※突発的に書かせてもらった雨乞いの続きものです。詳しくは下のリンクをどうぞ。
【前作】雨乞い
あっちの山は、人を食らう悪鬼の住む山。
古寺のうらてにある大沼には、龍が住んでいて雨を降らせる…。
この村に伝わる迷信は100を超え、人々の生活にも深く入り込んでいた。
村は拝み屋を営むものの手によって治められ、巫女や祈祷師がまつりごとを担う。
なにせ、深い自然の壁にとり囲まれた山の村である。
よそからの来訪者が殆どないので、知識は偏り、常識は外のものとかけ離れていく。
おとぎ話は語り継がれ、時には修正され、糸を紡ぐように後世へと伝わる。
村人はそれにしたがって生きていくのである。
神の気まぐれによって一人の少年が無意味に性器を失ったあの日、豪雨は三日三晩
地面をたたき続け、ひびわれた田畑を癒した。
天地がひっくり返るような大騒ぎのあと、村人たちはなぜ生贄の巫女を捧げる前に
雨が降り出したのか考えることにした。
「きっと生贄に関する口伝が間違っていたのだ。」
「別に巫女を沼に沈めなくともよいのではないか。」
少年の性器が山寺に奉納された途端に、激しく雨が降り出したのだから、村人の考えは
自然とそこに収束していった。
あの少年の穢れ落としの儀式が、龍神を喜ばす理由になったのだと————。
村人たちはそれが大自然の気まぐれによるものだとは考えもしなかった。
雨乞いの方法は生娘を生贄として沼へ沈めるやり方から、その年に成人した男の陽根を
供物にするやり方へと作法を改められた。
本来なら立派なマタギになるはずだった少年がその後どうやって残りの人生を過ごしたか、
それについては誰もが口を閉ざし、後世に伝わることはなかった。
あれから数十年、村は再び大規模な干ばつによって、干乾びた死の匂いに覆われていた。
空には雲のちりすらひとつもなく、太陽が唯一の存在として君臨し、大地を熱で蝕んでいた。
夕暮れになっても土からわく死霊のような陽炎のゆらめきは消えず、乾燥した村では食事に使う火によって
たびたび火事が起こっていた。
夜、静けさを破って祭囃子が寺の境内から響き渡る。
数十年の時を経て、龍神祭と名を変えた穢れ落としの儀式が始まる。
村はかがり火によってほんのりと赤く照らされ、その炎は連なって歩く村人たちの
影法師を妖しく揺らし出していた。
村人たちは全員、頭巾のようなものをかぶっていた。
一目見ただけでぎょっとするような、不可思議な文様をなぞった紙の仮面である。
おそらく龍神を模ったものだろうが、彼らの奇妙ないでたちは、今宵催される祭りが
尋常ならざる意味を持つことを物語っている。
一人の村人が、紙の仮面を少しだけ顔からめくった。
合間からちらりと見えるその顔はまだ若く、整った目鼻立ちが印象的だ。
世間一般の基準に当てはめれば、間違いなく美形に属するだろう。
若者は仮面を指ですくって薄い唇から遠ざける。呼気によって紙が湿り、肌に嫌な感触が走るからだ。
するとすぐに周りの大人がそれに気づいた。
「こらこらアカシ、面は外すな。神様に祟られるぞ。」
「す、すいません…。」
若者は指を顔からひっこめた。またあの生温かい感触が唇を襲う。
アカシは息苦しいのを我慢した。もっとも、息苦しいのは顔に張り付く仮面のせいではなく、
この龍神祭がまとう異様な雰囲気が要因のほとんどであった。
(…ほんとうに、あんなことをやるのだろうか。…あんな、迷信じみていて、
時代錯誤で、馬鹿げた行いを…。なんとも思わないのか?皆は…。)
淡々と行列の進む中、アカシはいじらしく爪を噛んだ。
