ふと辺りを見回すと鬱蒼とした森を既に抜け出ていた。目の前に現れたのは西洋風の巨大な城郭、世界遺産に指定されてもおかしくないような堂々たる構造物だった。この21世紀には全く現実味のない古色蒼然とした石造りの構造物に向かって足を引きずるように近づいていくと、ロココ調の複雑な装飾に飾られた門が音もなく開いた。
「何者だ。」
ライフルを手にした衛兵が二人姿を現した。
「道に迷ってしまって、もう何日も飲まず食わずで森を彷徨っていたんです。」
「何をしようとしていたのだ。」
「食べ物を恵んでいただこうかと・・・」
別の兵士が来て羽交い絞めにされると即座に手錠を填められたうえに腰縄を巻かれ城壁内の一室に連れていかれた。そこで着ている物を全て剥ぎ取られた。下着を剥がされたところで兵士は私の股間を見て一瞬躊躇した。
「何だこれは。おかしなものがつけていやがって。まあいい、不審なものも持っていないようだし。取り調べをするからリーダーが来るまでおとなしく待っていろ。」
兵士たちは腰縄の一端を窓の柱に結びつけ部屋を出て行った。彼らは中肉中背で鍛えられた様子が伺えたものの、肩幅は狭く臀部もふっくらとしていた。それに、異様に声が甲高く兵士たちはひょっとしたら女なのではないかと思った。
壁に寄りかかっていると、疲労と空腹で意識が遠のいていった。
***
私はうんざりしていた。一人息子なんだから早く結婚して安心させろ、と両親は会うたびにしつこく迫られた。何で自分が妻と子供と年老いた両親を支えていかなきゃならないんだ、男だからか。自分の人生ぐらい好きにさせてくれ。
職場にも馴染めなかった。男だらけの職場で、会社と自分の業績を上げ出世をするんだという意識で満ちていた。傍から見れば活気のある職場かもしれないが、同僚と一緒に男らしさを演じることに疲れていた。
だからといって、性転換して女になろうとか、女性として暮してみようとかいう勇気もなかった。そもそも、男に抱かれたいなどと思ったこともなかった。女に生まれればこんなに苦労しなくてもよかったのに、と漠然と考えているだけだった。
町を歩く女性たちが眩しかった。性的に魅かれているのか、自分もそうなりたいと憧れているのか、どちらか良くわからなかったが、脂ぎった男たちと一緒にいるより女性に囲まれているほうが居心地がよかった。
今日もいつものとおり終業のチャイムが鳴ると逃げるように職場から飛び出していった。でも、急いで行くところもなければ家に帰っても何をするあてもなかった。ただ、男だらけの職場から逃れてほっとし、放心状態で町を歩いていた。
ふと気がつくと、自分の周りには女性しかいなかった。年配の母親のような人から高校生らしき若い女性まで、前も後も左右を見渡しても女性だけだった。いつも大勢のサラリーマンにもみくちゃにされながら駅に向かっているのに不思議だったが、女性に囲まれていることで気持ちは落ち着いてきた。
繁華街を駅に向かって歩いていたはずなのに、徐々に周囲はうら寂しい古い住宅街に変わっていた。見たこともない光景だった。人数は少し減ったような気がするが相変らず一緒に歩いているのは女性だけだった。そして徐々に住宅が減り空き地が増えてくると、周りの女性たちも徐々に減ってきた。
いつの間にか人家が途切れ荒涼とした風景が広がっていた。一緒歩いている女性は一人になっていた。若い美しい女性だった。目があった。微笑をかえしてくれた。こんな妙齢の女性がなんでこんな人気の全くない原野にいるのか不思議だった。
急にあたりが薄暗くなったような気がした。いつの間にか鬱蒼とした森に彷徨いこんでいた。
「道を間違えてしまったようですね。」と、女性に声をかけた。
返事がなかった。足を止めてまわりを見渡したが女性はいなかった。
どこを歩いてきたんだろうか。家に向かっていたはずなのに。前後左右どこを見回しても森の途切れ目はなかった。ただひたすらに鬱蒼とした濃い緑が続いているだけだった。下草に覆われた獣道をひたすら歩き続けた。
