★「Hellish Castle」から始まって「The world of hell」へ至る実に奇妙で不思議な物語★
★はじめに★
最近、スイスで末期がん患者の自死による安楽死が公認されたというニュースが流れた。
性同一障害に限らず、自分の現在の身体に違和感を持つ人は結構多いらしい。
欧米では自分の願望で手足を切断した患者が少なくないという報告もあった。
別に末期がんでなくても自殺願望があればかなえればいいのではないか。
これはそんな考え方が公式に認められた近未来の物語である。
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山の中である。舗装はされているが九十九折の山道を登っていくと、そこに日本には場違いな中世ヨーロッパの城郭が姿を現す。
何でもバブル景気真っ盛りの1988年、大理石や石灰岩の産地をアピールするために、村おこしの一環として、ドイツにあった本物の城館を買い取って移築した城だそうだ。
当時は、観光名所であるとともに、お城に泊まれるホテル&レストランとして、そして結婚式場としても利用され、村と石材業者が出資した第3セクターも利益を計上したが、首都圏からの交通の不便さからリピーターが少なく、期待されただけの都会の客を呼べなかった。
3年後の1991年にテコ入れとして温泉の掘る試みをしたところ、すぐに掘削井戸から大量のお湯が噴き出すという幸運に恵まれた。
そこで、既にバブルは弾け飛んでいたにも関わらず、城郭の隣に大プールのような古代ローマ風の温泉保養施設と、武家屋敷か代官所を思わせる妙に古風な温泉旅館、そして地元名産の石材を多用した中国蘇州風の庭園と離れが建設された。が、巨額の投資が仇となってそれからわずか3年後の1994年、ついに経営破綻してしまったのである。
閉鎖された建築物は、長年、さながら眠り姫の城のような廃墟となり、温泉だけが空しくプールから谷川に注ぎ込んでいたが、ここを最近「和洋史学講習所」というNPO法人がただ同然で買い取り、歴史研究の研修施設として使用し始めた。
蔦どころか得体が知れない植物が絡まる石造りの城郭や、壁や板が朽ちた木造旅館の外観は不気味ですらあるが、城郭も武家屋敷も温泉も大した補修もされずに使われている。
ああいうのも歴史研究の関係者にはかえって好感を持たれるのであろうかと、村人は囁き合っていた。
NPO法人というのは結構簡単に作れるものである。「和洋史学講習所」も実態は歴史の中でも「拷問」や「処刑」に興味がある金持ち連中の集まりで、この不便な土地にも週1回ぐらいはやって来れる暇人の集まりでもあった。
歴史上の拷問や処刑を研究するのであるから、それなりに実験台になるのも覚悟が必要であった。
例えば江戸時代の駿河問拷問の実験では、重石が大きくなるにつれて背骨が湾曲していくのがよくわかる。
同じく江戸時代の拷問の十露盤石抱きでは、実際の伊豆石と同じ重石を使用するため、体験後は数日間歩行困難になるという。
また、餓死刑の一種である人型鉄檻のジベット体験など、何日もかかる実験が可能な人たちもいた。
メンバーには医師や弁護士もいる一方で平凡な会社員や職人も含まれていたが、みな資金の代わりに提供できるITや外国語の知識があるか、大工とか鍛冶屋などの特殊な技術の持ち主であった。
このほかに、資金は出せないがマンパワーを提供するボランティア的な一般の会員がいた。彼らは拷問処刑が大好きないわばマニアで、自分自身の身体を張った貢献をし、時には自ら希望して命を危険に晒すことも厭わない連中であった。
これらの実験にあたって、事前の本人の了解文書の法的手続きには弁護士のメンバーが、事後の治療には医師のメンバーが活躍したことは言うまでもないところである。
さて先日、城郭の中の大広間に幹部連中が集まっていた。長年放置されていた部屋は至る所に廃墟の痕跡が残っているが、人が住むためのインフラは修理され、冷暖房完備の快適な空間になっている。
ただ、広間の壁際に飾られている装飾品は、見慣れない者をぎょっとさせるものである。しかも、単なる装飾ではなく、そのほとんどが実際に実演や体験が可能であった。
左にはギロチン、鉄の処女、引き伸ばし拷問台を始めとして、座面や背もたれから鋭い棘がたくさん突き出た審問椅子、人型の鉄の檻を吊るす餓死刑用のジベット、囚人の首を鉄の輪で締め付けるガロット、鉄製の手枷、足枷、首枷、貞操帯など、ヨーロッパの拷問関係の博物館でおなじみの刑具が並んでいる。
右には十露盤石、三角木馬、磔柱、火刑柱などの日本の拷問処刑具や、站籠(たんろう)と呼ばれる立枷、腰斬刑用の巨大カッターなどの中華3千年を代表する刑具が置かれていた。
中でも、宮刑(去勢刑)に使用された多彩な器具のコレクションは貴重なものであった。
これらは、実際に使用された本物もあれば、後世の復元品も多く混じっているわけだが、以前から実際に使用可能となっていて、体験者も現れて盛り上がっていた。
これらの「和洋史学講習所」の名前で蒐集した品々の活用について、いよいよ具体的なプロジェクトが動き出そうとしていた。
中には新たに拷問処刑具を研究開発して、実際に使用してみることも行われた。
そのプロジェクトの中の一例として、実際に収集した刑具である古典的な人間プレス串刺装置と、それを近代化した自動人間プレス棺桶をご覧に入れよう。
これだけのイベントをどうやって体験者を集めて実現させるまでに至ったのかは、これからお話していこうと思う。
(PART2に続く)
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投稿:2014.01.21更新:2023.08.15
古城の中から◆PART1〜バブルの果て◆
挿絵あり 著者 名誉教授 様 / アクセス 48465 / ♥ 288