今日でとうとうK女子医大を卒業する。来月からは地獄といわれる研修医生活ということになる。しかし、私は女医になれた。次は名医に、そして患者のことを第一に考える医者にも きっとなれると信じている。
K女子医大は、私の大学入試の年から性同一性障害の生徒も受け入れることになり、わずか2人の枠のため114倍もの倍率になった。
選考は非常に厳しく、応募条件ですら、「GIDの診断書」「ホルモン療法4年以上」「生殖巣を欠いていること、または入学時に除去できること」となっている。
さらに学力は純女合格者の平均以上、そして公にはされていないが、GIDの程度と容姿も勘案されるという(あまりにも女離れしていては不都合だから)。
このような条件ながら、卒業後には女として認められた上で 医者として働けるのは捨てがたい。
幸い応募条件の前二者を満たし、あとの一つも「入学時に除去」は願ったりである。
容姿にはあまり自信があるともいえないし、受験者に もっと美人や可愛らしい人はいたが、私も女性として平均程度ではある。
女としてのアイデンティティーには絶対の自信があった。しかしこの倍率だし、応募条件からいって他の人も同じである。一時的にGIDのことを忘れるほど不安だった。
入学式前日のオリエンテーションでは、さすがに他の30人の純女入学生からの視線が私ともう一人のmtfに集中した。そしてその終了後、入試応募条件の最後の一つに取り掛かることになった。もう一人のmtf入学生は手術済みのため、私だけである。
女性の助手によって婦人科の棟に案内され、部屋に入ると40前くらいの女性教授と、3人の看護婦が待っていた。診察台に座らされる。
一応どういう手術なのかという説明を受け、しかし聞かれたのはただ一言だけ。
「当大学に入学ということでよろしいですね?」
「・・・はい」
診察台に寝かされ、上のTシャツをたくし上げ、スカートとショーツを脱ぐ。そして全身麻酔。
と、ぞろぞろと白衣の女子医学生が入ってきた。3年生だそうで、見学するらしい。自分でも赤面するのがわかる。が、そこで意識は薄れる。
・・・名前が何度も呼ばれて目が覚めた。周りには大勢いるようだが、頭がぐらぐらしてよくわからない。
「おめでとう」とかなんとか口々にいっているようだ。ひとしきり私の肩を叩いたり頭をなでたりしてから出て行った。もしかしてクラスメートだった!?
ようやく意識がはっきりしてきて、股間に触れてみた。しっかりガードしてあるが、確かに無くなってるのはわかった。
(ようやくこれで・・・)と思うと、たまらなく嬉しかった。
着衣を直そうとしたとき、おなかに何やらマジックでごちゃごちゃと書いてあるのに気づいた。執刀した教授から聞くと、クラスメートが手術後にやってきて寄せ書きをしたそうだ。
手鏡を取り出してみてみる。
「なかま なかまー」
「おめでとっ」
「わーい、オンナノコみっけー」
「あたし○○、よろしくっっ」
「あいよっ、女体盛!(隣に肉が描いてある)」
驚いたことにブラジャーの下にブラジャーがマジックで描いてある。マルバツゲームの跡もある。
ふふっと笑いが出た。先生や看護婦さんもつられて笑った。
これならみんなとうまくやっていけそうだ・・・と思った入学式前日から6年弱、私は今日で卒業だが、性同一性障害者の受け入れも毎年続いている。入学時に複数の手術があった年には、入学生が半数ずつに分かれて1人を見舞うため、それで派閥が生じたというような話さえ聞くほどの定着ぶりで、他の女子大でも追随の動きが見られる。
この制度をいち早く取り入れたこのK女子医大と、パイオニアとしてやってきた自分を誇りに思う。ついに女医になれた。これから、なんにでも耐えられる自信はある。
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投稿:2006.09.17
抱負(卒業文集より)
著者 ベンツピレン 様 / アクセス 11668 / ♥ 5