「痛ぇえ!やっぱし嫌だァッ!やめてくれろ!離せ」
龍雄は巫女の少女二人を跳ね飛ばすと、少女の一人は裾がはだけ女陰丸出しでひっくり返り、いま一人は祭器を巻き込んで盛大に転がった。龍雄は、半ば切断されてしまった陰茎を庇いつつ、全力疾走で儀式の場から逃亡。場は騒然となり、「追え、追うんだ!」「何としても切り取れ」「絶対に逃がすな」と部落の者たちが慌てふためいているのをよそに、龍雄は谷戸の外へ向かう唯一の道を下半身裸に跣で駆け抜けた。しまらくあって、息が上がり後ろを振り返ると、かなりの数の松明の列が田中の一本道を下って来るのが見えた。部落の者総出で追ってきているのであろう。龍雄は、戦慄と恐懼を覚えながらも、また性器から血の涙を流しながらも希望へ向かって走り続ける。
が、そのささやかな希望も長くは続かなかった。やっとのことで、鎮守様の岩山の下まで逃げ、ふっと一息ついた龍雄。安堵の表情は忽ち絶望に変わった。谷戸から外へ出る唯一の道である岩山橫の切通に久美子が立ちはだかったのだ。この他は、岩山を回り込み田と沢を走り抜けるしかない。
「無駄よ龍ちゃん。観念なさい。こんなこともあろうかと尾根の上の山道に自転車を置いて置いたのよ。一気に坂を駆け上り、自転車で一気に下りこの場所で待ち伏せれば、あなたは必ず現れるというわけ。」
「久美ちゃん、逃がしてくれよ。童貞のまま切除なんて嫌だ。俺が居なくなればいい話じゃないか。何も切らなくても。それに久美ちゃんだっていつまで巫女を続けるか分からないじゃないか。もうやめるかもしれないじゃないか。」
「ダメよ。龍ちゃん。私の迷妄が止まらない限り、遠くへ行こうが無意味。それに半分までいっちゃってるんだから、元通りにはくっつかないわよ。いっその事切り取ってしまいなさいな。」懇願する龍雄に対して久美子はあくまで冷淡で全く同情や憐憫といったものが感じられなかった。
「久美ちゃん、裏切ったな!」龍雄は久美子に摑みかかり、強引に切通を通ろうとした。力では負けないだろう。が、久美子もさるもの、サッと身を躱し、揉み合いとなった。
「龍ちゃん、素直におちんちんを出しなさいッ」
「嫌だッ。絶対出さね。」
いよいよという時、久美子は踵を地に打ち付け、鋭い蹴りを龍雄の股間に向け一閃した。
ボト・・・
「え?」
龍雄の宝物は地に落ちた。久美子は追跡のため、走りづらい儀式の時に用いる靴の沓から運動靴へと履き替え、更に靴底に飛出し小刀を仕込んでいたのだ。自転車を予め尾根に配置しておく手際と言い、最初から薄々龍雄が逃げ出すであろうことに気づいていたのだ。
「ぐあーーー。俺の・・・俺の・・・。」
龍雄は何も無くなってしまった股間から血をダラダラと流しつつ、落ちてしまった宝物を回収しようと手を伸ばそうとしたの時。ぞっとする程美しい青灰色の毛並みをした狐が闇より現れ、宝物を咥え持ち去った。
「う、うあーーー」龍雄が絶叫し、しばしあって呻き声だけが静謐な谷戸に響いた。
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投稿:2021.02.13更新:2021.02.13
白狐と黑蛇―逃亡そして切除
著者 雛咲美保登&長谷福利 様 / アクセス 5775 / ♥ 20