「動くな、イガム!!」
領主配下の兵士たちが、大声でわめきながらどやどやと家に踏み込んで来た。
「な...何ですか!?」
十八歳の兄と二人暮らしのイガムは、十五歳になったばかりだ。
黒耀石のような双眸をし、腰まで伸ばした黒い髪を、赤い革紐できりりと後ろで一つに束ね、両の耳たぶには紅玉のピアスが輝いている。
兵士たちは訳も判らずじまいのイガムを家から引きずり出して後ろ手に縛り、馬車に乗せて領主の家へと連行した。
その馬車の中で兵士は言った。
「お前の兄貴がな、ダチと一緒に強盗を働いたんだよ!」
弟のイガムは、悪いことを何一つしてはいないのに、連座と言うことで捕まえられたのだ。
兄とその友人は、その日のうちに捕まって、処刑されていた。
領主は、イガムに、兄の生首を見せ付けてから言った。
「イガム...お前を、明日正午に、自宮刑に処す!!」
自宮...?じきゅうって一体何だろう。
きょとんとするイガムに、兵士は言った。
「お前の股ぐらにぶら下がっているモノ...チンボとキンタマをチョン斬るんだよ。...お前自身の手でな。」
「そんなあっ!」
イガムは、思わず絶叫した。
その顔から、たちどころに血の気が失われてゆく。
領主が兵士に命じた。
「そのガキを、刑の執行まで、牢にぶち込んでおけっ!」
「嫌だぁーっ!嫌だ嫌だ嫌だぁーっ!!」
イガムは、泣き喚きながら両脇を抱えられて引きずられていった。
その夜、イガムは、一睡もせずに、冷たい石牢の床に身を横たえたままで下着に両手を入れて、中身を握り締め、捏ね回し続けた。
今まで、ずっと大切にしていたのに。
産まれたときから、片時も離れずに、自分と一緒に成長し続けていたのに。
付いているのが当たり前だと思っていたのに。
こんなにも愛しいのに、可愛いのに、大切なのに...
明日の今頃には、これがもう、僕の体から跡形も無くなっているんだ。
しかも、今こうやって捏ね回している自分自身の手で、斬り落とさなければならないんだ。
僕の大切な、男のシルシを...!
ごめん、ごめんよぉ!!
イガムは、その事実を受け入れたくなかった。
涙が止まらなかった。
自慰をしようと思った。
しかし、どんなに捏ね回そうとも、普段ならすぐに膨れ上がる股間の物は、ぴくりとも勃起しなかった。
まるで、自分の運命に気付いているかのようだった。
翌日の正午、イガムの処刑は、予定どおりに執り行われた。
美少年のイガムの自宮刑をひと目見ようと、多くの観衆が刑場に詰め掛けていた。
「あれ、本当に斬るのか?しかも自分で。」
「本当なら吊し首だが、イガムはまだガキだから恩赦で自宮だと。」
(恩赦...!?これが恩赦だって...!?)
男のシルシを、自らの手で断ち斬ることの、一体どこが恩赦だって言うんだろうか。
二人の執行官に伴われて刑場に現れた、全裸のイガムは、観衆の会話を耳にしながら思う。
刑場の中心には、人が座る高さの石台が据えてあり、その少し手前には、人が股を大きく開いた間隔で、二本の杭が立てられていた。
全裸で後ろ手に縛られたイガムは、足の間にぶらぶらと揺れる半包茎のペニスと、二つの睾丸が、太股に触れる感触を噛み締めながら一歩一歩歩く。
ここを発つときには、この感触を、もう決して味わうことが出来ないのだから。
命ぜられるままに石台に座ると、執行官はイガムの足を大きく開きながら、足首を杭に結わえてゆく。
そうされたイガムは、観衆の前に恥部を曝け出す格好となった。
「今からこの若造が自分の手で斬り落とすものを、とくと御覧あれ」とでも言わんばかりに。
イガムの顔に、恥辱の色が浮かんだ。
まず、執行官は、曝け出された股間の、黒々と生え揃った恥毛を、一本も残さず、全て剃り落とした。
それから、手桶に汲んだ熱い胡椒湯に、イガムの男性器を浸した。
半分剥けた包皮を、亀頭が露出するまで剥いて、くびれと尿口を洗う。
そして、亀頭をつまんで引っ張りながら、竿も丹念に洗い、中に入っている、鳩の卵ほどの大きさの睾丸を転がしながら、皺を伸ばして陰嚢を洗い終えると、執行官は、ペニスの付け根を、陰嚢もろとも、細い革紐で、肉に食い込むほどに堅く結わえあげた。
(い...痛い...!!)