たしか職場を出たのは夕方だった。それからずいぶん歩いたはずなのに日が暮れる様子も無かった。でも燦燦とした日光が木の葉の間から差し込んでくることもなかった。ただぼんやりと薄明るい状態が続いていた。空腹と疲労は極限に達し時間の観念もなくなっていた。自分が生きているのか死んでいるのかすらわからなかった。
***
「お前か、混沌の森から抜け出てきた男は。」
夢うつつの中にいた私は、突然甲高い大声で目が覚めた。
部屋に入って来ていたのは30代と思しきロングヘアーでスーツに身を包んだ女性だった。
「私が第三師団のリーダー。何を求めて我が国に来んだ?」
「いえ、森で道に迷ってしまったんです。もう二日間も飲まず食わずで、少しでいいですから食べるものを恵んでください。お願いします。」
美しい女性だったが、口調は女性とは思えないものだった。
「お前は私たちの国を求めてやってきた。誘導員たちの連絡ではそうだった。」
「そんな、こんな場所があるとはわかりませんでした。」
「我々は、お前の心の底を読み取っているんだ。」
「・・・」
「でも、おまえのように股間に余計な物がぶら下げている人間は我が国に一歩なりとも立ち入ってはならないのだ。まして我が国の生産物を恵んでくれなどと・・・ 」
「いえ、これ以上中に入れていただくなくても結構です。でもこれ以上歩けないんで、何か食べるものを・・・」
「しょうがない。望みを叶えるかわりにお前の余分なものを切除する。」
彼女は私の前に近寄るといきなり左手で陰茎をわしづかみにした。右手でスカートをめくり太ももにベルトで装着していた軍用の大形ナイフを取り出すと私の股間に切っ先を当てた。
「いったい、何をするんだ・・・」
彼女は私の目をにらみつけると無言でナイフに力を入れた。一瞬の間に陰茎は私の体から離れ、股間から血が噴出した。
「手当て!」彼女が扉に向かって大声を出すと、先ほどの兵士が部屋に駆け込んできた。尿道に棒状のものを挿入すると、即座に熱した油を切断面に塗布した。あまりの激痛に失神した。しかし、痛みに耐え切れずすぐに目を覚ました。兵士は私の口にボロ布を押し込むと木の寝台に仰向けに固定され部屋に放置された。
部屋の中は昼夜があった。日が暮れそして夜が明けることが4回繰り返された。五日目、リーダーと言っていたスーツの女性が部屋に入ってきた。無言で私に近寄ると股間の棒を抜き取った。尿が噴出した。彼女が傷口を荒々しく拭くと手に持っていた物を床に投げ出した。寝台に括られていた縄や手錠を外しながら床に投げ出された物を見やった。
「早く服を着ろ」
全部女性用だった。下着は真新しかったが何の変哲もない白い綿のショーツにブラジャーだった。白いブラウスと濃紺のスカートは、制服のようだったが着古されたもので、ブラウスには染みがあったりスカートのヒダが取れかけているところもあった。
「こんなお古を・・・」
いきなり拳が飛んできた。女性とは思えないような力だった。
「生意気をいうんじゃない、新入りのくせに。」
あわてて服を着た。
「おまえ、やっぱりそうか。男のくせにブラジャーの着け方知ってるんだからな。」
また、殴られた。確かに家で密かに女装していたことは事実だ。しかし、久しぶりの女装だった。それに女性に見られながら女装するのは始めてだった。気持ちが高ぶってきた。しかし、刺激を与えるべきモノは既になかった。
いきなり、彼女にスカートをめくられショーツを下された。切断面からカウパー腺液が溢れ出していた。
「股間から何をたらしていやがるんだ。」
また殴られた。
塩味がついただけのお粥を食べさせてもらい、城郭の内部に連れて行かれた。城郭は兵舎のようだったが、兵士は全員若い女性だった。城郭の外へ出ると明るい町が広がっていた。町を歩く人々、働いている人々、寛いでいる人々、すべて女性だった。女だけの世界に紛れ込んだようだった。学校のような建物に連れていかれた。女子生徒として扱ってくれるのかと思ったが期待は裏切られた。女子生徒は胸に刺繍のある小ぎれいなブラウスに赤のタータンチェックのプリーツスカートに白のハイソックスを履いていた。私のように裸足で白のブラウスに紺の無地のプリーツスカートというような生徒はいなかった。生徒にはいなかったがバケツとモップをもって廊下の掃除をしている女性は私と同じ格好だった。
