第一章
「序」
「嫌だ、はなせ、はなせよ。オレは女なんかになりたくない。」
「いい加減にしなさい。もうブルマは決定したのよ。」
抵抗もむなしく、その日オレは「男」と「電車の運転士になるという夢」の2つを同時に失ったのだった。
「駄菓子屋のおばあちゃん」
ブルマ検査の前日、オレは友達と行きつけの駄菓子屋の前で遊んでいた。みんな明日は「男」を賭けた日になることは分かっていた。しかし、ブルマ検査のことを口にする者はいなかった。
「ちょっとオレ便所。」
「早く言ってこいよ。」
「おばあちゃーん。便所貸して。」
「ああいいよ。自由に使っていきな。」
用足しも早々に仲間のところに戻ろうとしたら、駄菓子屋のおばあちゃんに呼び止められた。
「ヒロト君、ちょっと・・・。」
おばあちゃんに手招きをされて案内されたのは、売り場の奥にある居間でした。
「確か明日はヒロト君の学校はブルマ検査だったわよね。」
「うん。でもどうしてそれを・・・。」
「だったら、ヒロト君にこれをあげようと思って。」
そう言っておばあちゃんがポケットから出したのは小さなドリンク剤でした。
「いい?このお薬は強壮剤と言ってね、男の人にはとても大切なものなのよ。これを飲むとね、オチンチンが大きくなるの。そうすれば、明日の検査必ず合格できるからね。」
「でも、そんなことしたら・・・。」
「ブルマ検査にお薬を使うなんて、後ろめたい気分になるのはよくわかるわ。でもね、ヒロト君は、小さいころからウチによく来てくれているし、それに電車の運転手さんになりたいんでしょ。だから、明日のブルマ検査で女の子になっちゃったら、それこそ電車の運転手さんになる夢が本当の夢で終わっちゃうからね。女の子になって悲しい顔をしたヒロト君を私も見たくはないわ。ここは夢を実現させるためだと思って、思いきって使ってみるの。」
優しくも、真剣な表情のおばあちゃんに言われてオレはそのドリンク剤を使うことにした。
「本当はいけないことだけど、一回くらいなら神様も許してくれるはずよ。ブルマ検査の日の朝に隠れてこっそり飲むの。それだけでいいの。いい?このことは本当にナイショだからね。パパやママ、お友達や先生、誰にも言ってはいけないわ。ヒロト君と私だけの秘密よ。」
「うん。わかった。」
オレはおばあちゃんからビンを受け取ると、友達のところに戻っていきました。
「ヒロトおせーぞ。ウンコかよ。」
「違うよ。」
仲間のからかいの言葉も軽く受け流し、明日のブルマ検査のことは考えないようにして、その日は思いっきり遊びました。勿論、あのドリンク剤のことは誰にも言いませんでした。
家に帰って夜、普通にオチンチンをしごいてみるとすぐに大きくなった。
(これで、駄菓子屋のおばあちゃんにもらったドリンク剤があれば・・・。)
そう思いながら、明日の合格を心に描きながらその日は眠りました。
「ブルマ検査当日」
その日、オレは誰よりも早く登校した。そして、トイレの個室に隠れて昨日駄菓子屋のおばあちゃんからもらったドリンク剤を一気に飲み干した。
(これで絶対合格だ。)
強壮剤を飲んだことで、もうまわりのヤツらとは違うんだ。という気分にもなり、検査を前にして既に合格を勝ち取ったような気分だった。
「吉田ヒロト君入ってください。」
そう呼ばれて、オレはブルマ検査を担当する女性医師の前に歩み寄った。
(どうだ、オレのオチンチン見てみろ。)
パンツを下げ、得意げに腰を突き出した。・・・が、何かが違う。
オレのオチンチンとタマは、なぜかしおれかけの花のように元気がなく、ダランと下を向いていた。
「はいはい、そんなに自己主張しなくてもいいのよ。今からしっかり測ってあげますからね。」
オレは思いっきり赤面した。
(本当の勝負はこれからだ。薬だって飲んだんだ。今に見てろ。)
しかし、現実はそんなに甘いものではなかった・・・。
意気揚々と臨んだブルマ検査だった。しかし、
『放尿検査』ではオシッコをしたい気持ちはあるのに、オシッコの勢いが全くないし、オシッコの飛距離が規定値以下でした。
『通常状態検査』では、なぜかオチンチンが今日に限って縮こまってしまっているみたいで、いつもは皮の先端から顔を出している先っぽも皮の中に隠れたままだ。それに、オチンチンがいつもより細い。これも規定値以下。
