戦士と鏡(1)~奇襲と捕虜はこちら
ミホはやっと足の縄を切られ、自分で歩けるようになった。しかし両腕は背中で縛られたままだ。その上大勢の兵士に囲まれていて逃げる隙はない。
5人がリョウチやヨウザンで処刑され、結局生き残った男は4人であった。みんな若い兵士ばかりで、不思議と容姿が整ったいわゆる美男子が多い。ミホは美男子というより美少年という感じであったが、4人の中で一番若いのだから当然であろう。
目の前で同じような年頃の仲間の凄惨な処刑を見せられた彼らは、お互いに自分たちの運命はどうなるのだろうと不安な顔を見合わせていた。
歩いているうちにミホは、自分の認識の誤りにひとつ気づいた。野原と思ったのだが、よく見ると遠くに壁のようなものがある。なんと、ここはカン族の王宮の庭だったのだ!
ミホは自分たちが戦おうとしている敵の巨大さに肝をつぶした。
これはまともにやって勝てる相手ではない。
「ケショウインへ・・・」
と兵士がつぶやくのが聞こえた。
ミホを含めた4人の捕虜は、後ろ手縛りのままずいぶんと歩かされてから、王宮の中のある建物に入れられた。おそらくこの建物が目的地なのだろう。
建物の中に入り、多くの部屋に面した長い廊下を通って、ある一室に通された。
そこは窓が少ないのか薄暗かったが、部屋の真ん中に斜めになった奇妙な台が置かれていた。
4人全員が部屋に入ると扉が閉められ、4人は背後で縛られていた両腕を解かれた。逃げ出しても無駄な場所まで来たということだろう。そういえば建物に入ったあたりから見張りの兵士も少なくなっていた。
先ほどの指揮官のチリも付いてきている。
そしてチリは、4人の捕虜の中から一人の男を指さした。彼は確かカラという村長の甥だったはずだ。
カラは、部屋の中にある台に縛り付けられた。
何をされるのだろうか。ミミたちは固唾をのんで見守っている。
なにやら白い服を着た男が近づいてきた。チリはその男をテイとか呼んでいた。
そのテイが、兵士たちにあごでしゃくって何かを指示する。
テイは、3人の捕虜を見回すと、若い大工見習いであるトトを指さした。
兵士がトトを押さえつけて、無理やりズボンを下ろし、その下に着けた一枚の長い布でできた褌も剥ぎ取った。トトは下半身素っ裸にされた。
そしてトトが着けていた褌は中ほどで二重に堅結びにされ」、できた結び目のコブをそのまま台に縛り付けられたカラの口の中に突っ込まれ、余った褌の布の端がカラの首の後ろで結ばれた。
それからカラも、ズボンと褌が脱がされ、下半身が露出された。
その下半身のイチモツを兵士が紐で縛っている。しぼんでいたカラのイチモツが大きくなる。
白い服の男は小さな刃物を握っていた。
「まさか・・・・」
突然ミホはタクに聞いた話を思い出した。
そういえばケイのリョウチも、4人がヨウザンにされたのも、タクの話と同じじゃないか・・・・・
ミホは思い出すと同時に、その現実を見せられた。
トトの褌の猿轡を噛まされたままのカラがうめき声をあげるのと同時に、刃物が一閃し、イチモツは血の跡をつけながら滑り落ちた。
カラはなわを解かれ、どこか別の部屋に連れて行かれた。
次は、既に下半身を裸にされていたトトという若い大工見習いである。
トトも台に縛り付けられた。
兵士はこんどはミホの下半身のズボンと褌を奪った。
ミホの褌がトトの口の中に入れられ、猿轡をされたトトはうめき声をあげた。
それからトトのイチモツの根元が固く縛られ、刃物が振り下ろされた。すべてカラと同じであった。
そして3番目がミホの番だった。
下半身を脱がされた4人目の捕虜のハクの褌で猿轡をされ、今やミホは何も考えることができなかった。
その瞬間すさまじい痛さが体を走った。
しかしミホはいっさい声をあげなかった。
白い服の男がなにやら感心した風をしていた。
ミホもまた部屋から連れ出された。足の間から血がしたたっているのが分かった。
妙に軽く頼りない変な気分である。
連れてこられた部屋には中に大きな穴が掘ってあって、先に連れ出されたカラとトトがその中に立たされたいた。
ミホもそこに立たされた。ここに生きたまま埋められてしまうのだろうか?
