オレは保健室が嫌いだ。
みんな保健の先生は優しいなんて言ってるけど、ウソだ、ウソ。絶対みんな騙されてる。
オレは知ってるんだ。オレが行くといつもガミガミうるさいし、傷の手当だってテキトウだ。わざと痛いように消毒して、オレが悲鳴上げるのを見て楽しんでる。
でも、誰に言っても信じてくれない。
今日だってそうだ。オレはちょっとハメを外しただけなのに、延々お説教されている。まあ、授業サボれたから、そこはラッキーだったかも。
「土井君聞いてるの?」
「聞いてますよセンセエ」
花子センセエは確かに美人だけれど、絶対何か裏がある。山田はなんだか色気にやられたのか、最近ボケーッとセンセエ見てることが多いけど。オレが正体を暴いてアイツの目を覚ましてやんないとな! オレたち親友だし!
「…どうして、自分が怒られてるかわかってる?」
ふーんだ、バカにしやがって。
「新入生のパンツ脱がして泣かせたから」
「…それがどうして悪いことだかわかってる?」
なにも悪いことなんかあるもんか。チンポコ見られたくらいでビイビイ泣きやがって。それがイヤなら高い服偉そうに見せびらかしてんじゃねぇ。オレなんか全部アニキのお下がりで我慢してんだぞ、バーカ。
「弱いものいじめだから」
しょせんこのよはジャクニクキュウショクよ。うちの兄貴が言ってたぜ。
「どうして弱いものいじめは悪いの?」
へへん、大人のクセにそんなこともわかんないのかい? バカだなセンセイ。弱いものいじめが悪いのは…悪いのは…
んんん? なんでだ?
センセエはため息をついた。むむ、またバカにされた。
なんでぇ、なんでぇ。みんなでオレをバカだバカだって。好きでバカに産まれたんじゃねぇやい。どんくさいからどんべえだ? オレの名前はシンペイだっつうの。
「土井君、あなたはもっと人の気持ちをわかる子にならなきゃダメよ」
「はーい」
やる気の無い返事にセンセエは眉をひそめる。オニババだ。でもさ、オレバカだもんよ。ただ人の気持ちわかれったって、どうすりゃいいのかわからんよ。テレパシーとか、使えねぇもん。漫画じゃあるまいし。テレパシーいいな。山田は花子センセエが好きー、とか。テレパシーいらねえな。やっぱり無くてもいいや。
「いいわ、じゃあどうすれば人の気持ちがわかるようになるか教えてあげる」
オレはドキッとした。考えていた事を当てられたからだ。アレ? オレ口に出してたっけ。たまに独り言言ってることもあるけど、今口に出してたか?
目を丸くしていたオレは、センセエが言った一言で更に目を丸くした。
「裸になりなさい」
きょとんとしているオレにセンセエは繰り返す。
「早く脱ぐのよ。それで、しばらくそこに立ってなさい。そうしたら、裸にさせられることがどんな気持ちなのか、わかるようになるわ」
あー、なるほど。…って、教師がそんな事させていいのかよ。それって要するに、イジメじゃねぇの? いや、オレもやったけど…
でも、オレは知っていた。この目をした大人は、一度言い出したら人の話を絶対聞かない。脱がすと言ったら、絶対に脱がす。オレは怖くなった。
「さあ、早く!」
しぶしぶ、服に手をかける。シャツに手をかけてすそを引っ張り出す。センセエを見る。睨まれた。ゆっくりとシャツを首から引き抜く。寒くて鳥肌が立った。センセエを見る。睨まれたまま首を振られた。ズボンを下ろして足を抜く。センセエを見る。やっぱり首を振られた。上靴と靴下をまとめて脱ぐ。最後の期待でセンセエを見る。ダメだった。
「センセエ、もうカンベンしてください」
我ながら情けない声だと思ったけど、出てしまうものはしょうがない。
「ダメよ。あなたはあの子のパンツも脱がせたじゃないの」
そうだけど、そうだけど、でも、オレ、ダメなんですよぅ。オレはパンツの前を押さえてうつむく。
「自分がそんなに嫌な事をどうして人にするの」
ごもっともです。オレが悪うございました。だから許してください、センセエ。
「ダメよ。早く脱ぎなさい」
オレは泣きそうになりながらパンツを下ろした。チンコがぷるんと震える。オレは素早く手で前を隠すと、パンツを脇へ置いた。オレはチンコにあんまり自信がなかった。クラスの中には、たまに立ちションしながら見せびらかす奴もいるけど、みんなオレよりだいぶ大きい。オレよりだいぶ背が低くてやせてる山田も、前にのぞいた時はビビるくらいデカかった。みんな、小さいチンコは恥ずかしいって言ってる。んでもって、オレの家では、チンコ小さい発言は、禁句だ。なんでって、父ちゃんも、兄貴も、怒るからだ。オレの家族は、みんな気にしてるんだ。
