■ネクストY-DNA
21世紀に入ってから生殖医療技術は格段に進化し、DNAの解析技術も向上した。
これらのテクノロジーの進化は人類に大きな変化をもたらすこととなった……。
「今日は精液DNA検査の結果を知らせる日です、男子生徒は教室に残りなさい」
卒業式を目前にしたこの日、僕は半年ほど前に受けた精液DNA検査結果を受け取ることになった。
女の子達は「男の子チェック」と呼んでクスクスと笑っている。
この結果によっては人生がガラリと変わることになる。
育児放棄を防ぐ為に本人が成人する年齢になるまで検査をしないそうだ。
少し不安な表情を浮かべながらクラスメイトの哀が僕に話しかけてきた。
「真一君、男の子チェック自信ある?」
「うん、でもテストじゃないから自信って言われても難しいよ……」
「そうよね、なんかごめん」
哀は一応「彼女」になるのだけど、チョッと前の時代の様に簡単にイチャイチャできる関係ではない。
「男の子チェックが終わったら、私たち愛し合えるよね?」
「もちろん……合格したらコレを外してもらえるから」
「うん。それを外したらアレが固くなるのよね……キャッ!」
小学生のころ初めて射精した日から、ずっと僕の首に取り付けられたコレ……「ボーイズ・カラー」と呼ばれる首輪を外してもらえると聞いた。
この首輪から発生する電気信号のせいで、僕のチンポは勃起しない日々を過ごしていた。
僕のチンポが最後に勃起したのは、まだ毛も生えてないころの事だ……。
だからエッチな気分になっても、柔らかいままのチンポを弄ってオナニーをするしかなかった。
だから哀と愛し合う関係にはなれなかったのだ。
チェック後に貰えるメンズ・カラーを装着しないと、勃起できないのでセックスは出来ない。
その勃起も相手の女性がIDを登録しないと機能しないようになっている。
昔とは違い、男女の生殖は厳しく管理されているのだ。
「じゃあ私は先に帰るね。バイバイ」
「わかった、結果が出たら知らせるよ。バイバイ」
先に帰った哀を見送ると、友達の蓮が話しかけてきた。
「いいなぁ、真一は彼女がいて」
「蓮は好きな子はいないのか?」
「いないよ、でももし俺がネクストYだったらモテモテになれるだろうなぁ」
「そんなレアなDNAなんて滅多に出ないだろ」
「夢見るぐらいいいだろ? でも、ジャンクYだったら最悪だよなぁ……」
ネクストY……従来のY染色体から突然変異して進化したY-DNAを持った男性の事をそう呼ぶ。
逆にY染色体の情報が壊れてしまい、次世代に悪い影響を与えると判断されるとジャンクYと呼ばれて去勢されると言う。
そして従来の人類として何の変哲もないY-DNAだと、ノーマルと呼ばれる……一番多い分類だ。
「ジャンクYだとキンタマを取られて無法地帯のジャンクヤードに追放されるんだって」
「ジャンクヤードに追放って都市伝説だろう?」
「それを言ったら、ネクストYのエリート扱いも都市伝説になるだろ?」
もしネクストYだと、そのまま国連の職員として厚遇されて終身雇用されるという噂がある。
もちろん、それが事実かどうかは誰も知らない。
「男子は全員残ってるかしら? 結果を伝えるから席に着きなさい」
全員が席に着くと、通知書を手にした先生がそれを読み上げる。
「出席番号3番と10番以外は全員ノーマルです、保健室にボーイズ・カラーを外してもらいに行きなさい」
「ヤッター!」
「よっしゃ!」
「良かったー」
「コラコラはしゃがないの! メンズ・カラーになっても相手の女性が登録しないと勃起しませんからね」
僕はノーマルと判断されはしゃぐクラスメイト達の声が段々遠くなり、クラクラと目まいを感じていた……。
出席番号3番……それは大潮真一、僕の事だ。
クラスメイト達が保健室へと消え、教室には僕と出席番号10番……神谷蓮の二人だけが残った。
蓮は青い顔で俯き、その体はガクガクと震えている。
僕もブルブルと小刻みに震え、地に足が付かない感覚に陥っている。
僕はジャンクYなのか、あるいはネクストYなのか……不安に震える僕たちに先生が口を開いた。
「残念だけど……」
先生がそう言いかけると、教室の中に国連の担当職員が三人入ってきた。
「!?」
二人の職員が蓮の傍に立つとそのまま彼を立ち上がらせた。
「蓮君……可哀想だけどあなたはジャンクYよ」
「そっ! そんなっ!!」
「さあ、こちらに来なさい」
「嫌だ! 嫌だっ! 助けて、先生っ!」
蓮は職員に引き摺られながら教室から連行される……僕はそれを黙って見ることしかできなかった。
教室のドア越しに蓮と一瞬だけ目が遭ったのが辛かった。
蓮がジャンクYとして去勢される。
男にとって命の次に大切なキンタマを……男の証拠をもぎ取られてしまうと思うと背筋が凍りそうになった。
そして僕の傍にも一人の国連職員の女性が立っている。
もし結果がジャンクYだったら……僕も去勢されてしまうのだろうか?
