首都から電車で約30分の中都市。昔は映画館が何館も軒を連ね、夜遅くまで賑わったであろう繁華街。主力だった繊維産業と運命を共にするように今はすっかり寂れた場末にポツンとある小劇場。表の顔はハワイアンショーの劇場で、もうひとつの裏の顔は男性ストリップショーの劇場である。裏と言っても全部隠しているわけではなく、ちゃんと合法的なショーは公表されている。
ただし不定期的に会員限定の秘密ショーが開催される。そこでは全裸ストリップは当たり前、性交から射精まで何でも見せてしまうのがウリだ。
そこのスターが「ザ・シルク」というイケメン青年4人のグループ。筋骨隆々というわけではないが、丹精な顔つきと引き締まった身体に女性だけでなく男性のファンも多い。彼らはこの劇場でも飛びぬけたギャラを得ている。それは彼らの容姿ではなく特技に理由があった。
普通のショーで全裸になったあと、例の秘密ショーで「白糸の滝」という芸が披露される。ステージ上でザ・シルクの4人が横に並んで性器を客席に向けて突き出し、両手を後ろで組む。すると全く触れていない性器が勃起を始め、次に先端から透明な液体を出し始める。やがてその液の色が白く変化し、最後に盛大に発射して終わるのである。
これを4人が見事なタイミングで同時に行って見せる。性器に全く触れずに射精という離れ業は人気を呼び、遠方の地下劇場からの出演依頼もこなすなど、彼らを隠れた大スターの座に昇りつめさせた。
ザ・シルクは高収入に気を良くして、派手な女性関係や遊興を繰り返し、ギャラの前借も多額になっていた。
本来なら別に返せない額ではなかったはずだが、「好事魔多し」の諺どおり、メンバーの1人が精神的なスランプから空想だけでイクことができなくなってしまった。こういう事は伝染する。メンバーの結束の綻びからか、たちまち残りのうち2人が脱落、ショーで失敗して観客から罵声を浴びせられたりするうち、最後の1人もダメになってしまった。
この事態に本人たちだけでなく、劇場経営者も頭を抱え込んでしまった。多額の貸付が滞った上に、ショーの最大のイベントが無くなってしまったのだから当然であろう。結局、劇場の有力な後援者のアドバイスもあって、借金返済のスペシャルイベント「キラウエア火山ショー」が企画されることになった。
当日の入場料は、いつもの秘密ショーの25倍という信じられない高額。でも全国から金に糸目をつけない顧客に案内した結果、観客席は満員の盛況となった。いつもの秘密ショーはこの日に限っては完全に前座扱い。開演後1時間ほどしていよいよメインイベントの幕が開かれた。
ステージの中央には高さ1メートルぐらいの台があり、その上に奇妙な器具が置かれている。スタイルはフランス革命のギロチンに似ているが、横幅が2メートルと極端に広く、高さは1メートル半とこっちはかなり低い。ギロチン特有の刃は重くて切れ味が良さそうだが、なにせ高さがないので、刃先は斜めではなく水平になっている。刃の向こうのは金属の板があり、高さ1メートルぐらいの位置に、50センチぐらいの間隔を空けて小さな穴が4つ開いている。金属板は穴の位置で上下に分離できるらしい。
ここで司会者のアナウンスに続いて、ザ・シルクの4人が登場する。最初から全裸で、いつもと違って前の毛を全部剃られてパイパンになっている。それを見た観客の一部ががまず奇声を上げる。
4人は自分からギロチンに近づき、まず両足首をやや開いて、器具の下の横棒の足枷用の窪みに入れる。アシスタントがすぐに足枷を閉じて固定する。続いて上方の横棒にある首枷と手枷を同じようにセットする。客席から4人の足のつま先と首から上を手首は見えるが、身体の大部分は金属板に隠されている。つま先が前にはみ出さずにつま先立ちのようになっているのは、落ちてきたギロチンの刃が当たらないようにとの配慮だろう。
金属板の上半分が少し持ち上げられ、小さな穴が半円形の窪みになった。金属板のスリットから4人の下腹部がちょっとだけ見える。アシスタントが4人の性器を持ち上げてその窪みに載せると、すばやく金属板が閉じられた。客席からはペニスとフクロが4つ、金属板から飛び出している。穴があまりに小さいので、自力で引き抜くことは不可能だ。
バックミュージックが急に大きくなって、場を盛り上げるドラムの音が響いた。司会者がカウントダウンを始めた。ゼロのアナウンスの直前に、あんなにダメだったメンバー4人全員の性器から白い液が噴出した。
しかしギロチンの刃は、容赦なく落下を始める。刃の向こう側は金属板に接触してるので、穴から飛び出した性器はいとも簡単に切断される。刃はステージ上の台の中まで落ちて止まった。刃が中間点を過ぎて4つの性器の切断が終わると、刃の上部の金具が金属板のストッパーを外し、今度は支えを失った金属板が台の中まで落下する。
金属板が無くなると残るのは左右2本の柱と上下の横木だけである。4人は、首と手首を上の木に、足首を下の木に固定されたまま、裸体を観客に晒している。
性器が切断されたばかりの股間からは、真っ赤な鮮血がドクドクと流れている。
まさにハワイ島のキラウエア火山の流れるような溶岩噴出の光景そのものである。
しかし、アシスタントも誰も助けない。4人とも口枷はしていないので、悲鳴や嗚咽が場内に響く。高い入場料を払ったお客も、流石にここまで凄惨な光景を見ることになるとは予想外だったらしく、シーンと静まり返っている。
切断から3分たって、ようやく観客の一部ざわめき出した頃、ステージの幕が下ろされた。幕の手前では、別の芸人によるトークが始まるが、お客は半ばうわの空のようだ。
15分後、ステージの幕が開くと、あの4人が立っている。股間には医師によってカテーテルが挿入され、傷口は応急的に縫合されている。麻酔も射たれたらしく、あまり痛がっている様子はない。ファンはもちろん一般客からも安堵の息が漏れる。切断された性器は、ホルマリン入りのガラス瓶に入れられている。
しかし、あまり長く立っているのはきついようで、すぐに幕は下ろされた。
このショーは興行的には大成功で、ザ・シルクのメンバーも借金を完済し、若干の報酬さえ貰うことができた。ただし、女遊びにはもう使えないわけだが。
ところで、このショーをもう一度見たいという要望が、あちこちから来ているそうだ。考えてみたらザ・シルクのメンバーである必要はないわけで、誰でもOKということで秘密裏に募集しているらしい。25歳ぐらいまでのイケメン4人組だったら年収以上の巨額の報酬が出るし、太めの中年オヤジ4人組でもまあまあのお小遣いにはなるそうだ。
仲間うちで話がまとまったら、あなたも一度申し込んでみてはどうだろうか。
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投稿:2009.11.29更新:2021.10.21
キラウエア火山ショー
挿絵あり 著者 名誉教授 様 / アクセス 21377 / ♥ 33