WARNING-AGAIN
[ゲイ(バイ?)][両性具有][グロ][強姦][殺人][食人][まだ途中]
黄金の太陽 − 登場人物一覧(まだ出てこない人物も含む)
黄金の一族
『黄金』 一族を率いる偉大な長。飛びぬけた強さを誇る。
『暁』 若いが長に次ぐ実力を持った戦士。長の寵愛も厚い。
『影』 古参の戦士。今は三番手。母としては石女。
『夕暮』 『暁』の母が父として産ませた腹違いの弟。村の警備官
青の一族
『雫』 『暁』の最初の妻。医術の知識を持つ一族の末裔
『流水』 『暁』の最初の息子。母の助手として働く利発な少年
緑の一族
『若葉』(グルグジュ) 森の一族の長の末息子。捕虜から『暁』の妻となる
『大樹』(ゼゼップラ) 身体は大きいが気が弱い。『影』の妻となる
赤の一族 山の民
『恐怖』(ムルドゥム) 主人に忠実な赤の狂戦士。
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前回のあらすじ
偉大なる『黄金』の一族の若き戦士『暁』は、
妻たちや息子、弟と共に、村を襲う赤の一族に立ち向かった。
毒を盛られ総崩れになった自軍をなんとか建て直し、
村への被害そのものは最小限に食い止めたのだが、
妊娠中で動きの鈍っていた『暁』と腹の子の命を救うために、
長の『黄金』が身代わりとなって大怪我を負う。
そして『暁』の存在を疎ましく思っていた『影』は…
−
4
次の日、敗走した赤の軍を追って出て行った『影』がようやく戻ってきた。ざわめく村人たちの前に、細長く紐で結ばれた肉の塊が投げ出された。それは長く数珠繋ぎにされた陰嚢の束だった。数百個はあろうかという毛深い袋が、睾丸を中に収めたまま切り落とされ、まとめて紐でつなげられているのだ。まるで毛の生えた蛇のような不気味な肉塊は、村の広場に大きなとぐろを巻いた。先端に一つ、生首がくくりつけられている。まるで蛇の頭であるかのような、滑稽な眺めだ。もつれた赤毛をふりみだし、怨念を表情ににじませながら、焦点を失った濁った瞳が空を見上げる。首の根元につながった性器には、一つだけ陰嚢だけではなくペニスもついていた。
つまり、これは『影』の殺した赤の狂戦士達のタマであるのだろう。その量に一族の者たちは驚く。一つだけ顔と陰茎がついているのは、それが彼らを率いていた「オス」であったということ。『影』は村人達を眺め回してニヤリと笑った。
「愚か者は始末してきたぞ。これは土産だ」
大きな歓声が上がった。『影』を讃える声が広場から響き渡る。その声を背に『影』は『暁』の小屋を訪れた。そして手短に『黄金』の様子を見舞う。脚の肉がごっそりとなくなり、両手も包帯の中に完全に埋もれているのを見て、『影』は言った。
「まるで丸太だな。これでは二度と起き上がれまい」
「何を言うか!」
暴言をとがめようとする者たちを片手で制し、『影』は『黄金』に歩み寄った。
「『黄金』よ、聞こえているか?」
それまで目を閉じていた『黄金』がギロリと目を向けた。
「そう大声を出さずとも良いわ。皆に聞かせたいなら、外で言え」
「頭はまだ耄碌をしておらんか。なら何を言われるかも予想はついているようだな」
『影』は『黄金』の言葉をもっともだと思ったのか、わざわざ扉を開いて、外に歩み出てから叫んだ。
「『黄金』よ! 俺は貴様を我らの長とは認めない! この偉大なる一族を率いるのにふさわしいのはこの俺だ! よって次の白銀の夜、貴様に決闘を申し込む! 正々堂々と立ち会え!」
村の者たちにどよめきが走る。『暁』は理解するのに少し時間がかかった。決闘? それは長が年老いたときの世代交代で、若い者がその力が今の長より優れていることを示すために行うものだ。なぜ今? なぜ『影』がそんなことを?