なんとかこの場を逃げなければ、次は我が身にふりかかることだ。
だが今年成人を迎えたアカシを含める6名の若者たちには、とびきり厳しい
お目付け役がつきまとい、常に行動を見張っていた。
村を脱出するすべは殆どないに等しく、もし脱走がばれれば村人全員による私刑と村八分の処分が待つ。
お前を呼んだのは他でもない——。
故郷へ帰ってくるよう村長から便りを受け、3日前にアカシはふるさとの土を踏んだ。
そして、村長から直々に龍神祭の開催とその全容を初めて聞かされたとき、彼は自分の耳を疑った。
そして次に村長がおかしくなったのかと悩んだすえ、どうにかその信じがたい計画が
冗談の類ではなく、本当に干ばつ解決への手段として用いられる予定なのを理解した。
理解と同時にアカシが猛反対したのはもちろんのことだ。
当然といえよう。
久しぶりに都会の学校から帰郷してみれば、顔なじみの人たちがとんでもないことを始めようとしていたのだ。
男の性器を神様に捧げて、雨を降らそうなどという妄言は、西洋からの文明技術に触れた
彼にとって一笑に付すものでしかなかった。
しかし、アカシの反論に耳を貸す村人はいなかった。
それどころか、故郷に残って暮らしていた幼馴染の男たちに詰めかけると、
みんな喜んで参加するというのだ。
小さい頃からの刷り込みで、彼らは龍神という存在が本当に雨を降らしているのだと信じ込んでいるのだった。
「信じてくれよ!そんなことしたって雨は降りっこないんだ!!」
「なんだ、アカシは魔羅を切るのが怖いんだな。なっさけねーな、それでも男か!?」
「俺たちの犠牲で村が助かるんだ。辛いけど、考えようによっちゃ安いもんだぜ。」
どれだけ熱心に説得を続けても彼らは耳にいれようともしない。
しまいには、西洋かぶれのアカシと呼ばれ、からかわれる始末であった。
村人たちはいつもなら井戸端会議で閉じることのない口を、今夜に限って固く結び、
境内の真ん中に作られた神楽殿をじっと見ていた。
いつもは旅芸人が演劇をなすための場所である。
いまは片づけられており、神楽道具の代わりに神事のための神棚が設けられていた。
神楽殿の中央では、祭囃子に合わせて巫女が奉納の舞いを踊っている最中である。
四方の柱には葵の葉、その周囲にはしめ縄が巻かれ、紙垂が乾いた風に吹かれていた。
巫女もまた、祭りの決まりに従って面をかぶっている。
但しそれは木を彫って作られた木仮面であり、村人のそれよりもはるかに荒々しい形相の龍が刻まれている。
「あれは、ひょっとしてミスミかな…?」
「しっ!巫女のミスミが神舞の最中はしゃべってはならねえぞ!!」
アカシの脳裏に幼い時代の思い出がよみがえる。
あのころは古寺がアカシを含めた悪ガキたちの一番の遊び場所であった。
そんななかで、いつも忙しそうに親の神事を手伝う小さな巫女見習い。
彼女はよく自分たちのほうを何か言いたげな目で見ていた。
記憶の中で幼いアカシが声をかけると、彼女はミスミと名乗った。
10年にちかい歳月をへて、巫女見習いの少女は成熟しつつあり、大和撫子のたゆやかな品格を
感じさせるようになっていた。
アカシに初めてできた女の子の友達である。当時のことは彼にとって照れくさく、思い出すことができない。
仮面の下はどのようになっているのだろうか。自分のことを忘れてはいないだろうか。
そんなことばかりがアカシは気になっていた。
セミが泣きやむようにぴたりと祭囃子が止まり、巫女がいったん踊ることをやめた。
すると今度は古寺と村をつなぐ参道から、手持ち太鼓の音が無数に重なって聞こえてきた。
