蛇拔谷戸の夏祭は、一般的に想像される夏祭とは大いに異なる。僅か十数戸の村の事、まことに祭祀の色彩が強いもので、神を祀る行為そのものである。鎮守の狐神をお祀りし、村の守りを盤石にし、村人の平安を祈る儀式である。今回の祀りは、八十年ぶりの羅切が行われるとあって、村民たちは皆浮かれている様子であった。とはいえ、祭は岩山の頂にある鎮守社で行われるわけでもなく、麓で行われるわけでもない。これは、頂には幾らの開けた場所もないし、麓は田が迫っており全く立錐の余地がないからである。よって、祭は名主らの家が周囲に点在する谷戸の広場で行われる。日暮れ前だというのに、村人らが忙しく立ち働いている。薪を割って積み焚き付けと共に用意する男。供物と思われる餠を蒸し上げる女、神職の束帯を着た神官と稚い少女の巫女二人が祭器や祭壇を設える。が、活気がある広場に久美子の姿はなかった。
「切りたくねえ、ぁぁ切りたくねえ。」
龍雄は座敷牢に押し込められ、啜り泣くばかりであった。後数時間で儀式が行われる。出来れば、逃げ出してしまいたい気持ちだった。久美子と逃げることができればどんなにかいいだろう。誰も知る者のない土地へ逃げて、二人で新しい生活を始めるのだ。想像したら勃起してしまい、最後の別れにと龍雄は玉茎を扱き始めた。
「こんな時にも千ずりとは、呆れたものね」
突然後ろから掛けられた声に、龍雄はビクッとして手を止めた。久美子が座敷牢の外まで来ていたのだ。久美子は見張りも出払ってるのをいいことに、様子を見に来たのだ。古めかしい南京錠を簪で難なく開けると牢内に這入って来た。
「もうすぐ儀式。あなたの男根はもうすぐ断たれる。これはもうどうしようもないこと。」
「なあ、久美ちゃん何とかしてくれよ。切りたくねえよ。逃がしておくれ。二人で遠くへ逃げよう。な。そして二人で・・・ギャッ」
久美子が鋭い簪で龍雄の猛り狂った玉茎を貫いたのだ。
「神聖な儀式の前にこんなになって。さあ、これで勃起も収まった。後は儀式を済ませるだけね。」
久美子は冷たい調子でそう言い捨て錠前を掛けて出て行った。龍雄は絶望した。そして、受け入れた。やがて祭りが始まった。
御囃子があり、神官と巫女の久美子が静々と進み出、後ろに二人の少女が続く。村人たちも固唾をのんで見守っている。祝詞が唱えられ、一連の所作を終えると、太鼓が打ち鳴らされ、山伏殿が篝火を一際大きく焚いた。いよいよである。男二人に引きずられるようにして龍雄が引き出されて来た。そして祭壇前で放り出され、少女二人がこれを引き取る。
両脇を巫女の少女に抱えられ、切装束の龍雄が祭壇の前へと引き出される。祭壇前の久美子はそれを見て、祭壇上の三方に乗せられた懐剣を執り鞘を払った。いよいよ切除の時である。刃が龍雄の陰茎と殖栗の上に押しあてられる。そして、久美子が持つ懐剣の刃はゆっくりと龍雄の男根に喰い込んでいく。
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投稿:2021.02.13更新:2021.06.14
白狐と黑蛇―儀式
著者 雛咲美保登&長谷福利 様 / アクセス 4819 / ♥ 17