天才少年Dr.
続・天才少年Dr.
ついに手に入れた! ついに手に入れた!
雨の日も風の日もお手伝いに励み、コツコツお小遣いを溜めて、『24時間持続バイアグラ』の特許を売り払った、血と汗と青酸化ポリゲマイドファニビコールの結晶!
黄金戦士ギンガクイーンの超合金プラモ!
光る! 回る! 喋る!
魔改造済みで鉛筆削りにもなる珠玉の一品だ!
股間の穴に突き入れると、アニメと同じ高笑いとともにチュイーンという音がして先端が尖っていくのがたまらない。
うっかりすでに4グロス(※1グロス=12ダース)ほど削ってしまってママに怒られてしまったが、それが気にならないほどボクは上機嫌だ。
最近のボクの発明は、教授のおかげで少しずつ商品化され、ボクにもお金が入るようになってきている。もともと、国立大学の研究室の機材は特別に無料で使わせて貰えることになっていたし、申請すれば予算も下りるのでかなりの自由もあったけど、自分で好きなように使えるお金があるというのは、また違った楽しみがある。
パパなんてプライドを捨ててボクの財布にたかりに来る。一度3遍回ってワンと言わせようとしたら、6遍回ってワンワン鳴いたので二倍くれと言い放った。
あまりの情けない姿に涙が出たので、ボクの実験につきあうことでバイト代を出そうとしたら、それだけは嫌だと断ったのが業腹だ。
教授なんてコーヒーに混ぜたCPFの原液を飲んだおかげで一生死ぬまで勃起の収まらない身体になってくれたというのに。まあ、事後承諾だったけどさ。
町を歩くときも、演壇に立つときも隠すことが出来ないほどテントを張ってしまうので困るという相談を受けて、一応光学迷彩パンツをプレゼントしておいた。股間まわりの空間を通る光をゆがめて、膨らみを目立たなくするアイテムだ。なかなか好評で、満員電車にさえ乗らなければ何とかなるらしい。銭湯にはいけなくなったがね、と言っていたので、今は耐水性のベルト型洗脳幻覚投影機を開発中だ。模様を見た人間は、そこにあるものが『普通』だと思い込んでしまうようにプログラムを組んでいるんだけど、コレがなかなか難しい。
試作機を教授に着けてもらったら、自分でその模様を見て暗示がかかり、パンツをはかないまま外に出て行った。町行く人も全員洗脳されて大きな問題にはならなかったんだけど、大学の監視カメラには裸で歩き回る教授が録画されていたし、カメラ越しだと洗脳効果はないようで、教授も後でそのビデオを見て頭を抱えていた。
ボクが教授といることが多いので、教授の孫のケンちゃんもよく遊びに来る。今は教授のひざの上に座ってお絵かき中だ。CPFのせいで教授のおちんちんがケンちゃんのお尻に刺さるようになり、座り心地が悪くなったと、ケンちゃんは非常にご立腹で、ボクもそのことについてだけは、非常に申し訳ないと思っている。
「クリスマスパーティ?」
ケンちゃんが色鉛筆を削りながら首をかしげた。他人がやっていると、結構オホホホうるさいな、コレ。大人に不人気だったのはこのせいか。
目の前の画用紙には笑顔のケンちゃんの家族が描かれている。ケンちゃんのパパとママはすっかり仲直りしたようで、今度弟か妹が産まれるそうだ。おじさんのバイブの電池が頻繁に切れるので、体熱充電式のバッテリーに換装して置いた。直腸に差し込んでおくだけで、勝手に体温で充電されるスグレモノだ。750年しか持たないけど、多分おじさんの寿命さえカバーできれば問題はないと思う。おばさんの要望で、リモコンはおばさんにしか操作できないようにしたので、おじさんの浮気はピタリと止んだらしい。毎日きちんとまっすぐに家に帰って来て、休みの日も、時々おもむろに変な声を上げる以外は家族サービスに余念がないそうだ。いい仕事するね、ボク。
