どこにでもあるような風景、ありきたりな店、うんざりするほど良く知った人達が住むこの町。
いつか俺はここを出てみんなとは違う生き方をしたい、漠然とそう考えていた。
そして卒業を迎えた俺はその思いを実行することを決意していた。
彼女、というわけではないが仲良くしていた女友達の美紀に町外れの公園へと呼び出された。
「隆は卒業したらどうするの?」
「俺?…俺は…」
「この町、出るんでしょ?…ヒロシ君が言ってた」
「知ってたんだ…ごめん」
夕日でオレンジ色に染まった公園のブランコに揺られながら俺は美紀に謝った。
「別に謝ることはないよ、隆の人生なんだからさ」
「美紀…」
「だって私、隆の彼女じゃないしさ…でしょ?」
「美紀、俺美紀のこと…」
「今さらやめてよ」
美紀は不機嫌な表情になり横を向くと顔をうつむかせた。
「ごめん…」
「プッ…もう!その優柔不断をなおさないと彼女できないよ?」
今度は笑みをうかべながらブランコから降り立ち俺の顔をのぞきこみそう言った。
「好きだったよ、隆」(チュ)
美紀は俺に軽くキスをしてそのまま公園から振り向きもせずに走り去っていった。
俺は言いようのない情けない気持ちと悔しさにうな垂れてしまった。
「私はずっと好きだよ、隆君」
「えっ!?」
急に聞こえた女の子の声に驚き顔を上げるとそこには同い年ぐらいの女の子が立っていた。
美しく切り揃えられた黒髪に白装束のような着物姿の不思議な女の子、その姿には見覚えがあった。
「憶えてないの?」
悲しそうな表情をする女の子に俺は慌てて答えた。
「憶えてる、憶えてるよ」
小学生の頃この公園で一緒に遊んでいた女の子だ。
夕方遅くなりみんなが帰った頃になると「遊ぼ」と声をかけて来ていた。
いつの頃からかこの公園で遊ばなくなり、それ以来すっかり忘れてしまっていた。
「私はずっと好きだからね、やっと来てくれて嬉しい! もうずっと一緒だからね!」
女の子は俺に擦り寄りそのまま両手で強く抱きついてきた。
「チョ、チョッと待って」
「どうしたの?恥ずかしいの?」
「だって、急にそんなことを言われても困るよ」
「どうして?だって私、隆君のお嫁さんなのよ?」
俺は「お嫁さん」という言葉を聞き、公園の奥にある祠の前でこの子と結婚式ごっこをした事を思い出した。
「隆クンはほこらをお嫁さんにしますか?」
「うん、お嫁さんにする!」
「じゃあ誓いの儀式をしましょうね」
「ギシキ?」
「うん、こうやって…ほこらの手を握って」
そのまま女の子と向かい合い両手を握り合いキスをした事を…。
ちょうどその時に母親が俺を探しに来てそのまま公園を後にした事を思い出した。
そして思えばそれが女の子と最後に遊んだ記憶だった。
「ほこら…」
「そう、私はほこら…思い出してくれた?どうしてあれから来てくれなかったの?」
「ごめん…友達もみんな公園で遊ばなくなってつい」
久しぶりに会った女の子にまで謝る自分が情けなくなった。
「いいよ、許してあげる」
「本当に?」
「うん、私はさっきの女の子みたいに意地悪じゃないもの」
俺とほこらはブランコを離れあの祠の前へと向かった。
本気で俺のことを好きなんだな、繋いだ手からその気持ちがヒシヒシと伝わって来る。
「気持ちは嬉しいけど俺、来月からこの町を離れるんだ…」
「うん、お話してるの聞いたから知ってる」
「知ってるのになんで…」
「もう隆君は私のそばから離れられないから大丈夫なの」
「いや、それってどういう意味なのかな?」
気がつくと俺はあの時と同じようにほこらと向き合い両手を握り合っていた。
ほこらは軽く瞳を閉じ、その唇が俺にキスをせがんでいる。
その美しく可愛らしい表情に脈拍が上がり吸い寄せられるように自然と唇を重ねてしまった。
ああ、なんて心地良いんだろう…俺は数分、数十分ぐらいキスをしている感覚に陥った。
心地よい気分から気がつくと、俺はどこかの部屋の中でほこらと抱き合っていた。
「ここは?」
「ここは私達のお家、私と隆君はここでずっとずっと一緒に暮らすの」
ここはあの祠の中だ、俺は直感的にそう思った。だとすると…ほこらは人間じゃないのか?
