戦士と鏡(2)~化生と化粧はこちら
これは今から500年以上前の話である。
狩猟と農業で生活する少数民族のセヌ族に、姓はマ、名をミホと言う将来有望な戦士がいた。
まだ14歳で本当は戦場に出る年ではないのだが、剣術では大人でもかなう者がなく、周辺の部族との戦いがある時は特別に参加を許され、今までにも数々の武功をたてていた。
まだ幼さを残しながらも美男子で、女の子たちの人気も高い。
しかし彼には相思相愛で既に末を誓った恋人がいた。
セヌの族長の娘で一つ年下のユカであった。
将来は二人が結婚し、族長の跡取りになってほしいと皆が期待していた。
しかしこのブルブラの地では最強と称えられたセヌ族にも悩みの種があった。
近年砂漠の向こうから勢力を広げてきたカン族の国のことであった。
ミホは久しぶりに友人のタクと会っていた。
「おいミホ。そのうちにカン族と一戦交えることになるのかな」
「タク・・・」
ミホが答えた。
「ブルブラの地は千年も前から、俺たちセヌ族や他の部族のブルブラの民が住んでいる。よその部族に手は出させない」
「カン族はミンとかいう名前の国を名乗るほど大きいし強い。俺たちは国とはとてもいえない部族に過ぎん。近隣のウンナン全部を束ねても戦士の数はおそらく1割にも満たない。奴らと戦う前に配下に入る手もある
「タク、そんななさけない真似ができるか。みんな納得しない」
「普通は捕虜は死罪なんだけどな」
「死罪なら俺たちだってやっている。先日も山賊3人がそこの山で首をはねられた」
「カン族の処刑はそんな簡単なものじゃないらしい。ヨウザンと言って首じゃなくて胴体を真っ二つにするんだ」
「ただの捕虜にその仕打ちか。残酷なやつらだな」
「犯罪者にはもっと残酷な刑罰がある。リョウチと言って手足を一本づつ順番に切り落としていくそうだ」
「タクはそんな部族に支配された国に住みたいのか」
「そういうわけじゃない。しかしなあ、カン族は戦争で捕虜にした兵士がまだ役に立つ場合は生かしておく代わりに変なことさせるらしいぜ」
「変なことって?」
「アレをちょん切っちゃうらしいぞ。そして族長の屋敷の下働きとして使うらしい」
「アレ?」
「これさ」
と言って、タクはミホの股間を触った。
「そんなことしてどうすんだよ」
ミホはびっくりして聞いた。
「カン族の王の屋敷ってのはさ、1日かけて歩いても全部回りきれないくらい広いらしいぜ。そこに王の妾だけで百人、王宮に仕える女は何千人もいてさ、アレをちょんぎられた男は、女みたいになってカンガンと呼ばれるらしいけど、それがやっぱり千人以上いて、女どもの世話をしているって」
「妾の世話は男だと危ないってことか。じゃあ女を使えばいいじゃないか」
「よくわからん。きっとカン族の昔からの趣味なんだろうな」
「お前、そんな話どこから聞いたんだ?」
「噂だよ、噂」タクはよくこういった噂を聞いてくる。
こで話を仕入れているのか。
しかし一般に風評と言うのは大袈裟に伝わることが多いので、ミホはあまり気にしないことにした。
ミホは「じゃあな」と言ってタクに別れを告げ、約束の場所へ向かった。
村外れの丘の上に大きな岩があって、その裏にお花畑がある。
「ユカ!」
「ミホ!」
2人はしばし抱き合った。
そこが2人のいつものデートの場所であった。
「予定通り戻って来たのね」
「もちろんだよ。ユカに会わないといけないからね」
ミホはここ半月ほど族長の名代として周辺の部族の村を視察して回っていた。
満月の晩に帰ってくる予定だったので、その夜ここで会おうと約束していたのである。
「プレゼントがあるんだよ」
ミホはユカに金色に光る腕飾りを渡した。
「すごい。きれい」
ミホはユカと夜遅くまで語らい、熱い口づけをして別れた。
まだ2人はからだの関係は持っていない。それは自分が16歳になって正式の戦士としての年齢に達した時だとミホは決めていた。
ミホはまた翌日から周辺の村の視察に出かけた。