参道の奥から何かがやってくる。
とても大きな代物で、それは石段の上を舐めるようにうねり動いていた。
地面をならすような太鼓の音が後に続く。
周りの木々もざわめき、大変に不気味である。
かがり火の傍を通った時、その姿の全容が明らかとなる。
正体を現した謎の物体は、龍神を模した大きなはりぼて人形であった。
10人の黒子に扮した村男たちがそれを掲げている。
はりぼての支えとなっている棒を、息のあったたくみな腕さばきによって、本物の龍がうねっているように
見せかけているのだった。
まるで龍が吼えるような音調で叩き鳴らされる太鼓の音と相まって、龍神そのものが
顕現したかのような衝撃的な動き方である。
しかしその恐ろしい動きに村人は圧倒され、誰もが身震いを起こした。
年老いた者の中には腰を抜かして立てなくなる者も出た。
龍神は境内に着くと、しばらく太鼓の音色とともに神楽殿をぐるぐると回っていた。
巫女はそれに合わせて壇上を回り、やがて手招きの動作を始めると、龍神を操っていた男たちは
ゆっくり神楽殿に上っていく。
これは龍神が降臨したことを表すものである。
龍神はこの神楽殿において、自らに捧げられる供物を待つのである。
その儀式を執り仕切るのが巫女であるミスミの役目であった。
やがて、はりぼてを安置した黒子の男たちは壇上から降りていく。
神棚に頭をのせて放置された龍神は、紙で出来たつくりものとはいえ
一応は神のよりしろとして扱われている。
そこにあるだけだというのに、ただのはりぼてであるはずのものは、何かとてつもない
霊的な波動を放っていた。
実際、一番身近な場所にいたミスミは、背に妙な視線を感じて冷や汗をかいていたほどである。
祭囃子、太鼓の音が終り、次に流れてきたのはしゃんしゃんと涼しげな鈴の音であった。
いよいよ今日の祭りで供物の役を担う、神男の登場である。
鈴杖を鳴らした女たちが、笹の葉を掲げてやってくる。
その背後、しばらく離れた石畳の向こうに、裸の若者が立っていた。
龍の仮面を付けておらず、素顔のままである。
その身につけたものは六尺褌ひとつであり、あとは雄々しい身を薄暗い野外に晒している。
ゆっくりと神男が古寺に向けて歩き始める。
その顔が近づくと、アカシは驚きの声を上げそうになった。
よく知っている顔であったからだ。
(ヒ、ヒサシロじゃないか!!)
ヒサシロは彼の一番の親友である。
同じ日に生を受け、同じものを取り合って喧嘩したり、同じいたずらをして一緒にしかられたり、
幼少期において一番長い時間をともにすごした兄弟のような関係である。
ともに同じ釜の飯を食べたこともあるし、同じ風呂でお互いの陰毛の生え具合などで
からかいあったこともあった。
当然、アカシと同じく今年に成人した若者で、神男候補であることもアカシは知っていた。
アカシが驚いたのはその順番であった。
ヒサシロは、自分が最後の神男だと彼に話していたのだ。
しかし今日は成人男子6人のうち3人目が供物を捧げるはずの日である。
親友が嘘をついていたことにようやくアカシは気が付いたが、何かを言うにはもう手遅れであった。
アカシが何か言おうと口をもごもごさせている間に、ヒサシロは石畳を歩き終わり、神楽殿の前につく。
そして、たった一枚の着衣である六尺褌を自分で解いた。
彼は村人たちに向かって正面を向いた。何人かの唾を呑む音が聞こえる。
アカシは人ごみの隙間から、大人になった親友の裸体を初めて見た。
昔は背の小さな男の子であった彼の身体は、いまや見違えるように男らしくなっていた。