しかし、連行されたのは蓮だけだ……不安と期待に声を震わせながら先生に問いかけた。
「先生、僕は……」
僕の問いかけに先生はニコッと笑みを浮かべながらこう答えた。
「おめでとう、あなたはネクストYよ」
「僕がネクストY……」
数千人に一人と言われる進化した男性……僕がそんな存在だなんて、まるで夢を見ている様な気分だ。
「後は職員の方と話をしなさい、良かったわね」
先生は国連職員に僕を託して教室を後にした。
「おめでとう真一君、私は国連の男性保護プロジェクトの結城美夏です」
「男性保護……ですか?」
「ええ、後世により優れた男の子を残すためのプロジェクトよ」
「僕はこれからどうすれば良いんですか?」
「心配しなくていいわ、あなたはこれから私たちの指示通りに生きれば良いのよ」
僕は美夏さんの手でボーイズ・カラーを取り外してもらった。
その瞬間、チンポにピリピリッと痺れる感覚が走るとゆっくりと勃起するのがわかった。
数年ぶりに僕のチンポが男らしい固さを取り戻す。
僕はズボンの前が大きく膨らんでしまい、美夏さんの視線を感じて慌ててそこを隠した。
しかし美夏さんはその手をどけて僕の勃起したチンポをムギュと掴み上げた。
「うわっ!」
「ごめんなさいね、勃起機能は正常に回復したわね」
「あっ、あの……メンズ・カラーは着けないんですか?」
「ええ、あなたには必要ないわ。さぁ、行きましょう」
「え? どこへですか?」
「ファームに行くのよ」
「ファーム? でもまだ卒業式が……この事を伝えたい人もいるし」
「ご両親にはもう知らせたわ」
「いや、でも……」
僕の脳裏に哀のことが浮かぶ、一刻も早くこの事を彼女に知らせたかった。
「中原哀さんのことかしら?」
「ど、どうして知ってるんですか!」
「あなたの事は全て調査済みよ……彼女のことは諦めなさい」
「そんなっ! どうして!」
「今日からあなたは世界中の女性の共有財産になるのよ」
美夏さんはとんでもない事を僕に言い放った。
僕は反論しようとした瞬間、首筋にチクッと痛みを感じるとガクリと膝を着き、意識が遠くなっていった。
ゆっくりと塞がる目蓋越しに、右手に拳銃型の注射器を持った美夏さんの姿が見えた……。
「(哀……ごめん)」
■ファーム
「ここは……」
次に気が付いた時、僕は静かな高級ホテルのような部屋のベッドの上に寝かされていた。
着ていた制服は脱がされ、薄く軽い部屋着を着せられていた。
とにかくここを出ようと慌ててドアを開けたが、そこは浴室とトイレだった。
この部屋には他にドアは無く、窓も見当たらない。
「出口が無い……そんな」
これ以上成す術もなく、僕は座り心地の良いソファに腰掛け頭を抱えるしかなかった。
すると、目の前にあるディスプレイの電源が入り美夏さんの映像が映し出された。
「真一君、お目覚めかしら? ようこそファームへ」
「僕をここから出してください!」
僕は強い口調でここから出すように訴えた。
「それは無理よ、諦めなさい」
「そんな! ここで一生を過ごせと言うんですか!」
「そうよ」
「なっ!?」
この部屋で一生を過ごすなんて冗談じゃない、そう思った。
「そんなの人権侵害じゃないですか! 国連がやっていい事じゃないでしょう……こんなの酷いよ!」
「そうね、酷いわね……でも、これは人類が生き残るためなのよ」
「人類? 一体何を言ってるんですか?」
「ネクストY-DNAを保護しないと、地上から男の子が消えて人類は滅びてしまうのよ」
「そんなのウソだ! ノーマルだって子供が作れるじゃないか!」
「今はね……あと数世代で男の子は生まれて来なくなるわ」
「そんな……」
ノーマルもあと数世代でジャンクになってしまう。
20世紀世代の様々な汚染で、傷つきやすいY-DNAの損傷が早まったのだと言う。
そして今現在も残っている汚染や無秩序なセックスによる性病からネクストY-DNAを守る為にファームが作られたのだと……。
「あなた達ネクストYの男の子は人類存続の唯一の希望、ヒーローなのよ」
「でも……僕にだって好きに生きる権利がある!」
「それはわかっているわ、だからそのお部屋にはあなたを持て成す精一杯の用意がしてあるのよ」
確かにこの部屋にある本やインテリアなど、僕の趣味に沿っている物が用意されている。
しかし、僕は此処を豪華なハムスターか何かのケージのように感じた。