族長も、族長の弟も自らここ2~3ヶ月あちこち回っている。あちこちの村のはそれぞれもめごとがあり、それを納める必要もあったのだが、やはりカン族の動向が気になっていたし、その情報収集も怠らなかった。
カン族は東から攻めて来そうに思えた。東は平坦で大軍を動かしやすいからである。
ブルブラに限らずウンナン一帯の種族は、山岳での一対一の剣による戦いが得意で、大軍同士の戦いには慣れていない。
そこでブルブラの民はみんなで共同で東側に少し戦力を配置しようという話がまとまりつつあった。
ミホは今日は南方のマカダ村に来ていた。ここからも何人か東側の防衛線に人数を出してもらわなければならない。
ミホはマカダの村長と話をした。しかしマカダは遠い東側まで人を派遣するのには難色を示した。
これは族長自ら来てもらって交渉してもらわなければならないことになりそうだ。
そう思いながら、ミホは取り敢えずその晩、その村に泊めてもらった。
それは突然の出来事であった。大きな騒音にミホは飛び起きる。
「敵襲だ!」 騒音の中からそんな声が響いてきた。
「なに?。この村には特に争っている村は無かったはずだが。」
怪訝に思いつつもミホはすぐに近くに置いていた武器を取り、泊めてもらっていた家の主のところに行った。
「どうしました?」
「分からない。ひょっとしたらカン族かも」
「そんなばかな」
カン族がどうやったら、いきなりこの村を襲えるのだろうか。マカダは南側を山脈に守られている。
確かにその山を越えればカン族と友好関係にあるシギ族の勢力地だが、あの山を越えるのは大変なはずである。
とにかくもミホは家を飛び出し、戦いの中に参加した。
真夜中のことで、状況は混乱しているようだった。あちこちで火の手が上がる。かなり放火されているらしい。
弓矢が飛んでくる。これがカン族の武器だ。
ミホはこういう卑怯な武器が嫌いである。戦いは剣や槍で一対一でやるべきものなのに。
近くでマカダの村長の息子が苦戦しているのを見た。
ミホは駆け寄って相手を一刀のもとに倒した。
「ありがとう」
村長の息子はお礼を言って、ミホが貸した手を頼りに立ち上がろうとしたが、次の瞬間「危ない!」と叫んだ。
ハッとして振り向いた時には顔面に激しい衝撃が来ていた。
一瞬の油断であった。ミホは失神した。
気が付いた時、ミホは手足をしっかりした縄で縛られていた。
口にはさるぐつわを噛まされている。
ミホは自分が捕虜にされたことを知った。恥ずかしい。
戦死ならまだしも捕虜にされるとは。ミホ悔しさで涙があふれた。
ガタガタ乗せられた車が揺れている。馬車だろうか。寒い。なぜこんなに。しばらく考えている内に、ここがマカダの南方の山の上であることを感じ取った。やはり彼らは山を越えて来たのである。
しかしなぜわざわざ。自分なら川を越えれば済むだけの東から絶対攻め込むと思ったのだが。
捕虜を乗せた馬車は経験したことがないほど大きく、見回すと、車の中で捕らわれているのは男女10人くらいのようである。
監視の兵が2人座っている。そもそも監視がいなくても、こう雁字搦めめに縛られていては脱出は不可能と思えた。
こうなったら、これをいい機会にカン族の国を偵察してきてやろう。そして隙を見て逃げ出せばよい。
それにしてもこんな大きな馬車が通れる道をいつのまに作ったのだろう。ミホは奇襲された理由がちょっと分ったような気がした。
馬車はまる1昼夜走り続けた。腹もすいた。
監視の兵士は1日に2回ちゃんとご飯を食べているが、むろん捕虜の自分たちには何もなかった。
やがて、外の空気が暖かくなってきた。平地についたのでろう。
そこから更に車は走り続け、やがて賑やかな音のする所に到着した。
「降ろせ」
誰かが命令に来た。むろんミホたちは手足をしばられているから身動きできない。頭と足を持たれて外に文字通り投げ出された。痛い。
そこは広い野原のようであった。遠くになにやら大きな建物がある。
あんな巨大な建物は見たことがなかった。ひょっとしたらあれがカン族の王の屋敷だろうか。
外に出されて見回すと、全部で100人くらい捕虜になっているのが分かった。捕虜の中に見知った顔もあるが、子供や老人はいない。