『暁』の頭の中でいつもの冷静な自分が囁く。『影』にとってこれが絶好のチャンスだからだ。通常の状態ならば、『影』は『黄金』の足元にも及ばない。決闘など申し込んでも、簡単にひねり潰され、タマを抜かれて一族を蹴り出されるだけだ。今まで『影』自身『黄金』に逆らうことなど考えたこともなかったに違いない。
だが、今この瞬間に決闘を申し込んだら、確実に勝てる。そして、本来二番手であるはずの『暁』は、妊娠中で戦えない!
今をおいて『影』がこの集団を乗っ取る機会はないのだ。そして『影』はそのチャンスを見逃すような男ではなかったということ。
理解できてみれば簡単なことだが、そうなれば怒れる『暁』が表に出る。
「この卑怯者め! 何が正々堂々だ! 『黄金』殿は動けぬのだぞ!」
「だからこそ、だ! 考えても見よ、今敵に襲われたとすれば、誰が立ち向かい戦うのだ! お前がその太った腹で槍を構えるのか? 俺だ! 今、この一族でもっとも強いのは俺なのだ! 決闘などそれを確認するための儀式に過ぎん! ただ一族の歴史に敬意を払って形をなぞらえてみるだけのこと。力を失った長など、もはや長ではない!」
『影』は堂々と胸を張って言い切った。
「すでに村の主だった戦士たちには同意を取ってある。反対する理由がないからな」
そうして、『影』は脇に控えていた戦士たちに向かって言った。
「さあ、村の者に肉を配れ! 『影』の率いた狩りの成果を見せてやれ!」
威勢のいい返事と共に、もはや『影』の配下に入った者たちが遠征で手に入れた荷を解いて、村人たちに紫獣の肉を切り分ける。手渡されたその重みに、村人たちは戸惑いながらも、ただそれを無言で受け取るしかなかった。
『暁』は血が滲むほどに唇を噛み締めた。そもそもその肉は、『黄金』が獲たものではないか。その成果だけを横取りして、さも自分だけが身体を張って獲た物のように振舞うとは…。
しかし、『暁』には何も言えなかった。力は絶対の掟なのだ。
「どうした『暁』。お前の分だ。いらないのか?」
『影』が笑いながら肉を差し出す。『暁』は『影』を睨みつけると、踵を返して扉を叩きつけて閉めた。
その晩、前夜の陰鬱な空気とは打って変わって、村は狩りの成功を喜ぶ祝賀ムードに満ち溢れた。数珠繋ぎの陰嚢が切り分けられ、一袋ずつ村人たちに配られる。量が沢山あるため、まだ戦いに出たことのない子供たちも、初めて食べる丸々と太った精巣に舌鼓を打った。赤の頭のペニスは、広場の中央で『影』が食した。正式な儀式ではないが、これはつまり、暗黙の了解として、『影』が次の長であることを村人たちが認めたということだ。村の広場で花火が上げられ、陰嚢の皮を咥えてしゃぶりながら走り回る子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。
『黄金』の周りには、ただ『暁』の一族だけが並んでいた。村の者たちの助けをほとんど借りることが出来なくなり、『雫』の負担がずっと増えている。『流水』はもちろん、『若葉』や、まだ体調の万全でない『大樹』までもが、『黄金』の為に働いた。
扉が開いた。
突如溢れた大きな物音に、気の立っていた皆が身体をすくませる。『影』がそこに立っていた。酒に酔っているのか、顔と胸元を赤らめている。
「『影』よ、何用だ」
『暁』の言葉に『影』は指を振った。
「『影』殿、だ『暁』。早く慣れた方が良いぞ。貴様と俺はもはや対等な立場ではない」
「まだ長が正式に交代したわけではなかろう」