「新入りを連れてきたよ、トイレ掃除でもさせてやってくれ。」
年配の意地悪そうな女性が掃除道具一式を入れたバケツを私によこした。
「あんたの持分は3階だよ。さあ早く行け。」
トイレは勿論女性用しかなかった。女性しかいないせいか、入り口には小さな扉がついていたが、個室の扉はなく仕切りも低かった。便器にしゃがんでいるときは隣は見えないが、立っていれば両隣の個室内は丸見えだった。生徒達は用を足しながら他の個室にいる生徒や個室の外にいる生徒と平気でおしゃべりをしていた。個室から外に出てから、スカートをめくりショーツを直している生徒もいた。
陰茎を切断された上に掃除婦の格好をしているとはいえ、男の自分がトイレに入るのは躊躇われた。
いきなり可愛らしい顔の女生徒にいきな罵声を浴びせられた。
「なにやってんだよ、クソババア。昨日からトイレが臭くてやってられねえんだよ。早く働けよ。」
意を決してトイレに入った。用を足しながら後の個室とおしゃべりをしていた生徒がしゃがんだままいきなり私に向かって声をかけてきた。
「おばさん、おしっここぼしちゃった。洗っといて。」
彼女は股間をトイレットペーパーで拭いているところだった。もちろん丸見えだ。おしゃべりに夢中でつい体を後に向けたおかげで、小便が便器に入らず床に流してしまったようだ。
バケツと雑巾でもって外に流れ出てきた尿を拭き始めた。拭いているうちに隣の個室にも生徒が入ってきた。スカートをめくりショーツをおろし、放尿しているところが丸見えだった。
耐えられなかった。
掃除を終え外に出ても、目のやりどころがなかった。掃除婦に気をつかう生徒はいなかった。足を開いて窓枠に腰を掛けたり、友達同士でスカートをめくりあったり、窓を開けっぱなしの教室で平然と着替えもしていた。水泳の時間の前後には、ブラジャーやショーツもとって全裸になっている生徒もいた。平常心でいるのは限界だった。切断して無いはずの手足が痛んだり痒くなったりするという「幻肢痛」と同じだった。切断してないはずの陰茎が激しく硬直していた。そして刺激を求めていた。しかし、股間に手をやっても刺激するモノはなかった。
トイレから戻り廊下を歩いていると、教室では着替えの最中だった。生徒達は半裸でふざけあっていた。存在しない陰茎が激しく刺激を求めた。耐え切れずに自分のスカートをめくりショーツの中に手を入れ切断面を擦った。感じなかった。更に激しく存在しない陰茎は刺激を求め続けた。でも刺激できなかった。気が狂いそうだった。廊下でモップに身を預け身悶えた。ついに切断面から精液があふれ出してしまった。ショーツから染み出した白濁した液体が廊下に滴り落ちた。
廊下で朦朧とした状態で立ち尽くしていると、生徒たちが私の周りに集まり始めた。
「このおばさん、立ったまま寝てるの?」
「スカートの中からなんかたれてるよ。」
「洩らしてんじゃないの。」
「白いおしっこなんて変じゃない?」
「くさーい、変なにおいがする。」
教師が気がついたようだ。生徒達を追い払うと私は外に連れ出された。暫くしてあのリーダーがやってきた。今度は2発殴られた。リーダーは教師に詫びをいれると私を兵舎に連れ帰った。
「お前、女になりたかったんじゃないのか。生徒の股間を見て発情しやがって。何考えてるんだ。」
また、殴られた。
学校は首になり、公園の管理事務所に連れて行かれた。
ここでも年配の女性が私をにらみつけて言った。
「しばらくトイレの掃除してなかったんだ、頼むよ。」
公園のトイレはもっとオープンだった。個室の扉も仕切りも無かった。まるで中国の公衆トイレのように穴が並んでいるだけだった。OL風の若い女性もスカートをめくりショーツをおろして用をたしながら隣でしゃがんでいる女性や前で待っている女性と雑談していた。無論股間は丸見えだった。