逃げていればいいが、子供と老人だけ逃げれるだろうか。他の以外の村人はみんな殺されてしまったかも知れない。
女がほとんどだが男も9人いる。男の捕虜はなぜか全員若者、せいぜい成人式を終えたぐらいの者ばかりだ。
その内、立派な服を着た男がやってきた。みんなにチリと呼ばれていた。
チリは捕虜たちを一瞥すると「女たちは後宮に連れて行け」と言った。
ミホはタクの話を思い出した。
若くて顔のいいものは王の一族や有力者の妾にされ、そうでないものは下働きにされるのだろう。
しかし危険なことはないだろう。ミミは彼女らの幸運を祈った。
9人の男たちが残った。チリはその一人一人をじっと見定めていた。その中からある青年を選んで兵士に命じて、縛ったまま近くに立っていた高い木柱のもとに連れていった。彼はあの村長の息子のケイだ。
兵士は縄に縛られたままのケイの服をビリビリに破って、ケイを素っ裸にした。アソコも丸出しになったが、女たちは幸い連れて行かれた後だ。
そのままケイは、高い柱に手足を厳重に縛り付けられた。
チリは大きな刀を抜くと、まずケイの左右の上腕の肉を削いだ。続いて太腿も肉も削ぎ落された。続いて胸の肉が抉られた。
ケイは悲鳴を上げたが、筋肉を削ぎ落されていて、身体が全く動かない。それを確かめた兵士は、ケイの手足の縄をを解いた。ケイは腰と首の縄だけで柱に繋がれている状態になったが、何もすることができない。
兵士がケイの両脚を持って股を拡げると、チリは自分の持っていた小刀で、ケイの股間のイチモツを切り落とした。
続いて、ケイの耳と鼻が削がれ、指が一本づつ切り落とされていく。
これがタクが言っていたリョウチなのか。あれは罪人の処刑ではなかったのか。
なぜケイがリョウチにされたのかはわからないが、おそらく村長の息子なので指揮官だと思われたのではないだろうか。
そういえばマカダの村は、カン族の国から忍び込んだ間者を斬首したことがあると聞いた。その復讐だろうか。
ケイは、血と肉の塊になって絶命した。
縄で厳重に縛られながらケイの処刑を凝視していた8人の捕虜のところにチリが近づいてきた。
先ほどとは違い、捕虜の顏だけを念入りに観察している。
チリは最後にニヤリと笑うと、傍らの兵士に、「あいつとこいつとこれとそれ」と指示した。
8人の中から4人が縛られたまま持ち上げられ、少し地面が高くなっている畝のようなところに、仰向けに並べられた。
ミミは運ばれずにそのまま残された。
畝の両側には木の杭が打ち込まれていて、4人は胸の縄と足首の縄をその杭に縛り付けた。
4人が縛られるとチリはここが邪魔だとか言いながら、4人の股間部から胸にあたる部分の衣服を、全て引き裂いた。縛られたままの4人の若い性器がぴょこんと顔を出した。
「これも邪魔だ」
チリはそう言って先ほどの小刀を取り出し、若芽のイチモツを次々と切り落としていった。
4人の悲鳴が響いた。
それが合図であるかのように、別の兵士が巨大な斧を持って来て、仰向けに寝かされた1人の捕虜の腹部あたりに振り下ろした。捕虜の身体は真っ二つになり、内臓が飛び散った。一瞬の出来事に犠牲になった捕虜の悲鳴も上がらなかった。
これがタクの言っていたヨウザンかと、ミホはようやく理解した。
この凄惨な光景が4回行われると、地面は血と内臓で真っ赤に染まっていた。
「残りの者はケショウインに連れて行け」
チリはそう言った。
ミホたちはそれを聞きながら、ケショウインってなんだろうかと思った。
「上玉が揃ったな」
ミホはチリが最後に言った不思議な言葉が、いつまでも印象に残った。
このときミホは、タクが言ったカンガンの話をすっかり忘れていた。
(つづく)
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投稿:2022.01.02更新:2022.05.31
戦士と鏡(1)~奇襲と捕虜
著者 Scavenger's daughter 様 / アクセス 18136 / ♥ 199