「序」
ボクはリョウタ。一年間祖父母の住む小さな島にホームステイという形で引っ越してきました。これは、ボクの島での忘れられない体験です。
「変わった女の子」
祖父母の家に引っ越してきて三日後、ボクは島でひとつしかない小学校の五年に編入しました。全学年で70人くらい。5年生は15人という小さな学校です。編入からしばらくは都会からきたヤツとして珍しがられたけど、同じクラスにはボクと同じホームステイできているヒロシという子がいて、すぐに友達になりました。
新しい学校に慣れて、クラスにも打ち解けた頃だった。ボクのクラスにミチコという女の子が少し妙だということに気がつきました。
ミチコは大人しい。だけど、いつもポツンと一人でいることが多い。しかし、誰もミチコのことを嫌っているわけでも、いじめているわけでもない。でも、なぜか彼女だけ浮いているのだ。男子とはあまりしゃべらないし、女子のグループにも入ろうとしない・・・。
そんなミチコが気になってボクはヒロシと彼女に声をかけてみました。
「ねえ、もしかしてキミも編入生?」
「ううん・・・。」
「何でいつも一人でいるの?」
「ちょっと・・・。」
そんな会話ばかりで、彼女のことはよくわからなかった。
しかし、ボク達が話しかけるときに見せるミチコの笑顔は、目だけはとても悲しそうだったことを覚えています。
そんなミチコのことをボク達だけじゃなく、クラスの男子も女子も早く打ち解けたいと言っていました。だけど、彼女を気にしてか、誰も彼女のこれまでのことをボク達には話してくれませんでした。それに、ある日校舎の裏で泣いているミチコに担任の先生が
「もう、過ぎたことはどうしようもないんだから、早く気持ちを切り替えてみんなと打ち解けなさい。」
とい言っていたことが、とても気になりました。
「岬」
島に来て1ヶ月、ボクはヒロシとよく島の中を探検しました。あるときは小川に沿って上流を目指したり、あるときは石切り場のあとを見に行ったり、そんな中、ひとつとても気になるところを発見しました。
それは島の北側の端にある小高い丘のようになって海に突き出している岬です。その岬は先端まで林のようになっているようでした。
ある日、ボクはヒロシとその岬の先端に行ってみようと二人で出かけてみました。
しかし、岬に通じる林の入り口で道は終わっており、道の先端には祠がありました。祠の裏には柵があり、しかも、柵の前の看板には「これより男子の立ち入りを禁ず」とだけ書かれていました。
それでも柵より先が気になってヒロシと一緒に中を眺めていたら通りかかった男の人に呼び止められました。
「看板が見えないのか!俺たち男は入っちゃいけないんだ。さっさと帰れ!」
何も悪いことをしたわけでもないのに怒られたことが納得できなかったけど、その男の人がいつまでもボク達の事を見ているのでその日は帰ることにしました。
その日の夜、岬の林のことを祖父母に話してみると、
「もう、二度と近づくじゃないぞ。あそこだけは入ってはいかん。」
「あそこは女だけが入れる岬だ。」
と言われるだけで、何も詳しいことは教えてくれませんでした。
次の日、ヒロシに聞いてもやはり詳しいことは教えてくれなかったそうです。
どうしても岬の謎が知りたくなったボク達は、翌日こっそり入ってみることにしました。
「探検」
学校が終わって、ボクとヒロシはあの岬の柵の前に来ました。周りを見渡して、誰もいないことを確認するとすぐに柵を越えました。
中に入ってみると、柵の外と違いほとんど人が入った形跡はなく、獣道みたいな細い道があるだけですぐに藪が腰あたりまできました。足元にジメジメ感を感じながら、しばらく藪を掻き分けて進むと、先程のものよりも古い立て看板がありました。
「男はすぐ帰れ」
何も言わず二人で顔を見合わせて、しばらく考え込みました。
このまま進むべきか、やめて引き返すべきか多少の不安が付きまといましたが、岬までは行こうという結論になり、ボク達はそのまま進むことにしました。
藪はさらに深くなり、胸あたりまで来たときでした。
「やっぱり帰ろうよ。」
ヒロシが弱音を吐き出しました。
(ボクも本当はどうしていいかわからない・・・。)
そう思った時でした。
「ギャア、痛い、痛い!」
