慈雲長老殿への復命書
慈雲長老殿への復命書
慈雲大徳長老殿
座下
恐惶謹言
先般、長老殿より仰せ付けられ候、弥助なる者の身体検分の儀、慎重に相調べ申し候につき、左の通り復命仕り候。
検分の次第
十二月二十六日、冨子殿の山荘に到着仕り、弥助と面談を重ね申し候。当人、誠に恭しく某を迎え、検分の必要性を理解し、素直に応じ申し候。
検分は山荘の奥座敷にて、冨子殿立会いの下、厳粛に執り行い申し候。弥助は下衣を脱ぎ、某の詳細なる観察に協力仕り候。
身体的所見
一、全体的様相
身長六尺に及ぶ堂々たる体躯、肌は南蛮人特有の黒色なれど、健康にて良好に御座候。武士としての鍛錬の跡歴然として、精神も安定せり。
一、検分対象部位の詳細
下腹部を精査仕り候処、男根の大部分は切断されておりますが、睾丸の上方に一寸程の男根の根元が残存仕り候。金玉は両方とも無傷にて保たれており、金玉袋も健全なる状態に御座候。
一、切断の状況
傷跡の様相より推察するに、粗雑なる刃物にて切断されたるものと見受けられ、縫合の跡も荒く、盛り上がりたる醜き痕跡が凹凸をなして残存仕り候。されど、奴隷商人が意図的に一寸の男根を残したるため、立ちて小便を足すことに支障無く、某の如く完全に除去されし者が蹲踞して用を足さねばならぬのと異なり、常人と変わらぬ様にて排尿し得る状態に御座候。
一、排尿の様相
某自身、羅切宗の修行にて男根と睾丸を完全に取り去りし故、小便の折には女子の如く蹲らねばならず、時として漏らすことあり。されど弥助は、残存せる一寸の根元により、男子として堂々と立ちて用を足し、失禁の憂いも全く無き様に御座候。
一、当人の精神状態
かかる境遇にありながら、弥助は自らの状況を受け入れ、むしろ肉欲からの解放として捉えており、仏道修行への意欲は真摯なるものと判断仕り候。
修行適性の判定
一、羅切宗への適合性
既に男根の大部分が断たれ、我が宗の根本理念である「肉欲断絶による解脱」に向けた第一歩は完了せる状態に御座候。殊に、一寸の男根残存により、完全除去を行いし他の修行僧が悩まされる失禁の苦しみを免れ、日常の修行に専念し得る利点あり。
一、懸念すべき事項
されど、睾丸が両方とも無傷にて保たれており、これが欲望と煩悩の根源たることは自明の理に御座候。我が羅切宗の究極の目標である完全なる肉欲の根絶を考えますれば、将来的に更なる修行の深化を図る際、この点が妨げとなる恐れを否定し得ず候。長老殿の深き御洞察にて、適切なる指導方針を御決定賜りたく存じ申し候。
一、推奨される指導法
初段階 - 自らの境遇を仏の導きと受容する心の修練
中段階 - 肉体の欠損を活かした特殊な座禅法の習得
上段階 - 完全なる無欲の境地への到達指導
一、特記事項
当人は過去の戦闘経験により、生死についての深い洞察を有しており、通常の信徒より高度な教えを理解し得る素質あり。
結論と建議
弥助は現段階において我が羅切宗への入門者として充分な条件を備えておりますが、完全なる悟りへの道程においては、なお検討すべき点が残存仕り候。日常の都合と、究極の解脱への道筋とを天秤にかけ、長老殿の御英断を仰ぎたく存じ申し候。心根は申し分無く、直ちに御指導を開始されるに値する人物と存じますが、将来的な修行の方向性については、長老殿の深き御思慮を賜りたく候。
来春、雪解けの頃に長老殿が冨子殿の山荘を御訪問され、正式な入門儀式を執り行われることを推奨仕り候。
以上、検分の結果並びに所見を申し上げ候。
恐惶謹言
天正十年十二月二十八日
羅切宗弟子 法雲 花押
付記
冨子殿の山荘環境について: 静寂にして清浄、修行に最適の地なり。弥助の日常的心得も良く、既に朝夕の勤行を欠かさず行っており、長老殿をお迎えする準備万端に御座候。
弥助より長老殿への言伝:
「某が今の身は、過去の苦難を乗り越えて仏道に導かれたる証なり。慈雲長老殿の御教えを拝聴し、真の解脱を得申したく、心より御来駕を待ち申し上げております。」