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どれくらい時間がたっただろう。
ふと、オレは指が動いたような気がした。薬の効果が切れてきたんだろうか。声を出して見る。
「う、うう…う…」
不気味なうめき声だけど、なにも出ないよりはマシだ。足を一歩踏み出して見た。でも、やっぱりまだうまく動かなくて転ぶ。
ゴロゴロと内臓が転がってしまった。慌てて拾い集めて見たものの、自分で元に戻せない。どこに何がはまっていたか、わからないんだ。
肺と心臓、胃袋と腸ぐらいならわかるけど、他のは何がなんだかサッパリだ。
オレは、もっと勉強しておけばよかったと思った。仕方が無いから痛いのを我慢しながら適当に押し込んで、無理やり腹の蓋を閉める。腹を押さえながら、外へ出て、助けてくれる人を探す事にした。
ふらふらと外へ歩いていくと、ちょうど女子が一人歩いてくるのが目に入った。
何気なく声をかけようとすると、突然ものすごい悲鳴を上げられる。
「きゃーーーーーーー!!!!!!!」
オレは、ビックリして飛び上がった。
その子は叫びながら近くの教室に飛び込む。
「お化け! お化け! 人体模型が動いてる!」
そうか、オレは人体模型の格好だから、動くとお化けに見えるのか。
事情をようやく飲み込んだ頃に、教室の中からぞろぞろと人が出てくる。
「なにを馬鹿な事をいっておるんだね君は。こんな真昼間からお化けは…」
ぶつぶつと言いながら出てきたセンセエも、オレを見て腰を抜かした。
「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
オレはなんとか誤解を解こうと思った。
「待って、オレ人体模型じゃないよ」
「うわああ、喋った! よるな化け物!」
消しゴムとか三角定規とかが飛んできた。顔をかばって後ずさると、足がもつれて転ぶ。押さえていた腹の蓋が外れて、また内臓が飛び散った。
「ひええ、キモい!」
飛び散ったものを拾い集めようとするが、ノートやらなんやらがたくさん飛んできてそれどころじゃない。オレは何もしてないのに。悔しくて泣きそうだったけど、しょうがないからオレは転がった内臓をそのままにして逃げた。
騒ぎを聞きつけた人が集まってきて、オレを見て更に悲鳴を上げる。
みんな敵だ。誰も助けてくれない。誰もオレが人間だと気づいてくれない。
「センセエ…」
そうだ、花子センセエだ。あの人しかいない。
オレは保健室を目指して走った。歯を食いしばって走った。
扉を開けて中へ駆け込む。センセエはそこにいた。
「センセエ! 花子センセエ! 助けて!」
「あらあら、どうしたの、どんちゃん。ちゃんと理科室にいなくちゃダメじゃないの」
センセエは、オレを見ても落ち着いた様子でのほほんと言った。オレはセンセエの腰にしがみついて叫んだ。
「イヤだ、イヤだ! 助けてセンセエ! もうイヤだ!」
オレは泣いた。ボロボロ涙があふれてくる。
「母ちゃんのところに帰りたい! 元に戻してセンセエ!」
センセエはオレの肩をポンポンと叩きながら聞いてくる。
「もう小さい子をいじめたりしないと約束できる?」
「いい子にします! もう乱暴しません! 悪口言いません! …みんなに忘れられたくないよう、さみしいよう…一人はイヤだ、イヤだあぁぁ…」
赤ん坊みたいにワンワン泣いた。みんなのところに戻りたい、それだけ思っていた。
すると、ドヤドヤと、人の足音が近づいてきた。オレを追いかけてきたんだろうか。
後ろを振り返ると、ちょうど山田や佐藤や岡本たちが、保健室に入ってくるところだった。全員、オレを見て、ぎょっとしたように立ちすくむ。
もうイヤだ。あいつらに化け物って呼ばれるくらいなら、オレもう、生きてたくないよ。
オレはくしゃくしゃに顔をゆがめた。
山田が口を開く。
「…なにやってんだ、どんべえ。素っ裸で」
オレはビックリした。どんべえと呼ばれた!
「あれだろ、新入生フルチンにしたからお仕置きで同じ事されてんだ」
「ああ、なるほど。そりゃしょうがねえや」
佐藤が言って岡本が相槌を打つ。
「いくらチンポちっさいからって下級生に当たっちゃいかんよ」
「それを言ってやるなよ。本人いつも気にしてんだから」
いつもみたいに好き勝手な事を言ってる。さっき理科室でオレを忘れていたのがウソみたいだ。
「お前ら、オレがわかるのか?」
佐藤が顔をしかめる。
「はあ? 変装したつもりか? 裸になっても顔がどんのままだろうが」
「でも、オレ…人体模型だし…」
「意味がわかんねぇよ。ついに本物のバカになったか?」
岡本が言った。
オレは鏡を覗き込んだ。顔が元に戻っている。体を見ても皮がちゃんとついている。半分に割られていた小さいチンコも、ションベンのときに見慣れた普通のチンコだ。
「戻った? 夢だったのか?」
山田がいぶかしげな顔をしてオレの顔を覗き込んできた。
「どんべえ、本当に大丈夫か?」
山田がオレの心配をしている。山田がオレの心配をしている!