センセエはオレの脱いだ服をテキパキとたたむと、ベッドの上にまとめて置いた。
「じゃあその格好で、そこの戸棚の横にまっすぐ立ってなさい」
「でも、人が来たら…」
「そんなに先のことが考えられるんだったら、小さい子をいじめる前に考えるべきだったわね、土井君」
オレはのそのそと、指差されたところの戸棚の脇に立った。なんと、正面に鏡があって裸のオレがどんな顔をしてるか見える。
背を丸めて縮こまるオレに、センセエは追い討ちをかけた。
「背筋をちゃんと伸ばしなさい。両手は体の横にまっすぐ、気をつけ、よ」
オニだ。この人は本物のオニだ。
「気をつけ!」
ビクッとしたオレは、思わず気をつけの姿勢になった。鏡の中にぽよんとチンコが跳ねたのが映る。
「それで身にしみて反省するまでそのままでいなさい」
もう反省しました。
言おうとしたオレを無視して、センセエは机に向かって仕事を始める。ひでえ。
それから百時間くらい立たされていたかもしれない。最初はちょっと震えていたのが、慣れてきて寒さが気にならなくなってきた頃に、足音が聞こえて人がやってきた。
「花子先生! ミチコが紙で指切っちゃった。バンソーコーちょうだい!」
隣のクラスの女子だ。オレは慌てて前を隠した。
勢い良くはいってきたヤツの後ろにおとなしそうなのが一人ついてくる。
「あらあら大変、ちょっと待っててね」
指を押さえて、ゆっくりついてきた方のヤツがふと、こっちの方を見てオレに気づいた。
「きゃっ!」
「どうしたのミチ…きゃっ!」
もう一人もオレに気づいて口を押さえる。でも目はしっかりオレを見ていた。
「なんだ、どんべえじゃないの。あんた何やってんのよ」
オレが何も言えずにいると、センセエが代わりに答えた。
「新入生の子を裸にしていじめたからお仕置きされてるのよ」
「なるほど。またくだらない事やってんのね。バカみたい」
見下し目線にむっとしたオレが何か言おうとする前に、センセエがまたオニ発言で先制攻撃をしてきた。
「何をしてるの土井君。気をつけって言ったでしょ」
「でも、でも…」
「お仕置きされてるんでしょ、しゃきっとしなさいよ」
生意気な男女が茶々を入れる。くそぅ、大人に言いつけるしか出来ないくせに調子に乗りやがって。
オレは歯を食いしばりながら、手を横に当てた。女二人の目がまっすぐ俺のチンコに向かう。鏡に映ったオレは、タコみたいな色になっていた。
「いやあん、エッチ」
二人はクスクスと笑いながら、センセエが怪我の手当をする間も、オレのチンコばっかりチラチラと見ていた。
そしてようやく、ほっとけばすぐ治るような小さな傷の手当てを終わらせると、二人はセンセイにありがとうと声をかけて帰っていった。部屋を出る時にオレのチンコをじっくり見てウフフと笑う事を忘れずに。
世界の終わりだ。あいつらきっと、教室に戻ったら、オレがフルチンで立たされている事をみんなに教えて回るんだ。そんで、次の休み時間になったらみんなで保健室に詰め掛けて、オレのチンコを笑いものにするんだ。
オレは声を上げて泣きたくなった。
「せんせえ、ごめんなさい。もうしません」
「あなた、いつもそう言ってまたいじめるのよね」
「今度こそ絶対です」
センセエは腕を組んで言った。
「本当ね? ウソついたら、もっとひどいお仕置きするわよ」
オレは震え上がった。ションベンちびりそうになった。
「しません、しません。いい子にします」
オレは本気でそう思ったんだ。
そこへまたトコトコと足音が聞こえて、ガラリと扉が開いた。
「先生、転んで膝すりむいちゃった」
情けない声をあげて入ってきたのは、なんと今朝オレが素っ裸にして泣かせた新入生だ。血のにじんだ膝を抱えて泣きべそをかいている。他人事ながら痛そうだ。うーむ、運の無いヤツはとことんついてねえんだなぁと思っていると、ヤツは裸のオレに気づいてぎょっとした。
最初は立たされているのがオレだという事がわからなかったみたいだけど、オレの顔に気づくと、急に勝ち誇った生意気そうな顔になった。
「なんだコイツ、裸になってバカみたい」
オレはむかっとしたが、我慢した。オレも似たような事こいつに言った気がしたからだ。だが、その後の余計な一言には我慢ならなかった。
「チンコちっちぇえし」
「なんだとテメェ!」
お前だって大きさは同じくらいだったろうが! それに、オレが今こんな目にあってるのは、そもそもお前のせいなんだぞ!