「どうした、ヒロシ。」
すぐにボクはヒロシに駆け寄ると、ヒロシはその場に倒れこみ、股間を押さえていました。
「オチンチンが・・・。オチンチンが痛い。」
苦痛の表情のヒロシを見て、ただ事ではないと思い、すぐに彼のズボンを脱がすと、パンツは真っ赤に染まっていました。
恐る恐る彼のパンツを脱がすと、そこには30センチほどもある太い大きな山蛭が彼のオチンチンにがっちりと喰らいついていました。
(何なんだ、これは。こんな大きい蛭見たことがない。)
急いで彼の股間から蛭を引き剥がそうとしましたが、蛭の歯がガッチリと食い込んでいて引き剥がせません。
どうしたらよいか途方にくれていると、彼のオチンチンを丸呑みにしようとしているのか、ズブズブと口の中に引き入れていき、ついには蛭の口がタマタマにまで迫ってきました。
「痛いよう。助けて。オチンチン食べられちゃう。」
必死にヒロシは股間から蛭を剥がそうと格闘しています。
「ヒロシ、待ってろ。今助けを呼んでくる。」
とにかく林の外を目指して走りました。しかし、途中で蔦に足をとられて転んだ時でした。
「痛い!」
ボクの股間に激痛が走りました。急いでズボンを脱ぐと、ヒロシと同じ蛭がボクの股間にも・・・。しかも二匹。
一匹にオチンチンを噛まれ、もう一匹に片方のタマタマを噛まれていました。
(痛い、痛い。でもここで倒れたら二人とも大変なことに・・・。)
ボクはズボンを脱ぎ捨てると、二匹の蛭を股間にくっつけたまま、とにかく走りました。
ようやく岬の入り口の柵が見えた時、大声で助けを呼びました。
すると、ボクの声に気がついたのか、数人の大人が駆けつけてくれました。
「どうした。何があった。」
「蛭が・・・。まだ、岬のほうにヒロシが・・・。」
「お前、その股間!!」
そう言われて股間を見た時、一匹の蛭がボトリと落ちました。その蛭の口にボクのオチンチンがついたまま・・・。
「うわああああぁぁぁぁ!痛い、痛いよう!」
「早くこの子を病院に!」
「大丈夫だよね。ボクのオチンチンまた元通りにくっつくよね・・・。」
必死に助けに来てくれた大人にそう言ったのですが、そのままボクは気を失ってしまいました。
「病院で」
気がつくとボクは病院のベッドにいました。横を見ると隣のベッドではヒロシが泣いていました。
「ない。付いていないよう。」
ヒロシは顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらボクに訴えてきました。
(ないって何が・・・。もしかして・・・。)
あの蛭のことを思い出し、急いでボクも自分の股間を触ってみました。すると、オチンチンもタマタマも手に触れませんでした。
(こんなの嘘だろ。オチンチンがないなんて・・・。)
恐怖のあまりからだが震えてきました。
「気がついたかい?」
病院の先生にそう言われたとき、恐る恐る本当のことを聞いてみました。
「先生、ボクのオチンチンは・・・。」
「そのことだけどね。残念だけど二人とも・・・。」
「そんな!」
急いでズボンを脱いで股間を確認すると、そこには女の子の股間のような一本の線が・・・。
「ボ、ボクのオチンチンが。」
ヒロシは横で泣き崩れていました。
「二人のオチンチンとタマタマはあの蛭たちに食べられてしまったんだよ・・・。急いで蛭を殺して体内から取り出そうとしたんだけど、もう溶かされていて・・・。お股に何もないままじゃかわいそうだから、せめて形だけでも女の子と同じようにしてあげようと・・・。信じられないかもしれないがこれは事実なんだ。」
「ボク達どうしたら・・・。」
「残念だけど、元通りの男の子になることは諦めてもらうしかないね・・・。」
「そんな・・・。」
「それと、キミたちにお見舞いに来ている人がいるんだ。」
「お見舞い?」
「入って。」
先生がそう言うと入ってきたのは同じクラスのミチコでした。
「ミチコ。何でキミが?」
「二人も食べられちゃったんだ。これで私とお仲間だね。」
「・・・?」