「だから青二才だというんだ『暁』。お前はわかっていない。儀式? 契約? そんなものはただの演出だ。「力」はそんなものに縛られはしない。天秤が傾いた瞬間に、全ての流れは変わっていくんだよ。お前のように過去の栄光に未練がましくしがみつく者は、共に墓場へ引きずられるぞ」
「いつになく饒舌だな、『影』よ。いったい何をしにきた。演説の練習ならよそでやれ。私は忙しいのだ」
「決まっているだろう、我らが「長殿」の様子を見に来たのさ。せいぜい頑張って白銀の夜までもたせてもらおう。あれだけ盛り上げた手前、儀式の前にあっけなく死なれてはしまらんのでな。意味の無い形だけの儀式でも、娯楽は必要だ」
「これ以上戯言をほざくつもりなら私の家からさっさと出て行け!」
扉を指差した『暁』の首を、『影』がつかんだ。
「だからわかっていないというんだ『暁』。俺は一族の長、貴様の夫だ。夜に家を訪問されたら、貴様に拒む権利は無いんだよ」
「ふざけるな、下郎め!」
『影』の拳が『暁』の頬を打った。骨のぶつかる鈍い音がする。
「次は腹だ。子を殺したいか? ん? 俺は構わんぞ。待たずに俺の種を貴様に仕込んでやれるからな」
『影』は、首を絞めながら脚を引っかけ、『暁』を床へ押し倒した。
「このヤロウ!」
『若葉』が『影』に飛び掛るが、片手で殴り飛ばされる。
「坊ちゃん!」
駆け寄った『大樹』を見て『影』が笑う。
「本当にあのクズを拾ったのか。つくづく甘い奴だ。あんな役立たずを抱いて何が楽しい? 貴様の選ぶ妻どもは、どいつもこいつも貧相な出来損ないばかりだ。まったく趣味を疑うよ。好んで血を汚すとは、残念なことだ。本人はこれほどの上玉だというのに」
『影』の舌が腫れ上がった『暁』の頬を舐め上げた。『暁』の背筋に怖気が走る。テラテラと光る唾液が『暁』の顔に跡を残した。
「貴様を抱いてやりたいとずっと思っていたよ『暁』。俺のマラをマンコに突き入れられて、その小生意気な口からアンアン鳴き声が漏れるのをずっと聞きたいと思っていた」
『影』の中指が『暁』の膣に差し込まれ、親指がクリトリスを押しつぶすように円を描く。下の手を押し止めようとすると、首を締め付ける側の手の力が強くなるので、『暁』は自分の首から手を放せない。
「…や…めろ!」
「何故だ? 貴様は妊娠中でも変わらず『黄金』と盛りあっていた淫乱じゃないか。欲しいだろ? もう、『黄金』のチンポは貴様のマンコを慰めてはくれないぞ。貴様に我慢出来るわけがないだろう」
「誰がお前などに…ぐああっ!」
『暁』の言葉は、『影』が歯型がつくほどきつく乳首に噛み付いたことで途切れた。出産を控えて、膨らんで敏感になっている突起から、じわりと乳と血が滲む。
「フン、『黄金』が美味い美味いと喜んでしゃぶりついていたわりには大したことは無いな。よほど貴様の血の方が美味だ」
『影』はグリグリと陰核を爪でえぐった。『暁』の身体がビクビクと震える。
「アッ! アアッ!」
「おうおう、いい声で鳴くじゃないか。気が乗ってきたらしいな。俺の指が濡れて来ているぞ。俺も興奮してきたよ『暁』。そろそろ指より太い物が欲しくなったんじゃないか?」
「黙れっ…グアアッ!」
『暁』は膣の中をガリ、と引っかかれた。脂汗に塗れた下半身が痙攣し、陰唇がヒクヒクと開閉する。
「それみろ、貴様の身体は正直じゃないか。俺のチンポを欲しがっているぞ。俺の指をくわえ込んでうまそうにしゃぶりついている」
『影』は、『暁』の脚を強引に割り開いた。開かれたヴァギナにどす黒いペニスが擦りつけられる。