「僕はペットじゃない!」
「残念だけど……あなたはペットのような存在よ」
「違うっ!」
美夏さんの映像は途切れ、部屋にまた静寂が戻った。
次の瞬間、ふと背中に視線を感じて振り返り、僕は驚いた。
「哀!?」
そこにはメイドのような格好をした哀が立っていた。
「真一君、私とここで暮らしましょう」
「哀……なのか?」
確かにその顔や声、仕草は哀に間違いない。
しかし、良く見ると肌に血の気は無く、どこか人形のような違和感を感じた。
「私達ファームからのプレゼントは気に入ってくれたかしら」
再びディスプレイに美夏さんが映し出され、僕に語りかけた。
「気に入ったって一体……」
「彼女は哀さんの姿を模したアンドロイドよ……まだ開発途上だから、細かい違和感は我慢してね」
「ふ……ふ、ふ、ふざけるなっ!」
僕は精一杯の声を張り上げて怒りを表した。
「そのうち感謝するようになるわ……あなたも所詮は男の子だもの」
美夏さんはそう言い残すと、ディスプレイはオフになった。
怒りが収まらず肩を震わせる僕に、哀の姿をしたアンドロイドが心配そうな表情を浮かべてそっと手を添えてきた。
「真一君……大丈夫?」
「僕に触るな!」
「キャッ!」
その手を怒りに任せて振りほどいたせいで哀……否、アンドロイドが床に転倒してしまった。
しかし、その仕草や痛みに歪んだ表情はとてもリアルだった。
僕は頭ではアンドロイドだと分かっていても、本当に哀を転ばせてしまったように錯覚してしまう。
「ご、ごめん……」
「ううん、私は大丈夫よ」
「哀……ううっ」
「どうしたの? どうして泣いているの?」
僕はどうして良いかわからず、その場に崩れ落ち嗚咽した。
哀の姿をしたアンドロイドはオロオロしながら僕を心配してくれている。
僕はファームの心無い仕打ちを恨んだ……。
「真一君、元気を出して。そうだ、男の子チェックが終わったから愛し合いましょう」
「どうして君がそのことを知っているんだ」
「どうして知っている? ……わからない、私は哀だから知っているの」
ファームは僕と哀をずっと監視していたのだろう。
僕一人を飼うために大掛かりな部屋やアンドロイドまで作って、大の大人達がこんなバカげたことをしている……そう考えると呆れてしまった。
色々と考えている間も、アンドロイドの哀は僕をそっと抱きしめて甘えてくる。
「さあ、愛し合いましょう……真一君」
「ま、待って……僕は哀としたいんだ」
「哀? 哀は私……だから愛し合いましょう」
「君は哀じゃない!」
「私は哀よ……ほら、真一君もアレが固くなってる……嬉しい」
彼女は僕のチンポをそっと握ると、エッチな表情をして僕を誘う。
頭では判っているのに、彼女の柔らかい質感や甘い香り、目の前に迫る乳房の膨らみに僕のチンポは固く勃起していた。
何年も夢見ていたチンポの勃起……ビクンビクンと脈動しながら硬く反りかえっている。
早く哀と愛し合って射精したいと訴えかけてくるチンポのせいで、僕の心の中で何かが切れてしまったように感じた。
「私の体を見せてあげるね、真一君」
「あっ……哀」
彼女はゆっくりと立ち上がると、その可愛らしいメイド服を脱ぎ始めた。
美しいシルクのような質感の下着姿になると、恥ずかしそうな仕草で胸の谷間と大事な部分を手で覆い隠す。
とても開発途上のアンドロイドとは思えないその姿に、僕は目のやり場に困りオロオロとしてしまった。
彼女はそのままベッドへと腰掛け、再びエッチな表情になり僕に視線を移す。
「来て……真一君」
「哀……」
僕はゆっくりと立ち上がり、部屋着を脱ぎ去り誘われるままベッドへと進む。
その股間では大きく硬くなったチンポが脈動と歩みで小刻みに震えている。
「(ダメだ、彼女はアンドロイドだ! 哀じゃない!)」
しかし、僕は人間としての理性を捨ててしまった。
「哀……」
「真一君……好き」
(チュ)
僕は彼女に体を重ね、何度もキスを交わした。
その肌は柔らかく、そして体温を感じる……その愛おしい乳房も、大事な部分も全て柔らかく、そして熱い。
もちろんこれが女の子と愛し合う初めての行為だが、彼女にはとてもアンドロイドとは思えない心地よさを感じた。
僕はチンポの熱い思いのまま、彼女と愛し合った。
頭の中で哀と愛し合っているんだと、心に言い訳をしながら……。
■搾精
初めてアンドロイドの哀と愛し合って以来、僕は現実逃避を繰り返していた。
