ニューヨーク市のブルックリン区にあるコニーアイランド。ここはニューヨーク市に一番近いビーチとして、夏のあいだは多くのニューヨーク市民が訪れる場所で、昔からある小さな遊園地や、恒例のホットドッグ早食い競争とともに、ややマイナーながら観光名所となっている。
マンハッタン区からは4路線の地下鉄が通じていて、交通の便も悪くない場所であるが、夏のシーズン以外は閑散としていて、シンボルの観覧車も暇をもてあましている。
3月中旬、一週間前の大雪が嘘のように晴れ渡り、気温も20度近くまで上がって、この時期にしては大変暑いある日、コニーアイランドに向かう地下鉄F線の車中に、日本のW大学3年生の国分祐二の姿があった。祐二は、春休みを利用してアメリカ合衆国一周を実行中で、ボストンからやってきて今日がニューヨーク滞在の最後の日、明日はアムトラックでワシントンDCに向かう予定であった。
祐二は終点のコニーアイランド駅に着くと、黄色い看板のホットドッグ屋で腹ごしらえをして、観覧車に乗ったりしたあと、入園無料のアストロランドという名の遊園地に入っていった。しかし、1940年代には高級リゾートであったこの一帯も、レトロな遊具が懐かしさをそそるだけで、アトラクションも
屋台の出店も人気がなく、これといって興味が湧きそうなものはないようであった。
ちょっと早いが帰ろうかと思ったとき、珍しく入口に4人の若い男性がたむろしている建物が目に入った。他の古びた遊具と違ってごく最近できたらしく、ペンキの臭いが感じられるぐらいに原色で艶々の塗装がされている。いかし、建物そのものは簡易な造りで、どうやら期間限定のものらしい。別に危険な様子も感じられなかったので、近づいてみると、4人の青年は中に入っていく。ちょうどそのとき、高校生ぐらいの少年3人が祐二の後ろに並んだ。結局何のアトラクションがわからないまま、押されるように、建物の中に入ってしまった。
祐二は、英語を読むことはまあまあできるが、ヒヤリングやスピーチは苦手である。ちょっと迷ったが、どうせ時間はたっぷりあるし、つまらなくてもいいやというわけで、結局、前の4人の青年たちの真似をすることにした。
入ったところに入場料を払う場所があるはずでが、そこには無人でクレジットカードの読み取り機だけが置いてあった。地下鉄の切符もクレジットカードで買うのがあたりまえの国なので、遊園地のアトラクションもそういうものかと考えて、祐二も自分のビザカードを出して、読み取り機を通す。すると回転ドアのゲートのロックが開いて、中に入ることができた。金額の確認を忘れたが、所詮は遊園地のアトラクション、金額はしれていると、祐二は気にもしなかった。
中には、前にいた4人の青年が待っていた。白人3人と黒人1人、年齢は20歳から25歳ぐらいで友人同士らしい。1人がコロンビア大学のトレーナーを着ていたから、アイビーリーグあたりの学生だろう。周囲には荷物を預けるためらしいロッカーがあって、正面にもドアがあった。この部屋んは目指すアトラクションらしいものは見あたらない。まもなく、高校生の3人も入ってきた。
8人がそろうと、女性の係員がやってきて説明を始めた。早口で、祐二には、サンキューのほかには、彼女の名前がスーザンということぐらいしか聞き取れなかった。しかし説明が終わると、他の7人がロッカーの方に歩き始めたので、祐二もそれに従った。全部で50個ぐらいあるロッカーのうち、赤いランプが点いた8個が、祐二たちのグループに指定されたらしい。暗証番号がキーになる仕組みで、おととい自由の女神の台座に昇ったときに、荷物を預けさせられたロッカーに似ていると、祐二は思った。ただし、ロッカー1個の大きさはそれより大きい。
荷物を中に置いて、ロッカーを閉めようと思ったら、他の7人は服を脱ぎ始めている。祐二もあわてて同じように脱ぎ始めると、他の7人は何とパンツまで脱いで全裸になっている。どうなっているのかさっぱりわからないまま、祐二も素っ裸になった。
「ハーバード大学の温水プールでは水着無しで泳いでいた学生がいたなあ。ここもプールかなあ。でも建物は小さいけど。」祐二は独り言を言いながら、ロッカーを施錠した。
