「やーい、やーい、魔羅無し、魔羅無し」
子らが黙々と野良仕事をする若い男を囃し立てる。
「村のためじゃ。シュパッ」
手刀を股間の前で滑らせ、男根を断つ真似をする子もいる。
龍雄は怒るでもなく、何事もなかったかのように作業を続ける。もうどうでも良かった。男根は断たれ、奪われた。あれから、一月とたたず、巫女の少女に験が顕れ、久美子は巫女を辞め、九月には町の高等女学校へと進学して行った。後から聞いた所によると、コンサイスなんぞを譲り受けて受験勉強に励んでいたそうで、何とか私立校に滑り込んだとのこと。龍雄は完全に蚊帳の外に置かれていた。
生きる糧は、最早なし。とは言え、男根を失っては、このまま平凡に老いてゆくことも出来そうにない。程なくして、町からは、久美子がアルバイトでカッフェの女給をしながら複数の男と桃色交際に勤しんでいるとの噂が流れて来た。谷戸でのあまりに禁欲的生活の反動なのであろう。この噂に接し、龍雄の心にドス黒いものが燠のように燻るのを感じた。男根を断たれようが村人に莫迦にされようが、久美子さえ旁に寄り添うてさえ居てくれればそれで良かった。共に生きていけると思われた。
しかし、現実はどうだ。久美子は男根を断たれた龍雄を捨てた。
世間を大いに震撼せしめることになる、後世、蛇拔谷戸二十人殺しと称される大事件が起こるのはこの数年後の事である。
梢から漏れる陽光はかすかだ。そよ風に木の葉が揺れる。沢の涼しい風に蝉の声を背景音楽に、私は、いつの間にか岩の上でまどろんでしまったようだ。今の所記事は書けそうにない。幸い今日は花金、そのまま東駅前の百貨店にしけ込んでプレイタウンでホステスの姐ちゃんでも侍らかして、パーッと呑めば何かいい案が浮かぶかもしれない。ウキウキした気持ちで立ち上がるも何か違和感を感じる。
それにしても、股間に妙に寒さを感じるが気のせいであろうか。―終―
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投稿:2021.02.13更新:2021.06.14
白狐と黑蛇―結末
著者 雛咲美保登&長谷福利 様 / アクセス 7056 / ♥ 22