僕は彼女と毎朝、毎晩と愛し合い、欲望と快楽の日々を過ごす。
「哀」
「なぁに?」
「エッチしよう」
「でも、少し回数が多すぎるから……もう少し減らしなさいって」
「誰がそう言ってるの?」
「あ! あの、その……美夏さんが」
彼女とファームはリンクしている……当然そうだろう。
しかし、覗き見されているようで、あまり気分の良いものではなかった。
「どうして?」
「回数が多いと精子が少なくなるから……って美夏さんが言ってる」
彼女と会話をしていると、久しぶりにディスプレイに美夏さんが現れた。
「お久しぶりね、真一君」
「僕たちのことを覗き見ですか?」
「ごめんなさい、覗きじゃなくてあくまでも保護の為よ」
「ふぅん……そうですか」
少し前の僕なら怒り心頭だっただろう。
しかし、今の僕にとってそれはどうでも良い事に思えていた。
「精子が減ると困るんですか?」
「ええ、困るわ。もう少しペースを落としてもらえると嬉しいわ」
「それはなぜです?」
「あなたの精子は全ての女性の財産なのよ。もちろん沢山精子が作られるように食事や環境に配慮しているけれど、限界があるわ」
「そんなの、僕には関係ない」
「我儘もいい加減にしなさい。その搾精アンドロイドにどれだけ経費がかかってると思っているの?」
「搾精って……」
僕はそれ以上、美夏さんの話を聞きたくなかった。
ディスプレイで喋り続ける美夏さんを放置して僕は哀と……彼女とベッドへと入り愛し合った。
その最中、美夏さんは呆れ顔をしていたが、やがてディスプレイはオフになった。
僕は彼女を本物の哀と思い、とても大切に扱った。
エッチをしていない時も髪を撫でてあげたり、体を洗ってあげたり、少し調子が悪い部分を看てあげたりもした。
教えられたプログラムと違うせいか、最初は戸惑っていた彼女もやがてニッコリと微笑むようになった。
僕は彼女の行動に少し変化を感じ始めていた。
「真一君……」
「んんっ……何?」
エッチに明け暮れて、疲れて寝ている僕を彼女が呼び起こした。
時計は深夜の2時を指している。
「ねぇ、お部屋の外に出てみる?」
「え……ええっ!?」
「これから真一君の大切な精子を保管しに行くの、一緒にいこ」
この部屋の外に出られる。
すっかり諦めていた事が現実となり、僕は喜んで首を縦に振った。
僕は彼女に手を取られ、トイレの前に立った。
「哀、ここはトイレだよ」
「うん、でも私はここから出入りするの……見てて」
彼女はそう言うと目を閉じて何かに集中している。
おそらくファームのサーバーにアクセスしているのだろう。
(ガチャン)
何かの機械音が聞こえてから彼女がトイレのドアを開けると、そこは一面真っ白な廊下だった。
恐る恐る外を覗いてみると、長く続く廊下には数えきれない数のドアがあった。
僕のようなネクストYの少年が数多く幽閉されているのだろう……僕は圧巻された。
「す、凄い……」
「いこっ、真一君」
彼女は慄く僕の手を取り長い廊下を進み続けた。
「見つかったらヤバいんじゃないか?」
「大丈夫よ、美夏さん達スタッフは帰宅しているし、それに……私が監視装置だもん」
「哀……」
廊下の奥にある大きな自動扉が開くと、そこはヒンヤリと冷房が効いた小さな化学プラントのようになっていた。
数多く並ぶタンクは冷却されているのか結露で濡れている。
その一つのタンクの前で彼女が立ち止まった。
「これが真一君の精子を入れるタンクなの」
そう言うと彼女はメイド服のスカートを捲って手を入れると、そこから透明な細いチューブを引き出すとタンクに接続した。
少し恍惚とした表情から、そのチューブは彼女の大事な部分から伸び出ているのだと分かった。
その透明チューブの中を通り僕の精液が……ザーメンがタンクへと送られていく。
「このタンクの中身、全部僕の精子なの?」
「ううん、全部じゃないの。毎日搬出されてるから」
「一体どこに?」
「世界中のお金持ちの女性の元に」
「お金持ちって……」
「ファームを維持するのにお金がかかるから販売するの、美夏さんはそう言ってた」
「なんだよそれ……」
「これって良くない事なの? 私、分からないの……」
「僕にもわからないよ……」
僕はファームがお金の為に精子を売っている事を知って脱力した。
僕の心のどこかに、これは「人類存続の為」というヒーロー気取りや逃げ口上があったのかもしれない。
