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ここはコンピューター業界トップのNETの秋田工場の近くにある社員の独身寮。半導体工場に勤める男性の独身工員や研究員、NET秋田支店の営業担当者などが入寮している。鉄筋コンクリート3階建で、部屋は個室だが、トイレや風呂は共同という、少々時代がかった社員寮だ。
秋の気配が濃厚になった10月初め、そこの集会室で今、打ち合わせ会が開かれている。会議机についているのは、中野翼、加藤大地、川辺智也、伊藤圭一の4人。全員24歳の年男だ。中野翼、加藤大地、川辺智也は、東京の大学を出て新卒でここに赴任して2年目、伊藤圭一は県内の高校出身で6年目の社員だ。
前で説明しているのが、1年先輩で25歳の古川正範と武藤秀樹。話題はこの独身寮がある地域の祭についてだった。
まず、正範が話し始めた。
「ここ秋田にわが社の工場と独身寮が出来てから、できるだけ地域に溶け込めという会社の方針で、白石寺の蘇民祭に参加してきた。」
翼がさっそく聞いた。
「白石寺は知ってますが蘇民祭って何ですか。」
「詳しくはしらないが、蘇民というのは武搭神を親切にもてなした蘇民将来という人のことで、その弟の巨旦はもてなさなったので、疫病で死んでしまったそうだ。そこで病気にならないように、蘇民を祭るらしい。」
次は大地が聞く。
「蘇民祭はボクの故郷の水沢にもあります。確か旧正月にやっていました。ここの祭はいつやるのですか。」
「水沢は有名だな。ここは地元しか知らないけど、やるのは12月の12日の夜から13日の朝だ。」
智也も続けて質問する。
「えーと、土日ですね。みんな参加するのですか。去年は知らなかったけど。」
「参加者は24歳の年男だけだ。町内ごとに講というグループを組む。うちの会社は独身寮と隣りの社宅もあわせて一つの町内会だから、ここにいる4人だけが参加者だ。」
最後は大地が聞く。
「それじゃ、古川さんや武藤さんは、去年参加されたのですね。ボクたちは参加して何をすればいいのですか。」
「年男は13日の朝早く、蘇民袋という麻の袋に入った護摩木という御守を、本堂から参拝者に撒くのが仕事だ。でもそのために、12日の夜から瑠璃光川でみそぎをして、薬師堂や妙見堂の前で奉納の踊りを講ごとに踊ってから、全員そろって護摩木入りの袋の争奪戦をする。」
翼が言った。
「12月にみそぎですかあ~。寒いですよ。雪も積もっている頃だし。」
今度は、武藤秀樹が答える。
「みそぎで寒いなんて言ってたら勤まらんぞ。この祭、昔は六尺褌でやっていたらしいが、護摩木の奪い合いで褌を引っ張られて内臓を痛める年男が続出したんで、今はみんなスッポンポンで参加するんだ。毛を引っ張られても事故になるから、下半身の毛も剃っておくんだ。」
「え~~~!、そうなんですかぁ!。」
4人が異口同音に反応した。
「だから、寮としても付き合いだけで、年男を1回やったらお役御免だ。一度だけだから辛抱してくれ。みそぎや護摩木撒きは、現場に行けばわかるから、今から踊りだけを練習する。とりあえず本番のように服を全部脱いで、こっちに集合!。」
先輩の命令とあって、4人はしかたなく服を脱いだ。素っ裸になった4人が前に並ぶ。
夏の東京出張の時に、翼と大地は、さくら生命東京健康増進センター去勢科で、智也は、みずほ生命羽田空港去勢診療所で、それぞれ去勢手術を受け【→2010年去勢の旅(1)◆去勢人間ドック/2010年去勢の旅(2)◆空港の去勢診療所を参照のこと】ているので、翼の陰嚢には睾丸がなく、智也の股間には2センチほどの切り株があるだけ。そして大地の前陰部には何も無く、尿道も会陰部に付け替えられている。圭一だけが完全な男性だ。
「そうか、お前ら、去勢したんだったな。」
秀樹はそう言いながら、カセットレコーダーをONにした。スピーカーから「ジャッソウ!、ジョヤサー」という掛け声が流れた。
その声に合わせて、秀樹が踊りの見本を見せた。振り付けは簡単で、身体を左右に動かしながら、両手を泳がせる動作が基本だ。4人はすぐに真似をした。
4人ともリズム感は良く、大体問題なくできるようにようになったように見えたが、それを見ていた正範と秀樹の顔色を冴えなかった。
「股間の大事な部分がバラバラなんだよなあ。」
と、正範が言った。
「そこが一番注目されるし、本番では毛を剃るからもっと目立つし、さて、どうしたものか。」
秀樹も思案中だ。
「全員合わせようとすると・・・・・そうだなあ。中野、川辺、伊藤、お前ら加藤と同じ手術してもらって来いや。」
「え~~~~!」
大地以外の3人が目を剥いた。
「今更・・・・東京でここまで手術したから、もういいでしょう。」