勝手に手が伸びていた。ガツンとクソ生意気なガキの頭をぶん殴る。ボカッと音がした瞬間に、ちょっとヤバいことに気がついた。あ、センセエの目の前だ…。
みるみるうちに、ガキの目玉が飛び出そうなぐらいに潤んできて、大音量で泣きはじめた。
「ウエエエェーン!」
謝るスキも無く、ヤツは膝の怪我の手当ても忘れて、保健室の外へ駆け出していく。
呼び止めようとしたオレの背後から厳しい声が飛んだ。
「コラッ! また泣かせた」
「だって、だって、」
オレだって反省してたんだ。一回目の悪口には我慢したんだ。それにすぐに自分から謝ろうとも思ったけど、その前にあいつが逃げちまったんだ。
いいたい言葉は口から出てこなくて、センセエは聞こうともしなかった。
「だってじゃありません! もう許しませんからね!」
本気で怒ったセンセエは、白衣のポケットから注射器を取り出した。
もともと小さいオレのチンコが、恐怖で更に縮み上がる。
「ひいい! ごめんなさい!」
「ダメよ、お尻を出しなさい!」
逃げようとするオレを捕まえると、センセエはベッドの上にうつぶせにオレを押し倒して、丸出しになったオレのケツに注射器を突き刺した。
「イテェッ!」
思わず悲鳴を上げる。
センセエが針を抜いて立ち上がると、オレもケツを抱えて起き上がった。
「ななな、何の注射なんですか」
オレだってそこまで子供じゃない。大人はいつも妙に楽しそうに注射を打つけど、それだってまるっきり趣味なワケじゃない事は知ってる。注射は薬だ。クスリには何かの目的がある。風邪を治すとか、痛みをとるとか、眠らせるとか。だから、注射を怖がっちゃいけないと、佐藤がこの前言ってたんだ。
だけど、センセエのいった言葉は、オレの度肝を抜いた。
「体が人形みたいに固くなる注射よ」
意味がわからない! オレはバカだから、もっとわかる説明をしてくれ!
「えええ! どうしてそんな!」
「これならもう他の子に意地悪できないわ」
さも当然のことのようにセンセエは言うが、いくらなんでも無茶苦茶だ。すると、なんだか、舌がなんだかうまく動かなくなってきた。足も力が入らない。
ヤバイ、もう固まってきた。
「助けてセンセエ、イヤダ、イヤ…モゴ…ムグ…」
ついに口も動かなくなった。はっきり目が覚めているのに、指一本動かせない。まるで金縛りだ。
センセエはオレの体をゴロンとベッドの上に転がすと、今度はポケットからメスを取り出した。このセンセエ、ヤバイ! ポケットに何持ってるんだ!
センセエはメスを持って近づいてくる。体は動かない。
殺される!
オレは悲鳴も上げられなかった。ただ、見ているしか出来なかった。
センセエは、オレの脚を開いた。そして、オレのチンコを手でつかむ。血の気がサッと引いていく気がした。
まさか、チンコをちょん切られるのか?