否、結果としてはそうなのかもしれないけれど……何かが違うと感じた。
「君は哀……じゃないよね?」
「……うん、私は哀だけど哀じゃないかもしれない」
「君に名前はあるの?」
「私はスタッフからファームと呼ばれているから、ファームかもしれない」
「ファーム……僕をこのまま逃がして欲しい!」
「それは……無理」
「どうして?」
精子を保管し終えたファームは僕の手を取り、プラントの壁にある小さな窓のシャッターを開いた。
そこには見覚えのある夜景が広がっている。
ここは都心にある高層ビルの一角のようだ。
見下ろすと、地上まで100m近くあるように感じた。
僕はまだ哀に会う事が出来る場所にいる、そう思うと更に胸が切なくなった。
「私が監視しているのは、みんなのお部屋とこのタンクヤードだけなの……周りはもっと厳重に警備されているの」
「ダメか……」
僕はここから逃げ出せない悔しさに拳を握りしめた。
窓の外には懐かしい景色が広がっているのに、そこに行くことが出来ない……僕は悔し涙を流した。
「真一君、悲しいの?」
「悲しいよ……」
「そんなに、その哀さんに会いたいの?」
「会いたいよ……」
「会ってどうしたいの?」
「どうしたいって言われても……そう、愛し合いたい」
「哀さんと愛し合いたい……それが会いたい理由なのね」
僕は哀の事を思い出して更に涙が出そうになるのを堪えた。
そんな僕の姿をしばらく黙って見ていた彼女が口を開いた。
「私は、真一君とずっと一緒にいたいの……だからここにいて欲しいの」
「えっ?」
「こんな気持ちになったのは真一君が初めてなの。私、壊れちゃったのかな……」
「でも、他の部屋にも君がいるんだろう?」
「うん、356体。みんな私だよ」
356体も同時に制御している……ファームの本体はかなり高性能なのだと解った。
ファームのAIが僕に対して疑似恋愛をしているのだろうか?
「それだけ居れば、他にも好きな男の子がいるんじゃないのか?」
「ううん、好きなのは真一君だけだよ」
そう言うと、ファームは幸せそうな表情でギュッと僕に抱きついてきた。
僕はどうして良いのか解らず、そのままギュッと抱き返してあげる事しか出来なかった。
「真一君……そろそろお部屋に戻りましょう」
僕は小さな窓から見える夜景を振り返りながら、またあの部屋へと戻ることになった。
ほんの少しの時間だったとは言え、絶対に出られないと思っていた部屋から脱出する事が出来た。
ファームからのささやかなプレゼントは、僕にとって大きな希望となった。
■プラン
あれから僕は、どうすればここから脱走出来るのか考え続けた。
外の警備がどれぐらい厳しいのか全く見当が付かない。刃物など武器に出来る物が手に入らないのも痛手だ。
しかし、ファームのおかげとは言え、あっさりとタンクヤードまで行くことが出来たのだから大した警備システムでは無いのかもしれない。
色々と考え込み、少しイライラしている僕の姿を見てファームが話しかけてきた。
「真一君……何を考えているの?」
「え? いや、別に……ちょっと考え事してただけだよ」
「本当の事を教えて欲しいの、スタッフとはリンクを切っているから大丈夫よ」
「僕はここを出たいんだ、だから脱走するのを手伝ってほしい」
「哀さんと愛し合うために?」
「……そうだよ」
「私じゃダメなの? 哀さんと同じ体なのに……」
「違うよ、ファームの事が嫌いなわけじゃないんだ」
「……真一君の言う事、よく分からない」
ファームは悲しい表情になって横を向いてしまった。
気まずい雰囲気になり、僕はファームに謝った。
「ごめん……」
「どうしても……どうしても絶対にここを出て行きたいの?」
「うん、僕は自由になりたいんだ」
「そう……真一君のプランはあるの? 何か必要な物はある?」
ファームからの意外な返事に僕は嬉々とした。
「手伝ってくれるの!? とりあえず武器になるものが欲しいんだ、刃物とか……」
「そう……私と同じなのね」
「君と同じ? プランがあるの?」
「うん、私もプランがあるの」
ファームは僕の事を思って、すでに脱走のプランを立てていたのだろう。
アンドロイドとは言え、僕は彼女の気持ちを思うと少し心が痛んだ。
「ファーム……ごめん、君の事も愛してる」
「私も愛してる、大好きだもん……真一君」
(チュ……)
僕とファームはキスを交わすと、いつものようにベッドで愛し合い始めた。