とにかくここを逃げ出さないとヤバイ、怒らせないようにそっと逃げ出さないと…。
「うん、わかったよ。これからずっと一緒に暮らすよ」
「あぁん、嬉しい!」
「そうだ、荷物を取ってこないといけないから家に戻らないと」
「うん、わかってる。私もご挨拶に行きたいもの。でもその前におまじないをしないといけないの」
「おまじない?」
「うん、隆君がどこか遠くに行ってしまわないおまじない…」
「(うっ!!)」
ほこらはものすごい力で俺の両腕を床に押し付けた。次の瞬間、体はピクリとも動かせなくなってしまった。
「(か、金縛り!?)」
つい先ほどまで美しく可愛らしかったほこらの顔は淫妖な表情へと変化した。
白装束のような着物がはだけ、形の良い乳房がこぼれ落ち俺の目の前に迫る。
「ずっと…寂しかったんだよ?」
俺の顔を優しく撫でる手はやがて下へと伸び、俺のズボンをゆっくりと下ろした。
「ウフッ、隆君の大事な所…おちんちん」
ほこらは吐息がかかるほどの距離でそれを見つめながら少し冷たい両手で優しく握りしめる。
俺の意思とは裏腹にチンチンはすぐに脈打ち、硬く痛みを感じるほど勃起した。
「ほこらがはじめて隆君のおちんちんを見たときのこと憶えてる?」
「あの時、言ったよね…とても大事な所、男の子の宝物だよって」
俺はトイレでオシッコをしている姿をほこらに見られた時のことを思い出した。
「私、夜の公園を見ていてわかったの。おちんちんが大事な所っていう意味」
「だって、セックスってすっごく気持ちよさそうなの。もちろん隆君もしたことないでしょ?」
ほこらは少し怖い瞳で俺を優しく睨みつけながらそう言った。
「(してない、してないよ!)」
おそらく公園で青姦しているカップルを覗き見てセックスを知ったのだろう。
「ねぇ…ほこらとセックスしたい?」
そう言いながらほこらは股間を俺の勃起したそれに密着させてくる。
「アァッ…」
その瞬間、ほこらの顔は紅潮し気持ちよさそうな吐息を漏らした。
着物の下には何もつけてないことがわかった…皮膚越しに割れ目の形がわかる。
「(うん、したい!したい!)」
ここはとにかくほこらの機嫌を損ねないように必死で頭を縦に振った。
「嬉しい!私もずっと隆君とセックスしたかったの、ずっと隆君のおちんちんのことばかり考えてたの…でも…」
「(…でも?)」
「クスッ、ほこらとのセックスはお・あ・ず・け!」
「(!?)」
ほこらは意地悪そうにそう言うと、傍らの小さな茶箪笥から大きな裁ちばさみを取り出した。
「見て…これで隆君の大事な所を…おちんちんを切っちゃうの」
その意地悪そうな表情はチョッと脅かしているだけのようにも思えた、しかしほこらは人間ではない。そんな希望的な考え方は通用しなかった。
ほこらは濡れた割れ目を勃起したそれに擦りつけてさらに興奮している。
そして俺とほこらのわずかな隙間に裁ちばさみを滑り込ませ、その刃先に力を込めるのがわかった。
「ア、アァッ…ハァ、ハァ…隆君の…隆君の宝物は…私が持っててあげる。だから…毎日ここに帰ってきて」
「(ちゃんと帰るから切らないで!やめてくれっ!)」
俺は必死に懇願したがそれは通じなかった、ほこらの興奮はさらに高まり絶頂を迎えようとしていた。
俺もまた同じくほこらの割れ目から伝わる体温に興奮して体の奥から今にも射精しそうになっていた。
「(イってる場合じゃないだろ俺っ!チクショーッ!)」
「隆…クン…アァッ! ハァ…ハァッンッッ!」
(ヂョキンッ)
裁ちばさみの鈍い音を皮膚越しに感じ、遅れて来た激痛と共に俺は射精した。
絶頂で大きく仰け反ったほこらの下腹部に鮮血と白濁した精液をぶちまけた。ほこらの白い肌と白装束は真っ赤な血の色に染まった。
「(美しい…)」
なぜかそう思いながら俺は気を失った。