まもなく最後の一人のハクも連れてこられ、4人とも穴の中に立たされた。
するとそこに砂が放り込まれた。熱い!焼けた砂である。
そうか焼けた砂で蒸し焼きにされるのか。
ミホは少し諦め、開き直った思いでカン族の兵士たちを見つめていた。
しかし、4人は完全には埋められなかった。首から下だけを熱砂の中に埋められたのである。
熱いことは熱いが死ぬほどではない。一体これは何なのだろうか。
そのまま2晩が過ぎた。砂はすっかり冷えていた。
4人は砂からあげられ、褌の猿轡を外された。そして瓶にいつぱいの水を飲むよう強要された。
4人は訳が分からなかったが水を飲んだ。あそこは痛いが傷口はもうふさがっているようだ。
水を飲むと今度は4人は暗い部屋に閉じこめられた。
窓もなく天井は高く、壁はツルツルで、歩き回ることはできるが、脱出は不可能だ。
4人とも疲れもあって互いに無言である。
ずいぶん長時間が経過した。ミホはさきほど飲んだ水が効いてきたのか、小便がしたくなった。
他の3人もソワソワしている。部屋の隅にトイレらしきものがある。
ミホは思い切ってそこへ行った。立小便をしようとしてようやく自分にはできないことに気付き、便座に腰掛けた。
便座の穴は小さい。ここからも脱出は不可能だ。しかしとにかくミホは小用を達することにした。
あるべきものがないので、変な感じだ。
そもそもそのままだと飛び散る感じなので指で押さえてコントロールして、なんとか下に向けて出した。
ミホは改めて自分のおかれた立場にショックを覚えた。
こんな体ではもうユカと結婚することはできない。悔しさが胸にいっぱいになった。
ミホが小用を達したのに勇気づけられたのか、カラも便座に座り、出したあと、がっくりした顔をして戻ってきた。
トトも行った。がトトは何やら苦しんでいる。
「どうした?トト」。
ミホが声を掛けた。
「出ねぇ」
「なに?」
「しっこが出ねぇんだ。ちんぽがないからしっこができねぇんだ」
「アレは無くても、穴が開いてるからそこからできるだろう?」
「どうしても出ねぇよぉ」
ミホはトトをいろいろ励ましたが、どうしても出ないようであった。
傷口が癒着して塞がっているのかも知れない。ミホはそう思った。
憔悴しているようなので、最後の一人、ハクと交替した。ハクは幸い出たようだ。
ミホは部屋の扉を激しく叩いた。
監視の兵がドアを開けて入ってくる。
「どうした」
「トトの傷口が癒着してるようなんだ。しっこが出ない。何とかしてくれ」
しかし兵士の言葉は冷たかった。
「そういうことはよくあるもんだよ。出ない以上、死ぬより他は無いな」
兵士はそう言い放つとドアを閉めてしまった。
トトは兵士の言葉通り、2日後、苦しみながら死んでいった。
トトが死んでから5日ほどたって、残りの3人は部屋から出された。
3人とも既に完全に抵抗する気力を失っていた。
3人は風呂に連れて行かれ、きれいに体を洗われた。
風呂から上がったところで、青い薄地の服を渡され、着るように言われた。
「これは女の服じゃないのか」
「そりゃそうさ。あんたらは女になったんだからな。もうアレは付いてないんだろう。おまえらの国ではカンガンって知らないのか」
兵士が言う。
ミホは呆然としたが、抵抗するにはお腹がすきすぎていた。
もう10日ほど、水しか口にしていないのである。
女の服を着た3人は互いを変な顔で見比べながら、兵士に連れられてまた別の部屋に向かった。
廊下の途中に不思議なものが並んでいる場所を通った。
人の背丈よりちょっと大きめの鉄か青銅でできた人形らしきものが並んでいる。人形と言っても首から下は円筒形でその上に女性の顏が付いている。