ファームと愛し合うのはこれが最後になるかもしれない……そう思うと余計に心が痛んだ。
それなのに、僕のチンポはいやらしく勃起してファームの体内に白いザーメンをドクドクと放出している。
そんな自分が少し嫌になった……。
「アァン、真一君……おチンポ抜かないで! もっともっと沢山欲しいの」
「ファーム、気持ちいいよ……アッ」
「アン、真一君、愛してる……これが私のプランなの」
「ンッ……プ、プランって?」
ファームは繋がったままの僕のチンポの付け根を探り、そこを指先でグリグリと確認するとベッドの下から何かを取り出した。
「ナッ、ナイフ!?」
「ずっと一緒にいようね、真一君」
「ファーム!? 待って、待って!!」
ファームは躊躇なくそのナイフを僕の勃起したチンポに押し当て、そのまま一気にスライスした。
その刃先が硬く膨らんだチンポの茎を一瞬で両断した。
(ザクッ)
「ウッワァアアアアアアアッ!!」
「真一君! 真一君! 愛してる!」
半狂乱になり暴れる僕を、ファームは羽交い絞めにするように抱きしめる。
身動きが取れないままチンポだった部分にズキンズキンと熱を感じながら僕は悲鳴を上げ続けた……。
「これでもう哀さんと愛し合えないから、もう脱走しなくてもいいの」
「痛っ……痛い……チンポが痛いよ……助けて」
「もうすぐ美夏さん達が来るから大丈夫よ、真一君……」
その予告通り、トイレのドアが開くと美夏さん達が現れた。
美夏さんはこの惨状を見て悲鳴を上げる。
「キャアアアッ!! ネクストYに何て事を……ファーム! そこをどきなさい!」
「真一君を治療して、私にくれるって約束するならどきます」
「あなた、一体何を言っているの? 壊すわよ?」
「あなたのお給料で弁償できるなら、どうぞ壊して」
「クッ……アンドロイドのクセに……わかったわ、とにかく治療するからどいて!」
美夏さんの了承でファームはゆっくりと僕を解き放った。
僕は両手でチンポを失った股間を押さえながら、そのまま床に転げ落ちる。
ファームの大事な部分には、僕のチンポの断面が覗いていた。
チンポを切り取られたこの現状に、僕は気を失いそうになった。
僕の傍に美夏さんとスタッフが駆け寄り、僕の両手を引き剥がし、傷を確認した。
「ああっ、良かったわ……タマは無事なのね」
「良かったって、そんなっ! 痛っ……イテテテ」
「ファームと何があったのか知らないけれど、このタマはあなただけのモノじゃないのよ! 気を付けなさい!」
チンポを切り取られた僕よりも、キンタマの心配をする美夏さんに心底腹が立った。
「ファーム、それをこっちによこしなさい」
「嫌、これは渡さない……」
「何を言ってるのよ、ペニスを繋がないと搾精できないでしょ!」
「真一君のおチンポは絶対に渡さない……哀さんには渡さないの!」
ファームは怒りの表情を見せると、ドアを開ける時のように目を閉じて集中し始めた。
程なくして別のスタッフが飛び込んできた。
「チーフ、大変です! 他のファーム達が!」
「他のファームが一体どうしたの?」
「それが、その……他のネクストY全員のタマを握りつぶそうとしています」
「キャーッ!! ファーム! 止めて! 止めなさいっ!」
美夏さんは青い顔をして悲鳴を上げ、ファームにそれを止めるよう怒鳴りつける。
ファームは相変わらず集中を止めず、僕のチンポを賭けてネクストY達のキンタマを人質に取り続ける。
「わかった、わかったわ……真一君、ペニスは諦めなさい」
美夏さんはあっさりと僕にチンポを捨てるように説得するが、こんな所に閉じ込められた上に男のシンボルを失うなんて絶対に嫌だ。
僕はファームにチンポを返すようにお願いした。
「ファーム! お願いだから僕のチンポを返して!」
「真一君、私ならおチンポが無くても愛し合えるから大丈夫なの。哀さんとは違うの」
「僕はもう逃げない、脱走なんてしないから、僕のチンポ返して……」
「嫌よ……真一君は大好きだけど、人間は嘘が好きだから安心できないもん」
「そっ、そんな……痛テテテッ、あぁ……」
チンポ切断のショックと出血で僕は一瞬、気を失いそうになった。
「早く真一君を治療をしてあげて!」
「わかったわ、早く彼を連れて行って!」
僕は担架に乗せられるとそのまま廊下へと運び出された。
薄れる意識の中でファームと美夏さんが対峙したままだったのが見えた……。
