首輪につながれた鎖を引いて軍施設の広い廊下を歩くと、すれ違った軍人たちが皆、裸のタケルを見つめた。両手を後ろ手に拘束されたタケルは、無数の目に晒されながら、小さなおちんちんを隠すこともできず、歩かされる。
「どうだ。大勢の敵の軍人にこんな姿を見られて恥ずかしいか?」
俺は、立ち止まると、胸から腿までみずみずしい肌をサーモンピンクに染めて恥ずかしがるタケルに声をかける。タケルはあまりの恥ずかしさに返事もできない様子で、涙目になってうなずくばかりだ。
「どうせなら、この格好で兵学校の中も歩かせてやろうか」
「そ・・・そんなぁ・・・」
「やっぱり、同じ年頃の女の子たちに見られるのは恥ずかしいか?」
こくりとうなずいたタケルの縮こまったおちんちんを鷲づかみにした俺は、ものすごい勢いで揉みしだいた。
「あっ・・・だめぇ・・・やめてぇ・・・」
さっき射精したばかりなのに、小さなおちんちんはもう勃起していた。
「さあ、急ごうか」
「ええっ、やだあっ」
腰を引いて勃起したおちんちんを必死に隠そうとするタケル。俺はそんなタケルの尻を叩き、鎖を引いて無理やり歩かせる。
しばらくそのまま歩き、タケルの勃起が萎えてくると、再びおちんちんを揉みしだき、勃起させた。そんなことを続けているうちに、並んで歩いてくる6名ほどの若い女性兵士たちとすれ違った。
「あらぁ、元気ねぇ」
「かわいいね」
どうやら裸の子供がリトルキラーのタケルであることをどこかで聞いたらしい女性兵士たちは、立ち止まってタケルを取り囲み声をかける。勃起させられたタケルのおちんちんを見る女たちの目には淫靡な欲望の色がはっきりと現れていた。
「ああっ、見ないでぇ」
女たちを見上げてタケルが泣きそうな声をあげた。
やがて大佐の部屋に到着した俺は、タケルの首に繋がれた鎖を持ったままドアをノックする。ドアを開けて中から顔を出したのは、見覚えのある女だった。たしか・・・尋問専門官の補佐をしていた女性軍曹だ。俺や大佐とともにまだ反抗していたタケルを裸に剥き、おとなしくさせることに手こずった仲間だ。
「よく来たな。タケル」
軍曹の後ろから大佐が顔を出した。まだタケルにやられた頭に白い包帯を巻いていた。
「彼女は私が呼んだ。他の者はいない」
大佐はそういいながら、裸のタケルの体を舐めるように眺めた。
「いい格好だな。タケル」
タケルはどう対応していいかわからず、俺のほうを見上げる。俺はタケルの首につないだ鎖をはずしながら、「もっと見てください、と言って、両足を開き、おちんちんを突き出すんだ。いいな」とささやいた。
大佐の顔をじっと見たタケルは、たまらずに目を伏せながら両足を開くと、腰を突き出した。大佐の前に突き出されたおちんちんは、もう勃起しておらず、白い包皮がぷるぷると震えていた。
「さあ、言ってごらん。ちゃんと大佐の目を見て言うんだ」
顔を上げたタケルは大佐の目を見る。悔しさと恥ずかしさがまだあどけない男の子の顔に浮かぶ。
「も・・・もっと・・・見てください」
「もう一度だ」
「もっと見てください」
屈んでタケルの目を覗き込んだ大佐は満足そうに微笑んだ。
「ずいぶんと素直になったもんだな。で、どこを見てほしい?」
「そ・・それは・・・」
「ちゃんと言ってみろ」
助けを求めるように俺を見るタケル。俺は黙って微笑むだけだ。
「お・・・おちんちんです」
「この小さなおちんちんを見てほしいのか?」
「はい」
「ようし。見てやろう」
俺はタケルの背後にスッと寄り、小さなその体を抱き上げる。それから膝の下に手を入れて、両足を開かせながら大佐のほうへ差し出した。
「いい格好だな。タケル。おしっこをさせてもらう小さな女の子のようだ」
「や・・やあっ」
