次世代多機能トイレの闇 (5)
第五章:子どもたちの身体と未来の選択
2057年、次世代多機能トイレの進化は、社会の最もデリケートな存在である子どもたちの身体にまで影響を及ぼそうとしていました。企業は、飽和した成人向け市場に代わる新たな収益源として、子ども向け美容外科機能に注目。しかしその裏側には、子どもの自己決定権、親の倫理観、そして資本主義の倫理が複雑に絡み合う、深い問いが横たわっていました。
新型外科ユニットの開発と国際提携
子ども用次世代多機能トイレへの外科ユニット付加という、文化的にも倫理的にも踏み込んだアイデアは、社内の技術部門で急ピッチで開発されました。極めて精密な施術を子どもの身体に安全に行うための小型化と自動化には、自社の技術だけでは限界があることがすぐに判明。そこで会社は、特定の文化圏で割礼(包茎手術)が一般的に行われている海外の割礼機器メーカーに協力を依頼しました。彼らはすでに、自動化された施術装置の開発を進めており、豊富な技術的ノウハウと小型化へのニーズを兼ね備えていたからです。
「これは、両社にとって非常に旨味のある合同プロジェクトになる」
役員たちはそう判断し、国際的な協力体制のもと、新たな割礼ビジネスの開拓は加速していきました。彼らの目覚ましい技術力とアイデア力によって開発された割礼方式は、プラスチッククリップ方式を基盤としていました。最大の技術的障壁とされていたのは、安全かつ確実に亀頭インサーターを包皮と亀頭の間に入れることでしたが、彼らはすぐに解決策を見出しました。
その解決策が、糸式包皮拡張型インサートシステムです。このシステムは、6本の細い金属製アームで構成されていました。中央に尿道アーム、その外側にはフック状の先端を持つ4本のニードル拡張アームが放射状に配置され、さらに尿道アームの少し上には電気メス内蔵式癒着解除補助アームがありました。
施術は次のように進められます。
1.まず、自動的に繰り出される少し太い尿道アームに尿道を通します。これはペニスを装置に固定するための重要なステップで、尿吸引機能も備わっています。
2.次に、ニードル拡張アームを装着します。アームは尿道アームに沿って移動し、包皮と亀頭を軽く押しつぶす距離まで近づきます。包皮が反転可能であれば、包皮を引っ張り、亀頭と包皮の間に4本のニードル拡張アームを被せます。 包皮の反転が難しい場合は、アームをさらに移動させ、包皮に食い込ませます。この操作の目的は、ニードル拡張アームから飛び出す針と糸で包皮先端を正確に貫くことです。準備ができたらOKボタンを押し、アームがわずかに広がり包皮をしっかりと固定します。
3.装置が正しくニードル拡張アームがセットされたことを感知すると、アームの先端からミシン針のような針が伸び、包皮を4箇所貫通させます。針はすぐに格納され、糸の端が3cmほど包皮から飛び出します。患者はこの糸の端を、ニードル拡張アームの根元にある拡張糸固定ブラケットに挟み込みます。
4.続いて、ニードル拡張アームが大きく広がり、糸で固定された包皮が大きく広がります。AIカメラが癒着の確認や包皮の部分切開の必要性を判断し、必要に応じて電気メス内蔵式癒着解除補助アームが癒着を解除したり、包皮の部分切除を行います。
5.ニードル拡張アームが適切に包皮を伸ばすと、尿道アームの根元から亀頭クランプ装置が現れ、亀頭をクランプ(把持)して牽引します。サイズによっては、針で亀頭を突き刺して固定する場合がありますが、傷跡はピアスの穴程度でほとんど残りません。
6.その後、亀頭インサーターが挿入されます。亀頭の輪郭まで深く挿入するため、ニードル拡張アームが包皮をさらに強く引き伸ばします。インサーターが適切に挿入されると、ニードル拡張アームは包皮の拡張を一旦やめますが、包皮は強く引き伸ばされた状態が維持されます。
