次世代多機能トイレの闇 (10)
第十章:ベアークランプの普及とタケシたちの日常
2057年、ベアーズクランプカンパニーが描いた未来は、現実のものとなりつつありました。日本市場での成功を受けて、ベアークランプPROは世界中で爆発的な人気を博し、ついに消耗品の専用割礼クランプは大量生産のフェーズへと移行しました。
かつて精密機器の製造ラインだった場所が、今はベアークランプの生産拠点へと姿を変えていました。オートメーション化された最新鋭のラインでは、一日あたり数千個もの専用クランプが様々なサイズで生産され、世界各地へと出荷されていきます。パッケージングされた製品は、愛らしい蝶ネクタイを付けたコミカルな熊のマスコットが全面にデザインされており、それはもはや医療機器というより、ライフスタイルを彩るプロダクトのような様相を呈していました。
そんな中、タケシとユウコが所属する組織も、ベアーズクランプカンパニーの製品設置・メンテナンスを請け負うことになりました。彼らは引き続き多機能トイレのメンテナンス要員でありましたが、これまでの業務に加え、新たに「ベアークランプLivePRO」の設置業務が加わったのです。
各地に設置されるベアークランプ自体は、既存の次世代多機能トイレ上部に後付する簡単な作業でしたが、なぜか多くの予算が充てがわれ、追加の内装工事、BGM設備の設置、外観の装飾広告やモニターの設置など、多岐にわたる作業が現場を疲弊させました。 日々の激務に追われ、精神的な疲労が蓄積し、タケシもユウコも少し苛立ちを感じるようになっていました。かつて彼らの仕事に感じられた陰鬱な雰囲気は薄れたものの、今は別の種類の重圧がのしかかっていたのです。
しかし、その疲弊の裏で、装置への注目度は凄まじいものがありました。 工事中でも、「これCMの機械?」「いつから使えるの?」といった質問がひっきりなしに寄せられ、施設管理者からの期待も強く感じ取れました。タケシは、多機能トイレの機能を引き続き使用する一般利用者もいるため、過度な割礼に対する装飾は気に入りませんでしたが、このプロジェクトに多額の予算が注ぎ込まれていることを確信しました。 ベアークランプLivePROの外面には新導入の広告と装飾が施され、一目でベアークランプが使える次世代多機能トイレだと分かるようになっていました。
「よし、工事は終わりだね。明日の稼働に間に合ってよかったよ。遅れたらまた上司が煩いから…」タケシは疲れた表情でユウコに愚痴をこぼしました。
「先輩、最後に動作チェックしないと」ユウコは急かしました。
タケシは、模擬ペニスとそのペニスのサイズに合った割礼クランプのパッケージを開封しました。コミカルな可愛いイラストのパッケージに少し嫌悪感を感じながら、彼は初めて見るクランプを眺めていました。
「これ、噛み合って…おちんちん切れるの?」ユウコは、目の前のクランプを興味深そうに覗き込みました。タケシは、その率直な物言いに思わず苦笑し、手慣れた様子で応えました。「それ、セクハラだよ」と冗談めかして。
そして、タケシとユウコは説明書通りにクランプと模擬ペニスをセットし、装置の動作を見守りました。
装置が作動し始めると、ユウコは独り言を止めどなく呟き始めました。
「うわあ…おしっこの穴に入ってく…結構入ったよこれ、大丈夫!?アームが来て…皮膚を引っ掛けるのね!なるほど、おちんちんって変な構造〜(笑)。えっ、これ針かな!?突然糸が飛び出してきた…痛そう〜。ひれをここに引っ掛けて〜。広がった広がった、そんなにも伸びるんだ〜。この棒、電気流れてるのかな、あたった瞬間焦げて切れたよ…怖い。あっ、アームが伸びて…おちんちんをキャッチ…えっ、引っ張ってるすごい伸びる痛いよ絶対これ(笑)。あっ、透明なチューブが入ったね!上と下からコアが下がってくる、グオーンって凄い音。これ間違ったらペチャンコだね。終わったのかな??可愛いクマさん付いてる♪」
聞いているタケシの方が恥ずかしくなるような独り言が、トイレの室内に響き渡りました。