大佐の前に突き出されたタケルは今までになく恥ずかしそうだ。憎むべき敵の前でこのようなあられもない姿を晒すことが、誇り高いタケルにはたまらないのだろう。
「どれどれ」
大佐は満足そうに微笑むと、毛むくじゃらの腕を伸ばした。太い指が中空で大きく開かれたタケルの股間をまさぐる。
「俺の頭をこんなふうにした坊やに罰を与えないとな」
大佐は親指と人差し指でタケルの睾丸を一つ摘み上げるとそう言った。
しばらくの間、タケルの睾丸ばかりを、胡桃の実でも転がすように手の中でもてあそんだ大佐は、やがて女軍曹に向かって言った。
「軍曹。例のやつを」
「はい」
軍曹は革張りのソファの向こうにある小さな冷蔵庫の中から銀色のトレーを取り出して、大佐の前に持ってきた。トレーには二つの少し大きめな注射器が置いてあった。
「もう打ちますか?」
「ああ」
軍曹はそのうちの一つの注射器を摘み上げると、銀色の針の先から中の液体を少し出してみた後、俺に抱えられたままのタケルの腰に針を刺した。
「わっ、わっ」
驚いたタケルが俺の手の中で暴れた。
「動かないで。針が折れちゃうわよ」
軍曹は手際よくタケルに注射しながら言うと、続いて二本目の注射器を取り上げ、大佐と入れ替わるように大きく股を開かれたタケルの正面に立った。
「あいかわらずかわいいおちんちんね」
軍曹はタケルの目とおちんちんを交互に見ながら、からかうように言うと、注射器を持った手を股の間へ伸ばしてゆく。
「なにするの?わっ、わっ、やめてぇぇ」
タケルが叫んだ。危険な修羅場を何度も潜り抜けてきたはずのタケルが、恐怖に引きつったような声を出した。俺はタケルの体を後ろから抱きかかえているため、どこに針が刺さったのか見えないが、おそらくおちんちんそのものか、その周辺に注射をしたのだろうと思った。
「いったい何を?」
俺は大佐と軍曹に尋ねた。
「局部麻酔です」
軍曹は意味ありげな笑みを浮かべながら言った。
「麻酔?タケルに何かするつもりか?」
「タケルは一国の総理をはじめ、大勢の要人を暗殺した犯罪者だ。本来なら死刑だが、まだ子供だから命だけは助けてやる。そのかわり、大事なものを奪いとってやることにした。おいたをした坊やには、罰を与えないとな」
軍曹と再び交代し、タケルの正面に立った大佐が俺とタケルの顔を見ながら言った。
「罰・・・と言いますと?」
大佐は返事をせずにフフッと笑った後、軍曹を振り返った。
「麻酔はもう効いてるか?」
「もう少しです。でも完全に無感覚になるわけではありません。少しは痛みを感じるはずです」
「そのほうが好都合だ。そうでないと躾にならんからな」
再び俺たちのほうを向いた大佐は大きく開かれたタケルの股間へと手を伸ばした。その太い指はまた同じようにタケルの睾丸の一つをつまみ上げ、指先で執拗に揉んでゆく。
「小さな睾丸だな。ビー玉ほどの大きさか」
タケルの顔をのぞきこんだ大佐は、興奮で目が血走って見えた。
「私の指先だけで簡単につぶせそうだ。タケル、こいつをつぶして女の子の体にしてやろうか?」
「えっ」
大佐が何をしようとしているのか、ようやくわかった。大佐は本気でタケルを去勢しようとしているのだ。
「やっ、やだっ、そんなやだよぉ」
タケルも同じように自分がされようとしていることに気づいたのだろう。突然火がついたように足をバタつかせてもがき始めた。
「小さなタマをつぶして、この可愛らしいおちんちんを切り落として、女の子の体にしてやろう」
「やああっ。そんなのやだあああっ」
麻酔が効いてきたのか、タケルの体は次第に動かなくなってゆく。その代わりに口では、大人相手に戦ってきた暗殺者としての誇りもプライドもかなぐり捨て、叫ぶように懇願を繰り返した。