中ほどの便器を私が掃除をしている最中、隣の穴にまたがった女性は生理中だった。スカートをめくりショーツを下したあと膣からタンポンを取り出していた。放尿ののちバッグから新しいタンポンを取り出すと、私の目の前で挿入を始めた。
存在しない陰茎が刺激を求めていた。私のショーツの中の切断面からカウパー腺があふれ出し太ももまで伝わってきた。慌てて掃除道具をまとめて外にでようとしたが、タンポンを挿入中の女装は私のほうに顔を向けて小さな喘ぎ声まで出したのだった。存在しない陰茎は更に激しく刺激を求め、私は足はもつれて外にでることができなかった。タンポンを挿入中の彼女の目の前の壁に、私は体を預けると激しく痙攣しショーツの中の切断面から白濁した粘液が溢れ出してきた。粘液は太ももを伝わり床にたれた。
タンポンを挿入し終わった彼女は私の様子に気がついた。
「あんた何やってんの?」
「・・・」
「ちょっと見せてごらん。」
私のスカートが捲り上げられ、ショーツを下された。
「あんたひょっとして男?」
彼女の通報で管理人が飛んできた。あのリーダーも駆けつけてきた。
「また発情しやがったのか、この変態。」
リーダーは繰り返し私を殴った。
公民館のトイレ掃除もさせられた。次は駅だった。デパートにも行かせられた。
どこも、女しかいなかった。施設長も担当の管理職も女だ。客も従業員もすべて女だった。
女しかいないから、行動はアケスケだった。スカートをめくって用を足すのを見られても恥ずかしいと感じる人はいなかった。着替えもちょっとした部屋の陰で平然としていた。暑い日は下着もつけていない股間を平然と団扇で扇いでいた。
そんな光景を見るたびに興奮した。そしてスカートの中から地面に白濁した粘液を垂らした。そのたびにリーダーが飛んできて殴った。「そんなんで女になれるか。」
私はリーダーに泣いて頼んだ。
「玉も取ってください。玉をとりさえすればこんなことには・・・」
「ばかめ、これはお前がほんとに女になりたいのかどうかの試していたんだ。ほんとに女になりたいんだったら玉の有無なんて関係ないはずだ。お前は単なるエロ親父だ。女の服を身につけて興奮している変態だ。」
女兵士に抱えられて城郭の入り口から外に放りだされた。目の前にはあの鬱蒼とした森が広がっていた。
とぼとぼと森の中の獣道を歩いていった。ブラウスはしみだらけ、ヒダの取れかかった紺のプリーツスカートには乾いた精液がこびりついていた。髪はぼさぼさで素足にサンダル、どれだけ歩き続けたかわからない。突然森から抜けだしたと思ったら町の中だった。
町を歩く人たちは男も女も、老人も子供も私を避けていった。
「何あの人、変態? 頭おかしいんじゃないの」
「オカマのホームレスだ。」
「きたねえ、そばによるな。」
こんな世界じゃ生きていけない。掃除婦でもいい、殴られてもいい、女性だけの世界に戻りたい。
でもこのままでは戻れない。玉をとらないとまた女に欲情して射精してしまう。どうやって取ればいいんだ。自分の家がどこだったかも分らなくなってしまった。お金など1円も持っていなかった。病院で切除するどころか、切るための鋏もナイフも手に入れることができなかった。
河原に行った。さすがに夕暮れの河原に人気はなかった。ショーツを脱ぎ大きめの石を股間に抱えて座った。スカートをめくり醜くぶら下がっている陰嚢を石に載せた。鋭い割れ目のある手頃な大きさの石を右手に持ち陰嚢の根元に打ち付けた。何度も何度もうちつけた。激痛が走った。時折手元が狂い睾丸をもろに打ち付けた。痛みに一瞬気を失ったが、意識を取りもどすとまた打ち付けた。股間とスカートと石が血まみれになったところで潰れた睾丸が入った陰嚢が体からはなれていった。
木の棒を杖代わりにようやく立ち上がると足元に血を流しながら、一歩一歩前に進んだ。「あの深い森にまでたどりつけば。」
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投稿:2011.08.31
深い森の記憶
著者 とも 様 / アクセス 9109 / ♥ 1