ジャンケン女
「ねぇねぇジャンケン女って知ってる?」
「知ってる知ってる!」
クラスの女子達が“ジャンケン女”の話で盛り上がっている。
学校の帰りが遅くなると現れるジャンケン女。
線路下のトンネルを通せんぼして「お姉さんとジャンケンしましょう」って声をかけてくるらしい。
クラスの女子の話だと口避け女の妹だとか。
「ジャンケン女がグーで勝つとゲンコツでゴツン!と殴られてるんだって」
「パーで勝つとパーン!ってビンタされるらしいよ」
「ふーん、じゃあチョキは?」
「えっと…チョキは知らなーい」
「えー、気になるじゃんか」
「だって知らないもん、早く帰らないとじゃんけん女出るわよー」
「キャー!」
女子達は足早に帰ってしまった。
「ジャンケン女なんているわけないだろバーカ」
「でも気になるよ、ジャンケン女がチョキで勝ったらどうなるんだろ?」
「いるかどうか試してみるか?」
「うん!」
ケンちゃんと校庭の鉄棒で遊んで時間つぶし。
夕暮れを合図に線路下のトンネルへ走る。
こんな時間に来るのは初めて、お昼とは全然違う。
色が薄茶色に変わった蛍光灯がトンネルを不気味に照らしている。
「うわー、雰囲気抜群だよな、ここ」
「うん、こんな時間に初めて来たよね」
「やっぱ誰もいねぇ」
「うん、いない」
その瞬間ヒヤッとした風が吹いた。
「おい、ヒロシ…」
「ケンちゃん…あれ」
「ボク達…お姉さんとジャンケンしましょう」
(ホントにいたっ!!)
あまりの衝撃に僕達は声が出なかった。
「私に勝ったらおうちに帰りなさい、負けたら通してあげないよ?」
走って逃げたいのに体が動かない。
怖くて涙と鼻水が止まらないのに逃げられない。
「まずは君からね三回勝負よ、ジャンケン、ポン」
ジャンケン女はパー、ケンちゃんはグー、負けちゃった!
(パーン!)
すごいビンタにケンちゃんの顔はクシャクシャ。
「ジャンケン、ポン」
今度は勝った!がんばれ!
「ジャンケン、ポン」
ケンちゃんが勝った!
「やった!勝った!ケンちゃん勝ったよ!」
「うわぁぁぁぁん」
ケンちゃんは僕を押しのけて走って逃げてしまった。
「さぁ、今度は君の番よ」
ジャンケンなんていやだ!いやだ!いやだ!
怖い!逃げたいけど逃げられないし声も出ない。
でも…怖いのにチョキの事がどうしても気になる…パーはホントにすごいビンタだった。
ビンタでもすごかったのにゲンコツで殴られたら死んじゃうかもしれない…絶対イヤだ!
…でもチョキってなんなんだろう?
「じゃあいくわよ…ジャンケン、ポン」
ジャンケン女はパー、僕もパー。
やった!!おあいこだ!!
「ジャンケン、ポン」
ジャンケン女はグー、僕はパー。
やった!!一回勝った!!
「ジャンケン、ポン」
ジャンケン女はチョキ、僕はパー…チョキが出ちゃった!!
負けちゃった…しかもチョキ、わかってたけど怖い!!
もしかしたら、チョキで目潰しかも!?
「フフッ、ボクじゃなくて女の子ならよかったのにね…フフフッ」
え?どういう意味だろう?
(あっ!!)
「フフフッ、可愛いオチンチン」
ジャンケン女が僕のズボンを降ろして、オチンチンを触ってる…もしかしてチョキって!!
ジャンケン女が指でチョキチョキしながら僕のオチンチンに近づける。
そんなのでオチンチン切れっこない、絶対に!!
「かわいいボクのオチンチンを…チョキン!」
絶対切れっこない!!
え?ウソ…そんな!?
僕のオチンチン…ジャンケン女が持ってる。
「どう?痛くないでしょう?オチンチン…無くなっちゃったわね、フフッ」
ホントだ痛くない…でも、でもオチンチンが無いと男子じゃなくなっちゃうよ!!
「フフフッ、お姉さんに勝ったらオチンチンを返してあげる…ジャンケン、ポン」
ホントはジャンケンしてる場合じゃないのにジャンケンしてしまった。
ジャンケン女がパー、僕がグー…。
そんな、負けちゃった…僕のオチンチンが…。
ジャンケン女はパーの手でビンタ…はしないで僕の頭を優しく撫でた。
ビンタはされなくても僕はオチンチンをなくしたショックでへたり込んだ。
「残念だったわね、このオチンチンはお姉さんがキチンと育ててあげる」
「でも…もしこの事を誰かに言ったらこのオチンチンは捨てちゃうから」
ジャンケン女が意地悪そうな顔をして僕にそう言った。
(返して…僕のオチンチン)
「またおいで…お姉さんにジャンケンで勝ったら、大事なオチンチンを返してあげる」
あれからずっと僕はオチンチンを切られたことを隠して生活してきた。
座りオシッコも、残ったタマタマや断面でマスターベーションを覚えたことも隠してきた。
いや、隠さないと生きていけない…男なのにオチンチンが無いなんて。
だからジャンケン女のチョキの事はだれも知らないのかもしれない。
あるいは僕が最初のチョキだったのかもしれない…。
その答えを知るために僕は毎晩ここに通っている。
あの薄暗い線路下のトンネルに…。