オレは泣きそうになった。が、涙も出てこない。ガタガタ震えたくても、ピクリとも動かない。
助けて! やめて! オレが悪かったです! もう二度と暴れません! 誰にも悪口言いません! だから助けて! 大事なチンコなんです! もう小さいからって文句言いません! 取らないで! 取らないで!
センセエは、鼻歌を歌い始めた。メチャメチャ楽しそうだ。それがとても怖かった。
そして、オレのチンコをしっかりつかんだまま、メスを先っぽに近づける。
ついにセンセエは、メスをションベンの出てくるところにまっすぐ突き立てた。頭の中で悲鳴をあげた。チンコの先端にメスが刺さってるのがわかる。でも、なぜか痛みは無い。それに血も出てこない。何でだ。オレは本当に人形になっちまったんだろうか。
センセエはそのままザクザクとメスを根元の方まで切りつけていく。オレのチンコは縦半分に割られてしまった。なんだかピンク色のチンコの中身が見えてしまっている。ションベンの出る道が、根元から丸見えだ。佐藤の家で見た、人間の解剖図ってのがこんなんだった。チンコのところばっかり見てたけど、本当にこんなんだった。それでもまだ血は出てこない。夢なら早く覚めてほしかった。
センセエは、根元まで半分に割り終わると、右半分だけを切り取ってしまった。オレのチンコの右側だけが、センセイに取られた。センセイはそれをポケットにしまい込む。
ドロボウ! ドロボウ! オレのチンコだぞ! 返してくれよセンセエ! ちゃんと元通りくっつけて返してくれ!
返してくれそうな気配は全くなかった。今度はキンタマ袋を冷たい手でぎゅっとつかまれる。オレは更に悲しくなった。キンタマも取られるのか。
センセエはフクロの真ん中にメスを入れた。ザクザクと切り進めて、フクロの皮をひっぺがす。白い団子みたいなキンタマが見えた。キンタマがこんな色しているとは思わなかった。ああ、これでセンセエはキンタマもポケットに入れちまうのかと思ったら、センセエはそのままタマブクロから手を離した。右のキンタマが見えるようになっただけ。何がしたいのかさっぱりわからない。
今度はチンコの上のところ、付け根の方から、へそに向かって腹を裂き出した。
死ぬ! 死ぬ!
頭の中で騒いでいるオレとまったく関係ないみたいに、切り口からは一滴の血も出ない。そんなのおかしいと頭ではわかっているけど、実際にそうなっている。また、べろりと皮が引き剥がされた。中の肉がむき出しになる。こんなのまるで、こんなのまるで…
アレみたいだ。
おびえるオレの腹が、ぐるりとえぐられた。グロテスクな内臓がむき出しになる。
先生はニコニコと笑いながら、オレの顔にもメスを突き立てた。鼻の上から縦一直線に切り込みを入れ、右の皮だけをひっぺがす。
ベリッと嫌な音がした。
そこで、ガラリと扉が開いた。
助けて! 殺される!
声が出ないオレは心の中で必死に助けを求めた。背の高い大人の男がぬっと目の前に顔を出す。オレの担任の先生だ。
「やあ、園田先生。お忙しいですか? えーっと何しにきたんだっけ」
「あら田中先生。いらっしゃい」
二人とも、今ここで生徒が一人、切り裂かれて死にかけているのを、目に入ってないみたいににこやかに会話をしている。
なんでだよう。そんなのずるい。みんなが花子センセエの味方だなんてあんまりだ。大人はみんな、ずるい、ずるい!
そこで田中先生は、オレをじろじろ眺めて言った。
「へえ、こりゃすごい。新しい人体模型ですか?」
「ええそうなの、『どんべえ君』って言うのよ」
「あはは、そんな顔してますね。ちょっとマヌケな」
なんてこった。田中先生は、オレの事を本物の人体模型だと思ってる!