全員が一糸纏わぬ姿になったのを確認したスーザンは、正面のドアを指差して、8人を手招きした。 8人が次の部屋に入ると、そこには8台のロデオマシーンのような遊具が置いてあった。しかし、普通のロデオマシーンと違って、乗馬の鞍のような形をしていて、跨る場所がはっきりとわかる。そのうえ、鞍から下へ鐙(あぶみ)のようなものが垂れ下がっていて、これなら振り落とされることはなさそうだ。鞍はどうも4台ずつ向かい合わせに設置されているらしい。
スーザンは8人に、鞍の後ろに並ぶように指示したらしく、7人が歩き始めたので祐二もそれにならう。奥の4台の鞍の後ろには、4人の大学生が2人づつ向かい合わせに立ったので、祐二はその手前の左側の鞍を選んだ。祐二の正面には、会話でトーマスと呼ばれていた高校生の美少年が立った。性器とブロンドの陰毛がまぶしくて、祐二は目のやり場に困った。左はコロンビア大学生らしい白人青年、右はまだ15歳ぐらいにしか見えない少年である。
スーザンの指示で7人が鞍に両手を置いて前かがみになったので、祐二も真似をした。スーザンは手袋をして、後ろに突き出された8人のお尻の穴に、何か軟膏のようなものを塗っているらしく、祐二も肛門にスーザンの指を感じた。
スーザンの「ライド・・・、プリーズ」という声で、7人が一斉に鞍に跨ったので、祐二もそれにならった。実際乗ってみると、鞍の上には太腿が当る位置にちゃんと窪みまでできている。ただ、固定された鐙に両足を入れると、股間を60度ぐらい開く姿勢になり、跨っているというよりは、大股開きで空中に立っている感じがした。
前陰部の前とお尻の下は、なぜか直径20センチぐらいの楕円形の穴が開いている。鞍の前後の反りは割と急で、性器全体はこの穴にすっぽりと収まっている感じがする。正面のトーマスの性器も、祐二から穴を通して覗くことができる。
天井からするすると先端に2つの輪が付いたポールが降りてきた。水平に握り棒も取り付けられている。両腕を上に伸ばすとちょうど握ることができるので、全員がそれを握って、姿勢を安定させた。
スーザンは、1人づつ順番に回って、鐙の上に付いたベルトを足首に巻き、太腿の部分もベルトで固定していく。同時に両手首も、手錠になった輪を使って天井から下がったポールに固定する。これで8人は、鞍から勝手に降りれなくなった。
突然、鞍の股間部の前後の穴から、泡が吹き付けられた。トーマスの股間部も白い泡で覆われている。穴の下の方の床にセットされた放水銃から薬液が発射されたようだ。
待つこと5分、放水銃から今度は水が吹き付けられ、泡がすっかり流された。祐二が正面のトーマスの股間部を見ると、あのブロンドの陰毛が全部流れ落ちて、すっかりパイパンになっている。あの泡は、強力な脱毛剤だったようだ。祐二には、何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。ただ、ハーバードのプールで、陰毛を剃り落とした全裸の男性を見て驚いたことを思い出していた。
そうこうするうちに、祐二の肛門に何かが突き刺さってきた。先端は丸く、細かく振動しているので、難なく肛門深く侵入してくる。さきほどスーザンに塗られたクリームが潤滑剤の役割をしている効果もあるようだ。他の7人も、「うっ」というような声を上げた。
肛門に突き刺さった物体からは、薬液が出ているのが感じられる。祐二は、「今度は浣腸か。」と思ったが、便意はなく、代りに祐二のペニスが徐々に勃起してきた。トーマスのペニスも勃起しているのが見える。さらに不思議なことに、祐二の股間部全体の感覚が麻痺してくる。経験は無いが下半身麻酔を掛けられた感じだなと、祐二は思った。
スーザンがまた、一人一人の鞍の前をまわっている。祐二の前でも何かをしていったが、股間部に感覚がないのでよくわからない。スーザンがトーマスの所に行ったとき、祐二から彼女が何をしているのかが見えた。
スーザンはまず、トーマスのペニスを手に取って、尿道に金属製のカテーテルの管を差し込んだ。続いて、トーマスのペニスと陰嚢全体の付け根の部分を、強力なゴムバンドで締め上げる。細い金属のワイヤーを、性器の根元のゴムバンドのやや先端寄りに、これも性器を一周するように回して掛けて、その両端を鞍の穴の左右に繋ぐ。
「何、これ、ひょっとして・・・」祐二の胸に不安がよぎった。しかし、英語で何と言って聞いたらよいのか分からない。
8人全員の準備が出来て、スーザンが「スタート」と言ったようだ。祐二自身は何も感じなかったが、正面のトーマスの性器の周りのワイヤーの輪が、トーマスの性器に食い込んでいくのが見えた。祐二はわけのわからない叫び声を上げたが、他の7人の非難するような視線に、黙るしかなかった。