智也が抗議する。
「いや、別に、ボクまで合わせなくても。お金も無いし。」
圭一は無料で去勢してもらえるシステムを良く知らないようだ。
「大丈夫、今は全部会社負担でできるから。1ヶ月前に秋田にも去勢センターがオープンしたし、2度目の追加手術も無料と宣伝していた。オープンセールで自己負担無しだそうだ、明日から3連休だから、3人とも早速行って来いや。」
「どうしてもですか。」
翼は、口を尖らかせて不満そうだ。
「うん、必要だな。」
先輩の正範にそう言われては逆らえない。3人は渋々覚悟を決めざるを得なかった。
翌日、市内の繁華街の6階建てのビルの4階にある「秋田去勢センター」の扉の前に、3人の姿があった。扉の横の掲示板には、「さくら生命特約去勢診療所」「みずほ生命特約去勢診療所」といった白いプラスチック板が10枚ほど差し込まれている。空いているスペースの方が多いが、これから契約先を増やそうという計画なのだろう。
「仕方がない。入ろうか。」
こう言って、3人は扉を開けて、中に入っていった。
待合室には、先客が6人いた。20代の若者が4人、30代と40代と思われる男性が2人、別に知り合い同士ではなさそうだ。
受付は、まだ未成年かもしれないと思われる若い女性だ。しかも、なかなか可愛くて美人だ。
翼が、やや恥ずかしそうに、受付嬢に話し始めた。
「あの~、去勢して欲しいんですけど。こっちは初めて、ボクと彼は2回目ですけど。」
「そうですか、皆さん完全去勢でよろしいですか。」
「そうですけど。なぜ分かりましたか。」
「全国的に見て、以前は、睾丸だけとかそういう人も多かったですけど、結局それでは中途半端だと言われる方が多くて、追加手術される方が増えました。今では、最初の手術で、完全去勢される方が8割以上です。」
受付嬢が、説明した。
「そうなんですか。やっぱり中途半端ですよね。実はボクもそんな感じがしていたんです。」
翼が答えた。
「じゃあ、この申込書にお願いします。書き終わったら、保険証券や健康保険証といっしょにお出しください。」
こう言って、3人分の申込用紙が渡された。
3人が申込用紙を出して、待合室で順番を待っていると、先に待っていた3人の名前が呼ばれた。3人は、待合室の片隅にあるロッカーに案内され、そこで服を脱いで素っ裸になった。入口からは直接は見えないが、翼たちが座った待合ベンチからは丸見えだ。全裸になった3人は、そのまま奥の部屋に入っていった。
入れ替りに3人の男性が、その横の扉から出てきた。翼と智也がそっちを見ると、3人とも股間にオムツのような布を当てて、その上から透明樹脂でできたオムツカバーを穿いている。去勢してきたはずなのに股間が膨らんでいるのは、カテーテルの先に着けた採尿袋のせいだろうと、智也は自分の経験から想像した。
ここの去勢センターのシステムは、どうやら3人一組で進むらしく、しばらくして残りの3人が呼ばれて、次は翼、智也、圭一の番になった。後から新しいお客も4人ほどに増えた。
「偶然だけど、いっしょになりそうだ。」
「見ず知らずの人といっしょよりは、いいよ。」
「でも、ここで脱ぐのって何か恥ずかしくない?。」
他の男性を見ながら、圭一は不安そうだ。
「平気、平気、みんな同じだから。」
智也がこう言って、落ち着かせる。
「中野翼さん、川辺智也さん、伊藤圭一さん。」
いよいよ名前が呼ばれた。
3人はロッカーに服を置いて、暗証キーを締めてから、素っ裸で奥の部屋に向かった。
入ったところは、タイル貼りで、床が一段高くなった部分に、小兼用の和式便器が横に3つ並んだ部屋。右側の棚にプラスチック製の筒がいくつも無造作に置いてある。まもなく女性の声の音声ガイダンスのテープ放送が流れた。
「ここは、浣腸室です。棚の上の浣腸器をお尻の穴に当てて、シリンダーで中の薬液を腸の中に押し込んで下さい。1本で効かない方は何本使っても結構です。自分で入れるのは少々やりにくいので、一緒にいる方同士で、お互いに浣腸液を入れ合うことをお薦めします。」
「ええ!、お互いに浣腸し合うの~?。」
「しょうがないよ。じゃあ、これ翼に。」
「じゃあ、ボクはその後で圭一に。」
3人は、膝に手を当ててお尻を突き出して、順番に浣腸された。まもなく便意を催してきたので、和式便器にしゃがんだ。
3人の排便が終わってすっきりすると、まもなく「次の部屋にどうぞ。」というランプが点いた。
ドアの向こうは、やはりタイル貼りだが、シャワー室のようだ。やはり右側の棚にはT字剃刀とシェービングクリームが置いてある。また、音声ガイダンスが流れた。