タケシは、ベアークランプの洗練された動作に感動を覚えました。 ユウコが興奮気味に「チェックも問題なし!」と報告した直後、彼女は説明書を指差しました。「あっ、最後にサイズの自動計測もする必要があるんだって。これは模擬装置じゃなくて、作業員が行うって書いてるよ?」
タケシは少し頬を赤らめて黙っていました。
「これ、先輩がしないと終わらないから、ねぇ、聞いてる?」ユウコがじれたように尋ねました。
タケシは我に返って、「ああそうだね、でも少し恥ずかしいや…」と口ごもりました。
「仕事なんだからね。早くして」ユウコは有無を言わさず言いました。
「分かった、分かったから少しトイレから出ていって」タケシはユウコを諭しました。
「はーい」ユウコは少し残念そうな返事を残し、外に出ました。
タケシは、誰もいなくなったことを確認すると、意を決してズボンと下着を脱ぎ、多機能トイレにまたがりベアークランプユニットを下ろしセットしました。プシューという空気が充填されるような音がして、瞬時に太ももやお腹がエアーバルーンで固定されました。 タケシの下半身は、まるで和式便器の金隠しのようなベアークランプの装置に覆われ、完全に固定されていました。
その時、「終わった?」と、突然ユウコが扉を開けました。
「ちょ、ちょっと待って!」タケシは思わず叫びました。「恥ずかしいから来るなよ…」
「いいじゃん、大事なところは見えてないし」ユウコは悪びれる様子もなく、もじもじしているタケシをよそにタッチパネルを操作して自動計測を開始させました。
装置は素早く自動測定を行い、瞬時に「No.8 28mm」と表示し、パカッと前面が開きました。
ユウコはそのまま、数秒間固まりました。
「先輩…ごめん…見ちゃった…」ユウコは、照れるような仕草を見せながら言いました。「お毛毛、剃ってるんだね」
タケシは赤面しながら、下を向いてぼそっと喋りました。「…最近、レーザーで脱毛したんだ…」
ユウコはさらに追い打ちをかけるように言いました。「先輩のおちんちん…皮あるんだ…さっきの模型と一緒…」
「かっこ悪いよね…」タケシは、そうつぶやきました。「ちょっと最近、外科装置使う人の気持ち分かってきたかも…」
ユウコは先輩を気遣うように、控えめに言いました。「先輩が…よかったらだけど…今日…コレで切らない…?」
タケシは内心、デモ運転の時に本当は自分で試しても良いかもと薄々考えていたこともあり、少し迷いました。「うん…でも、デモの割礼クランプも何個かあるし、会社にもバレないよな…」
「先輩が選んで」ユウコはタケシの目を真っ直ぐ見つめ、「ユウコは誰にも言わないから」と付け加えました。
タケシは「一旦、少し外で考えるよ」と言って、トイレから出ました。
タケシはトラックに戻り、ぼーっと夜空を見ていました。
「先輩〜」ユウコは優しく声をかけ、まるで普段工具を渡すような感覚で、「No.8 28mm」と書かれたクランプのパッケージを渡しました。
タケシは軽く頷き、多機能トイレに向かいました。ドアの前で、ユウコが「入っていい?」と尋ねました。タケシは少し考えて、頬を少し赤らめて…「いや、一人で頑張るよ」と言って、扉を閉めました。
ユウコは少し悲しそうな表情をしました。彼女の心境は、まるで出産のため手術室の前で妻を待っている夫のようなものでした。先輩の決断を後押ししてしまったことに、彼女は様々な思いをはせました。
多機能トイレの扉が閉まると、タケシはパッケージを開封しました。 少し前まで嫌悪感を感じていた熊のマスコットは、今では少し心強いパートナーのようにも思えてきました。 中にはペロペロキャンディが入っていて、「ステップ1:飴を楽しもう!」とコミカルなイラストが描かれていました。
「へー、テスト用とデモ用は内容物が違うんだ〜。コレが製品用なのかなぁ?」とタケシは感心しました。それにしても、全体的に子供っぽい機械だなぁと、彼は少し恥ずかしがりました。
タケシはバカ正直にペロペロキャンディを咥え、衣類を脱いで多機能トイレに跨がりました。可愛らしいクマのロゴがプリントされ、その横に「ベアーズクランプLivePRO」と書かれた装置を腰にセットします。装置を開き、クランプをセットすると、すぐに画面にセットされたクランプが認識され、メニューが表示されました。