「パパの弟がオーストラリアから帰って来るんだ。3年ぶりなんだって。だからそれにあわせてパーティをやろうって。ケンちゃんもおいでよ。みんなでさ」
「おーすとらりあ?」
「外国。日本の反対側だよ。今は夏なんだって」
「へー、シンちゃんのおじさんすごいんだね」
「時々写真とかチョコレートとか送ってくれてたよ。何かプレゼント用意しなきゃね。何が良いかなあ」
「ボクはチョコレートがいいな」
「チョコレートは叔父さん自分で買えるよ」
やっぱり、ボクじゃなきゃ作れないようなものじゃないと天才幼稚園児の名がすたる。チョコレート製造機くらいにしなきゃダメだな。
……でも、チョコレート製造機って、材料溶かして混ぜて固めるだけだよね? お店で売ってるのを溶かして固めなおすのと、どう違うのかイマイチ有り難味がない気がする。材料手に入らないと意味がないし。砂糖はともかく、カカオ? あれを丸ごと売ってるところって、ボク見たことない。
「そうじゃなあ、せっかく日本へ帰ってくるんじゃから、どうせなら和菓子とか、日本のものを食べたくなるだろうのう」
と、教授が言った。それもそうだ。それにクッキーやケーキの類なら、ママが用意するだろう。クリスマスパーティなんだし。
「……お饅頭とかお煎餅とか、羊羹とか?」
「うーん……ボクはチョコレートがいいな」
ケンちゃんが困った顔をしながら繰り返す。確かにちょっと地味……かも。
「チョコ饅頭とかチョコ煎餅とか、チョコ羊羹とか?」
今度は教授が困った顔をした。
「それはちょっとワシには許せんのう……」
「常識にとらわれちゃダメだよ、教授。発想は柔軟にいかないと」
「しかし、プレゼントなんじゃから、あまり冒険はせんほうがいいんではないかの? 懐かしい味なことが重要じゃよ」
「なるほど……」
しかし、教授のパソコンを借りて調べてみると、和菓子製造機って、意外とすでにある。かなりの工程が自動化されていて僕が発明する余地ってあんまりない。困った。
「大福餅。ワラビ餅。どら焼き。たい焼き。たこ焼き。焼き芋。練り梅」
教授に思いつく和菓子を挙げてもらうがピンとくるものがない。焼き芋製造機って、ただのオーブンじゃない? 練り梅製造機……ミキサー、だよね?
「おじいちゃん、たこ焼きってお菓子?」
ケンちゃんが首をひねった。
「お菓子、とは呼ばんかもしれんが……まあ、美味いならかまわんじゃろう。日本のものには違いないしの」
そうか、叔父さんは大人だから、別にお菓子にこだわらなくても、日本の食べ物ならなんでもいいのか。それを聞いて思いついた。
「じゃあお寿司でも作るようにしようか」
「おお、それなら外国帰りなら喜ぶじゃろうな。ちいと難しいかもしれんが、ママさんに味を見てもらえば、少々形がいびつでもなんとかなるじゃろう」
「おすし好きー」
教授とケンちゃんの両方の賛同が得られたので、僕は全自動寿司握り機を作ることに決めた。
「やっぱり手作りが一番だよね」
教授もニコニコしながら頷いている。
「ボクも食べるー」
「うん、みんなで食べよう」
機械さえ作ってしまえば、量産はたやすいもんね。
さっそくその日の晩御飯のとき、ボクは味見係として、教授のアドバイス通りにママの協力の約束を取り付けた。それを聞いてパパが言う。
「うっかり金玉握りつぶす機械なんて作るんじゃないぞ。生意気な奴だが俺の弟には変わりないしな。嫁さん貰う前にそんなことになるのはさすがに可哀想だ」
失礼な言い草にボクは怒った。馬鹿にされちゃ困る。タマタマを握りつぶす機械なんて絶対に作るもんか!
「そうかそうか。まあ下半身には関係ない物にしとけよ。お前にいじられると、ろくなことにならん」
なんという侮辱! ボクがいったい何をしたというんだ! まるでボクが他人に迷惑ばかりかけてるみたいじゃないか!
