その中学の演劇部では、近年男子部員の不足状態が続いていたが、今年は何とか一人だけ男子部員の獲得に成功した。1年生の坂口君である。この演劇部で主に舞台に立てるのは2,3年生で、1年生は舞台裏で働きながら先輩の見習をする事になっていた。今まで女子部員しかいなかったため、男役も女子がやっており、今年は男子部員が入ってきたが、1年生の坂口はまだ舞台に立たせてもらえなかった。
今回練習中の劇では、王子様がお姫様を助けに行くが、お姫様の偽者にだまされて王子様が撃退されてしまうという一場面を含んでいた。演劇には必ず、冗談をまじえて客の笑いを取る場面が必要とされており、なんとこの偽者のお姫様が、王子様の急所を蹴とばすという設定になっていたのだ。
王子様の役には2年生の弘子、偽のお姫様の役には久美子がなっていた。舞台上で、偽お姫様役の久美子は、上半身を柱に縄で縛り付けられており、自由な両足をバタバタさせてもがいている所へ、王子様役の弘子が助けにやって来た。
弘子(王子役):「姫、大丈夫ですか?」
と言いながら弘子が久美子のそばに近づいてきた。
久美子(偽姫役):「ああっ、王子様。助けに来てくださったのね。」
弘子(王子役):「お怪我は無いですか?」
久美子(偽姫役):「私はどこも痛くありませんわ。それより…。」
と久美子が一瞬口を止めたと思うと、ニヤリと意地悪そうな目つきに変わって、
久美子(偽姫役):「自分の体を心配したらどうなんだい?」
と言ったかと思うと、久美子は自由になっている足で、弘子の股間をガツンと蹴飛ばした。
弘子(王子役):「えーん、金玉が痛いよーう。えーん、えーん。」
といって弘子は股間を押さえると、久美子が、
久美子(偽姫役):「こいつを捕らえろ。」
と言った瞬間、悪役の数人が出て来て弘子を取り押さえた。その瞬間、監督役の3年生の美穂が、
美穂(監督):「カット!」
と言って進行を止めた。
美穂(監督):「こら弘子、そんな痛がり方があると思うの?全然痛さが伝わってこないじゃない。ここは客の笑いを取る大事な場面なんだからね。もう一度やり直してみて。」
弘子(王子役):「はい。すいません先輩。でも金玉ってどういう痛さかいまいちピンと来なくて…。」
美穂(監督):「それじゃあ久美子、今度は蹴る真似じゃなくて程々に力を入れて蹴ってみな。」
久美子(偽姫役):「自分の体を心配したらどうなんだい?」
と再び久美子が言いながら、弘子の股間を蹴とばした。
弘子(王子役):「あいたたた…、えーん痛い痛いー。金玉痛いよーう。」
弘子は股間を手で押さえて体を丸め、心をこめて痛がったつもりだった。
美穂(監督):「うーん、どうもいまいちねえ。いい?金玉っていうのは男の急所って言われるぐらいめちゃくちゃ痛いものなのよ。」
弘子(王子役):「そんなこと言われても、先輩、女の子の私には痛さが分かりませんよー。」
美穂(監督):「分からない痛さでも痛そうにするのが演劇ってもんでしょ?そうね…じゃあ大げさに演技するのが得意な多恵子、ちょっとお手本見せて上げな。」
久美子が多恵子の股間を蹴飛ばした。
多恵子:「ぐおおおお…、た、玉が…金玉が…。つぶれ…。いたたた…。」
といいながら、多恵子は股間を両手で押さえて転がりまわっている。
弘子:「キャハハッ、金玉が潰れるだってさ。さっすが多恵子先輩、おもしろーい。」
久美子:「やっぱ久美子先輩はすごい、本当に痛がってるみたいだった…。」
美穂(監督):「そうね。確かに迫力あったけど…、でも私が求めてるものからはまだちょっと物足りないのよねー。」
多恵子:「これが限界よー。だって女の子には金玉なんて付いてないんだから、本当の痛さなんて分かるわけないじゃなーい。だいたい美穂だって痛さが分かるとでも言うわけ?」
美穂(監督):「それを言われると私も困るけど…。金玉付いてないしー。あっ、ちょうどいい実験台がいるじゃない。坂口君、ほら、そんなところで隠れながら見てないでちょっと舞台の上に上がってちょうだい。」
舞台裏から女の子たちの恐ろしい会話を聞いていた坂口はギクッとした。
弘子:「あっ、そう言えば坂口君がいたんじゃなーい。やっぱ男の子にお手本見せてもらうのが一番だよね。」
多恵子:「そうそう、本当に金玉が付いてる子じゃないとね。」
坂口:「ちょっと、恥ずかしいっすよー。」
美穂(監督):「いいから舞台に立ちな。1年生なのに舞台の上に立たせてもらえるなんて幸せなのよ。」
坂口はしぶしぶ舞台にのぼった。偽姫役の久美子は、本当の男の子の金玉を、合法的に蹴れる事になったため、胸がちょっぴりときめいていた。久美子はエイッとばかりに坂口君の股間を蹴飛ばした。
坂口:「ぎょわああああああ、痛いー!ふんが…。ふーん、うーん…。」
坂口はその場にすぐ倒れ、腰をくの字型に丸めて股間を両手で押さえ込んでいる。しかも顔中真っ赤になって、ひたいには血筋が走っている。本当に痛そうな様子が女の子たちに伝わった。
弘子:「イャハァ。」
多恵子:「ちょっと、本当に痛がってない?久美子、ちゃんと手加減したんでしょうねえ?」
久美子:「えっ、あ、はい、弘子や多恵子先輩の股間蹴ったのと同じぐらいに…。」
弘子:「おーい、坂口くーん。大丈夫かーい?」
と言って弘子は坂口のそばに駆け寄った。坂口の目にはわずかに涙が溜まっている。
多恵子:「まさか、ちょっとやばいとか?」
久美子:「ごめん、坂口君。さっき弘子たちの股間蹴った時、ちっとも痛そうにしてくれなかったから全然大丈夫かなって思って…。」
美穂:「そりゃ弘子や多恵子は金玉付いてないんだから、蹴られたってたいしたことないわよ。」
弘子:「でも私、金玉の痛さが分かった気がする…。」
多恵子:「私も分かった気がする。」
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投稿:2007.05.20
過去サイトから 「女子演劇部での悲劇」 1
著者 匿名希望 様 / アクセス 26078 / ♥ 2