を出すだけだった器官が、こんなに気持ちいい刺激を与えてくれるなんて、彼は驚きを隠せないようだった。
「ぐぅ…? ぐ、ぐきぁあああああっ!!」
「あ、ごめん、麻酔忘れてた。」
クローンをいじめるのに我を忘れていた霧子は、うっかり麻酔を施すことなく彼の腹部を縦に裂いてしまった。激痛が走り、クローンは暴れようとする。
「「う、ご、く、な。」」
霧子の放った鶴の一声で、クローンはぴたりと動きを止めた。痛みが引いた訳ではない。暗示教育によって本能まで操作されたクローンにとって、上級市民である霧子が命じる言葉は絶対なのだ。どれだけ痛くともうめき声すら立てることはできない。
「思えば、初めからこうしておけばよかった。麻酔だってもったいないしね。」
クローンとはいえ、同じ肉体組織をもつ者に対してこれほどの仕打ちが出来るものなのだろうか。霧子はふんふんと鼻歌交じりにクローンの身体を切り裂いていく。
クローンは滝のような涙を流して、文字通り身体を裂かれる痛みに耐えた。必死に耐える彼の身体を、汗がどんどん滑っていく。
内臓が完全に露出し、霧子はお待ちかねの去勢作業へと移った。初めての射精後、クローンの陰茎は勃起状態を止めないで、露を流しながら次の射精を待っている。
「はーい、大きなおちんちんですねー。でももう気持ちいいことできませんねー。」
小馬鹿にしたような口調で、そそり立つペニスを指でなぞってやる霧子。するとそれだけでクローンはイってしまった。
内臓を剥きだした酷い状態など無視して、尖る陰茎はびゅるびゅると精を飛ばす。濃い精子の塊は、これから商品となる内臓器官に降り注いで白い花を咲かせた。
「ああーーーっ! 馬鹿っ! なんてことすんのよ!」
怒り狂う霧子は電気メスを振りまわして、一気に下腹部を粉々に刻んだ。クローンは常軌を逸した耐えがたい痛みに歯を噛み砕いた。
クローンに悪気はないのだ。彼はただ霧子の指運びが気持ちよかったから、達しただけである。しかしそんなことは霧子にとってはどうでもいいことだった。
史上最速のスピードでクローンの男性器を掘りきった霧子は、まだ僅かに組織の繋がったそれを無理やり引っこ抜いて、乱暴に培養液へ叩きつけた。
「こんの馬鹿オスクローン! こんな役立たずの迷惑な玉、引きちぎってやるわ!」
そう言うと彼女は無傷の睾丸を両手でそれぞれ鷲掴みにし、勢いよく引っ張った。
ぶちぶちぶちぃっ、と皮袋が悲鳴をあげて、クローンの白子はひしゃげながらもぎ取られた。
クローンの内臓が跳ねた。小腸が少しだけ身体の外に漏れて垂れさがった。
男を引きちぎられた可哀そうなクローンは、泡を噴いて二度とひっくりかえった眼球を元に戻すことはなかった。
「ふん、いい気味だわ。さ、次行きましょっと。」
次のクローンにも、その次のクローンにも、霧子は麻酔を使うことはなかった。その方が数十倍楽しいことに気が付いたのだ。
自身の中身をさらけ出され、身体のもっとも敏感な部分を痛みとともに、硬く勃起したままで奪われるクローン達。
その顔に浮かぶ、女性には理解できない奇妙な失望感が、彼女を満足させる唯一のものだった。
「博士、終わりましたよ。」
軽い足取りで霧子が本城博士のもとを訪れると、博士はまだ作業中だった。
霧子がかっさばいたクローン達の肉体は、博士によってまず四肢を切断され、医療用パックに詰められている。チェーンソーがうなり、クローン達がどんどん達磨にされていく。
その後使える内臓を順次摘出され、最後に筋繊維や網膜などの細かい部分が腑分けされた後、残った脳やらなんやらの残骸が硫酸槽で処理された。
「霧子くん、もっとバラつきのないように解剖できないのか?」
言われてみれば、霧子の開腹作業は途中から随分と雑になってしまっているようだった。無我夢中で男のペニスばかり追いかけていたせいだ。
「ちゃんと今度からは気をつけような。」
「す、すみません…。」
怒られてしまった霧子は、去勢手術中の狂気ともいえる元気はどこへやら、またおとなしい口調に戻ってしまっていた。
30体分の移植用臓器、手足、筋繊維などなど、今日の作業で出来た品物を運んでいると、本城博士が霧子の作業場で足をとめた。
「あれ、なんで睾丸も一緒に残してあるの?」
「え、必要ではないのですか?」
まさか、誰の精子かわかんないものが入っているものを流石に欲しがるモノ好きはいないよ、そう言って博士は、60個にもなるクローン達の睾丸を培養液から出して硫酸槽に沈めた。
その半数以上が、まだオナニーの気持ちよさも知らなかった男の金玉である。未使用の精子が詰まった濃厚な白子が、ぶくぶくと硫酸に溶けていく様を観察し、霧子はざまあみろという気分に浸った。
「…はい、お電話ありがとうございます本城工房です。…ええっ!」
受話器を置いた本城博士は少し青ざめたような、あきれたような表情をしていた。
「摘出した睾丸、同じファームのクローンに移植して是非ともいい見世物にしたいって言われた…。」
結局、本城博士は翌日受け取りに来た依頼主に平謝りするしかなかった。世の中、何に需要があるのかわからないものである。
3へ続く
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投稿:2010.11.19更新:2010.11.19
改造工房 霧子のいちばん長い一日(2)
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