ボクはプリプリしながら研究室にこもり、絶対に寿司握り機を完成させてやると誓った。
こうして、ボクは地獄に足を踏み入れたのだった。
オーソドックスにトロをつくろうとして、いきなり躓いた。
材料のカッティングが、メチャメチャ難しい。CTスキャンを行って取得した画像を元に、マグロから骨と内臓を取り除き、三枚におろすまではなんとかなったが、その後の肉片を部位によって選別しながら、一口大の小片に切り分けるのを、プログラムに自動判定させることが出来ない。なによりボク自身、見ても違いが判らない。
数百匹のマグロが、粉々の砕片になり、キャットフードと化したのち、ボクはマグロはただのマグロと思い切ることにした。
しかし、ようやく完成したマグロスライサーを他の寿司ネタに応用しようとしても上手くいかない。サケ、サバ、サワラ、サンマ、イカ、タコ、タマゴ。魚型でも骨の太さや成分が違うし、使用する部位や解体法が異なれば同じ機械やプログラムでは処理できない。
仕方なく、投入したネタごとに別工程の加工を行うツールを作ったら、研究室が丸ごと埋まった。
そして、その機械を小型化しようとした時点で、無理があることに気づく。
材料のマグロの時点で、かなりの大きさがあるのだから、どう考えてもそれを加工する機械はそれより小さくはならない。そして成魚マグロの大きさを上回る機械は、気軽にクリスマスプレゼントとして渡せるようなシロモノではない。
切り身にしてから投入するならほとんどの工程が二度手間になるし、そんなことをするくらいなら正直自分の手で握ったほうが早い。
その上、パーツが小さくなればなるほど、部品ごとの耐久力が落ち、洗浄は難しくなり、食材、それも生魚を扱う機材として頻繁で専門的な整備が必要となっていく。
どんなアプローチをしても、叔父へのプレゼントとしては致命的に扱いづらいガラクタにしかならないのだ。
ボクは半泣きになりながら意地で研究室にひきこもった。
一ヶ月近く食事が寿司続きになっても、ママとパパは辛抱強くそれを食べ続けてくれたが、叔父さんの帰ってくる日が近づいて、ボクがどんどん顔色をドス黒くしていくのを見て、ついに研究の中断が二人から言い渡された。
その時ボクは、寿司を握るためだけに、6本の腕と50本の指を持つ板前アンドロイドを作り、なんとか滑らかな包丁捌きと手首の返しを再現しようとしていた。徹夜続きでフラフラになっていたボクは、ボクを捕獲しにやってきたパパたちに、試作機3〜8号を操作して抵抗し、通報で呼ばれた機動隊に制圧され、ママに抱きしめられてワンワン泣いた。
本当はわかってたんだ。
どう計算しても人間と同じように寿司を握る制御AIを構築するのは、期限までに間に合わないし、いくらボクの特許を売っても予算が足りない。
わかってたんだ。
いくら天才ともてはやされたって、ボクは叔父さんへのプレゼント一つ満足に作ることも出来ない役立たずの子供なんだ。
センサーに銃弾を受けて誤動作を始めた4号と7号が、機動隊員3名を拘束し、高周波包丁ブレードを使って3人のおちんちんとタマタマを解体して寿司もどきに変え食べさせたせいで、ボクのアンドロイドは危険だと全部破壊されてしまった。
ボクの研究室から運び出される残骸が、自衛隊の兵器処理場に送られ、廃棄されるのを引き止める気力も、もうボクにはなかった。
パーティの日、パパが空港に叔父さんを迎えに行き、サンタの格好をした叔父さんを連れ帰ってきた。夏の日差しに焼かれて真っ黒な肌をした叔父さんは、ノリノリで集まった子供達にプレゼントのお菓子を配りまわった。ツリーも置いて飾り付けたボクの家のリビングには、教授やケンちゃん、幼稚園の友達も集まっていて、叔父さんは大人気で囲まれている。
「オーッス、真一! 噂は聞いてるゾ! ちょっと会わないうちに大発明家になったらしいじゃないか!」
髪を明るく染めた叔父さんは、見た目はパパの色違いなのに、やたらと軽い人で、眺めていると物凄い違和感を感じた。
「そんな甥っ子にお土産ドン! カンガルーの玉袋で作った巾着袋だ! 大事なモノを入れるんだゾ! ヒヒヒ!」
いたずらっぽく白い歯を輝かせて笑う叔父さんと、隣でやる気なさそうにイヤーな顔をしている赤鼻と角をつけたパパのコンビが趣き深い。
ママが、リアクションに困っているボクの背中を押す。
「ほら真一。叔父さんとプレゼント交換しなさい」
ママが優しく声をかけるが、ボクは気が進まない。
「おう? 俺にプレゼント? マジでマジで? そいつぁグレイト! 嬉しいねえ! この叔父サンタに何をくれんだい? フッフッフッ、俺は違いのわかる男だから、満足させるのは難しいぜぇ〜」