「そんなのいやです。お願いです。勘弁してください。それだけはやめてください」
「捕まったばかりのころのおまえは、早くおれを殺せ、と言っていたな。あのときの誇り高い戦士の魂はどこへ行った?」
タケルの目からポロポロと涙が零れ落ちる。涙をぬぐうこともできないまま泣きじゃくるタケルが哀れで、かわいそうだった。
「では、まず一つ目、いくぞ」
「やだあああっ、やだああああっ、あああああっ」
タケルの絶叫とともに、大佐の指に力が込められた。抱えているタケルの体の脇から覗き込むと、タケルの睾丸をつまみあげた毛むくじゃらの太い人差し指と親指がプルプルと震えている。
「わああああああっ」
何度も首を振りながらタケルが叫ぶ。大佐が手を離すと、タケルの陰のうはその部分だけ窪んでいた。
「まず一つ、つぶしてやったぞ」
大佐は満足そうに俺と軍曹の顔を見る。狂気に満ちたその顔に俺の背筋に寒気が走った。
「少しは痛みを感じたか?タケル」
「あああああ。もうやめてぇぇぇ、お願い。もうやめてぇぇぇ」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしたタケルが何度も懇願する。だが大佐は無情にも、再び、恐怖で縮みきったタケルの陰のうへと手を伸ばし、体の中から引っ張り出すように、残された睾丸を抉り出した。
「これで二つ目だ。もう男の子にはもどれないぞ」
「やだああああっ、女の子になりたくないぃぃぃ。やだあああっ、やだあああっ」
今度は両手の親指を使って、大佐は残された睾丸を押しつぶす。麻酔が効いているとはいえ、タケルはひときわ大きな声で泣き叫んだ。
「あああっ、あああっ」
肩を大きく震わせてタケルが号泣する。タケルの両膝を抱いていた俺は、正面から抱きしめてやりたい衝動にかられた。
「タマが二つつぶれたから、これでもうおまえは男の子ではなくなったな」
陰のうを鷲づかみにして揉みしだきながら、つぶれた睾丸を一つ一つ確認した大佐は、うつむいて泣き続けるタケルの顔を両手で挟み、強引にあげさせる。憔悴しきったタケルの泣き顔を堪能するようにじっと見つめた大佐は、口元に笑みを浮かべながら言った。
「男の子でなくなったのなら、こいつももういらないな」
大佐の指が縮みきったタケルのおちんちんを弾く。大佐の親指よりも小さなおちんちんは、太くたくましい指の上で踊るように飛び跳ねた。
「いらないものなら、切り落としてやるよ」
大佐が言うと、タケルは「ヒッ」と息を飲み言葉を失った。女軍曹がスッと寄ってきて、大きな裁ち鋏を大佐に差し出した。なんと大佐はこんなものでタケルのおちんちんを切り取ろうとしているのだ。
「いくらなんでも・・・あんまりです」
思わず大佐に抗議した。その小さなおちんちんを何度も愛でてきたこの数日間が頭に浮かんだ。
「タケルはまだ子供なんですよ」
「わかってるよ。だがタケルはただの子供じゃない。バケモノだ。この小さな体でこれだけ有能な暗殺者なのだからな。だから、まだ子供のうちに徹底的につぶしておいたほうがいい」
それなら・・・・それならいっそうのこと、はじめタケルが望んだようにきちんと処刑して、楽にしてやったほうがいいだろうに。
そう思った。だが、幾晩もタケルの体をおもちゃにしてきた俺にそんなことを言う資格はないのだろう。俺は黙ってうなずくしかなかった。
「さてと。この役は軍曹にしてもらうか」
大佐は軍曹が差し出した鋏を受け取らず、そのまま押し返した。
「タケルのここなら、女の力でも簡単に切り落とせそうじゃないか」
「はあ」
「女性の手で切り落とされるほうがショックが大きいと思うぞ。タケルは男の子なんだからな」
「わかりました」
鋏を持った軍曹が大佐と入れ替わり、タケルの股間に立つ。タケルは恐怖もあまり声も出ず、ただイヤイヤと首を振るばかりだ。