どうやら全体が両側に開く扉になっているらしく、左右には蝶番があって、真ん中には左右の扉の合わせ目があるのが分かる。
扉が閂のような錠で固定されて閉じられた人形と、錠がかかっていない人形がある。
「これが何だかわかるか」
と兵士が言った。4人が首を振ると兵士は錠が掛かっていない人形の扉を左右に開いた。
すると人形の中は空洞になっていて、ちょうど人間がすっぽり入れるほどの大きさがあった。しかも、首や手足を固定すると思われる金属の枷も見える。
兵士が立ち止まって説明し始めた。
それより驚いたのは、左右に開いた扉に植えられた太くて長い鉄の棘である。
その数は全部で20本はあろうか。人が中に入ってこの棘が付いた扉を閉められたら、棘が両目から胸や腹に突き刺さるようになっている。
そうなったら最後、即死しないまでもおそらく確実に死ぬことになるであろう。
「これを見たか。これは西の国から伝えられたテツムスメというものだ。カンガンが悪いことをしたり、使い物にならなくなったりしたら、この中に入れられる。錠がかかっているテツムスメはもう誰かが入れられている。一度入れられたら二度と外には出れない。おまえらもよく覚えておくように。」
そう言われなくても、イチモツを切り取られたミホたち3人に、既に逆らう気概は失せていた。
やがて、目的の部屋と思われる場所が見えてきた。
「俺たちは男だからここまでしか入れない。あとは自分で行け。向こうはカンガンの兵士が守っている。この国にはカンガンの志願者はたくさんいる。下働きでも守衛でも何でもやる。金になるからな。でもお前らのような上玉で、王族の近くに侍ることができる者は少ない。だから捕虜の中からでも選ばれる。お前らは幸せだと思っておけ。」
最後の渡り廊下の前で兵士が言った。
渡り廊下の向こうの扉を開けると、金銀宝石でまばゆく飾られた大広間があった。そこに椅子がたくさん並んでおり、3人はそこに座るように言われた。
前には巨大な鏡が並んでいた。こんな大きな鏡は見たことがない。それに金属を磨いただけではないようで、実によく写る。
女が数人やってきて、ミホたちの周りに付いた。ひょっとしたら彼女らもカンガンなのかもしれない。
そしてそこで、ミホたちにおしろいを塗り始めたのである。抵抗しようとしたらそばにいる守衛たちが威嚇するように剣を構えた。この守衛はカンガンなのであろう。
仕方ないのでミホたち3人はそのまま、なされるがままにしていた。
ミホは鏡の中で自分の顔が美しく変身していくのに素直に驚いていた。何という魔法のような化粧品だろうか。これも西の国から持ち込まれたものなのだろうか。
先ほど見たテツムスメといい、この化粧品といい、西の国というのは途方もないものを持っているようだ。
そしてタクの言葉を思い出した。女みたいになってカンガンと呼ばれるというのは、このことだったのかと。
こんな可愛い娘が目の前にいたら、つい声を掛けてしまうかも知れない。
我ながらそんなことを考えていた。
鏡の中にはとても自分とは思えない美女が座っていた。その美しさは正直言って、かっての許嫁のユカとは比較にならなかった。
(完)
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(主人公の名前は、雲南省出身で捕虜から明の宦官になり、大航海をした鄭和の本名「馬・三保」から取っていますが、史実とは関係がありません)
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投稿:2022.01.02更新:2022.05.31
戦士と鏡(2)~化生と化粧
著者 Scavenger's daughter 様 / アクセス 17389 / ♥ 224