ボクはママに預けていた平たい金属の箱を、おずおずと差し出した。
「ごめんね、叔父さん。ボク、時間がなくて、これしか用意できなかったんだ」
叔父さんは受け取った箱の蓋を開けて中をのぞく。
「ん? 空っぽ? なんじゃこら。弁当箱?」
箱の中からプラスチックのサカナ醤油入れをつまみ上げ、叔父さんは首をかしげた。
言い渋るボクを、パパとママが両側から催促して説明をさせる。
「それはね、焼きおにぎりを作る道具なんだ。そこへお米と水を入れて……」
「あー、なるほど。これで焼くのな」
ボクは実演がてらカップで計ったお米と水を入れて蓋を閉じ、ボタンを押す。
「ほんとうはもっと凝ったつくりにしたかったんだけど、これしか出来なくて」
正直言って、屈辱のグレードダウンだ。ボクは簡単に、米の炊き上げの仕組みと成型、醤油を塗って焼き目をつける工程を説明した。
「まあ、そんな感じで1分待つと出来上がるんだけど」
レンジと同じ完成音がなったので蓋を開けると、そこには三角山のおにぎりが三つ、均等に焼き色をつけて、香ばしい醤油ダレの匂いをさせていた。
叔父さんはコメントに困ったのか、固まったような感じで、それを見つめる。
「え……ナニコレ……ちょっと引くくらいスゲェんだけど。ってか速くね? 米って一分で炊けないよ? ね?」
「うん。時間を加速させるのはちょっと難しい」
「マジでいつもこんなん作ってんの?」
ボクは首を横に振った。
「それは正直、あんまり気に入ってない。手抜き」
「そんなこと言わないの。一生懸命叔父さんの為に作ったでしょ」
ママがボクの肩を叩く。絶句している叔父さんの横でパパが咳払いした。
「あー、これの一つ前でちょっと失敗してな。落ち込んでやがんだ。うん。俺はこっちの方がよっぽど平和で便利だと思うんだが」
「そ、そーなんか。そーか。いやースゲエよ? オジサンタびっくり。ってかビビるわ。目が点になったし。俺バカだから難しいことはよくわからんけども」
叔父さんは引きつった顔で、ちょっと白々しい感じに褒めつつ、湯気を立てる焼きおにぎりを掴んで齧り付いた。
「おお! 美味い! いいな! 日本帰ってきた気がするわコレ!」
その感想は、本気で言っている感じだったので、ボクは少し安心した。叔父さんはペロリと三つとも平らげたので、ボクは機嫌がよくなる。
「他にもいろいろ研究してんのか?」
少し気が乗っていたボクは、最近学会に提出した論文の話をした。
「テレポートマシンとか作ってるよ。距離はまだ半径10kmくらいまでしか届かないんだけど」
「テレポートって瞬間移動? ナニその漢のロマン! 人間とか送れんの?」
「うん。ママが最近急いで買い物に行くときとかに使ってる」
パパと叔父さんがビックリした顔でママの顔を見つめた。
「思ったより実用化されてる!? しかも結構お手軽な感じで」
「ちょ、待て、危険はないのか」
パパは相変わらずボクのことを信用していない。
「ちゃんと動物実験もやったよ。ベスもタマ子も元気してるでしょ」
近所のペットの名前を挙げると、パパは顔をしかめ、叔父さんは目を輝かせた。
「俺もやりたいやりたい! 人体実験2号希望!」
「おい止めとけ、悪いことは言わんから」
「義姉さん無事なら、俺だって大丈夫だって! こんなロマンが体験できるなら、爆発したって文句は言わんよ」
ここまで実験に乗り気になってくれる人も最近いなかったので、ボクはキッチンの冷蔵庫の隣に設置したテレポーターに叔父さんを案内した。
「そんなところに!?」
パパが愕然とした顔で叫ぶ。
教授も興味を引かれたのか一緒に付いてくる。二人で理論の話をしながら叔父さんを台の上に立たせ、転送場所を設定する。
「じゃあちょっとコレ持っててくれ」
叔父さんがパパに持っていた荷物を渡す。
「戻るときは歩きだから、あんまり遠くに飛ばさないよ。帰ってこれないし」
パーティー途中だもんね。
「うんうん。移動したってわかるトコでいい」
「じゃあ、家の前の公園で」
「よしきた」
ワクワクしている叔父さんに声をかけてスイッチを入れる。ぼんやりと叔父さんの全身が光り、次の瞬間、ボクたちの目の前で、叔父さんの姿は消滅した。
ぽてり、と音がして、何かが落ちる。
転送を終えたテレポーターの上になにやら肌色の物体が転がっていた。丸くて黒い毛が生えててふにふにで、拳大の肉の塊に見えなくもない。ぶっちゃけて言うと、おちんちんっぽい。なんか残ってる。
「ヨ、ヨシフミ……」