7.クランプ工程が開始されます。上下二つに分割されたプレスコアにセットされたアウターチューブが、プレスコアによって強く圧着されます。このクランプ機構により血流が遮断され、その先の組織が壊死します。これにより出血の心配がなく、縫合も不要で、傷が癒える間、ペニスに残り傷を保護します。
8.壊死した組織は、量が多い場合に腐敗する可能性があるため、適切に除去されます。亀頭インナーチューブの亀頭輪郭から少し先端側に埋め込まれた電極が通電し、電気メスのように組織を切り取ります。必要に応じて、電気メス内蔵式癒着解除補助アームも稼働し、切除を補助します。切り取られた包皮は、ニードル拡張アームによって装置奥に引き込まれ、処理されます。
この一連の自動化された施術プロセスは、まるで工場のライン作業のようにスムーズでした。
新たな可能性とデモンストレーション
この革新的な技術は、大人用の機器にも応用可能であることが判明しました。従来のワイヤー結紮方式と比較して、より多く、そしてより正確に包皮を除去できるため、より良い美観性を提供できると評価されました。この発見は、飽和しつつあった成人向け美容外科市場に新たな需要を呼び起こす可能性を秘めていました。
国際チームは、完成した新型外科ユニットの試作機を役員たちに披露しました。試作機は多機能トイレの座面後ろに設置され、昔の洋式便器でいうところのタンク上部に位置しており、球体を象った見た目をしていました。手前には太ももを通す構造があり、その見た目は昔の和式便器の金隠しの部分に似ていました。
デモンストレーションでは、まず装置の概要と機能が説明され、実際の使用手順に沿ってデモが行われました。
係員は、割礼手術を受ける際の最初のステップとして、ペニスの測定と専用クランプの購入を説明しました。AIカメラで適切なサイズが選択され、利用者はそのサイズに基づいた専用クランプキットを自動販売機や売店で購入する流れです。計測誤差を少なくするため、購入は施術を受ける日の当日か、3日以内を推奨します。
患者が装置に座ると、係員は新型外科ユニットを頭上から下腹部に動かし、セットしました。ジェットコースターの安全バーのようです。
「装置は太ももと腹部の隙間を内蔵のエアバルーンを膨らませ固定しました。 サイズ計測は一瞬です。」と係員が説明し、計測が開始されると、画面には「No.3 14mm」と表示されました。
係員は、可愛らしい動物の絵柄があしらわれたパッケージを掲げ、「これが14mmのクランプです」と説明しました。
「計測後、一旦装置を取り外しても良いですが、今回はこのまま進めます。まず装置の前面を開けます。」
そう言うと、装置の前面が開き、太ももと腹部を抑えていたフレームだけが残りました。装置の大部分が手前に開いたことで、患者の小さなペニスも丸見えです。
係員は、手に持ったクランプのパッケージを開封しました。中には、透明な樹脂でできた亀頭インナーチューブと、カラフルなデザインとプリントが施されたアウターチューブの上下セットが入っていました。
「このクランプは3つのプラスチック部品で構成されており、おおよそ1週間ペニスに付いたまま傷を保護します。今からサンプルを回します。開封してもらっても構いません。」
そう言って、様々なサイズのクランプが参加者たちに渡されました。彼らは手に取り、その軽さやデザイン、そして精密な造りを確認していきました。
係員は、患者が座る装置に向き直り、説明を続けます。
「さて、この装置は完全な全自動ではありません。患者さん自身にいくつか操作をしていただく必要がありますが、その操作はとても簡単です。ご安心ください。」