「うおお、なんだ、良く出来てるなあ」
「そうでしょう、内臓も全部ゴムなのよ。とてもわかりやすい教材だわ」
そう言って、花子センセエは、オレの心臓をポコッと取り外した。
オレは心臓が飛び出るくらいビックリした。おもちゃみたいに見えるけど、確かにオレの心臓だ。だって手渡された田中先生がニギニギと握ると、オレの胸に手の感触を感じる。
田中先生は心臓をカポッと胸に戻して、他の内臓も突っつきながらオレを調べた。
「うーむ、性器まで作りこまれてるとは珍しいな。先生、これ高かったでしょ」
「実は友達に試作品を融通してもらったの。上の人にはナイショでお願いしますね」
花子先生はいたずらっぽく言った。田中先生はデレデレと鼻の下を伸ばしてにやけている。ダメだこりゃ。この人じゃ助けてもらえない。
「なるほど、なるほど。じゃあこっそり理科室まで運んでおきましょうか」
「そうしていただけると助かるわ。女一人じゃ重くって困ってたんです」
「まかせてください」
ぐっと力こぶを作ってみせる田中先生。みるからに運動音痴の頼りない先生だが、妙に張り切っている。二人はオレの腹に蓋をすると、シーツをかぶせて運び出した。
理科室へ運び込まれたオレは、黒板の横に飾られた。
「そろそろ次の授業が始まるし、さっそく使って見ようかな」
「ええ、それがいいわ」
花子センセエは、にこやかに手を振って去っていった。そしてチャイムが鳴る。クラスのみんなが理科室にやってきた。
「あれー、先生、算数じゃなかったっけ」
「今日はいいものが手に入ったから、理化の時間に交代だ」
「うげっ、なんじゃこりゃ。グロい」
岡本がオレを見て言った。女子も気持ち悪いといいながら、オレを見ている。なのに、誰もオレの事に気づかない。きっと顔を見てないからだ。みんなむき出しの内臓とか、チンコばっかり見てやがるんだチクショウ!
「人間の体の中はこうなっているんだぞ。教科書に名前が載っているから、チェックするよーに」
センセエはオレの心臓をポコッと外した。
「これなんだかわかるか?」
「しんぞー!」
「じゃあこれは?」
「かんぞー!」
「じんぞー!」
「いぶくろ!」
「たまぶくろ!」
「タマ袋はこっちだ、こっち」
センセエはオレのキンタマをぎゅっとつねった。みんながどっと笑う。
そんな調子でオレの内臓はスポスポ引っこ抜かれてつつきまわされた。授業の終わりにはみんながよってきて、好き勝手にオレの中身をいじくる。とくに遊ばれたのはやっぱりアレだ。
「きんたまー!」
「パス! パス!」
「ちょっとやめてよヘンターイ!」
投げつけられたり握りつぶされたりする度に、右のタマに激痛が走る。
佐藤がオレの心臓をクルクル回しながら言った。
「オレの父ちゃん医者だから、オレんちにも人体模型あるぜ。ちょっと感じ違うけど」
みんながすげーなーと感心する。確かに佐藤は頭が良かった。
佐藤は仲良しグループの男子にだけ聞こえるように声をひそめて言った。
「イイコト教えてやろうか?」
「なんだよ」
「男には触ると気持ちいいところがあるんだぜ」
「知ってるよ、チンポだろ。何を今更」
「ちげえよ。ゼンリツセンてんだ」
話を聞いていた奴らはそろってポカンとした顔をした。
「なにそれ。どこについてんの」
「えーっと、ボウコウの裏って言ってたから…これかな?」
佐藤はオレの下腹の中身をゴロゴロとかき出し、小さな豆粒みたいなものを取り出した。 「こいつを触ると勝手にチンチンが固くなるくらい気持ちいいんだ」
佐藤はそう言って、ソレをむにゅっとひねった。
ふんぎゃあ!
何かがまたぐらから一直線に脳天まで突き抜ける。呼吸はしていないけど、オレは息が止まるかと思った。佐藤からその豆粒を受け取った岡本もグニグニと揉みつぶす。
ひっあっくぅふぅぅぅ!