パパが両目を押さえて叔父さんの名前を呼んだ。哀れむというか悼むというか、なんかそんなカンジ。
「こ、これは……」
教授も絶句して、ナニを見つめる。
叔父さんのモノにしては色が薄くて、パパと大差ないように思うんだけれども、まあよく考えればパンツの中まで日焼けはしないか。
「なんでだろ……人間のデータ解析モデルにママの身体しか使ってなかったからかな」
ふと思えば、ベスもタマ子もメスだった気がする。
「……つまり、ママさんの身体についとらんものは転送されんかったと?」
その瞬間、間抜けな着メロと共にパパのケータイが震えて、みんながビクッとした。
恐る恐る通話にしたパパの耳に、叔父さんの絶叫が響き渡る。
「スゲー!! 成功したぜ! ウホーーッ!」
パパだけでなく、その場にいる全員に嬉しそうな声が届いた。
「だ、大丈夫なのか、義文」
「おう兄貴。今公園のベンチの上だ。急に出てきたから、道端のオッチャンが腰抜かしちまった。心臓とまんねえといいけどな。イエーーーー!」
いつも陽気な叔父さんの声は輪をかけて物凄くハイテンションだ。
「お前の方はどうなんだ。その、スプラッタなことには……」
「心配しなくても、手も足も千切れちゃいねえよ。むしろ絶好調だ。なんか身体が軽くなった気がする」
全員が顔をしかめた。
「寒ッ。日本寒いな。すぐそっち戻る。拍手で迎えてくれ」
「う、うむ……」
通話が切れた後、口を開くのが少し躊躇われた。
「……気づいておらんようじゃの」
「確かに中を覗こうと思わなかったら、わからないのかも……そういうものかしら?」
「お、俺に聞くな」
「出血したりはしておらんのか。その……切れたら」
パパがこわごわと拾い、つまみ上げてひっくり返す。サオとフクロがぶらんと垂れ下がり、ピンク色の断面が見えるが、血管は潰れていて、何故か血が流れる様子は、ない。切り株の方もこうなっているなら、失血死の心配はなさそうだ。
「ただいま参上! オジサンタ、無事帰還!」
勢いよく扉を開けて叔父さんが戻ってきた。パパが持っていたおちんちんを急いで近くにあった箱の中に投げ込んで隠す。
子供達が拍手で迎える中、叔父さんは、笑顔で手を振る。ボクと大人組の視線は叔父さんの股間に集中したが、濃い赤のサンタ服では出血しているかどうかわからなかった。染みは出来ていないようだが、膨らみも見えない。
「スゲエな、兄貴! お前の息子は天才だ!」
バンバンと背中を叩かれ、パパは引きつった笑いを浮かべる。
そのとき、チーンと音がした。
「お、第二段か。どれどれ」
叔父さんがテーブルに置いてあった焼きおにぎり機の蓋を開いた。そこにはホカホカと湯気を立てて、醤油ダレの香ばしい匂いを立てる、こんがり焼けたおちんちんが……
って、ちょっとパパ、なにやってんの!! よりによって隠す場所そこか!
叔父さんが呆然と、なにかと見覚えのあるだろう物体っぽいモノを見つめている間に、ボクは急いで教授の腰に巻いていたベルトを引き抜き、叔父さんの持っている箱に巻きつけた。
叔父さんはあっけに取られたように目をパチクリさせた後、笑いながら手を伸ばす。
「おー、やっぱり美味そうな『焼きおにぎり』だなー。どれもう一つ」
ボクは急いで、箱ごと取り上げた。身体の後ろに回して隠す。
「ダメだよ。これはボクの分。だってさっき食べられなかったんだもん」
叔父さんは軽く頷いて納得し、手を引っ込めた。
「そかそか。じゃあしょうがねえな。他のを貰うか。確か義姉さんは毎年チキンフライを……」
テーブルを物色して食べ物を探す叔父さんにママが隣を指差す。
「ええ、用意してるわよ。そっちのカウンターに……」
「おお、この皿じゃな? なかなか美味そうに出来ておるぞ!」
教授が皿を取って急いで叔父さんに手渡す。叔父さんは、お礼を言って受け取りながら、教授の股間に目をやった。
「アンタ、ハッスル爺さんだな。俺もその元気さにあやかりたいもんだ」
「そ、そうじゃの。ハ、ハハハ……」
チキンにかじりつきながら教授と肩を組んで子供達の方に向かう叔父さんを見ながら、ボクはパパにこっそり話しかけた。
「後で叔父さん捕まえてこのベルト腰に巻くから手伝って」
「……わかった。トイレ行く前に捕まえねえとな」
洗脳ベルト着けさせておけば、我が家のトイレは座ってオシッコする決まりがありますとか、ママに言って貰えばしばらくは何とかなるだろう。多分。
テレポーターには女性専用の張り紙が貼られた。
-
投稿:2012.12.16更新:2012.12.16
新・天才少年Dr.
著者 自称清純派 様 / アクセス 8839 / ♥ 2