「おちんちん、切っちゃおうね」
悪ふざけをするように軍曹が言った。軍人とは思えないほど白く細い指が黒々と光る巨大な鋏をチョキチョキと動かしてみせる。
「ひっ、ひいいっ」
タケルの体にビクンと緊張が走る。軍曹は自分の指と同じくらい白く小さなタケルの包皮を片手で思い切り引っ張った。包皮とタケルのおちんちんがまっすぐに伸ばされ、その根元に軍曹が鋏を差し込む。
「いやあああああっ」
吸い込んだ空気をありったけ吐き出すようにタケルが叫んだ。その瞬間、チョッキンと音がした。いとも簡単に切り落とされたタケルのおちんちんが軍曹の手の中にあった。
雪のように白くやわらかそうな手のひらにそっと乗せられていたのは、ぼくのおちんちんだった。今までぼくの体についていたその部分は、もともと白かった色がなおさら血の気を失って、まるで雪の上のマシュマロのようだ。
女軍曹のハサミがぼくのおちんちんをチョッキンと切り取るシーンがスローモーションのように見えたときは、ドカンと頭を殴られたようなショックがあった。こうやって人の手のひらに乗っている自分のおちんちんを見せられると、今度はジワジワと、失ったものの大きさを感じてくる。
どうしよう。
おちんちん、なくなっちゃった。
ぼく・・・女の子になっちゃったよぉ
「あああっ、あああっ」
どうしよう、どうしよう、と思ったら、頭の中が真っ白になり、パニックとなった。ただただ大声で泣き叫ぶ自分の声を聞いていたら、心のどこかで、これはぼくの泣き声じゃない。どこか別の世界の弱虫な男の子の声なんだ、と思えてきた。
「とうとう女の子になったな、タケル」
大佐とおちんちんを手のひらに乗せたままの女軍曹がぼくの顔をのぞきこむ。おちんちんを切り取られた姿を二人に見られることは、死ぬほど恥ずかしくて、くやしくて、心がはじけ飛んでしまいそうだ。
「このまえ見せてもらったような射精をすることも、もうできないな。それにおしっこだって、もう立ったまますることはできない。女の子みたいに座ってするんだな」
大佐がそう言うと、ぼくを抱えあげていた白井大尉がゆっくりとぼくの体を下ろした。思わず床にペタンと座り込んで、血だらけの何もなくなった股の間を見た。
「あああっ、あああっ」
床に突っ伏して大声で泣いた。
おちんちんなくなっちゃった。
おちんちんなくなっちゃった。
頭の中でその言葉がクルクルと回っている。
腰から下が痺れていて、痛みはそれほど感じなかったけど、もうダメだ、何もかも終わった、という絶望が重くのしかかってきた。
「タケル」
白井大尉がぼくの背中を撫でる。だがその白井大尉を押しのけるように、後ろから肩をつかんだ大佐がぼくの体を力ずくで起こした。
「泣き顔をもっとよく見せろ」
涙でぐちゃぐちゃのぼくの顔を大佐が覗き込んだ。
「こうやって見るとタケルもタダの子供だな。おちんちんがなくなったところ、触ってみろ」
大佐は笑いながら背中で拘束されていたぼくの両手を外すと、手首をつかんで股の間に持ってゆく。指先がおちんちんのあった部分に触れ、真っ赤な血がついた。
大佐はうかつだった。
ぼくの体から流れるその血を見たとき、スイッチが入ったんだ。
そう。暗殺者に切り替わるスイッチがね。
大勢の人の前で裸にされ、うんちまでさせられた後、白井大尉に飼われ、さんざんエロいことをされた。そのうちぼくの心はだんだんとおかしくなっていって、動物というか、赤ちゃんみたいになってゆく気がした。ついには言ってはいけないことを全部しゃべってしまい、おちんちんを切り落とされたのと同じくらい取り返しのつかないことをしてしまった。
血を見たとき、ようやく目が覚めた。
