最近パパは調子に乗っている。ボクの論文が物理学の分野で評価されてT賞を取ったからって、自分の事でもないのにずいぶん偉そうだ。いっぱしの評論家気取りで子供の教育についてなんか語っちゃってるけど、ちゃんちゃらおかしいね。別にパパは何もしてくれたワケじゃないし。っていうかボクが小さい頃、いたの? っていうくらい記憶にないし。
この前なんか、ボクがお風呂に入ってるとき、波状に揺れる水面に浮かんでいるアヒルの横方向への振動の幅を計算しようとしていたら、それを横目に「まだまだガキだな」と鼻で笑ったんだ。ムカつく!
ボクが睨みつけると、何を思ったのか自慢気にふんぞり返って、おちんちんをこれみよがしにぶらぶら見せ付けてきた。5才の幼稚園児より大きいことがそんなに嬉しいのか?
だからボクは、パパを懲らしめてやることにしたんだ。
とはいうものの、109cm20kgのボクの体格では、いくら運動不足でたるんでるからって、42才のオッサンと正面から殴り合っても絶対勝てない。だからボクはパパが寝てる間に行動を起こすことにした。
前からちょうど試してみたい研究があったんだけど、なかなか動物実験まで踏みきれなかったんだ。失敗したらかわいそうだしね。科学の発展のためには必要な犠牲だってわかってるんだけど、何も知らない小さな子達を苛めるのはフェアじゃないよね。その点パパなら…うん、問題ない。
今回の実験で使用するのは、貯金箱を改造して作ったこのタイムカプセル。中に入れた物を時間を遡って過去の状態に戻す、若奥様もビックリの大発明だ。中に密閉した物体(ツノの折れたハイテクマン人形)を昔の状態に戻すのはすでに成功している。今回の実験のミソは、一部分だけを過去の状態に遡らせるといったいどうなるかだ。ふっふっふっ、気になるよね? 気になるよね〜?
ということで記録の為にビデオカメラをセット。真昼間からグウタラ、リビングで大の字になって寝ているパパのパンツをひっぺがす。なにやら寝言で「ダメだよ〜」とやけに楽しそうにママの名前を呼んでたけど、なんでママだと思ったんだろう。ま、いいや。
今のうちに実験前の大きさを測定。使用器具はママに買ってもらったモンキーマウス物差し(シュールで大人気!)。
結果は横35mm、縦82mm。ん? ボクのブリタニカには日本人の平均は13〜14cmって載ってるけど…引っ張るデータを間違えたかな? それともパパが小さい人? まあこの辺のデータは計測値が変化するわけじゃないし、あとで確認すればいいよね。
ダラダラやってるとパパが目を覚ましちゃうので、手早く済ませよう。パパのおちんちんを蓋をとったタイムカプセルの中に突っ込んで、ちょっと考えた後、タマタマの方も一緒に押し込む。そして、カメラに向かってピースサイン。で、スイッチオン。
かかる時間は三分ほどなので、ボクは東京大学付属幼稚園園歌を三番まで歌って待った。ピロリロリン。ちょうど歌がクライマックスに差し掛かったところで終了の合図。でも一応、リフレインまで歌いきる。よし。
カポッとカプセルを股間から外すと、そこには40年前のパパのおちんちんがちょこんとついていた。当時の年齢でいうと、2才。ぷぷぷ、か〜わいい〜。
今回の実験の主な目的である根元の方をしっかり確認する。皮膚組織の断裂はないみたい。内部は解剖しなきゃわからないけど、それはさすがにまずい。ただ、別にパパが痛がってる様子はなく、相変わらず大いびきかいて寝ているので多分大丈夫。カプセルに入った部分と外側との境目は、よく見なければわからないほど自然につながっている。これは期待以上の大成功だね。おそらく解放面から放出された電子が本来密閉空間にとどまるべき状態から距離に反比例するt=n√f-πrの範囲に…って仮説の組み立ては後でもできる。今は結果の観測をしなきゃ。
再びモンキーマウス君にパパのおちんちんを測定してもらう。横11mm、縦28mm。ボクはニヤニヤしながらビデオカメラでアップにして測定した。明日教授とケンちゃんに見せよーっと。
実験の片付けに入った段階でボクはちょっと困った。うーん、寝ているパパにパンツをはかせるのは難しいな。とりあえず足を通して、引っ張りあげてみるけれど、お尻を上げてもらわないとずれたままだ。しばらくあーでもないこーでもないとつつきまわしていると、うっかりお尻の穴を指で突いたときに、「アンッ」と変な声を上げてパパの腰が上がった。もう一度つついて見る。「アッ」再現率は高いみたいだ。聞いたことないけど、どういう反射反応だろう。今度医学部のチイ先生に聞いてみることにして、ボクは目下の問題の解決に取り掛かった。