「確か貴様が成人したときには、長はすでに『黄金』だったらしいな。『黄金』以外の男に抱かれるのは初めてか? それとも、隠れて他の男とヤリ比べたことがあるのか?」
『暁』の顔色は、酸素が足りず、紫に染まってきていた。視界が歪み、霞がかかって星が舞う。『影』は『暁』の耳元に囁いた。
「しっかり感じろ」
ズン、と男根が突き入れられた。腹に伝わる強い衝撃に、『暁』は吐き気を催した。いつものなめらかに膣に吸い付き、優しく押し広げる『黄金』の性器と違って、ごつごつとした異物が体内に侵入してくる。根元まで無理やり差し込まれる度に、子宮が突き上げられ、ざらざらした陰毛が柔らかい肌に刺さり、引っかき、傷をつける。
身体中が、抱く相手を傷つけるために出来ている肉体だった。そして、『影』はそれを楽しんでいる。『影』は自分本位にピストン運動を繰り返し、相手のことなど考えずに体重を乗せてきた。睾丸と胎児が押し潰され、『暁』は悲鳴を上げる。『影』はそれを嬌声と受け取った。もしくは、『影』にとってその二つに違いなど無かったのかもしれない。
『影』は男根の所作には無頓着であったが、首を絞める指先の力の入れ具合には、繊細な加減を心得ていた。ギリギリまで追い詰められた『暁』の脳は、錯乱した信号を送り出す。ビクリと跳ねた身体から、精液が飛んで丸い腹を汚した。弾みのついた粘液は『影』の胸元まで届き、黒い胸毛の中に白い染みをつける。
『暁』の体内にも、『影』の精液が放たれた。望まない男の体液が、自分の体内と子供に絡みつく。『暁』は、いますぐ自分の膣をかきむしって、汚れた表面を引き剥がしたくなった。早くしないと染みこんでしまう!
パニックにおちいってもがく『暁』の首を、『影』は放した。とたんに咳き込み、空気を求めて喘ぐ『暁』を見て、『影』はニヤニヤと笑った。
立ち上がった『影』は、狂人を見る目で見つめる『暁』の一族の者たちを、ゴミを見る目で眺め回した。
ふと、『影』は部屋の中心に面白い玩具を見つける。
「おや、『黄金』殿、満身創痍のわりにチンポは元気じゃないか。どうした? 愛しの『暁』が他の男に犯されるのを見て興奮しちまったのか?」
そう言いながら、『影』は、先走りの滲む『黄金』のペニスをつまんで弾く。貴様も欲しいか? と聞きながら、歯を食いしばって開かない『黄金』の顔に、自分の胸毛に絡み付いていた『暁』の精液を塗りつける。
「物欲しそうな貴様には悪いが、貴様のお楽しみは儀式の晩までお預けだ。我慢しな。安心しろ。貴様には長い間世話になったからな。礼をかねてこのマンコに俺のイチモツをたっぷりぶちこんでやるよ。村の皆の前でな」
『影』はそう言って『黄金』の膣に指を突き入れて乱暴にかき回した。『黄金』は首筋に血管を浮き上がらせて耐えながら言葉を紡いだ。
「…お前に長は務まらんよ『影』…」
「そいつはもう貴様の心配する問題じゃないな。貴様が考えていいのは、このデカマラとキンタマを俺に食われるときに、村の皆へどんな顔を見せて楽しませてやるのか、だけだ」
『影』は、『黄金』のペニスの先を掴み、尿道にズボリと指先を突き入れた。流石の『黄金』も悲鳴を上げて、動かないように固定されていた全身を、引きつらせてもがく。
「お止めください!」
たまらず『雫』が止めに入った。長く『暁』の妻として暮らしてきたために、一族の序列に関しては、はっきりと認識していた『雫』であったが、頭の中ではまだ、『黄金』は『影』より遥かに上位の、優先して敬うべき存在だったのである。無論、医師としての責任感もあるが。
『影』は己の手に触れた『雫』を張り倒した。
