11時を過ぎた。金曜の夜は患者さんが多いから遅くなる。事務の女の子達は9時に帰ってしまうから、私が残った仕事の後片付けをしなくてはならない。
それにしても。
さっきからみずき先生の姿が見えない。明日の準備もあるのに。
がんがん。
裏口の扉を叩く音。
「せんせい?」
「あっこちゃん、手伝って」
扉を開けると、先生の後姿があった。
整形外科の看板を掲げるクリニックの女院長。
30代前半という若さで都内の駅前に開業できたのは、親の七光りもあるけど実力も十分にあったから。
「ど、どうしたんですか? 急患ですか?」
みずき先生は若い男性の脇を背中から抱えていた。
「そこで寝てから拾ってきた」
「は?」
私は言われるがまま、男を運ぶのを手伝った。診察室の隣にあるオペ室へ。
男は大学生くらい。鼻筋の通った綺麗な顔をしている。
きっと飲みすぎたんだろう。お酒の匂いがする。
「あの……。どうするんですか?」
「かわいいでしょ?」
「そうですね。嫌いなタイプじゃない……って。そうじゃなくて! どうするんですか、こんな子拾っちゃって」
「みたくない?」
「なにをです?」
するとジーンズのボタンを外し始める。
みずき先生とは幼馴染の好で開業してからずっと一緒に仕事をしてきたが、気分屋で病院を無断で空けることもしばしば。怪我をした犬や猫を拾ってきて助けたこともある。突飛な行動には慣れているつもりだった。でも男の子を拾ってきたのは初めてだ。
「ちょっと、先生! だめですって」
「大丈夫。大丈夫」
男の子はぐっすりと眠り起きる気配はまったくない。
ほっとする。
いやいや。だめだめ。
「上着を脱がして」
「だめですよぅ」
と言いつつ。興味がわいてくる。
男の子は半そでのシャツ一枚。胸元が見える。綺麗な肌。
「ちょっとだけですよ」
「あっこちゃんもエッチだよね」
裸にするのは意外に簡単だった。
お酒に火照って体が桃色。綺麗に筋肉にがついている。何かスポーツでもしているのかもしれない。
「ちょっとあまってるね」
みずき先生が男の子の陰部を指差した。
少しだけ包皮が亀頭にかかている。つるつるな亀頭がかわいらしい。
「あっこちゃん。揉んでみ」
みずき先生が陰嚢を指す。
「えっ、ダメですよ。起きちゃいますよ」
「大丈夫よ。ほらこうするの」
みずき先生は陰嚢を手で包むと、ゆっくりと圧迫する。
睾丸を体の中に押し付けるように掌全体で優しく押さえる。
男の子は少しは眉を歪ませたが、起きる気配はなかった。
「ほら、こうやって優しくマッサージするの」
みずき先生は私の手を引っ張って、半ば無理やりに男の子の陰嚢に添えた。
温かく柔らかい。中で睾丸がヌルヌルと動く。
男性の急所。ちょっと力を入れたら潰れちゃいそう。
「もっと強く押しても大丈夫だよ」
みずき先生が私の手の上から睾丸を押した。
睾丸が行き場をなくして窮屈そう。男の子が苦しそうに眉を歪ませる。
「せ、せんせい。だめですよっ」
私は怖くなってもう力が入らないが、みずき先生はさらにぐっと力を入れる。
睾丸が歪んでいるのがわかる。
みずき先生が力を緩める。陰嚢が息継ぎするようにゆっくりと広がる。
そしてまた力をかけて、陰嚢を圧迫する。
何度もその繰り返し。
「あっ」
男の子の陰茎が大きくなり始める。
「男性器の構造上、こうすると勃起するの」
「へぇ」
男の子の陰茎が完全に勃起した。亀頭が赤く充血している。
男の子は気持ち良さそうに寝ている。まさか自分が寝ている間に裸にされて、勃起した姿を観察されているなんて夢にもみないだろう。
「陰毛が邪魔ね」
「は?」
「剃りましょう」
「ダメですよ。それはっ」
「大丈夫。大丈夫」
こうなると何を言ってもダメだ。
止める間もなく、みずき先生は掌にクリームを出して、下腹部から股間全体に塗りつけた。
「はい剃って」
「ええっ」
「だって、いつもあっこちゃんの役でしょ」
たしかに術前の剃毛は私がやってるけど。
いつの間にかかみそりまで用意されてるし。
私はしぶしぶ、男の子の股間にかみそりを当てる。
勃起したペニスの根元にかみそりを這わせる。
もともと毛の薄い子だ。おへその下、陰茎の周り、そして陰嚢の毛を丁寧に剃り落とす。タオルでクリームをふき取ると、つるつるの股間が顔を出した。
無毛の股間に勃起した大きなペニス。
あまりにも滑稽な姿。
「ふふふっ」
みずき先生が笑う。私も可笑しくなって「くすくす」と笑った。
「知りませんよ。こんないたずらして」
「あっこちゃんがやったんじゃない。もう共犯だからね」
そうだ。こんなことして、もし男の子が目を覚ましたらどうなることか。
「もういいですよね。早く元に戻しましょう」
「なに言ってるの。まだこれからじゃない」
嫌な予感。
「ほら。麻酔して。オペの準備」
「ええっ! オペってなにを……?」
「こんな無垢な股間に、大人びたペニスは似合わないでしょ」
ええっ!
まさかおちんちんをとっちゃうの?