『膨張率検査』では、オチンチンをしごいても、しごいても全然大きくならない。オチンチンの膨張そのものが確認されず失格。
連戦連敗であっという間にオレのブルマ検査が終了してしまった。
「ブルマ検査を堂々と受ける意気込みは買ってあげてもいいけど、あなたの元気のないオチンチンだと残念ね。泣かないでね。吉田ヒロト君にブルマを宣告します。」
(なんで、なんで、不合格になるんだよ。あのおばあちゃんの薬も飲んだのに・・・。せっかくオレのために薬までくれた駄菓子屋のおばあちゃんに何て言い訳をすればいいんだ・・・・。)
思いがけない結果に、オレはその場に泣き崩れてしまった。
「かわいそうだけれど、結果が出てしまった以上仕方がないことなの。あきらめてブルマになってちょうだい。」
全員の検査が終わったあと、施術室でタマとオチンチンを切り取られ、女の体にされたオレはその日、さびしく家に帰っていきました。
「その後」
突然に「男」と「電車の運転士になる」という夢を失ってしまったショックでその日は、時間も忘れてとにかく泣きました。
自分の体に男としての一部でも残っていてほしいという願いも込めて、その日、淡い期待を持って、お風呂場で立ちオシッコをしてみたのですが、オシッコは足を伝って流れるだけで、前には飛びませんでした。
(もう本当に女にされちゃったんだ。)
足元を濡らすオシッコと何もなくなった股間を涙でかすむ目で見つめながら、悔しくてもオレは男を諦めるしかありませんでした。
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第二章
「序」
ヒロトがブルマになって数時間後、駄菓子屋のおばあちゃんのところに黒服の男が訪れていた。
「訪問者」
「ヨネさん。どうもありがとう。あの薬ちゃんと飲ませてくれたみたいね。」
男はそう言って駄菓子屋のヨネさんに語りかけた。
「あんたに言われたとおり、一人の子供に渡したよ。誰に飲ませていいかわからないから、小さい時から来ている常連の子にあげたんだけど、・・・それでよかったのかいねえ。今日はまだ来ていないねぇ。」
「それって、もしかしてヒロト君っていう子かい?」
「そうだぁ。ヒロトだが、あんた知り合いかね?」
「いや、さっきここに来る前、子供たちがヒロトがヒロコになったなんていっていたから、もしかしてと思って。」
「じゃあ、ヒロト君は女の子に・・・。」
「残念だけどそうみたいだね。でも、ヨネさん。あんたが悪いんじゃない。男の子がブルマになることは紙一重なんだよ。いくらあの薬があったところで、もともと合格に満たない小さいオチンチンを合格までの大きさにすることはできない。ヨネさん、あなたはヒロト君のオチンチンを見てあの薬をあげたわけじゃないだろ。」
「確かに、そうだけん。でも、せっかくヒロト君に自信を持たせるようなことをしてダメだったんじゃあ、彼に申し訳がないねえ。」
「ヨネさん。気を病むことはないって。結果はヒロト君の運命だったんだよ。」
「そうかねえ。」
「それと、これは俺たちの薬を子供に渡してくれた礼だから。」
男はそう言うと、ヨネさんに現金が入っていると思われる茶封筒を渡した。
「今回は失敗だったけれど、ブルマになってしまう男の子を助けるために来年もドリンク剤の配布頼むよ。」
「まあ、人助けとあっちゃあ、仕方がないねぇ。」
ヨネに対する挨拶も早々に、男は店の前に止まっている車の中に消えていった。
「車中で」
「主任、いかがだったでしょうか?」
男を乗せた車を運転している女は男にそう尋ねた。
「ああ。この町ではうまくいったな。駄菓子屋の婆さんにも薬を飲ませた子がブルマになったことは偶然のことだと言っておいた。おそらくあの様子じゃ、疑うことはしないだろう。」
「例の薬の効き目は絶大ですね。」
「そうだな。あの薬は飲むとほぼ丸一日、男性機能を機能停止させる薬だからな。強壮剤なんてのは真っ赤な嘘さ。飲んだら確実にブルマ決定。男性機能が回復する頃には、もうオチンチンもタマタマもない。」
「ひどい薬ですね。」