聞くとミチコも興味本位で、他の男の子たちと一緒に去年あの柵を越えて中に入って、運悪くミチコだけオチンチンとタマタマを食べられてしまったとのことでした。それと、名前も去年まではミチコではなくミチオだったことも教えてくれました。それにクラスでいつも一人でいたのは、この事件の後、女の子としてクラスのみんなは自分のことを迎えてくれたけど、いきなり自分ひとりだけ女の子になってしまったことに、なかなか心の切り替えができなかったことなどを教えてくれました。
「去勢蛭」
退院して、祖父母の家に帰ると女の子の服が用意されていました。
「まったく、だからあれほどあそこには入るなと・・・。」
目に涙を浮かべながらボクのことを叱った祖父が、あの岬と蛭のことを教えてくれました。
祖父の話しでは、祖父がまだ若かった頃、この島では畑仕事をしている時に股間を真っ赤にして倒れこむ男性が続出したそうです。それもみんなオチンチンを食べられていたそうです。
何かがズボンの裾の隙間から入ったような痕が残されていましたが、被害者は皆、股間を噛まれるまで何も気がつかなったと言っていたそうです。
程なくして原因があの蛭だとわかると、蛭は去勢蛭といわれ、島中で一斉に去勢蛭狩りが行われたそうです。この去勢蛭狩りや島内部が開発されたこともあり、その後は去勢蛭に襲われる男性も減っていったとのことです。
しかし、あの岬の林は祠に祀られている神の林と言われ、その内部では昔から一切の殺生や、木の伐採が禁じられていたため、林内部にいる去勢蛭を退治することはできなかったとのことです。そのため、その後は林の外に出てきた去勢蛭のみを退治し、あの岬そのものを男子禁制としたそうです。
その後、去勢蛭が岬の林の中だけになると、ここ30年ほどは去勢蛭の被害者もいなくなり、いつしか林の近くに住む島民と年長者以外は去勢蛭のことを忘れるようになり、近年去勢蛭の本当の恐ろしさのことを知らない子供を中心に、遊び半分であの林に近づく者が増えたため、人間が林に入らないように、また去勢蛭が林から出てこないように柵を作ったとのことだそうです。
しかし、昨年その柵を乗り越えてあの岬の林の中に入った男の子グループがおり、その中の一人に30年ぶりの去勢蛭の被害者が出てしまったとのことでした。
しかし、なぜ去勢蛭が男性の股間ばかりを狙うかについては、当然変異とか、化学者が捨てた薬品のためとか、生物兵器の生き残りなどといわれ、詳しいことは今も不明だそうです。
その日の夜、寝る前に自分の線だけになった股間を見て一人泣きました。夜中こっそり起きて、庭にある汲み取り式トイレの中で立ちオシッコに挑戦してみたけれど、形だけとはいえ、女の子の股間ではオシッコは足に流れるだけで前に飛ぶことはありませんでした。
下着とパジャマのズボンをオシッコで濡らして途方にくれていると、トイレから戻ってこないボクを心配したのか祖父がやって来て
「もうお前は男じゃないんだ。喰われちまったんだから、悔しくてもあきらめるしかないんだ。さあ、着替えたらさっさと寝ろ。」
と言っていたことがボクの心に重くのしかかりました。
「その後」
ボクとヒロシは退院して一週間後、また島の小学校に戻りました。
しかし、リョウタとヒロシではなく、リョウコとヒロミなって。赤のランドセルにスカート姿。はじめは戸惑いもあったけど、ミチコが女の子として一生懸命に頑張っている姿を見ているとボク達も負けてはいられません。
女の子としての生活も慣れてきた頃、ボクは祖父母にひとつ質問をしました。
「ねえ、ボクが大人になる時、ボクは本当の女の人になれるのかな。」
「お前が二十歳くらいになるまでに医学が発達してくれればいいんだが・・・。」
「そうだね。そうすればリョウちゃん、すてきなお嫁さんになれるもんね。」
その後、一年が終わるとまた元の都会の小学校に再転校する予定だったのですが、「去勢蛭にオチンチンを食べられて女の子になった。」とは言うに言えないため、このまま島に残ることにしました。ヒロミもボクと同じく島に残るそうです。
今は、ボク、ヒロミ、ミチコの元男の子3人組は、将来本当の女の人になれることを信じて、一応、女の子として島の小学校に通っています。
(おしまい)
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投稿:2012.06.15更新:2012.06.15
去勢蛭
著者 やかん 様 / アクセス 17363 / ♥ 9