永遠と続く白い砂の絨毯、無情な太陽は全てを焼き尽くさんと、私達キャラバンに容赦なく熱線
を降り注ぐ。
ここはアフリカ大陸北部のサハラ砂漠、サハラとは、アラビア語で荒れた土地を意味するらしい
く、砂漠の長距離横断が始めてであった私は、その言葉の意味を身を持って体感する羽目になっ
た。時は14世紀後半、私の母国スペインでは、コロンブス新大陸発見の一報に人々は胸を躍ら
せ、未知の大陸への憧れや希望に満ち溢れていた。私はコロンブスを羨ましく思うとともに、心
の中である決意を漲らせた。元々探検家に憧れを抱いていた私だ、このままキャラバンとして一
生を終えたくは無い、コロンブスのように新大陸の発見は無理でも、何か人々を驚嘆させられる
ものを見つけ出してやる。そんな折、立ち寄ったエジプト近郊の商業都市で変わった話を耳にし
た。何でもこの先のサハラ砂漠を南南西に向かった先に女だけしかいない「女の村」と呼ばれる
集落があるそうだ。私はこの話を聞き、直ぐにこれだと思いついた。この世の中には、まだ我々
ヨーロッパ人の知らない未知の民族や風習が存在する。文字にして記録し母国で公開すればコロ
ンブス程では、ないにしろ私も人々から称賛されるであろう。そうと決まれば、私はあまり乗り
気でない部下達を無理やりに引きつれ颯爽と広大なサハラ砂漠へとキャラバンを進ませた。
「んで、その結果がこれかい。だからオイラは嫌だって言ったんだ。」
暑さに参り、朦朧とラクダに跨っていた私に、隊の中で最年少の少年レイク・ラ・ドレイクが苛
立ちをあらわに言葉を浴びせる。
「大体、オイラ達は砂漠の長距離横断なんて今までしたこと無かっただろ。そんな本当にあるか
どうかも分からない村に行こうだなんて自殺行為だってんの。ちぇっシカとかよ。」
この素直すぎる少年の言葉は、私のキャラバンの現状を見事に代弁していた本来なら先のエジプ
トの都市で香辛料とその他の珍しい郷土品を入手し帰路に着く予定であった。それが、私の一方
的な、彼らからしてみれば下らないチンケ野心の為に狂ってしまったのだ。文句の一つも出ない
方が余程可笑しい。オマケにこの過酷な環境が、拍車を掛ける様に我々の精神を蝕む。最後の飲
食物が底を着き、殺気立った皆の目から推測するに、もはや暴動も時間の問題だった。やはり、
身分相応以上のモノを求めるべきでなかったと、絶望的な後悔を感じ始めた私の元に先鋒偵察隊
にやった部下から吉報が届いた。
「大将、大将、目当ての村が見つかりましたぜ。この先の砂丘を二つ越えた所に、でかいオアシ
スを構えた村がありやす。」
その部下の言葉に、今まで死んだ魚の目をしていたであろう私の目は、一気に生気を帯び輝い
た。なんと、やはり実在した。私の胸は高鳴った。
「皆喜べ、偵察隊が目的の村を発見したぞ。ついに我々はやったぞ。」
私は感極まり、普段皆に見せる事の無いガッツポーズをとってしまった。だが、隊の連中にとっ
ては自分達の死活問題こそが最大の焦点であり、私のこの発言に対し、もう二度とアンタのキャ
ラバンに加わるものかという視線を視線を痛いほどに投げかけてきた。
ともかく、私のキャラバンはその村に到着し、砂漠で乾物と成り果てずに済んだ。
村に到着すると大勢の人々が、出迎えてくれた。大勢の人々。ここで私がこう解釈するのには理
由があった。女だけの村。確かに出迎えた人々は、外見的には女性であった。胸もあり大半の女
性はスレンダーだ。だが、明らかに顔の輪郭といえば良いのか、表情というのか、女性のそれと
は似つかわしくない人物も多かった。
「今日はもう、疲れているでしょう。久しぶりに見えた男の方々を歓迎するための準備も出来て
います。荷物を置いて、こちらにいらして下さい。」
この村の長なのか、一際妖艶な美しさを放つ熟女が我々を大きなテントの中に誘った。
テントの中には豪華な食事が並べられ半裸の美女が悩ましげな踊りを踊っていた。席の近くには
怪しげな形の壺が三つほど、そう三角形の支点で我々を囲むように並べられ、怪しげな香りを
毒々しい赤桃色の煙を吐きながら、漂わせていた。
そしてフラッシュバック、これは私の過去の記憶、女を性欲の捌け口の奴隷、もしくは子孫を生
み出す器程度にしか見ていなかった父親の顔。ペルシャ絨毯の上に置かれた高級な楠の木のベッ
ト。その上で後の私の母達になる女が下劣なる父に身を任せ歓喜の声を上げる。
また、フラッシュバック。これは、私が5歳ぐらいの時の記憶なのか。義母が私のおねしょした
布団とシルクの、そう淡い青色をしたシルクのパジャマを干している。フラッシュバック。
「おねしょしやがって、この糞ガキが、私の仕事が増えるだろうが、おねしょしたチンコ出せ、
出しやがれ。」
過去の記憶の中の私は、義母の言うがまま、パンツを下ろし自分の男性自身を露にした。
「こいつ、このちっこい糞チンコがぁぁ。」
義母は、私のペニスを掴み、引き千切らん勢いで引っ張る。それは、父に対する憤りなのか。
しかし、その過去の記憶の中の私は恐怖よりも喜びを感じていた。
フラッシュバック。
朝になったのか、私は、小窓から降り注ぐ眩い太陽の光と共に目覚めた。
朦朧とする意識の中、私の傍らで寝ている女性が、私のペニスを握っているのに気がついた。慌
てて手を解く、その女性は昨日私達キャラバンを迎えてくれた村の長らしき人物であった。
「んん。あら、アインドレアさん。お目覚めになったのね。」
呆然とする私の前で、彼女は大きな欠伸をした。
「アナタも女だけの村に期待した男。それとも」
・・・つづく
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投稿:2009.10.21
奇人異聞録 1
著者 イルサ 様 / アクセス 11091 / ♥ 0