肩幅はがっちりと広くなり、太い腕を支えている。畑の盛り土のような筋肉が身を引き締まらせ、
逞しい肉体はときおり緊張の為か、軽く痙攣している。
かがり火が照らす闇夜のなか、土仕事で日に焼けた彼の肌にはくっきりと盛り上がった
筋肉の陰影が描かれていた。
神へ供物を捧げるにふさわしい、力強い息吹を感じさせる。
彼が腕を後ろに回すと、祭司の村人がその太い手首に縄をかけた。
後ろ手に縛られたことで、大きな両手の影法師に隠れてよく見えなかった陰部が露わになる。
村人たちの前に、その恥部がさらされる。
「…」
「…」
「…」
全体的な大きさなら1番目の神男が、ふぐり玉の大きさなら2番目の神男が優れていた。
その点でいえば、3番目のヒサシロが引っ提げてきたいちもつは亀頭の張り方が一番の特徴であった。
一番目に負けず劣らずの巨木を誇り、その先端に皮こそ少しかぶってはいるが、中に秘められた
亀頭の大きさは群を抜いて分厚く出来ていることがわかる。
幹から張り出したカリ首の段差は子供の指一つ分くらいの幅があるだろう。
毒キノコのような黒ずんだ色の肉茎が、綿を付けたような陰毛の束から垂れ下がっている。
(みんなヒサシロの、あんなところばかり見て……。うっ…!?)
アカシの鼻を刺激臭が突いた。それはヒサシロの股間から漂ってきたものだった。
供物を捧げる神男ですら、この深刻な干ばつでは水による禊もおこなえないのだ。
激臭にむせこむ者もいたが、誰もそのきつい臭いに笑わない。
ふと、アカシがヒサシロの顔に目を戻すと、彼の顔は日焼け痕がわからなくなるほど真っ赤であった。
アカシのような美形ではないにしろ、そこそこ整っていて女受けのいい顔は脂汗を噴き、
鼻からは蒸気が出てきている。
ミスミが土瓶から柄杓に白い液体を注ぐ。それをヒサシロは口に押し付けられるがまま飲む。
巫女のミスミが古くから伝わってきたやり方で麻薬草を煎じ、作った霊薬の一種である。
それを飲めばしばしの間、魂は肉体の苦痛と切り離される。
さらに身体を温め、精力をみなぎらせる興奮作用も働くという。
たちまち効果は身体にあらわれ、ヒサシロは全身の筋肉がきしむ音を聞いた。
静けさの中、ヒサシロが声を初めて発した。
「む、村のみんな…どうか俺の穢れた魔羅を清めてください…。」
そう言って、彼は股間を群衆へと突きだした。
よしまかせろ、と腕まくりをして、まずは村人の一人が前に出る。
彼は手に霊草の汁をつけると、干し芋のようなヒサシロのいちもつを握った。
ヒサシロは腰を思わずひいてしまうが、男の手はそれを追いかけ、握って離さない。
彼の手を背中に縛ったのはこのときに抵抗ができないようにするためであった。
村人の誰もが風呂に入れないなか、ヒサシロもそれは例外ではなく、ゆえにその陰茎も垢でまみれていた。
ぬるぬるした霊草の汁が引き起こす力で、ヒサシロの巨根はゆっくりと垢を落とされていく。
徐々に血液が肉棒の中へと充填していくのを、その持ち主は感じとっていた。
「…んっ!くっ、くあああっ!!」
神男に選ばれた者にとって、この快楽こそ最大の苦痛である。
彼らはその男性器を捧げるまでの10日の間、精を放つことを禁じられているのだ。
ゆえに精力溢れる若者の時間を10日も耐え続けた男根は、非常に敏感になっており、
精液を噴出したくてたまらない状態になっている。
にも関わらず、神男はひたすら他人の手淫に耐え、淫欲に打ち勝たなくてはならないのだ。
ある程度まで村人が幹を扱くと、次の村人に交代され、同じ事が繰り返された。
みるみるうちにヒサシロの分身は真の姿に膨張する。
