「…来てくれたんだ。」
娼館の一室で、テティスは微笑みを浮かべながら抱きついてきた。
ルカは、16歳の時、父親の友人に連れられて訪れたこの娼館で、二歳年下の、赤毛で抜けるように色の白い娼婦、テティスによって女の中の味を知った。
それ以来4年間、ここに週に一度の割合で訪れては、彼女を指名している。
今では、ルカが来るころ合いを見計らって、娼館がテティスを開けておいてくれる。
テティスは、敗戦国から奴隷として売られてきた。
そして、どういうところか全くわからないままに連れて来られた娼館で、自分を物扱いする乱暴な男に苦痛とともに処女を散らされたばかりだった。
その、慣れない頃の、初めての自分に近い年齢の客であり、優しくもあるルカの相手をしたことは、いい記憶になっている。
内気であどけなさの残る少年の、ぎこちなくたどたどしい指使いを今でも思い出す。
苦痛を口にすれば、「あ、ごめん。」と謝ってくれて、「どうしたら痛くないか教えてね。」と言ってくれたお客さんは、初めてだった。
入れるときも、様子を窺いながら、ゆっくりとだった。
まだ、入れられると痛かった頃だし、ルカのものは大きめの方なので、テティスは思わず涙した。
そしたら、また言ってくれたっけ。
「ごめん…痛かった?やっぱり、抜こうか?」
「…そのままでいて。」
テティスは、自分の中に入っている男の大きなものが、熱くて脈を打っていることを、その時初めて知った。
(男の人のって、本当はこんなにいいものだったんだ…!!)
今までのは、ただ乱暴に動き回って、痛いだけだった。
この人のは…ルカのは、痛いけれど、痛くない。
「ルカ…ルカ…ルカ!!」
テティスは、すすり泣きながら、ルカを抱きしめた。
テティスにとって、これが、初めて自分の意思で受け入れた男だった。
そんなルカの仕事が、去勢師…すなわち、男のものを付け根から刈り取ることだと知ったときは、「こんなにも優しい人が!?」と、全く信じられない思いだった。
それでも、嫌な客の相手をする辛い思いも、ルカに逢えば癒される。
だが、自分と相手が、決して結ばれないということは、ルカもテティスもお互い承知の上…
いわば、二人は、娼館が金を仲介して引き合わせる、セックス・フレンドといった状況にあった。
「今日はどうする?」
ルカの服に手をかけながら、テティスは問う。
「…今日は疲れてる。口でするだけにしてくれる?」
「…判った。でも、その前にキスして。」
「うん。」
ルカは、テティスの華奢でやわらかな体を、そっと抱き寄せる。
それから、唇を、そっと合わせた。
甘い香りが鼻腔をくすぐり、二人の舌が、ゆったりと重なり、そして絡み合う。
テティスは、唇はルカ以外には決して許していない。
そして、本音は、ルカの前だけで口にする。
彼女は、ルカの前だけでは、年相応の少女に戻れるのだった。
ベッドに腰を下ろしたルカの下穿きを、テティスはそっと脱がす。
キスした際に興奮したのだろう。
半ば勃起したルカのものが、下穿きに引っかかって、ぷるん、と揺れた。
彼は、ここに来る前はいつも、香草の葉を数枚浮かべて沸騰させた湯に浸し、固く絞った布で股間のものを丹念に拭き清めて下穿きも取り換えるので、恥垢は全く付いておらず、不快な匂いも殆どしない。
その、かすかに香る男の分泌物と、香草の混じったそれが、テティスにとっては、心地よい「ルカの香り」であった。
「尿の匂いを消したり、汗を抑えたりする効能のある薬草を選んでいる」のだそうだ。
「ちょっと、おっきくなってる…。」
テティスは、まず、亀頭をひと舐めする。
それから、亀頭だけを口に頬張って、裏側の筋や尿口を舌先でくすぐると、くびれに沿って舌先を這わせる。
それから、飴玉を舐めるように、亀頭を転がしはじめた。
「う…ふう…。」
ルカが小さくつぶやく。
口いっぱいに含めるだけ含んで舐め上げたりしてゆく間に、それは、口の中でむくむくと膨れ上がっていった。
口から出してみたその長さは、テティスの手でふた握りした先から亀頭が丸々出るくらいで、太さは、同じく彼女の手の、中指と親指で輪を描いたほどか。
硬く張りつめていて、握りしめたテティスの手の中で、別の命を持つ生き物のように熱く、脈を打っていた。
(あたしの大切な人の、大切なもの…)
「…ルカ。」
「なあに?」
「ルカのが、喜んでる。早く可愛がってほしいって。」
「…そう。」
「うんと、気持ち良くしてあげるね。」
テティスは、そういうと、尿口から流れる液を舐め取る。
そして、改めてルカの物をほおばり、吸いながら舐め上げ始めた。
「あっ。ああっ…。ああっ…!!」
ルカが、快感に声をあげる。
テティスの片手は、ルカの皮袋をそっと包み込み、中身をたぷたぷ揺らし、撫であげたり転がしたりする。