「母様!」
『流水』が倒れた『雫』に走り寄る。
「下等な奴隷上がりの分際で許可無く俺に触れるとはどういうつもりだ!」
『雫』は即座に頭を伏せ、謝罪した。
「立場をわきまえぬ無礼をお許しくださいませ。しかし、『黄金』様は全身の傷がまだ塞がっておられない状態、体力も落ちておられ、今その御身体に負担をかけては、命も危のうございます」
『影』は『雫』を見下ろした。
「フン、一人はまだマシな口の利き方を知っている奴もいたか。おい『暁』よ、貴様も少しくらいは妻を見習ったほうがいいんじゃないのか? こいつが一番知恵が回るようだぞ」
『影』はそう言うと、『雫』にしがみついていた『流水』を引き剥がし、掴みあげた。『流水』は悲鳴を上げて首をすくませる。
「『暁』の息子、『流水』か。青の医師の血筋も悪くないかも知れんな。おい『暁』、お前の息子の初潮が来たら、処女は俺がもらってやろう。ありがたく思え」
『影』は『流水』を放り投げた。そして今までついぞ聞いたことの無い高らかな笑いを上げながら、外へ向かう。途中、自分のべたつくペニスを手のひらでぬぐった『影』は、その汚れを扉になすりつけていった。
しばらく重い沈黙が、場を支配した後、『流水』がグズグズと泣きはじめた。抱きしめる母の胸に顔を埋め、少年は叫んだ。ごめんなさい、と。『暁』は驚いた。
「…何故お前が謝る『流水』」
「僕が悪いんだ。僕が長様の傷をちゃんと手当て出来なかったから…」
「馬鹿なことを言うな『流水』…お前は私にも出来ないことを立派にやってのけたではないか」
「でも、でも…」
見かねた『若葉』が口を挟んだ。
「お前は悪くねぇよ『流水』。悪いのはお前じゃねぇ。お前の親父と、このオッサンだ」
「坊ちゃん、何を…」
「自分の決断と敗北に責任を取るんだろ!」
『若葉』は『暁』と『黄金』に向かって叫んだ。
「あんたら、オレの親父を殺した時に言ったじゃないか! 親父のチンチンちょん切ったときに言ったじゃないか! 自分の判断の甘さを、自分と子供の血で償えって! 同じことじゃないか! あんたら負けたんだよ。考えが甘かったせいで黒い陰険な下種野郎に負けたんだ! おかげで必死に頑張ってた『流水』が…何も悪くない他の皆が…悲惨な目にあってるんじゃないか! あんたらのせいだ!」
『暁』は何も言い返せなかった。仲間の死をその目で見てきた少年から返された『暁』自身の言葉は、間違いなく真実だったからだ。
「その通りだ、『若葉』よ」
『暁』の声は、静かだった。
「我らは負けた。すまない」
その時、横たわる『黄金』が口を開いた。
「そうと決まったわけではないぞ『暁』」
皆が台の上に安置された『黄金』を見つめる。
「『暁』の妻『雫』よ、お前に聞きたい。あの堕胎の薬を健康な者が使って子を流したとき、動けるようになるまでにどの程度かかるか?」
「…完全に元の体調というには一月は必要かと思いますが…動くだけならば四日程で」
それを聞いた『黄金』は弱々しく笑った。
「充分に間に合うではないか『暁』。あの薬を飲むのだ。そして、身を隠すがよい」
「なにをおっしゃいますか。私が子を流すことに何の意味があるのです」
「わかりきったことよ。お主は『影』より強いではないか。その腹に余計な重みがないならば、『影』ごときに遅れは取らぬ。今『影』は私を完全に始末することに気を取られている。まさかお主が腹の子を堕ろして、すぐに挑んでくるとは思うまい。子が産まれるまでには数ヶ月の余裕があると思って、『影』は油断している。お主はその間に体調を回復させ、『影』が私から長の座を奪った後に、今度はお主が長となればよいのだ『暁』。たとえその腹で直系の子供を産めずとも、お主が父となりて産ませる子達は、皆お主の一族だ。お主は若い。まだまだこれから強くなる。この村にも長く確かな繁栄が訪れよう」