えら立った亀頭のせいで、見れば見るほど雨のあとで膨れ上がったキノコそっくりである。
皮の剥け切った立派な亀頭は、精液という胞子を放つために傘を広々と開き、
豪雨のあと生えてきたかのように濡れていた。
アカシが背中を押される。いつの間にか彼の順番が回ってきていた。
霊草を手渡され、引くに引けなくなった若者は、全裸の親友の前に立つ。
神男の雄々しい性の象徴は、滴を垂らしてアカシの手を待っていた。
腹を打ち付けるほどに勃起し、裏筋から見るだけで尿道が爆発寸前にまで膨らんでいるのがわかる。
その巨大な陰茎を前にして、アカシを凄まじい吐き気が襲う。
親友の性器を弄ぶ行為に己が加担しているという嫌悪感。
純粋に同性の陰部を触るという気色の悪い行為に対する嫌悪感が、彼の手を渋らせる。
やがてヒサシロにも、動きのない目の前の仮面をかぶった村人が誰かわかったのだろう。
彼は目配せをし、声を出さずに口の動きだけでアカシに話しかける。
「が、ん、ば、れ。」
その励ましの声に押され、ようやくアカシの手は動いた。
汁のついた手でその象徴を掴むと、驚くほどに硬く、そして燃えるような熱さであることがわかる。
杉の幹を這うツタのような血管が一気に太くなるのを感じ、ヒサシロの味わっている羞恥の世界を
アカシは少しだけ共感した。
伸びた爪が張り立った亀頭の裏側に溜まった恥垢を擦り取る。
「ひいっ!」
ヒサシロはとびきり大きな声を出し、つま先立ちで迫りくる射精感を抑えるべくとび跳ねた。
アカシは親友の様子に気が付かず、肉茎に爪を突き立て、ぐるりと亀頭の下を一周する。
陰茎の中を血が駆けずり回り、開ききった鈴口が射精の構えをとった。栗の花の匂いがきつくなる。
「あっ、くそっ!」
「!!」
先走りが樹液のように染み出し、その拍子にアカシは手を離してしまう。
危ない所であったが、すんでのところで射精はとどめられる。ヒサシロは内心ほっとしていた。
次の村人がやってくるので場所を譲り、アカシは人ごみに戻っていく。
その手には親友の体温が残っていた。熱く滾り、精を撃とうとする男の残り火である。
そして爪にこびりついた親友の恥ずかしいものに気がつき、アカシはそれを慌てて地面になすりつけた。
こうしてしばらくたった後、10にも満たない子供から、60を超える老人まで、全ての村人が
ヒサシロの熱いいちもつを磨き終えた。
いよいよ龍神はお待ちかねのようで、ときどき風によって煽られ、はりぼて像が怒れるように跳ねる。
神男は縄を解かれ、勃起したまま神楽殿へと登った。
ミスミが小刀を携え、彼を待つ。ミスミは腰の帯から呪文の書かれた長い札を取り出した。
二つ折りの長い札がすっぽりとかぶせられ、まるで頭巾を付けたかのようにヒサシロの太い魔羅が隠される。
このとき、ミスミは彼の陰茎に直接触れないよう、十分注意した。
もし触ってしまえば、供物としての力はなくなってしまうからだ。
自分のいちもつの封印が終わったようなので、ヒサシロは村人たちに自分の晴れ姿が良く見えるように
向きを整え、壇上へと腰をかがめた。
股を大きく開いた正座で、きちんと足の付け根に手を添える。
封印された彼の男根が、目の前に座るミスミの方を指していた。
そしてミスミが、神通力の宿ると言う小刀をヒサシロに差し出す。
それを丁寧に受け取ると、彼は武士が切腹をするように小刀を腹の前に構えた。
これから彼は、自身の手で神に己のいちもつを奉納するのである。
神事用に作られた長い箸を用い、ミスミはそそりたった幹の終り、亀頭の始まりの場所を挟む。