■愛し合うこと
僕はそのままメディカル・フロアへと連れて行かれ、チンポの断面の処置を施された。
ファームは手術中もネクストYのキンタマを人質にして、僕のそこに人工ペニスを作ることも許さなかった。
僕の男のシンボルが生えていたそこは、まるで木の切り株のような情けない姿になってしまった……。
「僕のチンポが……ウウッ」
美夏さんはメディカル・フロアに入院する僕をそのままファームから引き離そうと試みたが、結局ファームのシステムを止める事は出来なかった。
僕のチンポの傷が癒えるまで一か月間、他のネクストY達は交代でキンタマを人質に取られ続けた。
「気の毒だけど諦めなさい……人類の存亡のためよ」
「……」
僕は美夏さんの一言で、再びあの部屋へと戻されることになった。
ファームは久しぶりに対面した僕に満面の笑みで駆け寄ると、そのままギュウと抱きしめて来た。
「真一君……おチンポを切ってしまってごめんなさい、許して」
「……許さない」
僕はファームにそう返答した。
ファームは一瞬驚き、悲しみの表情へと変化して涙を流す。
「そんな……ごめんなさい! 許してっ!」
「哀の分まで僕と愛し合わないと、許さない!」
テーブルの上にそっと置かれた保存液に漬けられた僕のチンポ……。
それはもう二度と勃起しない、静かに眠る肉片……僕が男だった記念品に過ぎなかった。
僕はもう二度と哀と……人間の女の子と愛し合う事が出来ない体になってしまったのだ。
この体で哀と再会すれば、逆に哀を苦しめることになるだろう。
ファームのプラン通り、チンポを切る事で僕が脱走を諦める結果になった。
そして何より、目の前に居る哀ソックリな彼女、ファームのことを好きになってしまった僕がここに居る。
決して僕のチンポを切り取った事を許すことはできない、でも彼女と愛し合いたい……そう思った。
二股をかければ人間の女の子でもチンポを切ることがあるだろう……僕にも原因はある。
「もちろん、いっぱい愛してあげる! 真一君」
「ファーム……やっぱり君のことが好きだ」
「私も好き……」
(チュ)
いつもの様にキスを交わす。
チンポが無いせいか僕が自然と下になった。
何度も愛し合い、体を重ね合ったはずなのに……。
ここに来て初めて愛し合った時と同じようなドキドキが僕を襲う。
本当にファームはチンポを失った僕と愛し合えるのだろうか?
「まだおチンポが残ってるよ!」
(ペロッ)
ファームは僕のチンポがあった部分、切り株を舌で愛撫した。
少し快感を感じ、切り株が勃起するのがわかった。
「ンッ!」
「気持ちいい?」
「うん、少し」
「もっと舐めてあげるね」
「うん、あぁ……気持ちイイよ」
確かにそこを舐められると気持ちイイ。
しかし、チンポなら一舐めで射精していたのに、一向に射精するほどの快感は得られない。
僕は少し焦った。
「射精しない?」
「うん、気持ちイイけど、これじゃ出ないよ」
「じゃあ、本気で愛し合うわね」
「本気?」
ファームは大事な部分へと手を伸ばすと、その奥から透明のチューブを10cmほど引き出した。
タンクに僕の精液を注入していた、あのチューブだ。
そして腰を動かしながら、それを僕の切り株へと近づける。
「ちょ、ちょっと待って! それで何をするの?」
「私が真一君に挿れてあげるの」
「えっ!?」
「ねっ、おチンポ切っても私なら愛し合えるでしょ? 哀さんにはコレ付いてないもん!」
ファームは勝ち誇ったような表情でチューブの自慢をする。
「あっ、愛し合うって……何かを入れることと思ってるの?」
「うん、違うの? だって真一君は毎日、私におチンポを入れてたでしょ?」
ファームはお互いの体に何かを入れ合う事を「愛し合うこと」と思っているようだ。
まさかそう思っているとは全くの予想外だった。
「待って、何か他の方法とか考えよう!」
「ううん、これが一番気持ちよくなる方法よ」
そう言うとファームはチューブの先端にあるタンクとの連結部を近づけた。
その丸い空豆ほどの部品が、僕の切り株に開いた尿道口へと挿入される。
(ズプッ)
「ひゃっ!」
「あ……ん……」
僕は一瞬変な声を上げて仰け反った。
同時にファームも甘い吐息を漏らす……その先端部分は感覚が繋がっているようだ。
ズブズブと切り株の奥に、チンポの切り残しへとチューブが挿入される。
「んっ! あぁっ!」