「…それでは、この子はどうなりますか。私とあなたの間の子は!」
「このままであれば、お主が『大樹』と同じことになるのは目に見えておる。私の子など、一族を乗っ取ろうとしている『影』にとって邪魔以外の何者でもない。奴はどの道我らの子を殺すだろう」
『暁』の体が震え始めた。『黄金』が本気で言っていることが理解できてきたからだ。
「私が母として子を成せなくなれば、もはやあなたとの間に子を持つことは出来なくなるのですよ…それでもあなたは私たちの息子を殺せと言うのですか」
「『暁』よ、この黄金の一族はみな私の血に連なる者。お主が父として子を孕ませれば、それは皆私とお主の子だ」
「…嫌です…」
「『暁』」
「お断りします!」
『暁』は裏口から外へ飛び出した。大声で叫びながら走り去りたかったが、飛び出した段階で気力が尽きた。ガクガクと足が萎えその場にへたり込む。自分の子を諦めろと言われた! 二人の子を殺せと言われた! 『暁』は自分の腹を両手で抱えた。諦められるはずがない。殺せるはずが無い! 今ここに生きているというのに。
こんなときに限って子からの反応は何も無かった。いつも何かを主張するかのように腹を内側から蹴る足が、今はまったく動いてくれない。
ボロボロと涙がこぼれた。子が生まれるのを何より楽しみにしていたのは『黄金』ではなかったのか! 私に言った言葉はすべて嘘であったというのか!
怒りと憎しみが、心の奥底から溢れかえった。かみ締めた唇が破れて再び口の中に血の味が広がる。
その時、こちらへ近づいてくる足音がした。
「兄上? こんなところで何を…」
『暁』は顔を上げた。『夕暮』がそこに立っていた。『暁』の顔を見た弟がぎょっとした顔を見せ、泣いていたのがばれたかと顔を擦ると、頬に激痛が走った。忘れていたが、どうやら殴られた場所が腫れているらしい。
「その顔はいったい…」
「ちょっと、な…」
「…まさか『影』殿でございますか?」
返事は返さなかったが、よく考えれば誤魔化す意味もない。『暁』の顔を殴り飛ばせる人物など、今他にいるわけがないのだ。『夕暮』の目が全身を探るのを感じて、無意識のうちに『暁』は自分の股間を手で隠していた。もう片方の手で噛みつかれた乳首か絞められた首か…とさまよい、結局隠すのはやめた。無駄だし無意味だ。
「悔しいものよな」
『暁』はふと洩らすように呟いた。
「頭では理解していても、心がそれを拒むのだ。我らが偉大なる『黄金』の時代が終わったことを認めたくないのだな」
そう、終わったのだ。例え、傷が治っても、『黄金』は二度と先頭に立って戦うことはできない。『影』が大人しく分をわきまえていたところで、『黄金』が長としての役目を果たせなくなってしまった現実は変わらない。
『黄金』の栄光に泥を塗ってしまった。それが『暁』の胸に大きな悔いを残した。『黄金』の統治は、もっと永く、栄えある年月の果てに、より誇り高き終焉を迎えるはずだったものを、このような形で途中で途絶えさせてしまった。
「…申し訳ございません…」
『夕暮』の声に『暁』は顔を上げた。
「私のせいで…長殿が…」
ボロボロと子供のように泣き崩れる『夕暮』を見て、『暁』は驚いた。あの生意気で頑固な弟までが、『流水』と同じようなことを言って許しを乞うている。