「おちんちんだけじゃなくって、タマタマも可愛がってあげなきゃ。仲間外れなんてかわいそう。」
そのまま、会陰のあたりに指を這わせてさすりあげたりもする。
そのうちそこがひくつきはじめた。
「いく…っ。」
「口の中に出していいよ。ルカのなら飲んであげる。」
次の瞬間には、テティスの口中でルカのものは爆ぜ、熱い液が勢い良く吹き付けられた。
吹き付けるたびに、ルカの睾丸は、テティスの手の中で吊り上がり、ペニス全体は、跳ねるように暴れた。
「テティス。…上手になったね。」
「他のお客はみんな練習台。ルカにだけ本気になるの。」
テティスは、微笑みながら返した。
「じゃ、一緒にワインでも飲もっか。…それから、今日は泊ってくから。朝まで一緒に寝てくれる?テティスも疲れてるだろ?だから、テティスの時間を丸ごと買ったんだ。」
「ルカ…嬉しいっ!」
テティスは、ルカに飛びつくように抱きついてきた。
ベッドの中で、テティスの手は、ルカの萎えたペニスを握りしめる。
「さっきまでカチカチだったのに、今はもうこんなに柔らかいんだね。」
「ねえテティス。」
「…なあに?」
「ここに来る客に、ブンガとトリルっていただろ?」
「いたよ。二人とも、練習台にしてたの。…それがどうしたの?」
二人とも、いつも、洗ってもいない不潔なものを無理やり銜えさせてきたなあ、とテティスは思った。
帰ったあとは、カミツレの煎じたので、何度も何度も、口をすすいだっけ、とも。
「あの二人ね。…もう来ないから。二度と来ないから。」
「…どうして?」
「今日ね…斬ったの。俺が。…二人とも。」
「え…?」
「二人ともね。闇の金貸し屋のかたにしてたんだよ。二人とも借りられる金貸し屋ではあらかた借りて、どこに行っても断られてるから、返せなかったら自分の男のものをかたにしてもいいっていうところでね。…で、ブンガは昨日、期限が切れて。トリルなんか、もう半年前、とっくに切れてちゃってたんだよ。で、うちのポルトっているでしょ、あの大男。あいつが金貸し屋に頼まれて、泣き喚いてるのを二人ともひっつかまえて。トリルは、おたずね者になってて、街外れの飲み屋にいるところを見つけられて、金貸し屋の用心棒がうちに連れてきた。で、台にくくりつけて。…俺、斬ったよ。金貸し屋の眼の前で。あいつらの男のもの。球も竿も根こそぎ斬った。だからもう、ここには来られない。」
テティスの手は、ルカの睾丸の袋に伸びて、中身を柔らかく転がしはじめた。
「なんで、男のものなんかかたにしちゃうのかしら。」
「…後がない時ってのはそんなもんだよ。追いつめられるってのはそういうこと。大体、まともな所じゃもう相手にしてくれないから、男のものをかたにするような所に頼むんだろ?何人ちょん斬られてるかって知ってても。…まともな所でもきちんとできないのに、そうでない所なんかできちんとできるわけなんかないじゃないか。」
ルカは、斬り落とされた二人の男のものが、金貸し屋が連れてきた豚の胃袋に収まるまでを、しっかり見届けていた。
そのことは、テティスには黙っていた。
ブンガとトリルは、どこか遠くの国の奴隷市場に売られて、そこでボロボロになって一生を終えるのだということも判っていた。
「女遊びのために借金して、遊ぶためのものをかたにするなんて、二人ともどうかしてるよね、ルカ…」
テティスの手は、相変わらずルカのものを弄んでいる。
ブンガとトリルが永遠に失ってしまったもの…
いや、今までルカが斬った男たちすべてが永遠に失ったものが、ルカの股間には、確かに付いている。
そして、勃起し、射精し、ルカに男としての快感と喜びを与え続けるのだ。
ルカに斬られた者の中には、それを永遠に知ることがなかった者さえいても。
それであっても、自分が娼館を辞められないように、ルカは去勢師を辞められないし、辞めてくれということ自体が愚問でさえある。
だが、テティスは、ルカが去勢師でもかまわないと思うし、ルカが死ぬまで男であり続けてほしい。
股間に男の証をぶら下げていてほしいと願ってもいる。
でも、ルカを独り占めしたいという思いも、確かに存在していた。
テティスは、片手でルカのものを袋ごと握り、もう片手の指で鋏を作って、ルカのものの付け根にあてがい、挟みながら小さく呟いた。
「…ちょきん。」
「ばかっ!」
ルカは、そう言いながら、テティスの体を力いっぱいかき抱いた。
前作はこちら
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投稿:2010.12.21更新:2010.12.25
テティス
著者 真ん中 様 / アクセス 13884 / ♥ 9