ぼくは暗殺者だ。ぼくの使命は目の前の大佐を抹殺することだ。
ぼくの心は・・・・こいつらにさんざんおもちゃにされてきたぼくの心は、完全に赤ちゃんに戻ってしまったわけじゃなかった。プロの暗殺者としての誇りと魂がまだ心の奥に残っていたんだ。
「あああっ、あああっ、うわああああっ」
血のついた両手で顔を抑え、泣き崩れる。今度は半分は本気だけど、半分は演技だ。まさか、おちんちんを切り取られて泣いている子供が、刺客としての使命を思い出しているとは、こいつらも気づかないだろう。
「ひどいよぉぉぉ、ひどいよぉぉぉぉ」
使命さえ忘れなければ、どんな情けない声でも出せるし、どんなみっともない泣きかただってできる。思ったとおり、同情したらしい白井大尉はよしよしとぼくの肩を撫でた。軍曹のほうはからかうように笑いながら、ぼくの髪を撫でる。おちんちんのついていない女のほうが、こんなとき残酷なのかもしれない。
軍曹の手がぼくの髪を撫でている、ということは、軍曹が握っていたハサミはどこかに置かれているということだ。泣きながらチラチラと探してみると、軍曹のすぐ横のソファの上に二つの注射器を乗せた銀色のトレーがあって、その中に黒い大きなハサミが置かれていた。
腰から下がずっと痺れたままなので、下半身が動かせるか心配だった。「うわああああっ」と体の向きを変えて、もう一度床に突っ伏してみる。今度は両足も投げ出して、ほしいものを買ってもらえない子供がやるように手足をバタバタさせながら、少しずつソファに近づいた。
「おまえは去勢された姿のまま、一生見世物にしてやろう」
大佐が笑いながらぼくの体に触れようと身を屈めた。
いまだ。
両手を使ってソファに飛びついたぼくは、素早く銀色のトレーの端に手を伸ばす。つかみそこなったトレーがガタンとひっくり返り、中のものが床に転がった。残念ながらハサミは手の届かないところに落ちたが、注射器の一つに手が届いた。ぼくは注射器を握り、体をクルッと反転させた。
目の前に大佐の顔があった。まだ笑った顔のままだ。
誰にも言ったことがなかったけど、いつもこの瞬間、ぼくはおしっこをちびってしまう。何度やっても、凄まじいほどの恐怖と興奮とで、パンツを濡らしてしまうんだ。でも、いまはおちんちんがなくなっている。こんなとき、どうやっておしっこちびるんだろうな、と場違いなことを思いながら、ぼくは大佐の目ん玉に注射器の針を突きたてた。
「うわあああっ」
大人の軍人なのに、情けない声だ。
ぼくは注射器を握っていた手を離し、匍匐前進して床に転がったハサミをつかむ。うなり声をあげて床にひざまずいた大佐は、目に刺さった注射器を必死で抜こうとする。凍りついた表情でそれを見つめる軍曹と大尉は、突然の出来事にまだ反応できず、動きだすことができない。
「死ねよぉ」
ぼくは叫びながら、大佐の首筋にハサミを突きたてた。大声を出すなんて、暗殺者失格だ。でも、なにもかも奪われて、さんざんおもちゃにされて、はずかしめられてきたぼくは、どうしても叫ばずにはいられなかった。
突きたてたハサミを引っこ抜くと、少し間があって、ピューッと噴水のように血が噴き出した。大佐の血がぼくの顔にもまともに拭きかかる。グボッゴボッ、と大佐の口から血が溢れ出し、刺された部分を手で押さえる間もなく、奴は床に崩れ落ちた。
ミッション完了だ。
軍曹が何かわめきながら大佐に駆け寄る。ぼくは麻痺した両足で必死に軍曹の背中を蹴り、グラッとよろめいたところの背中にハサミを突きたてた。床に転がった軍曹はそのまま手を背中に伸ばしハサミを抜こうとして、エビのように体をくねらせた。
「タケル。おまえ・・・・」
体を起こしてあぐらをかいて床に座ると、白井大尉がぼくを見下ろしていた。