「お許し下さい…お許しを…」
『暁』はそっと弟の手を取った。
「お前のせいではない、『夕暮』。我ら皆、持てる力を最善に尽くして戦ったのだ。我らの力が及ばなかったことをお前一人の咎として背負うことはない」
「違うのです。…私の罪はもっと深いのです」
「…どういうことだ」
「水に毒を盛ったのは私です。私が…この村を…自らの同胞を敵に差し出したのです」
それを聞いた『暁』は目を閉じた。本音を言えば聞きたくなかった言葉だ。しかし、一度紡がれてしまった以上、聞き流すわけにはいかない。
「…そうかもしれん、とは思っていた」
そっと弟の手を握る。震えているのは弟なのか、それとも自分自身なのか、『暁』にはわからなかった。
「だが信じたくなかった。私には…理由がわからない…何故だ?」
『夕暮』は手を引こうとしたが、『暁』は許さなかった。
「私は…兄上を…あなたを殺そうとしたのです」
『暁』の喉に、苦いものがこみ上げる。もはや目を合わせようとしない『夕暮』を見つめながら、『暁』はギリ、と唇をかみ締めた。
「私は…嫉妬の心に負けたのです。同じ顔、同じ身体を持っていながら、あなたには無限の愛と約束された未来があり、私には何も無い。これから輝きを増す暁と違って、夕暮は、消えいくしかない存在なのです。何もかも持っているあなたが羨ましかった、妬ましかった。そんな私に悪魔が囁いたのです。成り代わってしまえと。『黄金』殿は兄上ばかりに寵愛をむけられ、他の者には目もくれないが、兄上さえ消えてしまえば、我々にもチャンスはある。ことに最愛の妻を亡くした失意の長殿なら、兄と顔の似た私に直々に子を賜る栄誉さえも与えてくださるかも知れぬ、と。私はその幻に取り付かれました。そしてその浅はかな欲望で取り返しのつかないことをしてしまったのです」
小さな手のひらの記憶が『暁』をかすめた。幼き頃、自分の行こうとするところどこにでも付いてこようとしていた小さな弟の少し体温の高い、手。少しでも遅れると泣いて騒ぐので、しかたなくどこへ行くにも手をつないで歩調を合わせた記憶の断片。
今、その手は大きく逞しく、『暁』と同じほどの大きさになったが、冷え切った手からあの暖かさは感じない。いつの間にこの手はこんなに冷えてしまったのだろうか。ずっとそばにいたのに。手を繋がなくなったのは、もう自分の足でついてこれるようになったと思ったからだったはずなのに。
振り返れば、弟の歩んだ道は、決定的なところで曲がってしまっていた。
「私は赤の軍勢の攻撃に乗じて兄上を殺し、下手人の正体を誤魔化すつもりでおりました。…私は確かにあなたの飲む水に毒を入れたのです。それでもあなたは倒れなかった。あせる私の前で、兄上は身重にもかかわらず、果敢に指揮を取って戦われました。付け入る隙がなかった。…いえ、私には、正面からあなたに挑む度胸がなかった。だから私は…私は…、兄上が森へはいったのを見て、ほっとしたのです。これで自分の手を汚さずともあなたを始末できると」
『夕暮』は息をつまらせた。
「だから私は追わなかった。自分で企んだ陰謀すら完遂せず、結果このような事態を招いたのです…私は…卑怯者です」
「…愚か者め…」
『暁』もまた、『夕暮』の身体を抱きしめて泣いた。自分とそっくりな、双子のような顔をした弟を抱いて、涙をこぼした。
「お前はずっと…私の自慢の弟であったのに…私の大事な家族であったのに…」
なんと言葉をかければよいのか『暁』にはわからなかった。
