「ユージ起きなさい。今日はあなたの○歳の誕生日。王様にお目通りして勇者として歩み始める大切な日だったでしょう。」
うーん、まだ重いまぶたをこすりながら母さんの声を聞く。
「あなたのお父さんは勇者になろうとしたけれど、旅の途中で手が折れ、足がよろけて火山の火口に落ちて死んでしまったけれど、あなたは立派な勇者になれるように育ててきたつもりです。さあ、起きて支度をして!」
母さんの言うとおり、僕は勇者になるべく小さいときから修行を積み重ねてきた。それが認められ、今日はこれから王様のところへ行って勇者見習いとして認めてもらえることになっている。
身なりを整え、軽い朝食をとってから王宮へ向かう。
「行ってきます、母さん。」
「−−−−こんなに素敵になって−−−−この日まで可愛い彼女ひとりとしていなかったのが不思議だし残念ね。」
「何いってんだよ、修行がいそがしくてそれどころじゃなかったよw 勇者になったら女なんてよりどりみどりだよw」
修行は忙しかったが性欲は溜まるから、弱小モンスターブループリンのプルプルの身体にペニスを押し込んで解消していたのは内緒だ。
「−−−−そうね。」
「じゃあ、いってくるよ。」
「いってらっしゃい。」
王宮への道のりは歩いて30分ぐらい、目に映るなにもかもが今日の僕を祝福してくれている、そんな風に思えた。
受付の役人に用件を伝えて、王様へのお目通りの時をまった。
これからどんな冒険が待ち受けているのか、興奮を抑えきれない気持ちだった。
はやる気持ちもありとても長い時間待たされたように思えたがようやくお呼びがかかった。
儀礼的な挨拶を失礼がないように無事済ませいよいよ本題が始まる。
「ユージよ、そなたの評判はこの王宮にも聞こえている。
この世界は魔物が跋扈し闇に覆われようとしている。
勇者としてこの世界を守りたいというそなたの願い、確かに聞き届けた。
国としても最大限の協力を約束しよう。」
そういうと、勇者見習いに贈られるものの目録が事務官から読み上げられた。
金5万コールド、兵士に与えられるものよりも上等な武具防具、勇者に相応しい肉体強化の儀式、王様の名の下に旅の仲間を募集できることなどなど……夢のような待遇だ。
王様にお礼を言って退席すると、それから儀式をうけることになった。
地下の儀式場では大勢の神官達が人の形のくぼみがある台を取り囲んでいて、僕はそこへ通された。
儀式では身体が作り替えられるような感覚と激痛があるから、無意識に暴れたりしないようにそのくぼみに鎖で完全に固定されると説明され、僕はだまって頷き、されるがまま身動きが全く取れない状態になった。どうやら鎖だけではなく神官の力で身体が動かせないようにされているみたいだ。
勇者の身体は普通の人間とは違う。見た目は変わらないが、力、すばやさ、賢さ、体力、魔力、回復力が明らかに違う。
なぜなのか、僕はその秘密を知ることになる。
儀式とは、勇者見習いの身体を本当に作り替えて魔物を討伐する兵器をつくるものだった。その結果、人間でも魔物でもないが、そのどちらとも近い存在へと変わっていく。
それから博愛の儀がはじまった。
勇者は全ての人々のためにあるので、特定の人だけを好きになっていては、その役割を果たすのに支障がでてしまう。そのために何をするのか僕はその瞬間まで知らなかった。
鋭利な刃物を手にした神官が、身動きできない僕の服をすべて切り割いて剥がしていく。
呪文を唱えながら、露わになった僕の下半身にその刃物を奔らせ、ものの数秒で僕のペニスと睾丸が身体から切り離された。特定の人だけを愛せないようにする方法とはつまり去勢であった。
去勢をされても僕は落ち着いていた。なぜなら回復呪文を使えばいつでも元通り回復できるからだ。
案の定、神官達は傷口に向かって回復呪文をかけて治療をしている。かと思えば、なぜか即死呪文を同じ場所に向かってかけていた。
最後の仕上げに完全回復呪文が惜しげ無く僕の股間にかけられたが、ペニスと睾丸はまったく回復することはなかった。回復と即死を同時に行うことで、回復呪文でどこまで身体を修復すればいいのか、元々の身体の状態を分からなくして回復不能にする秘術だった。
博愛の儀など呼んでいるが、これは社会にとって安全装置である。つまり、もし勇者が旅の行く先々でその体質を受け継いだ子供をもった場合、やがて成長し団結したとき、人間の世界のバランスがおかしくなってしまう。
そして人間にも魔物にも近い存在の勇者は魔物とも子供をなす事ができてしまうのだった。勇者体質を兼ね備えた魔物の襲撃など考えるだけでも恐ろしいから避けなければならなかったのだ。
あとはどこで討ち死にするかもしれない勇者を見分けるために、すべての陰毛の毛根に即死呪文がかけられ永久脱毛され、勇者ユージと焼き印がされた。
僕は勇者見習いになると同時に、男としての機能を失わされたのだった。
こうして少しだけ軽くなった身体を王様から受け取った防具にしまって、世界のため僕は旅立っていく。
(終わり)
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投稿:2012.03.30
勇者の旅立ち
著者 珍己禁若囚 様 / アクセス 10451 / ♥ 0