「まず最初に、1のラベルが書かれた亀頭インナーチューブをセットします。 先端の施術アームユニットの中央にセットできそうな穴がありました。筒状の亀頭インナーチューブは特殊な形状で、正しい向きにしかセットできません。 また、電極があるので奥まで強く押し込んでください。 正しくセットできたら、次に2のアウターチューブ下を便座側にある下側プレスコアにセットしてください。様々なサイズに適合できるよう、コアは複雑な形状をしていますが、正しくセットできるはずです。次に3のアウターチューブ上です。 開いた装置上部にある上側プレスコアにセットします。上側プレスコアも複雑形状ですが、正しくセットできる溝があるはずです。また上側プレスコアは装置を閉じるとき落下する可能性があるので、ロックされたことをよく確認します。」
係員は、装置前面が開いた状態で患者自身がいくつか準備する必要があることを追記しました。
装置が正しくクランプを認識すると、画面には「No.3 14mm ready」と表示されました。その下には、「利用規約」と「同意して開始する」のボタンが表示されています。
係員は、ためらうことなくその「同意して開始する」ボタンを押しました。
装置からモーター音が響き始め、多機能トイレも患者をホールドするように動きます。直腸アプリケータが作動し、ゆっくりと挿入されていきました。これは、患者の固定と、腸管から作用する麻酔薬を注入するためです。まもなく動作が完了し、薬剤が注入されました。
機械の奥に縮んでいた施術アームが、ゆっくりと伸びてきます。一番太いアームが伸びてきたところで、画面には「ステップ1 尿道へ挿入」と表示されました。患者はひどい真性包茎で、包皮口からは尿道がほとんど見えません。係員は患者のペニスを軽くつまみ、慎重にアームを包皮口に合わせました。内部から潤滑剤と麻酔を出しながら、アームは順調に内部へと進んでいきました。
「ほとんどの場合、アームの挿入は簡単でしょう」と係員は説明しました。「最初にアーム先端に合わせるだけです。」
そう係員が説明している間にも、画面は「ステップ2 包皮のセット」と表示され、その下に簡単なアニメーションがループ再生され、次の手順が説明されていました。
「この手順が一番難しいかもしれません」と、係員は言いました。「説明方法など随時改善するつもりです。」
そして係員は、繰り出してきたニードル拡張アームに包皮をセットする実演をしました。彼が包皮を引っ張りアームを包み込むように包皮を戻すと、アームは包皮を検知し、僅かに外側に広がり包皮をしっかりと固定しました。
「どうぞ、どなたかこの操作を体験してみませんか?」と係員が促すと、数人のゲストが名乗りを上げ、実際の装置でニードル拡張アームに包皮をセットする操作を体験しました。
この操作を体験したゲストは「割とスムーズにセットできたよ。若い頃を思い出すね」と言って、満足げに席に戻りました。
画面には「ステップ3 ピアッシング」と表示されました。係員は「ユニットを閉じると針で糸が通されます。見えないので装置内部のAIカメラの映像を写します」と言いました。そして「閉じると直ぐに動きます。よく見ていて下さい」と促し、装置を閉じました。
画面がグワンと動き、施術アームと患者のペニスが鮮明に映し出されました。包皮はニードル拡張アームによって引っ張られ、四隅が尖った四角形のような形になっています。次の瞬間、装置から「グオン」という鈍いモーター音が響き、一瞬にして青い糸が包皮の四方から飛び出ている状態になりました。
その後、装置が「カチッ」と音を立てて半開きになりました。正面から見て、X字のように青い糸が飛び出したペニスが見えました。包皮の根本は僅かに出血しています。
「これが特許技術の糸式包皮拡張型インサートシステムです」と係員は説明しました。「糸で包皮を引っ張ることで、包皮を余すことなく正確に切除できる新方式です。」
画面には「ステップ4 ワイヤーロック」と表示され、飛び出た糸を4本のアームの根本にあるホルダーにセットするアニメーションが表示されました。
「糸は必要があれば、さらに引き出すことも出来ます」と係員は説明し、実際に糸を伸ばしました。患者は「うっ…」と鈍い声を出しましたが、係員は「おっと失礼」とすぐに謝りました。
