慈雲長老殿への告白状
慈雲長老殿への告白状
慈雲大徳長老殿
座下
恐惶謹言
先般、法雲様より検分を受け申し候につき、某の心中に深き不安が生じ申し候。羅切宗への入門への熱意が充分に伝わらざるを憂慮し、某が半生の一部始終を包み隠さず申し上げ、長老殿の御慈悲深き御判断を仰ぎたく存じ申し候。
某の出自について
某は遥か南の果て、アフリカの角と呼ばれる地域の一小村に生まれ申し候。その地は今のソマリアの山間部にて、父は村一番の狩人、母は織物を生業とする者に御座候。幼き頃より、村の古き神々と祖先の霊を敬い、素朴ながらも平穏なる日々を送り申し候。
某の本名は「アブディ」にて、村にては「黒豹の如き勇敢なる少年」と呼ばれ、誇りを持って生きておりました。
奴隷商人による拉致と凌辱
十三歳の春、アラブの奴隷商人が某の村を襲い申し候。両親は目の前で殺され、某は他の若者共と共に縄で縛られ、遠き異国へと連れ去られ申し候。
奴隷商人の頭目は「この黒き少年は体格良く、将来は良き労働力となろう。されど、逃亡や反抗の芽を摘むため、男としての象徴を奪い取るべし」と申し、某を地に押さえ付け申し候。
粗雑なる刃物にて、某の男根の大部分を切り取られ申し候。睾丸は「力強さを保つため」として残されましたが、痛みと屈辱は言葉では表し得ぬものに御座候。切断の際、奴隷商人は某の小便の道筋を保つべく、一寸ほどの男根の根元を残し、そこに細き竹筒を差し込んで縛り付け申し候。
傷口には焼けた鉄棒を押し当てられ止血され、その上に獣の脂と薬草を塗り込まれ申し候。数日間は高熱に苦しみ、膿が出続け、生死の境を彷徨い申し候。竹筒が取れぬよう縄で腰に結び付けられ、小便をする度に激しき痛みが走り申し候。傷が癒えるまで一月余りを要し、その間は鎖に繋がれたまま、地獄の苦しみを味わい申し候。
船上での試練と海難
傷が癒えし後、某はドゥアルテ・デ・メーロなる船長に買い取られ申し候。彼は強き黒人奴隷を船の重労働に使わんと欲し、某を金貨と引き換えに手に入れ申し候。
船にはヌーノ・カーロなる高位のテンプル騎士が乗船しており、常に秘密の書状を携えておりました。某は船倉での労働の傍ら、この騎士の行動を密かに見定め、ある夜、彼の部屋に忍び込み、書状を覗き見申し候。
されど、某の行為はカーロ殿に露見し、大いに怒りを発した彼は「この奴隷は我らの隠し事を知り過ぎた。海の藻屑とするが良い」と船長に命じ申し候。某は縄で縛られ、容赦なく海中に投げ込まれ申し候。
南蛮僧による救出
神の御計らいにや、海に漂いて三日三晩、一片の船板にしがみ付いて命を繋ぎ申し候。死を覚悟した時、ポルトガルの宣教師船が通りかかり、某の悲惨な有様を見つけて救い上げて下さいました。
宣教師フランシスコ・ザビエル様は某の身の上を聞き、深く憐れみ、「汝の受けし苦難は神の試しなり。我らの下で新たなる人生を歩むが良い」と申され、某に「ディエゴ」の洗礼名を賜り申し候。
宣教師の下での日々
ザビエル様の下にて、某は切支丹の教えを学び、傷の手当てを受け、読み書きを教わり、ポルトガル語と少しの日本語を覚え申し候。某は彼らの忠実なる下僕として仕え、「ディエゴ」の名で呼ばれるようになり申し候。
宣教師様方は某を息子の如く慈しみ、「汝の受けし苦難は、神の特別なる御企ての一部なり。いずれ大いなる務めを果たす日が来よう」と常々申され候。海で死に損なった身が、今度は神に仕える道を歩むこととなり申し候。
信長公との出会いと武士としての生活
天正九年、某は宣教師と共に日本の地を踏み申し候。信長公が某の珍しき容貌に興味を示され、「この黒き男を我が家臣とせん」と仰せられ、「弥助」の名を賜り申し候。
信長公の下にて、某は武芸を学び、真の武士として鍛えられ申し候。本能寺の変まで、忠義を尽くして仕え、数々の戦場にて功を立て申し候。信長公は某の境遇を知りつつも、「汝の強さは肉体の完全さにあらず、心の在り方にこそあり」と常々申され、深き理解を示して下さいました。
羅切宗への願い
されど、信長公を失いし今、某は自らの人生の真の意味を見つめ直しております。幼き日に受けし苦難、宣教師様方の慈悲、信長公の御恩、そして今の境遇、全ては某を羅切宗の教えへと導く仏の御企てであったと確信仕り候。
某は既に肉体の大部分を失い、世俗の欲望からは程遠き身と相成りました。残されし睾丸こそが最後の煩悩の根源なれば、長老殿の御指導の下、真の解脱への道を歩みたく存じ申し候。
某の生涯は苦難に満ちておりましたが、それ故にこそ、羅切宗の教えの尊さを深く理解し得ると確信仕り候。何卒、某の真摯なる求道の心を御察し下され、御指導賜り候よう、伏して御願い申し上げ候。
恐惶謹言
天正十一年正月十五日
元信長公家臣 弥助 花押
付記
某が羅切宗に求める教え:
過去の苦痛を仏の試しとして受容する心の在り方
肉体の不完全さを修行の糧とする方法
残された煩悩の根源を断つ勇気
真の平安と解脱への道筋
冨子殿より長老殿への言伝:
弥助殿の告白を聞き、その波瀾万丈なる人生に深く心を打たれました。彼の求道の心は偽りなく、羅切宗の理想的な弟子となり得ると確信いたします。