その時、装置からCMのコミカルな音楽が流れ始めました。なにかの遊具が起動したような感じに。タケシは困惑し、「ボリュームどこだ?!」と焦ります。ユウコもその音楽にすぐに気が付きました。深夜のモールにその音楽が響き渡ります。
音楽の止め方もわからず、タケシは指示に従って手順を進めました。液晶画面に「ボーナスアイテム!今ならボディペイント無料!リストから選んでね!」と表示が出ました。タケシは「なんだこれ、色々面倒だなぁ」と操作に困惑していました。説明を読むと、ネイルアートのようなもので、1週間ほどで消えるボディシールのようでした。デフォルトで睾丸を熊の爪で引っかかれたようなスタンプが選択されています。「もうコレでいい。次へ、次へ…」タケシは半ば諦め気味にボタンを押しました。
ユウコはタケシの様子が気になって仕方ありません。大きなBGMの影響で話しかけることも困難です。その時、外部モニターになにやら気になる表示を見つけました。「Liveオプション(8,000円)」。コレってもしかして…? ユウコは迷わずクレジットカードで決済しました。
ユウコが決済すると、すぐに外部モニターにタケシの映像が表示されました。体全体が見えるカメラで、タケシはタッチパネルと格闘しています。下半身には熊の模様があしらわれた装置がすっぽりと覆い、大きなおまるに跨っているようにも見えます。時折、画面全体が白くなり、スクリーンショットを撮ったようなアニメーションが流れます。タケシは順調に準備を進めていました。
直腸アプリケーターが挿入されたようで、顔をしかめるタケシ。装置が一旦閉じられ、内部の画面に切り替わります。先輩の性器がアップで映され、洗浄工程が始まりました。性器が左右に暴れながら温水を受け止めます。
タケシは的確に性器を装置にセットしていきます。包皮が伸ばされました。
ユウコはハッと気が付きました。「あっ、この後、針で糸が出るやつじゃん…」それはタケシも気づいていました。外部モニターに映るタケシの手の動きで、ユウコは若干の躊躇いを感じ取ります。 装置が一旦閉じられ、再び内部の画面に切り替わりました。
ユウコは「これ痛いよ…大丈夫かなぁ」と不安になります。
その後、一瞬で青い糸がピロピロと出た状態になります。先輩が装置を少し躊躇いながら開けています。タケシはすぐに糸をセットしました。再び内部の画面です。亀頭インサーターが挿入され、プレスコアが迫ってきます。 画面が青白く光り、青い紐が吸い込まれていきます。その後、包皮も…。
「うわ…本当に切れちゃった…」
10分ほどの映像でしたが、ユウコは食い入るように見てしまいました。 勝手に覗き見してしまったようで、少しの罪悪感がありました。後でちゃんと謝ろう…。
そう考えていると、プレスコアが開き、可愛らしい熊の絵柄のクランプに包まれたタケシの性器が表示されました。 下の方ではプリンターのようなものが何かを往復しています。
BGMが少し盛り上がったところで止みました。ライブカメラの映像が消え、「プリント中…」と表示されました。その下の排出口からは、可愛い動物とお馴染みの熊で装飾されたプリクラのようなポストカードが出てきました。 ユウコは「キャッ」と声を出しながらその写真を見つめます。
ポストカードには、左上から順番にタケシの「施術」の様子が収められていました。
最初の引きの写真、おまるに跨ったような先輩の写真には、「がんばる」「こわくない」といったスタンプが装飾されています。
次に洗浄工程のアップの性器に「キレイキレイ」「きもちいい」といったスタンプ。
次は針の装置に包皮をセットした時の写真、ひし形に変形する包皮に「じゅんびok」のスタンプ。
次は包皮から糸が出ている一番痛そうな写真に「ちくちくお裁縫」。
次はプレスコアが迫るシーン、「3.2.1 チョキン!」。
そして最後はクランプがついた写真に「えっへん」。
スタンプの内容がいちいち気に障りますが、ユウコは「これは…勝手に見ちゃった」と言えないと頬を赤らめました。