これは、龍神が神男の自ら捧げる男の象徴を食らう姿を模しているのだ。
すでに彼のいちもつは、龍の舌の上に転がされているのだということを表現しているのである。
そして言うまでもなく、小刀は龍の鋭い牙の象徴なのであった。
アカシは親友の無意味な自己犠牲を前に、壇上へと飛び出しそうになった。
しかし、そんなことをすれば、自分の身はどうなるのか。
袋だたきにされた揚句、生き埋めや磔などという原始的な私刑がまっているかもしれない。
恐怖がアカシの身体を地面に縛り付ける。
もし、いま雨が降ればどうだろうか。
きっとヒサシロは助かり、さらに4番目の神男である自分も助かるだろう。
それこそ非科学的、奇跡の類であろうが、アカシには天に祈るほか無かった。
一方、自分の運命に腹をくくったヒサシロは、正面にそろった村人たちの集まりをもう一度見る。
たくさんの人々の期待が自分にかかっているのを胸に刻み、それをただひとつの勇気にする。
自分のいちもつを箸でつまむミスミと目があった。
木彫りの仮面に空いた穴の奥をうかがい知ることは出来ない。
「では、龍神さま…俺の精に満ちた魔羅を、どうぞお納めください。」
その時、雨が降ってきた…
…という都合のいい展開が訪れることはなく、ゆっくりとヒサシロは目を閉じた。
アカシの祈りもむなしく、ヒサシロ自身の手によって小刀が彼の股間に沈んでいった。
血が吹き出て、彼とミスミの顔に斑点を打つ。
ヒサシロは何の苦痛も感じていなかった。
霊薬の痛みを止める効果はばつぐんに効いているようだ。
最初の一刀は激しい恐怖とためらいがあった。
しかし痛みがないとわかると、彼は早く終りを迎えたいがために小刀を激しく突きたてる。
まるで畑仕事をこなすように、力強い腕で己の肉を裂いていく。
陰毛に何度か切っ先が絡み、神楽殿の床にできた血だまりに黒い毛がぱらぱらと落ちる。
萎えぬ男根は根元を裂かれ前のめりに倒れるところを、ミスミの箸さばきで支えられ、
空を穿つような姿をしっかり保っていた。
溝の深く刻み込まれた腹筋が、谷間を埋めるようにきゅっと締まる。
そうすると今度は封のされた亀頭の先端から紙を突きぬけて、水鉄砲のように汁が飛んだ。
ついに射精の禁を破ったのかと思われたが、それはただの先走りであるようだ。
つまり驚くべきことに、ヒサシロは射精をまだ我慢できていたのだった。
神男としての責務を全うする彼の姿に、誰もが見入っていた。
ヒサシロはいま、男の魂を自ら切り落としていく。
それでも村のため、親友のアカシや自分のために、小刀を動かす手を止めることができないでいる。
ヒサシロの閉じた目の奥では、一匹の龍がいた。
神の意思に乗っ取られた両腕が、神の牙となって哀れな生贄の男根を咬みちぎる。
いちもつを挟むミスミの箸は、ヒサシロの閉じた目の奥で龍の舌となり、供物を丸のみしようと手繰り寄せる。
「うっ、うあああっ、うあああああああああーーー!!」
ヒサシロの腹に、一瞬だが落ちるような感触が走った。
ミスミが箸を引っ張り、ヒサシロの腹から蛇を掴むようにそれを抜き取る。
皮一枚で繋がっていた肉棒は持ち主の身体を離れ、袋から白い睾丸がこぼれおちる。
ヒサシロは男子としての生に終止符を打った。
その刹那、切り口から血の混じった精液が爆発するように溢れだす。
しかし陰茎の中をくぐり抜けるような、射精の快感を味わうことはできない。
いや、もはやそれを残念がるどころではないような、深い絶望感が彼を襲っていた。
震える手で、しかし決してその供物を落とさないように、ミスミが箸で掴んだ肉茎を頭上に掲げる。