「ほら、麻酔して」
「だめだめっ! それはダメですよ!」
「なんで?」
「なんでって。おちんちんですよ? 取ったら大変ですよ。男の人の大切なシンボルだし、生活に支障も」
「別に不便しないわよ」
「しますよ。トイレとか……、男の子は立ってするんですから」
「なに言ってるの、人類の半分は座ってしてるのよ」
「でも、エッチができなくなっちゃいますよ」
「ふふふっ。気持ち良くなれなくなるだけよ」
「そんなことありませんよ、子供だってつくれなくなっちゃうし」
「睾丸は残すわよ。生殖用のセックスなんて人生で数えるくらいでしょ。人口受精だって今時あたりまえじゃない」
「でも、でも……」
だめだ、みずき先生に口で勝ったことなどない。
「大丈夫。起さないようにそっと取っちゃうからさ」
「問題はそこじゃないと思いますけど」
ああ。ごめんなさい。みずき先生には逆らえない。
私はごめんなさいと手を合わせてから、男の子の陰茎に麻酔をほどこした。
「さあ、始めましょう」
陰茎を強くつねり、感覚が消えたのを確認したみずき先生はメスを持つ。
「綺麗にとってあげるからね」
鼻歌交じりにみずき先生はメスを這わせる。陰茎の裏側、陰嚢、会陰まで縦に皮だけを切り裂く。陰嚢が割け中から睾丸がこぼれ出る。
「せ、せんせい?」
「大丈夫。大丈夫。しばらく持ち上げてて」
うう。私は白いうずらの卵のような睾丸を持ち上げた。睾丸に血が通っている。精索が体内に伸びている。私がくしゃみでもして引っ張ったら千切れちゃいそう。
心拍が早くなる。
「ちゃんと持ち上げて」
「は、はいっ」
ピンと精索を張ると、男の子が「ううっ」とうめき声をあげた。
局所麻酔じゃ内臓の痛みまでは抑えられない。
起きちゃうよ。
目を覚ますと自分の睾丸を手にとる見知らぬ女。
おどろくだろうなぁ。
どんな顔するかな……?
少し見てみたいかも。
「だ、だめだめ」
私は首を振った。
「何がだめなの?」
「なんでもないですっ」
「なに赤くなってるの。あ、分かった。あっこちゃんて、きんたまフェチなんだ」
「違いますよ!」
会話をしながらでもみずき先生の手は休んでいない。
陰茎を包む包皮は完全に剥離されて、陰茎海綿体が露出。恥骨から海綿体を剥がし、亀頭からも分離。中を通る深陰茎背静脈をクリップ。出血を完全に止めてから、会陰辺りにまである尿道海綿体を切除。
もともと優秀なみずき先生だ。大学病院の外科主任の道もあった。
「けっこう簡単ね」
あらかじめカテーテルを通したていた尿道を会陰部にでるように固定する。
つまりこの子は陰嚢と肛門の間からおっしこをする体にされちゃうということ。
「痕が残らないように綺麗にしてあげるからね」
みずき先生が患部に話しかけてる。
饒舌なのは上手くいっている証拠だ。
こんな時は、どんなに酷い傷を負った患者もキレイに治してしまう。
しかも今回は切除が目的。綺麗に組織間を剥離したので、傷口は切開した包皮が半分以上を占める。その包皮もほとんど切り取ってしまう。最終的な傷口は小さい。
「接着剤とテープで閉じましょう」
「はい」
数箇所を補助的に縫合。医療用接着剤とテープで切開部を閉じる。
綺麗に移された尿道口。
カテーテルを抜くと、尿が漏れた。ちゃんと繋がっている。
「すっきりね」
みずき先生は腰に手をあて、満足そうに言った。
きんたまだけぶら下げた股間。
「なんか不思議な生き物に見えます」
「陰茎が無いだけで、情けなくなるわね」
「そうですね。ペニスがあると男子の威厳みたいのを感じますよね。勃起したペニスを目の前にすると、ああ、あれで貫かれちゃうんだって」
「あっこちゃんはエムっ子なのね。私は逆に燃えちゃうけど」
「別にそんなんじゃないですよ」
「隠さなくたっていいじゃん。だけど、そんな子でも私みたいな女にも、もう見向きもされないわね」
「1人エッチしたくても擦るペニスもないし……」
「風俗……もダメね。指差さしで笑われるよきっと。そして残ったのはむき出しになった急所だけ。そうそう。あっこちゃん気づいた? 陰嚢の位置をちょっと上にしたの。恥骨の上あたり。だから逃げ場のないむき出しのきんたまをぶら下げることになるのよ。満員電車なんて乗ったら潰されちゃうかも」
「いくらなんでも、可哀想すぎますよ」
そう言いながら、私は満員電車で彼の正面にいるのを想像した。
私のバックの角が彼の股間に当たる。
私は乗客に押されて彼の睾丸に向かってバックを押し付ける。
彼は腰をくの字にして必死に逃げようとするが、後ろのオジサンに押され股間をさらすしかない。
バックを伝うやわらかい感触。
彼の顔は真っ青だ。
電車がカーブにさしかかって、何人もの体重が彼の睾丸にのしかかる。
ぷちっと音を立てて潰れる彼の睾丸……。
「なにを考えてるの?」
「な、なんでもないです」
「あ、いいこと思いついた」
「なんですか?」
「治りを早くするためにも精力剤を点滴しときましょ」
「若いし、大丈夫じゃないですか?」
「そうじゃないの。射精できない体で、射精したくてたまらなくしてあげるのっ」
みずき先生はそういって鼻歌を歌いながら、点滴セットを取りに行った。
私は深いため息をつくと、ペニスを失った可哀想な男の子をみた。
男の子は安らかな寝息を立てていた。
了
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投稿:2007.07.11
みずき先生のいたずら
著者 エイト 様 / アクセス 40322 / ♥ 44