「ここでは、陰毛を剃り落として下さい。睾丸だけ摘出の方は陰嚢部分だけで結構ですが、完全去勢の方は、陰嚢、陰茎、デルタ部分全部を剃って下さい。自分自身ではやり難いとおもいますので、ここでも、一緒にいる方と、お互いに剃り合うことをお薦めします。剃り終わったらシャワーを浴びてから、しばらくお待ち下さい。」
「今度は、チンゲをお互いに剃るの~。」
「どうせ蘇民祭では剃らないといけないと言っていたからいいじゃん。」
「じゃあ、今度はボクが翼のを剃るよ。」
3人はこう言いながら、お互いの陰毛を剃り合って、パイパンになってからシャワーを浴びた。やはり、切り株が残っているだけの智也の股間が、一番剃り易かったようだ。
タオルで身体を拭いていると、また「「次の部屋にどうぞ。」のランプが点いた。
この先は、いよいよ手術室が待っていた。手術台は、婦人科で使う内診台と同じもので、3つ並んでいる。
3人の肩にまず注射が射たれ、続いてその手術台の上に横向きに寝ると、麻酔担当の医師が腰椎麻酔をかけた。若い看護師の手によって、3人は仰向けの姿勢に直され、膝を高く上げた姿勢で、ベルトで固定された。看護師が、3人の尿道にバルーンで簡単に抜けないようにしたカテーテルを挿し込んでいく。
最後の圭一の腰椎麻酔の準備がようやく終わったころ、外科医によって翼の陰茎には、早くもメスが入れられていた。やがて、翼の尿道口が会陰部に移され、皮膚が縫合された。看護師がカテーテルの先に採尿袋を取り付け、ガーゼとバンソウコウを貼り付けてから、布オムツを当てた。オムツの上にはオムツカバーを被せられて、すべての処置は終わった。
既に切り株だけの股間の智也の処置も済み、最後に残った圭一も、発起物が全て無くなり、Yの字の縫合痕だけの股間となった。
ストレッチャーで運ばれた最後の部屋にはベッドが9つあり、そこにしばらく横になるように言われた。先の6人も横になっていたので、空いている場所に寝かされた。そのうち麻酔が切れてきたので、3人は立ち上がり、待合室にもどって、オムツの上からズボンを穿いて服を着て、去勢センターを後にした。
12月12日になった。幸い雪は降らなかったが寒い。翼、大地、智也、圭一の4人は、白い六尺褌一つで、寮を出て白石寺に向かった。境内の仮設の控室で全裸になる。いよいよ出発。周囲の年男を見ると、中には毛を十分に剃っていなかったり、褌のままだったり、ルール違反もあるようだ。
参加者が減っているので、基準も緩くなっているようだが、4人にとっては「何だ。話が違うぞ。」という気分だ。
それほど観光化した祭ではないが、それでも地元秋田を中心に、檀家以外からの見物人も多い。裸男は素っ裸で公道を歩いて川に向かう。
みそぎ会場に近づくにしたがって、周辺に見物人が増えてきた。
4人が瑠璃光川でみそぎをしている頃から、見物人の間で4人の何も付いていない股間が話題になり始めた。薬師堂の奉納踊りで注目を浴び、妙見堂の奉納踊りでは、もう黒山の人だかりとなった。
やがて護摩木の争奪戦が終り、護摩木が入った蘇民袋を本堂の通路の舞台から参拝客に撒く時間になった。ここでも4人の前の観衆が異様に多い。隣りの年男たちも、4人の股間を気にしてチラチラ見ている。
1時間ほどして喧騒が終り、年男は控室に引き揚げた。そこでは4人の去勢について、他の年男から質問攻めとなった。
「どうして去勢したの?。」
「痛くなかった?。」
「オシッコは不便じゃない?。」
「NETの社員はみんな去勢するの?。」
「恋人はいないの?。」
「結婚は?。」
「性欲は無くなった?。」
「オナニーしたくならない?。」
一つ一つ答えるのも面倒で、4人は適当に切り上げて、寮に戻った。
「あーあ。大変だったなあ。」
と翼。
「ボクは元々全部取っていたけど、こんな祭があるなんて知らなかったなあ。」
と大地。
「そういえばボク、去勢したこと親に言ってなかった。正月に帰省したら言わなくっちゃ。」
と圭一。
最後に智也がこう言った。
「最近、工場でも去勢した社員が増えてきていてね。小用の時に個室に入ると時間がかかるし、数も少ないんで、男子の小便器を洋式便器に替えている。別に仕切りはいらないし、男子は立小便で、去勢者は座り小便でやればいいじゃないかだってさ。でも、しゃがんでいるすぐ隣りで立小便されるのって、何だかなあ。」
どうも、会社の方もいろいろ苦労があるようだが、NETの今年23歳の新入社員は、来年も秋田にいたら果たしてどうするのだろうか。
何とも興味津々なところである。
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投稿:2006.10.15更新:2023.05.12
2010年去勢の旅(3)◆裸祭の夜◇挿絵付小説◇
挿絵あり 著者 名誉教授 様 / アクセス 28523 / ♥ 117