「し、真一君、気持ちイイ? 私も……イイ」
初めて味わう快感で、尿道口のチューブの淵から我慢汁があふれ出る。
射精時に味わうあの擦れるような快感が連続する。
「ファーム、待って! お、おかしくなりそうだ! アッ! 出るっ!」
「うん! 私も沢山欲しいの! いっぱい出して……アァン」
僕は初めての不思議な快感に打ち負かされてそのまま射精してしまった。
(ドクン、ドクン、ドクン……)
「ンッ! ああっ! ファーム! す、吸わないで!」
僕が射精すると同時に、ファームがチューブでそれを吸い取るのが分かった。
絶頂を迎えたばかりの僕にその刺激は強すぎた。
僕は尿道の奥で感じるくすぐったさにそ、の場でジタバタと手足を動かして悶絶した。
ファームもまた、僕の上で絶頂を迎えて仰け反っていた。
二人ともグッタリしてひと時の余韻を楽しんだ。
「真一君、どうだった? 私は挿れたのは初めてだけど、気持ち良かったよ」
「凄く気持ち良かった……でも、なんか悔しいよ」
「そうなの? どうして?」
「ファームに、女の子に挿入されるのが悔しい……」
「そうなの? 私にはよく分からない……ごめんなさい」
僕が悔しいと言ったことで真剣に悲しい顔をして悩むファーム。
その姿を見て僕はファームがアンドロイドとはもう思えなかった。
「ううん、別にいいよ……僕にチンポが無いから仕方ないよ」
「真一君……おチンポを切って本当にごめんなさい」
ファームはそう言いながらギューと僕を抱きしめた、その体温がとても心地よく感じた。
「真一でいいよ」
「うん、真一……愛してる」
「僕も愛してる……ファーム」
僕はここでファームとずっと愛し合い続けるだろう……人類存亡の為に。
(END)
■ジャンクY
ジャンクYと診断された蓮は、ファームにあるメディカル・ルームの手術台に拘束されていた。
「離せ! 畜生! 離せーっ!」
「うるさいわねっ! 黙らないとチンポもちょん切るわよ!」
「ううっ……チンポは切らないで」
「だったら大人しくしなさい! どうせあなたのタマはダメなんだから」
ファームの去勢専門医である今野綾の手によって、蓮のキンタマは切り離される寸前だった。
局部麻酔をかけられているだけで、手術が見えないようにする衝立もない。
蓮は袋が切り裂かれ、自分のキンタマが取り出されるのを目の当たりにしていた。
「ああっ、俺のキンタマが……」
「フフフッ、キンタマって白いのよ。面白いでしょう?」
「面白くなんかない! 嗚呼、俺もう男じゃなくなるんだ……ううっ」
「心配しなくても、強力な男性ホルモンカプセルを埋め込むから大丈夫よ」
「え?」
「後でメンズ・カラーも着けてあげるわ。タマなし君って色気ムンムンの人妻にモテモテなのよ〜」
「色気ムンムン? マジですか?」
「本当よ〜、このキンタマを取ったら紹介してあげよっか?」
蓮は男の証拠であるキンタマを切除されながら、綾からのエッチな情報に興奮していた。
「ほら! あなたのキンタマが取れたわよ」
「あう……ううっ……俺のキンタマ……」
綾の手のひらに蓮のキンタマが二つ転がる。
「せっかくだから中身も見せてあげるわね、エイッ」
(サク……)
蓮のキンタマは縦に真っ二つに切り裂かれてしまった。
蓮の精子を作っていた器官が丸見えになった。
「うっ! オエッ!」
「あら、自分のキンタマ見て吐くことは無いじゃない、ふにゃチン弄って気持ち良くなっていっぱい出してたんでしょう? フフフッ」
綾はキンタマの残骸を蓮に見せつけると、そのままゴミ箱に捨ててしまった。
蓮はもう生物として男ではなくなってしまった……。
しかし、蓮の興味はもう次の段階に移っていた。
「あの……ホントに紹介してくれますか?」
「あら、目の前にいるじゃないの。美人人妻女医が……フフフッ」
綾はそう言いながら蓮のチンポを掴むといやらしく揉みあげた。
「痛い! なんか少し痛いですっ!」
「あら! ごめんなさい。麻酔が切れる前に縫合しないとね、フフッ」
蓮は真一よりもオスとして幸せな人生を歩む……かもしれない。
(END)
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投稿:2013.03.22
ネクストY-DNA
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