糸がホルダーにセットできると、アームが自動的に大きく広がり、包皮とペニスを引き出しました。画面には「ステップ5 オペレーション」と表示され、「安全を確認して装置を閉めて下さい」という指示とともに、ペニスの包皮がハサミで切られていくアニメーションが表示されました。
「ここからは全自動になります。閉めた後は内部カメラ映像をお見せします」と係員は言い、そっと装置を閉じました。
モニターには、内部カメラの映像が映し出されました。カメラは、糸で広げられた包皮の内側を覗き込めるような画角で、いくつかの四角い図形と文字が表示されていました。画面には「癒着解除モード」と表示されています。
尿道アームの根元から亀頭クランプが現れました。係員は「亀頭との癒着があるので除去します。AIが画像認識で癒着箇所を認識します。この四角い枠の部分です」と説明します。さらに「亀頭をより固定するために亀頭クランプが出てきました。ナンバー2と書いているので、このクランプは針を使って強力に固定します。少し亀頭に傷が残りますが、ピアス程度の穴なので直に治ります」と続けました。
亀頭クランプが閉じると、ペニス全体が「ぷるん」と僅かに動き、そしてクランプが手前に伸縮し、亀頭を引き出しました。電気メス内蔵式癒着解除補助アームが亀頭と包皮の間に深く押し当てられ、潤滑剤と消毒液を噴射しながら動きます。
「無事に癒着が解除されたようです」と係員。所々亀頭が赤く血が滲んでいますが、亀頭輪郭がはっきり見える状態まで包皮が広げられました。
次に、電気メス内蔵式癒着解除補助アームが包皮の12時の位置に移動し、通電しながら包皮を焼き切りました。カメラの映像は少し煙で不鮮明です。説明員は「はい、包皮の部分切除も行われました」と告げました。包皮はさらに大きく広げられ、亀頭がより明るく映し出されました。
説明員は装置を操作し、一時停止させました。「皆さん、ここからは早いのでよく見て下さい」と注意を惹きつけます。
画面の手前から亀頭インサーターが亀頭クランプと尿道アームをくぐりながら出てきます。亀頭インサーターが少し左右に回転し、亀頭輪郭にピッタリとセットされました。ニードル拡張アームは内側に縮まり、広がっていた包皮も元の状態に戻りました。カメラは少し上面から包皮の部分切除した箇所を写しています。包皮は依然強く引っ張られているため、ペニスは四角い形状です。
装置から「グオーン」と油圧ポンプが起動する音が響き、プレスコアがペニスにかぶさってきます。映像はプレスコアのアップですが、装置の動作音が段々重くなり、かなりの力が加わっている事が分かります。ポンプが「クイーン」と甲高い音を立てて停止しました。その瞬間に電気が放電する音が微かに聞こえ、コアの内側から青白い光と煙が現れました。ニードル拡張アームがどんどん引き込まれ、青い糸、不自然に伸びた包皮が画面の下側に回収されていきました。装置が「プシュー」と音をたてプレスコアを開放しました。
そこには、ペニス全体を可愛らしい絵柄がプリントされた装置に覆われた患者の姿がありました。その装置は、ある種の貞操帯のようにも見えました。説明員は患者を立つように促し患部をカメラに披露しました。説明員は、「これは画期的で安全で素早い治療が方法です!」と宣言しました。
技術デモが終わると、国際チームのリーダーは、さらに驚くべき可能性について説明を始めました。
「この技術は、クランプを平面なものに変更するだけで、去勢処置も容易に行うことが可能です」
その言葉に、役員たちの顔色が変わりました。彼らの脳裏には、成人向け市場における新たな美観追求、そしてさらにその先にある、人間の身体と社会との多様性追求という、倫理の壁を軽々と超える内容に発展していきました。同時にそれらは、収益拡大の可能性があるとはっきりと見えていました。
最後に係員は、「午前のセッションはこれで終わりです。一旦休憩しましょう」と言い、一旦場を閉めくくった。