「こんなもんどうやって触るんだよ」
「ケツの穴から指入れてつつくんだと」
「汚ねぇ!」
思わず岡本は持っていたソレを投げ捨てた。手荒い扱いだったが、ようやく拷問から開放されてオレはほっとする。
話を聞きとがめた先生が、落ちたナントカセンを拾い上げる。
「こらそこ、子供の癖になにをマニアックな会話をしとるか」
「えええ、ホントなんだ。先生もつっついてんの?」
「だからマニアックな趣味だと言ってるだろう。先生はやらん!」
「でも知ってるんだね」
「むぅ…」
先生は拾った内臓をオレの腹に戻して逃げていく。
ふと、佐藤が、ぽけーっとオレの顔を眺めていた山田に気づいた。
「どうした、山田。何見てんだよ」
「うーん、この人体模型どっかで見たことあるような…」
オレは、はっとして山田を見た。
そうだよ、山田ァ! オレだよぅ!
親友に届くように、必死に念を送る。
山田は言った。
「なんかこいつ、どんべえに似てない?」
さすが親友!
オレは喜びのあまり、山田に抱きついて、思いっきりキスしてやりたくなった。もし体が動いていたら、オレはきっとそうしたはずだ。
「どんべえ…?」
他の奴らもオレの顔を見つめる。オレは有頂天になった。これでみんなが気づけば、きっとオレは助かる!
佐藤がポツリと言った。
「…誰だそれ?」
あまりのことに一瞬何を言われたかわからなかったけど、それでも後ろから固いもので頭を殴られたみたいな気がした。
助けを求めるように山田を見る。
「…誰…だっけ」
そんなまさか! 今お前、自分でどんべえって言ったじゃないか! その口で言ったじゃないか!
どいしんぺい、で、どんべえだ。いつも、どんが、どんがってオレの話をしてただろ?いつも一緒に遊んだ親友だろ!
「オイオイ、ボケかましてるんじゃねぇよ山田」
岡本が言った。
「真面目なヤツがジョーク言うとわかんないよ」
「…そんなヤツいたような気がしたんだけどな」
山田は照れくさそうに肩をすくめた。
そんなぁ山田ァ! オレは泣きたくなった。涙も出てこない体になったけど、それよりみんなに忘れられた事の方がきつかった。今まで生きてきて、こんなに目の前が真っ暗に思えるほど悲しくなった事はなかった。
「おい、次の授業が始まるぞ」
先生が声をかけた。
「やばい、いくぞみんな」
みんながドカドカとオレの腹の中に内臓を投げ込んで去っていく。ほとんどは中に入らずに零れ落ちた。
みんなぁ! 待ってくれぇ! 置いてかないで! つれてってくれよ! 助けてぇ!
声は、出ない。
入れ違いに、花子センセエがやってきた。
オレを見てニコリと笑う。オレは必死に声をかけようとするが、センセエは知らない振りをする。
「あらあら、どんちゃんの大事なところが散らばっちゃって」
そういって、センセエは散らばった内臓を元の場所へはめ込んでいく。
最後にセンセエは、オレのキンタマを手にとって、クニクニと揉むと、チュッとキスをしてからオレの袋にはめ込んだ。
「うわぁ、やめてくださいよ、園田先生」
ビックリした様子の田中先生が声を上げた。
「すごいところ見ちゃったよ、どうしよう」
そういって目を覆い隠す。オレのキンタマにキスしたことを言ってるらしい。
「あらやだ、恥ずかしい」
「うー、目に焼き付いちゃった」
田中先生は、手を離した後も、目をシパシパさせていた。ちょっと前までオレはこのセンセエ嫌いじゃなかったけど、これじゃあただのエロいオッサンだ。
「困るわ、みんなには言わないでくださいね」
花子センセエはかわい子ぶって見せている。みんな騙されてるのに、なんで気づかないんだ!
「そんなこたぁしませんよ。僕だって紳士の端くれですからね」
田中先生は、両肩をすくめる。
「しかし、うらやましいな。僕も人体模型になりたい」
「まあ、田中先生ったら。ウフフ」
「お茶でも飲みませんか、園田先生。うちのクラス体育なんで、僕空いてるんですよ」
「あら、じゃあご一緒しますね」
二人は部屋から出ようとする。
立ち去り際に、田中センセエはオレのキンタマを少しながめた。
「コイツメ!」
オレのチンコの先が、太い指で弾かれる。
電気が消された。
おまけへ
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投稿:2010.11.23更新:2010.11.23
学校の怪談〜保健室のおしおき編
著者 自称清純派 様 / アクセス 26362 / ♥ 17