パパの右ひざを立てる。下からボクの左手を通す。パンツのゴムをつかんで待機。右手はピストルの構え。狙いはお尻の穴。ズキューン。「ひァンッ」すかさず左手で引っ張る。ストン。完璧。我ながら惚れ惚れする出来ばえだ。
ボクは収穫したデータを部屋に持って帰って、ホクホクしながらまとめた。
夕方。ボクの家のトイレで既存の発音記号で表現しがたい微妙な叫び声が上がった。ボクはママがピーマンを刻んでハンバーグに混ぜようとするのを断固阻止しようと戦っていたので、パパが起きたのに気がつかなかった。
「あなた、どうしたの?」
ママがトイレに向かって声をかけたけど返事がない。ママが首をかしげていると、トイレのドアが開いて顔を真っ赤にしたパパが飛び出してきた。きょろきょろとあたりを見回して、ふとボクの方に目を止めると一直線にボクの方へ向かってくる。やばい。もうばれた。逃げようとしたが間に合わなかった。
「ちょっと、ちょっと。何があったのよ」
ママの声に答えず、パパはボクの首根っこをひょいとつかむと、ボクは実験室(防音)に連行された。
「お前なにやった」
扉を閉めるなりパパは聞いてきた。
「なんのこと?」
ボクがやったという証拠はないはずだ。
「とぼけるな! 俺のチンチンに何やったんだ!」
「おちんちんどうかしたの?」
「これだよこれ!」
パパはパンツを膝まで下ろした。おへその下まで毛むくじゃらで浅黒いちょっと薄汚い感じの肌に、ぷるるん、ときれいなピンク色のちっちゃなおちんちんがくっついている。改めて見ると笑える光景だ。ボクはゲラゲラ笑った。
「どうしたのパパ。ボクのよりちっちゃくなってるじゃない」
パパの顔色は赤を通り越して紫色になった。ゴチン、と頭に拳骨を食らう。いった…暴力反対! バカになったらどうするんだ!
「ボクじゃないよ、何もしてないもん」
最後の抵抗を試みる。
「いいかげんにしろ! お前以外に誰がこんなことやるんだ!」
まあ、そう言われると確かにね。ボク以外にこんなことが出来る人っていないんだけどね。あーあ、天才って損だな。なんでもボクのせいにされちゃう。(ま、実際ボクなんだけど)
しょうがないので白状した。ボクの作った貯金箱型タイムカプセルと、理論を計算式にまとめた表、そして実験の計測値グラフを見せて説明する。パパは理解したフリをしながらしばらくイライラと聞いていたけれど、最終的にボクの研究発表をさえぎって質問した。(チョー失礼!)
「で、どうやったら元に戻るんだ?」
「元には戻らないよ。話聞いてなかったの?」
パパの顔色は今度は青白くなった。
「な、何かあるだろう、何か」
「ないよ。描いた絵を消しゴムで消したら、紙は絵を書く前の状態に戻るけど、それをもう一度絵を描いてある状態にするのは無理でしょ? もう一度同じ絵を最初から描き直すことは出来るけど、それって厳密には同じ物ではないよね」
「そ、そんな…」
パパはフリチンのままペタンと床に座り込むと、ベソベソと泣き始める。ボクはさすがにかわいそうになって慰めた。
「そのおちんちんもかわいいよ?」
「『かわいい』チンチンなんてついてて『誰が』喜ぶんだ!」
「…ママ?」
「んなワケねえだろ! バカヤロウ! 離婚されちまうっつの!」
「40年たったらまたおっきくなると思うよ」
「遅いわ! 戻せ! 今すぐ戻せ!」
おちんちんが子供になったら頭の方まで退行したのか、赤ん坊みたいに駄々をこねる。パパの脳ミソおちんちんについてたんじゃないだろーな。
「放射する素粒子の電荷を逆にすれば時の流れを加速させることは可能だけど…」
パパは敏感に反応した。
「戻るのか!」
「戻るのとはちょっと違うよ。ただ、さっきの例えで言うと最初から絵を描き直すスピードが上がるの。浦島太郎の玉手箱みたいな感じかな。おちんちんだけ40年先に年をとるんだ。割れた茶碗の時間を巻き戻したら、茶碗は割れる前の形に戻る。でもその後いくら時間を進めても、また同じように割れるわけじゃない。ただ、時間が進んだ分、古くなるだけ。言ってる意味わかる?」
「ほっとけば成長するものならまたデカくなるんだな?」
「前と全く同じ形になるわけじゃないけど。普通に成長すると思うよ。多分」
「…また包茎手術か…まあいい、贅沢は言わん。それでいいからすぐに戻せ」
「機械を作り直さなきゃ…」
「どれくらいかかる?」
「一週間くらいかな」