トーマスの性器の周りから、赤い血が噴出している。トーマスは祐二の股間を見ている。祐二のペニスも今、ワイヤーで切られつつあるに違いない。痛みは全くないのに祐二の眼に涙が浮かんだ。
トーマスの性器の切断が終わったらしく、切り離されたペニスと陰嚢全体が、尿道のカテーテルに沿って落下してくる。性器が受け皿にボトっと落ちると、トーマスの股間には金属の管が残されているだけとなった。強力なゴムバンドのため、傷口からの出血は僅かのようだ。
鞍の中に仕込んであったらしい不思議な装置が、トーマスの股間をレーザーと熱で焼いているようだ。傷口が見る見る小さくなっていく。祐二は焦げ臭い臭いと煙を感じ、自分の股間も焼かれていることを実感した。
スーザンが8人を順番に回って、ゴムバンド、カテーテルを外してから、両手両足の拘束を解いた。
8人が全員床に降りると、4人の大学生と3人の高校生のそれぞれのグループは、何もなくなって焦げ目のような傷痕だけが僅かに残るお互いの股間を指差して、陽気に笑ったり喜んだりしている。
祐二だけがただぼうぜんと立っていた。
スーザンは切断された8個の性器を摘み上げて、保存液が入った瓶に入れている。
それが終わるとスーザンは、「コングラチュレーション!。エイト、ユーナックス」と言ってから、祐二の方を向いて「アー、ユー、チャイニーズ」と聞いた。
祐二が、「ノー、ジャパニーズ」と答えると、驚いたことに「そうでしたか。私は中国人だと思ってました。」と日本語で答えた。
祐二はびっくりして、「日本語、わかるのですか。」と聞くと、「日本に住んでいたことがありますから。W大学に2年間留学してましたよ。」と答えた。祐二は、「私もW大学の学生です。」と言うと、スーザンは「オー、奇遇ですね。」と笑った。
祐二が、「日本語分かるなら質問すればよかった。」と言うと、スーザンは「言ってくれれば日本語のガイドもできたのに。」と残念そう。でも、まさか祐二が、ここの建物に何も知らずに入場してきたとは、想像もしていないようだ。
スーザンは、錠剤とバンドエイドを出して、8人に使い方を説明して渡した。祐二には今度は日本語で説明してくれた。説明によると、これらは念のためのもので、実際は、強力な麻酔浣腸と新型レーザーメスの威力で、痛みはほとんどなく、歩行や日常生活も差し支えないそうだ。トイレも差し支えないが、しゃがんで用を足すようにとのこと。祐二は、ちょっと恨めしそうな顔をして、薬とバンドエイドを受け取った。
祐二は仕方なく、「すごい機械ですね。」と言った。
スーザンは笑顔で、「この機械は全部全自動でもやれるの。最初の手足の拘束からカテーテル挿入、ゴムバンドや切断ワイヤー掛けまで全部よ。他人の手による去勢が非合法の州では、私は手を出さずに去勢志願者が全部自分でやらないといけないから。でもニューヨーク州はそうじゃないので、余裕があるときは、拘束や切断ワイヤーは私が準備しているの。その方がお客さんも喜ぶし、私も好きだから。」と答えた。
スーザンが、最後に瓶に入った祐二の性器を渡しながら、「またお会いしたいですね。」と言ったが、祐二は、「ニューヨークには当分来ないと思うけど。」と返事した。
スーザンは、「ここは3ヶ月の期間限定のアトラクション。その地域の去勢希望者がだいたい来てしまうと、別の土地に移動するの。来月はエルパソに行くし、どこかでまたお会いできるでしょう。」と言った。
8人はロッカー室に服を着るために戻った。そこには既に6人の男性が待っていて、全裸の祐二たちの股間を一斉に注目した。なぜ、自分のときは出てくる先客がいなかったのか、祐二はその不運を嘆いた。服を着てロッカー室から回転ドアで外にでると、そこは相変わらずの寂れた遊園地が広がっていた。
振り返ってアトラクションの看板を見ると、屋根の上の看板に「CASTRATING SADDLE」と大きく書いてあった。文字に書かれれば祐二でも意味はわかる。それはずばり「去勢用の鞍」だった。
(終)
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投稿:2006.08.26更新:2022.02.11
NYコニーアイランドの悪夢◆遊園地の去勢アトラクション◆≪西瓜さん画像提供≫
挿絵あり 著者 名誉教授 様 / アクセス 21491 / ♥ 71