再び気がつくと俺は素っ裸のまま布団に横になっていた。
「目が覚めた?よかった!」
添い寝していたほこらが俺に抱きついてくる。だんだん意識がはっきりとして今までのことを思い出した。
「(そうだ…逃げなきゃ!)」
「きゃっ。」
俺はほこらの手を振りほどき、着るものも取らずに一目散に扉と思われる方向へと走り出した。
「(あ…俺は、俺はチンチンを切られたんだ!)」
そのことを思い出し立ち止まった俺はおそるおそると股間へと視線を移した…。
「あれ?チンチンがある」
そこには何事もなかったかのようにチンチンがぶら下がっていた。
「どうして逃げるの?」
立ち止まった俺の背中からほこらが抱きよってきた。
「いや、それは…その…」
「荷物を取りにお家に帰るんでしょう? 早く帰ったらいいわ。」
「え?…うん、そうだね」
ほこらはそう言うと整えてあった俺の服を持ってきた。
意外な発言に驚きながら服を着て祠を後にしようとした。
「いってらっしゃい。」
「う、うん…いってきます」
もう二度とここに戻ってくることはないが俺はそう答えた。
祠の扉を開けるとそこはあの公園だった。すっかり日が落ちて街灯の明かりがぼんやりと地面を照らす。
やっと日常に帰れる、そう思いながら外に踏み出した瞬間だった。
(ボトッ)
「ボトッって…え?」
足元に視線を落とすとそこには見覚えのあるモノが転がっていた。
すぐに股間を押さえるとペタン、とそこに何も付いていないことが判った。
俺のチンチンは体から離れズボンの裾から地面へと転がったのだ。
「お、俺のチンチン!?」
俺はとっさに拾い上げようとしたがそれよりも先にほこらが拾い上げた。
「クスッ…ダメよ、隆君の宝物は私が守ってあげるの!」
そう言いながら俺の顔を覗きこむその瞳は優しくも鋭く淫妖な光を見せている。
どうやら俺のチンチンはこの祠の中でしかくっつかないようだ。
ほこらにあの大きな裁ちばさみでチンチンを切断されたのは事実だったのだ。
「いってらっしゃい」
チンチンを手に持ったほこらに送り出された俺はこう答えるしかなかった。
「…いってきます」
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どこにでもあるような風景、ありきたりな店、うんざりするほど良く知った人達が住むこの町。
俺はあっさりと町を出ることを諦めて地元で就職した。いや、町を出たい為だけにチンチンを捨てられる男などいないだろう。
町のショッピングモールで偶然すれ違った美紀の目は軽蔑に満ちていた。
「隆、あんな女の子のことなんか忘れて」
「うん…ごめん」
ほこらと俺は寄り添い一緒にショッピングをしている。傍目にはごく普通の新婚カップルだろう。
ほこらも怒らせなければ可愛いし、そしてエロい。何も不自由もないがひとつだけ心配なことがある。
それは祠に置いてある俺のチンチンの事だ。
目の届かないところに大事な所が置いてある不安は世界中の誰にもわからないだろう。
「隆、どうしたのソワソワして? またおちんちんが心配なの?」
「そりゃあ心配に決まってるだろ」
「私と祠の神通力は絶対大丈夫! それに、この前買った冷蔵庫に入れてあるから大丈夫よ」
「(冷蔵庫の使い方間違ってるだろ…)」
「もぉ!私とお出かけするときぐらいおちんちんのことは忘れて」
「わかったよ、ごめん」
「その代わり…帰ったらいっぱいしてあげるからね」
「うん、わかった」
俺は一生ほこらに逆らえないだろう…。
(おわり)
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投稿:2012.02.20更新:2019.05.16
祠(ほこら)
著者 いち 様 / アクセス 14622 / ♥ 6