ボクはいろいろと頭の中で計算した。パパは苦いものをなめたみたいな顔をしたけど、最終的には納得したみたいだ。食卓に戻るとママが心配そうな顔で待っていた。
「またいたずらしたのね?」
「…ごめんなさい」
ママを怒らせるとパパの何百倍も怖いので神妙に謝っておく。
「いったい何をやったの?」
「パパの…ムグ…」
後ろからパパに口を塞がれた。
「それはもう、話がついたからいいんだ」
「なら、いいけど。二人とも手を洗ってらっしゃい。ハンバーグ焼けたわよ」
「はーい」
ちぇっ、ピーマン入っちゃったんだろうな。トホホ。
まあ、これはこれでひとつの意義ある研究なので、ボクは一週間頑張った。だって大っぴらに正面きって人体実験が出来る機会なんて滅多にないよ。研究資金もいつになく太っ腹に言い値で手に入ったので、こっそりスペースレンジャーカードも手に入れた。ボクは幸せだなぁ…
パパのほうは結構大変だったようだ。一度、おしっこしようとしてズボンにひっかけてしまい、ママに内緒で自分で洗濯していた。「テメエのせいで立ちションが出来なくなっちまったじゃねえかよ」と、恨みがましい声で言われた。ゴメンなさい。
とにかくパパは一週間、特にママから隠れてコソコソしていた。いつもはリビングでゴロゴロしているのに、ボクの研究室に入り浸って、わかりもしないデータをずっと眺めていた。おちんちんを小さくしたときの映像が見つかったときは、散々にわめいた。研究の邪魔をするなら出てってよ、と言ったら、おとなしく黙ったけど。
とにかく完成。タイムカプセルマーク2だ。パパに見せると、ほっとした表情で喜んだ。さっそく実験に入る。
パパに裸で椅子に座ってもらい、足を大きく開いてもらう。で、ビデオカメラをセット。そしたらまた文句が出た。
「待て、なにやってるんだ」
「何ってカメラの準備」
「んなもん、見りゃわかる。撮るんじゃねえよ、バカ」
また、わけのわからないことを言い出した。実験の正確な記録をつけないでいったいどうするの。
「だってデータはちゃんと残しておかないと発表できないよ」
「ふざけんな! 残すなそんなもん! 発表なんかされてたまるか!」
『ボクの研究』を『発表するな』だって!? いくら父親でもそんな横暴ってないよ! ボクはしばらくパパと言い争った。
結局、撮影はするものの映像については非公開ということで話は決まった。ただし、教授(とケンちゃん)だけには見せる許可を取り付けた。パパの顔色はどす黒くなっていたけど、そこはボクも譲れないラインだ。実験をやめることをほのめかしたら、しぶしぶ承知した。
気を取り直してカメラの準備をする。パパは顔を真っ赤にしながら座っていた。カメラのほうに顔をうつさないように不自然に首をそむけている。近くに近寄ると、「俺は変態じゃねえ俺は変態じゃねえ」と何度もボソボソ繰り返す声が聞こえてきた。
もう一度モンキーマウス君で大きさを測定する。横12mm、縦35mm。ん、前のデータと違うな。まあ、今ピコンと立ってるからな。しょうがない。パパにそのことを指摘すると、消え入りそうな声で「もう勘弁してくれ」と言われた。そんなに恥ずかしいもんかね?
タイムカプセルマーク2をおちんちんにかぶせてテープで止めると、ようやく少しリラックスできたようだった。大きく溜息をついて脱力する。ボクは電源コードを繋ぐと、ダイヤルを回した。電圧の設定をしていると、パパから「早送りする時間の調節は出来るのか?」と質問が出た。パパにしては良い着眼点だね。
「できるよ、今40年に設定してるだけで、1時間でも、100年でも。秒単位はさすがに誤差が設定値を上回っちゃうけどね」
「15年にしてくれ」
妙な注文が出た。なんなの、その中途半端な数字。
「40年じゃなくていいの?」
「あー…一気に40年進めてうまくいくかどうかわからんだろう。一度15年で様子を見てだな…」
なぜ15年なのかという答えは帰ってこなかったけど、言ってる内容についてはもっともなので従う。
よし、スイッチオン! ぽちっとな、とパパが言った。
二人でワクワクしながら終了の合図を待つ。ボクはまた鼻歌で園歌を歌いながらモニタに表示される数値をチェックした。ふと、作業机の上に視線が移る。
何このネジ。
ぷしゅるるる、と気の抜けた音がして、後ろでパパの悲鳴が響いた。
…ま、失敗は成功の元って言うよね。
ドンマイ!
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投稿:2010.01.23
天才少年Dr.
著者 自称清純派 様 / アクセス 13726 / ♥ 5