「先生ダメだよ、あんまりどんべえイジメちゃ。こいつ頭弱いんだから」
「朝からぶっ続けで説教くらってだいぶ参っちゃってるみたいだし」
「オレら注意して見とくから、もうカンベンしてやってよ」
「今日の体育、どんがいなくてオレらのチームボロ負けだったんだ」
オレは裸のまま山田に抱きついて、またオイオイと泣きはじめた。こいつらと友達で良かった! 本当に良かった!
「おお、よしよし。泣くな泣くな」
「そうね、みんな。そろそろ給食の時間だから土井君も連れて帰ってあげて」
「はーい」
あいつらは声をそろえて返事をした。山田が佐藤経由でオレの服を取り寄せ、オレに手渡す。
「ほら、どん、パンツはけ。お前チンチン見られるの恥ずかしいんだろ」
オレは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、頷いた。危なっかしくヨタヨタとパンツを引っ張り上げるオレを、仲間たちが両側から支える。
オレは心から、ありがとう、と言った。
なんだか久しぶりな気がした。
ふと、何か変だと思ったのはそのときだ。チンコは元に戻っているのに股ぐらがなんだか、スースーする。前より小さくなったみたいだ。首をひねりながらチンコをつかむが、やはり特に違いは無い。
何気なくフクロの方に手をやって、オレはキンタマが片方しか入っていないことに気づいた。左側だけだ。右側はフクロだけで、中身が空っぽだ。
オレは恐る恐るセンセエのほうを振り返った。
センセエは、いつもどおりの様子でニコニコと笑いながら立っている。その手は白衣のポケットの中だ。
「あれ、園田先生、コレなんですか?」
佐藤の声に横を見ると、そこには大きな人体模型が置いてあった。細かいところまで作りこまれてて、まるで本物の人間みたいな…
「なんじゃこりゃ。キモッ」
岡本がそう言いながら、半分に割れたチンコをつっついている。柔らかい素材でできているのか、つつくとふよふよと揺れる。
「よくできてるでしょう? 人体模型の田中先生よ」
山田が笑った。
「名前あるんだ。しかも先生って」
「あら、みんなに身体のことを教えてくれる立派な先生よ。バカにしちゃいけないわ」
オレは何かを思い出そうとしていた。田中先生? どこかで聞いた名前のような…
「毛も生えてる…大人の人体模型って珍しいですね。普通学校にあるのはモデルが子供じゃないですか?」
「せーきょーいく用じゃね? ヒヒッ」
「そうねぇ…知り合いに試作品を譲ってもらったんだけど…やっぱりみんなに見せるのは問題があるかもしれないわね。しまっておきましょうか」
オレは模型の半分皮のめくれた顔を見つめた。ふと、相手が助けを求めてこっちを見つめ返しているような気がした。
背筋にぞくりと寒気が走って、オレは慌てて服を着ると、保健室から逃げ出した。
終
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更におまけ〜幻の没ネタプロット
あらあら、どんちゃんの大事なところが散らばっちゃって
内臓を戻していく花子先生
最後にキンタマを手に取り
チュッとキスをしてから袋にはめこむ
うわぁ、やめてくださいよ、花子先生
すごいところ見ちゃったよ、どうしよう
あらやだ恥ずかしい
目をシパシパさせる田中先生
うー目に焼き付いちゃった
困るわ、みんなには言わないでくださいね
そんなこたぁしませんよ
僕だって紳士の端くれですからね
しかしうらやましいな
僕も人体模型になりたい
コイツメ!
先生が俺のチンチンを指で弾いていく
ふと、オレのキンタマを眺める先生
間接キッス、なんちゃって
ドサドサと紙の散らばる音
こ、校長先生!
田中先生…そんな趣味があったのか
ご、誤解です校長、これには深いわけが…
私は君を批難はしないよ 人の性癖は様々だ
違います そうじゃないんです
わかるとも田中先生
しかしここは教育の場だ 子供に手を出してはいかんよ
わかってくれてないじゃないですか
大人にしておきたまえ 田中君
田中先生の肩をもむ校長先生
へ?
熟年の魅力もいいものだよ
ぼ、僕は次の授業の準備がありますのでぇっ!
…田中先生…
オレのチンコを撫でる校長
私も人体模型になりたい
ふと、オレのキンタマを眺める先生
じゅるじゅるっ
ぎゃああああ
電気が消された
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投稿:2010.11.23更新:2011.08.22
学校の怪談〜保健室のおしおき(おまけ)編
著者 自称清純派 様 / アクセス 14626 / ♥ 18