羅切宗長老殿への入門願状
羅切宗長老殿への入門願状
羅切宗大徳長老殿
座下
謹んで申し上げ候
某は元より南蛮の地より参り候、弥助と申す者に御座候。本能寺の変にて信長公を失い候後、明智光秀殿並びに羽柴秀吉殿の御家中には某如き異国の黒色人を召し抱える御意向無く、今は冨子殿の山荘にて隠居仕り候。
抑々、某が身の上を申し上げ候に、幼少の頃、異国の奴隷商人に捕らわれ候折、某が男性としての重要なる部分を切除され申し候。かかる仕打ちを受け候身にて、後に南蛮の宣教師の下に仕え、やがて信長公の御家来と相成り申し候。
されど、本能寺の変の後、羽柴殿が南蛮宗(切支丹)の弾圧を強め候につき、冨子殿並びに藤林直江殿に御迷惑をお掛け申すまじく、仏門への帰依を決意仕り候。宣教師の下に戻ることは、今の世にては却って危険と存じ申し候。
去る日、徳川家康殿より、某が男根を失いし身の上を御推察賜り、「汝が境遇なれば、羅切宗の慈雲長老殿の下こそ相応しからん」との御言葉を賜り申し候。家康殿の御教示に拠れば、貴宗は肉欲の束縛を断ち切り、速やかに悟りに至る道を説かれ、肉体の一部を欠くことを修行の利として捉え候由、誠に某が現在の境遇に適いし教えと存じ申し候。
某は既に奴隷商人の手にて、男根の切断を受け候身に御座候間、貴宗への入門に当たり、更なる刀による処置を要せず、直ちに修行に専念し得る身と存じ申し候。かかる某の「欠損」こそが、却って貴宗の教えを体現する身体的条件と心得申し候。
つきましては、貴宗への入門を願い上げ、併せて慈雲長老殿には是非とも冨子殿の山荘まで御足労賜り、某に御教授下され候よう、伏して御願い申し上げ候。某は戦場にて多くの命を奪い申し候身なれば、今度は仏道修行を通じて罪業を償い、真の平安を得申したく存じ候。
山荘は大和国十津川の奥、清流の傍らに御座候。俗世を離れたる静寂なる環境にて、客殿三間、禅堂一棟、経典書庫を設え、温泉も山中より湧出仕り、長老殿の御滞在並びに御教授に相応しき設備を整え申し候。肉欲を既に失いし身を以て、一心に修行に励み申すべく候。
何卒、某が真摯なる求道の心と、既に羅切宗の理想に適いし身体的条件を御察し下され、御慈悲を以て御指導賜り候よう、偏に御願い申し上げ候。
恐惶謹言
天正十年十二月
弥助 花押
付記
徳川家康殿の御推薦の辞:
「弥助は既に肉体の束縛より解放されたる身なり。羅切宗の慈雲長老の教えを実践するに、これ以上相応しき者無からん。」
冨子殿の山荘への道程:
奈良より吉野川を遡り、十津川村を経て奥山へ
三日の行程、案内人を用意仕り候
現在の政治的状況について: 羽柴秀吉殿の切支丹弾圧により、南蛮宗への復帰は不可能。冨子殿、直江殿の安全のため、仏門帰依が必要不可欠の情勢に御座候。