とたんに封を切ったような歓声が、村人の間に沸き起こった。
アカシはそのうるさいざわめきの中で親友と同じように泣いていた。
もはや紙で出来た仮面はふやけきっており、彼は怒りにまかせて顔をかきむしった。
仮面がばらばらになる。
なぜこんなに他の者たちが楽しそうに、愉快そうにしているのかがわからないでいた。
今度は自分の番である。
今度は自分が、親友のヒサシロがやってみせたように、村人たちのまえで己のいちもつを
切り落とさねばならないのだ。
アカシはしゃがみ、歓声の中で悲鳴にも似た泣き声をあげた。
「なあ、どうだった?神男になってみて。」
親友にそう聞かれ、横になったままのヒサシロは力なく微笑んだ。
彼は村外れの小屋に寝かされていた。むき出しの下半身は布で巻かれている。
「どうって…まあ、痛くはなかったぜ。まるで龍神様が本当に俺のいちもつを
食っていくみたいで興奮したなあ。」
でも…と、ヒサシロは付け加える。
「もう俺、一生おんなと遊べねえよ…。せんずりこくこともできやしねえよ…。」
「雨が降るなら、龍神の奴に俺の魔羅くらいくれてやるって思ってたんだ。でもこんなにつらいなんてよ…聞いてねえや…。」
「ヒサシロ…。」
一人にしたほうがよさそうである。ヒサシロの気持ちを汲んだアカシはそっと小屋を出た。
アカシはミスミとも会った。ミスミはヒサシロよりも激しく泣きじゃくっていた。
「どうしよう、私…アカシの大事なものも切り落とさなきゃならないの?」
その慌てた姿を見て、アカシの頭に熱い怒りの血が流れ込む。
「ヒサシロのを切り落とすときはあんなに平然としていたのに、俺のことは心配してくれるのか!?
友達だからなのかよ!?」
彼はミスミの着る白い着物の袖をひっぱる。
この女が村人をたぶらかし、親友の人生を奪ったのだと思うと、アカシはやりきれなくなった。
「雨を降らしてくれる龍なんていない、そんなものは存在しないんだ!」
そのとき、アカシはミスミの異変に気がついた。
何か嫌なことを思い出したかのように、顔面は真っ白に血の気が失せ、
ひきつるように息を吸ったり吐いたりしている。
ミスミは着物のはだけた部分を腕で隠していた。
しかし隠したかったものを全て覆い被せるほど、彼女の腕は大きくない。
「ミスミ、これなんだ…?」
彼女の白い肌にはいくつもの赤黒い斑点模様がついていた。蚯蚓腫れのようになった傷痕もみられる。
痛々しい傷を見て、アカシは理由を尋ねた。
「あ、雨が降らないのは、…きっとお前が儀式をちゃんと、し、してないからだって。
皆が私を叱るの、叩くの…っ。」
「そ、それじゃあ、お前っ…!」
「皆信じてくれないの!一番目のシュドウくんのときも、二番目のナリオくんのときも、
私はちゃんと言い伝えのとおりにやったのに!!!」
ミスミは涙を拭って話を続けた。こすりすぎて、目もとから血が出ている。
「でも、皆はお祓いの札を締めるときに供物に触ったっていうの…。お、お父さんからも言われたわ
…お前は穢れた巫女だって。」
「ミスミ、もういいよ、もう、わかったから…もう…。」
「神に仕える巫女のくせに、お、男の子の大きくなった魔羅が、そんなに気になるのかって…。
げほっ、ごほんっ!」
過呼吸に陥ったミスミが落ち着くまで、アカシは背中をさすってやった。
「こんな村捨てて、二人で逃げよう。都会には素敵なことがいっぱいあるんだ。」
無茶よ…と、ミスミは消え入りそうな声で断った。
「私、皆が怖い…。あの人たちはずっと、私たちのような呪い師にすがって生きてきたんだわ…
だから、どこまでも私は追われるにきまってる…。」