「…私が気に入らないのであれば、直接私に挑めばよかったのだ! そうであれば例えお前の力及ばずとも、私一人の裁量で面倒を見ることが出来た。私を越えるまで何度でもチャンスをやることが出来たのだ。いくら私が憎いとて、他の無関係の者まで巻き込んでどうする!」
「…私は…兄上が憎かったのではないのです…ただただ、あなたが眩しく、羨ましかった…私は光に目がくらみ、畜生の道に身を落としたのです…お許しください…どうか…お許しを…」
『暁』は泣きながら首を振るしかなかった。
「例え私個人を狙ったにせよ、お前が殺し、傷つけたのは、私自身ではないのだ…私が代わりに許しを与えることなど出来るはずもない…我らは共に、もはや子供ではない。自らの行いに責任を取らぬわけには行くまい」
『暁』は、震える手で『夕暮』の顔を掴んだ。
「愛していたのだ、お前を…」
そして、『暁』は青ざめた弟の唇にキスをした。唇を噛み破ったのか血の味がしたが、どちらがそうなのかも、もうわからない。
「去れ、『夕暮』。この村を出て二度と戻るな…」
「兄上…」
「ここにはもはや、お前の居場所はない。わかるな?」
『夕暮』はゆっくりと、しかしはっきりと頷いた。『暁』がくしゃりと弟の髪を撫でる。『夕暮』は憑き物が落ちたような顔をして、静かに『暁』の足元へ跪くと、そのつま先に口付けを落とした。それから、薄暗い黄昏の奥へと姿を消した。
『暁』は、弟の消えた方角を見つめながら、先ほどから物陰で様子を伺っていた人物に声をかけた。
「待たせたな『大樹』」
名を呼ばれて巨体がビクリと震える。
顔をぬぐいながら振り返った『暁』に、しどろもどろになりながら青年は言い訳をした。
「…その…立ち聞きするつもりはなくて…『雫』様が…『暁』様の傷の手当をしたいから呼んでくるようにって…その…」
「構わぬ。醜態を見せたな。すぐに戻ろう」
足早に戻ろうとした『暁』を若者が呼び止めた。振り向いた『暁』の前で、大柄な若者は口をパクパクとさせながら立ちすくむ。
どうやら上手く言いたい言葉を捜しているが、出てこないようだった。
「どうした?」
うながす主人の声に、若者は思い切ったように口を開いた。
「赤ちゃんは産んであげてください」
目を丸くした『暁』の見つめる中で、『大樹』は再び口ごもる。なんら意味のない音の羅列が続いたが、しかし、若者の巨大な手が、彼の下腹の前で、醜い傷跡の上で硬く握り締められているのを見れば、その意思はハッキリと伝わってきた。
「ちゃんと元気な赤ちゃん産まないとダメです。オレはダメだったけど、『暁』様は、産まないとダメです。みんな大変だけど…諦めちゃダメです」
若者はもどかしげにどもっていたが、『暁』は再び涙が零れ落ちそうになるのをこらえながら若者を抱き寄せた。とはいっても若干彼のほうが背が高いので、『暁』のほうが肩に顔を埋める格好になってしまったが。
「ありがとう『大樹』」
自分は誰かにそう言ってもらいたかったのだと、『暁』は思った。『黄金』の言葉で、皆が赤子の死を望んでいると感じてしまっていた。だから、自分が『大樹』の一言に救われたことが、はっきりとわかった。
家の中に戻りながら、『暁』は口の中で声を出さずにつぶやいた。
(私の家族を守らなくては)
若者の腰に回した手に力をこめる。
(私が家族を守らなくては)
誰にも聞こえなかったはずの言葉に答えるように、腹の奥からドン、と足の蹴る振動が届いた。
−
つづく
-
投稿:2011.04.10
黄金の太陽−4(仮)
著者 自称清純派 様 / アクセス 7228 / ♥ 4