これで、処刑の準備は終了した。
夕べは全く勃起しなかったイガムのペニスは、その意志に反して、膨張する。
スモモの様な赤い亀頭が包皮を脱ぎ捨てて、大きくえらを張って天を向いた。
「これ、本当に今から斬っちゃうのね...勿体ない。」
観衆の中年女性が呟いた。
勃起したものの長さは、ひと握りと半分ほど。
太さもそれなりで、年を考えてみると、もっと成長するだろう。
だが、イガムの男性器は、もうじきその短く若い命を、育ち盛りの年頃で、主人よりも先に散らそうとしていた。
陰嚢も、ぱんぱんに膨れ上がってゆく。
ペニスと睾丸は、やがて血の色を失い、それから青紫に変色していった。
全ての準備が終わると、執行官は、イガムの手の戒めを解いた。
「さあ、イガム。...頃合いだ。斬れ!」
執行官が、そう言いながら手渡したナイフを、イガムは右手で受け取る。
そして、左手で、ペニスを握り締めて、上の方へ引っ張りながら持ち上げた。
皮の中身が、いつものように硬く張り詰めた手応えがあった。
でも、脈は感じ取れず、蝋細工のようにひんやりとしていた。
革紐の内側...
体に面したほうに、ナイフの刃を当てがう。
(嫌だ...斬りたくない...別れたくない!!)
去勢と、それに伴うであろう激痛への本能的恐怖で、手がぶるぶると震えた。
涙が溢れて、止めることさえ出来ず、頬を濡らして、顎からぽたぽたと滴り落ちた。
「どうした!!イガム、早く斬らんかっ!!」
執行官が怒鳴り付ける。
イガムは、改めて付け根に、ナイフを当てがい直す。
「...さよならっ!ごめんねぇっ!!」
言い終えると、左手に握ったものを引っ張り上げながら、右手のナイフを一気に下へ向けてなぎ払った。
イガムは、激痛に吠えた。
その体が痙攣して跳ね上がる。
石台が、たちまちのうちに、切断面から溢れ流れた鮮血に染まった。
観衆は、その光景にどよめいた。
イガムのペニスは、睾丸もろとも、自分自身の手で、一瞬のうちに付け根から切断された。
執行官達に止血されながら、イガムは、左手に握り締めた物を目の前にかざして、呆然としていた。
ペニスと、それに皮膚ごと連なった、二つの睾丸の入ったままの陰嚢。
付け根に、さっき結わえ付けた革紐が、そのまんま付いていて、切断面からは血が滴っていた。
確かに、さっきまで自分の股間にあったものだった。
(僕の...僕の、男のシルシ...!!)
股間が、ずきん、ずきんと脈を打って痛む。
(僕は...自分自身で、男のシルシを斬り落としてしまったんだ...!!)
一生、男でいたかったのに。
昨日までは、一生男でいられると何の疑いもなく、そう思っていたのに。
別れたくなんか、なかったのに。
去勢なんか、したくなかったのに...!!
去勢の現場を皆に見られたから、自分はもう、一生恋も結婚も出来ないだろう。
「ごめん、ごめんね...。斬ったりなんかして。辛かったよね。痛かったよね。別れたくなんか、さよならしたくなんかなかったよ...!!」
相思相愛の主人によって、短い生を半ばで断たれ、女はおろか恋さえ知らないままで、冷たい骸と化した自分の男のシルシをかき抱いて撫でさすりながら、イガムは小声で呟き、泣きじゃくった。
最後に、男性器を握り締め、天を仰いで絶叫した。
「兄さん...何で...何で強盗なんかしたんだよ!僕は...僕は、兄さんのせいで男じゃなくなっちゃったじゃないか!!僕は...去勢なんかしたくなかったよぉーっ!!」
そのまま気絶したイガムは、担架に乗せられて刑場をあとにした。
イガムの男性器は、その後、刑を執行した証拠として、領主に没収された。
それは、天日干しにされた後、度の強い酒に漬け込まれ、その酒は領主の友人達へと振る舞われたという。
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投稿:2007.12.09更新:2011.08.23
自宮刑
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