アカシの心を打つ言葉であった。
彼は今まで、この閉鎖的な村を支配していたのは拝み屋だと思っていた。
しかし本当の支配者は、村人たちに古来よりしみついてきた、迷信に対する畏怖だったのである。
やり場のない思いをぶつける相手は、ミスミではなかった。
それは村人でもない。影も形もなく語り継がれる沼の龍神そのものであった。
やがて10日分の時が馬を走らせたように過ぎ、龍神祭の第4幕が始まる。
四番目の神男であるアカシもまた、六尺褌のみを身に付け、古寺の入り口に立っていた。
決して大柄ではないが、細くもない体つきである。
褌の内部に収められた男根は、外側からもくっきりと形が浮き出てよくわかる。
村人が見守る中、参道を歩いてきたアカシは、ためらいなく衆目の中で褌の拘束を解いた。
四番目、アカシの捧げる供物は、長さの方も太さの方も先の三人と比べればどうということはない。
だが身体と同じく、とても均整のとれた姿形をしていた。
幹は細く、しかし肉厚である。形の良い亀頭は皮を脱ぎ去っており、睾丸のぶら下がる遥か下で
地面を向いていた。
ミスミを守るため、彼は恥辱の儀式に立ち向かう。
ミスミが責められることになっても、神男の自分が儀式に失敗はなかったと証言すればよいからである。
実際に男根を落とされたものの声ならば、猜疑心の深い村人たちも納得せざるを得ない。
「村のみなさん、どうか俺の穢れた魔羅をお清めください…。」
理由があれば、アカシもこの意味のない祭りごとに耐えることができた。
恥を捨て、村人の手に己の陰茎を委ねることも、以前なら出来なかったはずである。
神楽殿に上り、ミスミと対面する。
座ったアカシの腹から、硬くなった大きな男根がミスミの顔を指している。
ミスミはそっと札を取り出し、ヒサシロのときと同じようにその男の象徴を包み隠した。
アカシは確かにミスミが自分の肌に手を触れなかったのを確認した。
そのとき、アカシには木彫りの仮面をかぶったミスミの目が見えた。
ヒサシロのときはうかがえなかったその奥は、涙でいっぱいであった。
「龍神様…俺の精に満ちた魔羅で、……どうか最後にしてくれ…。」
突きたてた小刀の元から、血が吹き出る。
アカシは混濁する意識のなか、確かに龍の鼻息を荒く感じた。
確かに、何かが自分の身体を締めつけながら這いずりまわり、陰茎を咀嚼している感覚があった。
こうして四番目の神男、アカシも男の証を失った。
「なんだ…アカシ、おまえ逃げなかったんだな。」
隣には同じく去勢されたヒサシロやシュドウ、ナリオが寝転がっている。
彼らと同じように小屋へと寝かされ、アカシは布で硬く股間を縛られた。
あと三日は用をたすことも許されない。
「どうだよ、龍神様には会えたかよ?」
ヒサシロは親友の平らになった股間を叩く。アカシは変な声を出して、悲しそうに笑った。
「ああ、会えたよ。最悪だった。」
結局、五人目の神男がいちもつを捧げた数日後、ようやく雨は降り、干からびていた村は救われた。
しかし、アカシにはどうでもよいことであった。彼にとってはただ、ミスミやヒサシロが
これ以上傷つかなくなったことのほうがよっぽど嬉しいことであった。
時はただ過ぎていく。
近代文明の足音が国中に行き届くまで、この村は古い神の支配するままに、変わらぬ日々をおくるのであった。
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投稿:2011.09.07
雨乞いの儀式は何度でも
著者 モブ 様 / アクセス 18503 / ♥ 69