「仕方がないさ。俺たちは表向きは製薬メーカーの営業マンということで、ブルマになるかもしれない男の子を助けるための無料サンプル品を契約を結んだ店に置かせてもらっているということになっているんだ。だから、その店が誰に飲ませようと知ったことではないさ。飲ませるほうも、飲むほうも強壮剤だと思っているんだから。それに、上層部以外、ブルマ検査担当の女性医師しか俺たちの本当の素性を知っている人物はいないんだから、仮にあの薬が怪しまれても、ビンに書かれているメーカーも俺たちの名刺もすべて架空のものだから足がつくことはないさ。苦情はブルマ判定委員会に行くだろうよ。そうしたら、あの薬の配布をやめればいい。それだけだ。」
「飲んだ子が「強壮剤」のことを言う心配はないんですか?」
「まずそれはないだろう。もし、本物の「強壮剤」を飲んでブルマ検査を受けた場合はドーピングで即失格さ。実際にそれをやってバレて不合格になる哀れなブルマも少なからずいる。しかし、今回の場合は薬を飲んでも不合格。たとえ口外しても、不正をやっても合格ラインに達しないオチンチンはどんな粗末なオチンチンなんだということになるばかりか、最終的に自分は薬を使った卑怯者ですと自分から公表することになるからね。それに、一日経つとあの薬の効果は消える。たとえ訴えても証拠は出ない。オチンチンも戻らない。すべては後の祭りさ。」
「では、女性医師は検査のとき、この子が私たちが配った薬を飲んだ子だとわかるんですか?」
「もちろん。薬を飲んだ子にはみんな同じような症状が出るからな。医師もそれを知っていて「ブルマ宣告」を下しているんだ。それに、医師のほうでも怪しまれないように、この薬で「ブルマ宣告」を下した子供の詳細明記欄にはすべて違うことを書いているから、なおさら足がつきにくい。」
「本来なら強壮剤メーカーの営業マンとブルマ検査医師は敵対関係ですよね。」
「他人から見ればそう思うかもな。本来ならお互いがお互いのテリトリーを広げるために、せめぎあいをしていなきゃいけない立場なはずだけど、実際は俺達ブルマ判定委員会の職員が強壮剤メーカーの営業マンに化けているなんて誰も思わないだろうよ。表面ではお互いケンカしているように見せかけて、実際は同じ穴のムジナ。お仲間ということだからな。」
「やっぱりその薬、来年も使うんですか?」
「やるしかないだろ。この国の女子の出生率はいまだに年々減少傾向にある。反対に男子の生殖器の成長ときたら年々立派になっている。このままじゃブルマの規定値を全員クリアしてしまって、普通に「ブルマ検査」でブルマになる男の子はいなくなっちまうさ。先ほどの駄菓子屋の婆さんには男の子のための人助けということにしてあるけど、俺たちの「強壮剤」をばら撒いて助かっているのは男の子たちじゃない。助かっているのはこの俺たちやブルマ検査の医師たちなんだ。つまり、あの「強壮剤」のおかげで、その年の、その町のブルマ人数のノルマが達成できる仕組みになっているんだ。」
「ブルマ法の基準を改正するわけにはいかないのですか?」
「国だって今のままじゃ危機的状況になることは分かっているさ。しかしブルマ法制定のときに、『男の子のオチンチンを守れ』という、国内のあちこちで抗議デモが起きたんだよ。そんなこともあってブルマ法の施行までにはかなりの時間がかかってね。だからすぐにブルマ法の合否基準を改正というわけにはいかないらしいんだ。」
「なるほど。難しいんですね。」
「だから、俺たちのやっていることはこの国の将来のためなんだ。つまり『お国のため』になるんだ。だから私情の持ち込みは厳禁だよ。」
「わかりました。では、次の町の契約店に向かいます。この先の駅で彼女を拾っていけばよかったんでしたっけね。」
「そうだな。待っているだろうからよろしく頼む。」
しばらくして、二人の乗っている車は駅に着いた。駅から車に乗り込んだのは、ヒロトに「ブルマ宣告」を下した女性医師だった・・・。
「その後」
女性医師を拾った車はそのまま隣り町に着くと、やはり男が契約店で礼と来年の「“自称”強壮剤」配布の契約を取り付けたあと、次のブルマ検査が行われる小学校で女性医師を降ろし、ブルマ判定委員会の本部へと帰っていった。
おしまい
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投稿:2012.06.08更新:2012.06.08
ブルマ検査と強壮剤
著者 やかん 様 / アクセス 15132 / ♥ 1