弥助殿への返書
弥助殿への返書
弥助殿
侍史
謹んで申し上げ候
先般賜りし御書状、拝見仕り候。殿の波瀾万丈なる御身の上、並びに羅切宗への真摯なる求道の御心、深く感じ入り申し候。法雲が復命せし検分の結果と合わせ、殿の入門について慎重に検討仕り候処、左の通り申し上げ候。
経典に照らしての所見
『無欲証悟経』第三巻に曰く、
「金玉は欲望の深淵なり。精を蓄えて肉欲を生み、心を汚濁に導く元凶なり。男根は彼岸への橋なれど、同時に地獄への門戸なり。これらを断つは、煩悩の根源を絶つ無上の修行なり。」
また『断欲解脱論』第七章には、
「凡そ男子の身にて悟りを求むる者は、先ず肉身の束縛を離るべし。玉袋の中に宿る欲念の種は、千劫修行するとも尽きることなし。刀にて断ちて初めて、真の清浄心を得べし。」
さらに『業報因果経』第十二章には、
「昔、肉欲に溺れし俗人あり。尼僧を犯さんと襲いしも、尼は逃れて衣を破かれ申し候。尼は農家に逃げ込み、心優しき農婦より衣を借り受け申し候。されど農夫の子供らが父に『僧侶が来て母が衣を与えり』と告げしため、農夫は妻が僧と密通せりと疑い、妻を打ち罵り申し候。農婦は無言の抗議として首を吊りて死に、後に尼が衣を返しに来て誤解が解けしも時既に遅し。農夫は悲嘆と怒りに狂い、妻の墓前にて我が子を殺し、己も命を絶ち申し候。仏陀はこの悲劇を御覧になり、哀れなる三人の魂が閻魔王の前に跪く様を見給いり。閻魔王は霊的従者を遣わし、元凶たる犯人を殺して地獄に引き摺り申し候。閻魔王は全ての殺人者と強姦者に永遠の恐ろしき責め苦を与え給う。」
また『白毒警示経』第五巻には、
「男子の射精は毒蛇の毒液を吐くが如し。その白き液体は見た目清らかなれど、実は心を汚す猛毒なり。一度放てば千の悪念を生み、再び放てば万の煩悩を増し、三度放てば地獄への道筋を定む。金玉こそはこの毒を生産する毒嚢なり。これを断たずして悟りを求むるは、毒蛇を懐に抱きて眠るが如し。」
そして『羅切宗祖師録』には、
「男根一寸を残すは慈悲なり。日常の用を足すに足れば十分なり。されど金玉を残すは、猛毒を体内に留むるが如し。完全なる解脱のためには、この最後の執着をも断つべし。」
これらの教えに照らし、殿の現在の境遇は羅切宗の理想に向けた第一歩なれど、真の悟りに至るには更なる決断が必要と存じ申し候。
修行の道筋について
殿に二つの道を示し申し候。いずれを選ぶかは、殿の御心次第に御座候。
一、出家の道(比丘となる)
若し殿が完全なる解脱を望み、我が羅切宗の僧侶として生きることを選ばれるならば、残されし金玉を取り去る儀式を受けねばならず候。これにより、肉欲の最後の根源を断ち、真の無欲の境地に至ることができ申し候。
二、在家の道(優婆塞となる)
若し殿が現在の身体のまま在家信者として修行を続けることを選ばれるならば、それもまた一つの道に御座候。されど、完全なる悟りは困難なれど、功徳を積み、来世での解脱を目指すことは可能に御座候。
出家を選ばれし場合の規則
若し殿が比丘の道を選ばれ候はば、左の規則を厳格に守らねばならず候。
羅切宗比丘の十二戒
一、 一切の女人との接触を断つべし。言葉を交わすことすら禁ず。
二、 酒類一切を口にしてはならず。水と茶のみを飲むべし。
三、 肉食を禁ず。魚介類、鳥獣の肉、一切を断つべし。
四、 香辛料、甘味料の使用を禁ず。塩のみにて味付けすべし。
五、 座禅の間は褌のみを身に着けるべし。余分なる衣服は悟りへの妨げなり。褌は漏れ出る小便を受け止める便宜のためのみに用いるべし。
六、 絹織物を身に着けてはならず。麻布のみを用いるべし。
七、 睡眠は夜半より明け方まで四時間のみとし、それ以外は座禅に励むべし。
八、 一日一食とし、日没後は水以外口にしてはならず。
九、 髪、髭、体毛一切を剃り落とし、月に二度これを繰り返すべし。
十、 金銭に触れてはならず。他人をして代わりに扱わしむべし。
十一、 歌謡、音曲、舞踏を見聞きしてはならず。読経のみを声に出すべし。
十二、 新参の小僧は、師のみならず、先輩の修行僧の命にも絶対服従し、疑念を抱いてはならず。
特別規則
一、 金玉を取る儀式後、一月間は山中の洞窟にて独居し、傷の回復と心の清浄を図るべし。
二、 毎朝、自らの犠牲を仏前に報告し、感謝の念を捧げるべし。
三、 他の修行僧に自らの経験を語り、彼らの修行の励みとすべし。
四、 年に一度、弥助殿が金玉を断たれし日には、全ての修行僧が断食修行を行い、共に悟りへの決意を新たにすべし。
奉納について
羅切宗の僧侶は皆、切り取りし男根と金玉を壺に納め、薬師如来像の前に奉納するが慣わしに御座候。されど殿は既に幼き頃に男根を失われし故、金玉のみを切り取りて薬草にて保存し、壺に納めて薬師如来に捧げることで足りると存じ申し候。これは殿の特別なる境遇を鑑みての慈悲的措置に御座候。
某の勧め
殿の告白を拝読し、某は殿が真の求道者であると確信仕り候。殿の受けし苦難は、全て今日のこの瞬間のための仏の御導きであったと思われ申し候。
若し殿に真の覚悟があるならば、出家の道を歩まれることを強く勧め申し候。殿の如き波瀾万丈なる人生を歩まれし方こそ、我が宗の教えを深く理解し、他の修行僧の師となり得る器と存じ申し候。
さりながら、この決断は軽々しくなすべきものにあらず。充分に思案され、真に覚悟が定まりし時、某に知らせ申されよ。その時、某自ら冨子殿の山荘に参り、金玉を断つ儀式を執り行い申そう。
春の彼岸までに御返事を賜れば有り難く存じ申し候。
恐惶謹言
天正十一年二月朔日
羅切宗第十三代宗主 慈雲 花押
付記
儀式について: 金玉を取る儀式は某が自ら執り行い、痛みを最小限に抑える秘法を用い申し候。回復には一月を要しますが、その後は完全なる清浄の身となり、真の修行者として歩まれることができ申し候。
山荘での準備: 儀式のため、以下の物品を御用意下され候。
清浄なる白布十反
止血用の薬草(山荘近辺にて採取可能)
回復期用の清粥の材料
座禅用の座蒲団
最後に: 殿の決断がいかなるものであれ、某は殿を羅切宗の同志として迎え入れる所存に御座候。仏の導きのままに、御決断下され候よう。