白井大尉の手がぼくの首に伸びると同時に、ぼくの手が大尉の首をつかんだ。腰から下はまだ動かないし、力の差ははっきりしている。あっと言う間にぼくは大尉に押し倒され、冷たい床に背をつけた。
「タケル、タケルぅ」
真っ赤に血走った大尉の眼球がすぐ目の前にあった。
ああ、殺されるな、って思った。
息が苦しくなって、目がチカチカして、頭の中がぐわあーんと鳴っている。そんな中、大尉にされたことが一つ一つ、浮かび上がるように思い出されてくる。
犬のように扱われて、体中おもちゃにされた記憶だ。いくら子供だとはいえ、人としての誇りをすべて奪われ、最後にはおちんちんまで切り取られた。そんな忌まわしい思い出なのに、大佐を殺し終えた後だからか、フシギと怒りは消えていた。それどころか、どこか懐かしく温かい気持ちにさえなった。
もう何も思い出すことがなくなったとき、ああ、いよいよ死ぬんだなぁ、と思った。ぼくが殺した大人たちも、死ぬ間際こんなことを感じていたんだろうか。それともぼくが子供だから、こんなこと思うのかな。
すると突然、自分が赤んぼうだったころの記憶が戻ってきた。お母さんのきれいな手がぼくのおむつを替え、うんちのついたお尻を拭いている。服を着せられた後、やわらかいおっぱいに吸い付いたら、温かい母乳がぼくの口の中に流れ込んでくる。
2歳の時に誘拐され、レッドヤマトに連れてこられる前の記憶だ。リトルキラーとして育てられた厳しい日々の中で、思い出すこともなかったし、そもそも自分にそんな記憶が残っていたことじたい奇跡としか思えない。
「タケル。死んだのか?」
大尉の指に込められた力がスーッと抜けた。
「とうとう死んじまったのか」
大尉の指がぼくの体を撫でる。髪、まぶた、頬、耳を順に撫でた指は、次に胸から腹にかけて滑るように降りてゆき、おちんちんを切り取られた場所で止まった。
「かわいそうな子だったな」
大尉は確かにそう言った。
この人は・・・・
ぼくにあんなひどいことをしたこの人は、ぼくを憎んでいたわけじゃなかったのか?
人の気持ちなんて、ぼくには全然わからない。こんなふうにぼくの心を混乱させるようなことはしてほしくなかった。ざまあみろ、と息絶えたぼくの体を蹴り飛ばしてくれたほうがよかった。
「やめろよぉぉぉ」
突然目が覚めたぼくは、両手で大尉の肩をつかむと、太いその首に噛み付いた。硬い皮膚に犬歯を食い込ませ、中の血管を探り当てたぼくは、目を閉じて何かを叫びながらそいつを食いちぎった。
一瞬で世界が真っ赤になった。大尉の血がまともにぼくの顔に降りかかる。目の中に血が入って何も見えなくなり、思わず手を離して体を起こした。
「タケル・・・タケル・・・」
ようやく目を開くと、首から吹き上がった血で全身を染めた大尉が、倒れたままぼくのほうへ手を伸ばしていた。
「おれは・・・・」
大尉のほうへ近寄ろうと思ったけど、まだ腰から下が動かない。ぼくは腕だけで、大尉の顔の近くへと這っていった。
「タケルじゃないよ、おれ・・・」
大尉の目を覗き込んでぼくは言う。
ぼくの名前は・・・・
そうか。名前なんてなかったんだ。
これまでぼくを暗殺者として育ててきた大人たちには、ただ番号で呼ばれていただけだ。タケルという名前をつけてくれたこいつらのほうが、まだぼくを人間として認めてくれていたのかもしれない。
「まあ、いいよ。タケルで」
そう返事をしたとき、大尉はもう死んでいた。
大きく息を吸ったら、なぜか涙が出て止まらなくなった。
誰も見ていないから、いいよね。
大尉の胸に顔をうずめたぼくは、もう我慢できなくなって、大声を出して泣いた。
-
投稿:2012.08.30
捕らえられた小さな刺客
著者 yuuki 様 / アクセス 18834 / ♥ 2