性犯罪者への刑罰として去勢が執行される時代が訪れ早くも四半世紀。
性犯罪をおかし去勢刑を受ける者は、禁固刑を受けた者とは別の施設に送られる。
人は非公式にそれを剪定所と呼び、そこで受刑者を拘置し、刑を執行する女性を剪定官と呼んだ。
私達剪定官にとって去勢とは只の業務であり、それになにかしら期することは無い。
だが去勢される受刑者が無実の罪であるなら、
そして傲慢にも彼らが正義を騙り自身の正当性を訴えるなら話は別だ。
此処では私達剪定官こそが正義だと理解させてやるのだ。
今日、この剪定所に送られてきた17歳の少年はまさに冤罪者であった。
罪状は女性専用車両での性器の露出行為である。
被害にあったのは他校の女子高生であり、彼女とその友人が取り押さえ
痴漢行為の現行犯で逮捕された。
彼は典型的な『去勢ゲーム』の被害者だった。
一部ガラの悪い女子高生の間で流行っている悪質ないたずらで
その共通点は
1、被害者を女性専用車両に連れ込む。
2、被害者を痴漢呼ばわりして仲間内数人掛かりで取り押さえる。
3、取り押さえた際に性器を露出させて被害者を加害者に仕立てあげるのだ。
この少年は以前、被害者の少女の車内のマナーの悪さを注意したことがあったようで
その注意の仕方が少女グループの癇にさわったのだろうか
後ろ手に手錠をかけられた後スタンガンで抵抗する力を奪われ
次の停車駅の職員室に連行されるまで少女達に羽交い絞めされ
ペニスを露出させた変態として、無理やりその姿を多数の女性客に晒されるという屈辱を味わったのだ。
裁判の結果は男性としての死刑つまり去勢である。
少年は当然、涙ながらに再審を訴える。
その意思は強く固く、こんな理不尽があってはならないと
被害者面のあの少女達を絶対に許さないと
たとえ再審がかなわず刑が執行されたとしても
自身の名誉のために法廷で潔白を証明すると断言した。
期待通りの少年の頑なな態度に私達剪定官は苦笑した。
私達剪定官は知っているのだ。
そんな決意など去勢の恐怖の前では軽く吹き飛んでしまうことを。
といっても少年の決意を曲げさせるために去勢の免除を取り引きにするつもりなど毛頭ない。
ただチャンスを与えてやるのだ。
去勢される前に名残惜しむべき猶予、つまり自慰の時間を与えるのだ。
私達はこれを『最後の晩餐』と呼んでいる。
勿論これは特別な措置で他の冤罪でない受刑者には与えられることはない。
但し、少年には全ての受刑者に与えられる慈悲と言い含めてある。
初めこそ少年はこの特別措置に躊躇したものの、
「これは規則であり、規則に従わない者には再審請求が通らなくなる可能性がある。」
と、少年が好みそうな理由を与えると、
仕方がないですね、と呟いて渋々承諾した振りをした。
私は少年を狭い視聴覚室に案内するとモニターの電源を入れてその場に居座った。
困惑する少年を尻目に時間が限られているのでさっさとズボンと下着を脱ぐようにと指示をする。
少年は私の視線を気にして前を隠しながら衣服を脱いだ。
それを確認すると、これはサービスですと一言添えて
透明タイプの貫通型オナホールとローション、一枚のDVDを手渡した。
少年はしばらく葛藤したのち私を気にしながらそれらに手を伸ばす。
今まで沢山の無実の罪の受刑者に『最後の晩餐』を与えてきた。
再審請求が通ることが第一の希望としながらも、彼らは最悪の事態のことも考えてしまうのである。
少年がリモコンの再生ボタンを押す。
モニターに映像が流れる。
少年はモニターに映し出されたアダルトDVDのタイトルを見て言葉を失った。
そのタイトルから連想される内容は皮肉にも痴漢モノ。
痴漢冤罪者が痴漢モノのアダルトDVDで自慰をさせられるという屈辱。
しかしこの機会を逃せば、もう二度と自慰ができないかもしれないという去勢の恐怖。
少年は両方を天秤のはかりに載せ、後ろめたい表情で私の顔色を伺った後、震える手をオナホールへ伸ばした。
私は少年に冷たい視線を送りながら、胸が高鳴るのを感じた。
今少年は大事なものを失ったのだ。
もう後は堕ちるだけ。
その証拠にもう少年は前を隠さない。
自慰しやすいように足を開いて勃起した短小包茎をさらしている。
必死でペニスをしごく少年。
そして少年が射精する寸前に私は時間切れのブザーを鳴らした。
瞬間、少年は絶望の表情を浮かべた。
「そんな!後ちょっとなんです!後少し時間をください!」
土下座をしてまで請い願う少年。
頭を下げる相手を間違えてるんじゃないかしら、と冷たく返答する。
「君は確か被害者の女の子に一言の謝罪もしてないじゃない。口を開けば再審請求のことばかり。」
私の言い分に、違うんです!と反論しようとする少年。
「違いません。」
私は少年に立ち上がって直立不動の姿勢を取るように指示する。
当然、少年の勃起した包茎が露になる。
「君は今、喜んで痴漢モノのDVDで自慰していたじゃない。 」
誰が君の言い分を信用すると思う?と追求すると、
痛いところを突かれたように下を向いた。
「再審請求なんて無駄。再審してもまた有罪の判決が下るだけよ。」
私の言葉に少年はか細い声で、「でもっ…、でもっ…。」と泣き出した。
少年の言いたい事は理解できる。彼は無実なのだ。
再審されれば今度こそ潔白が証明されると信じているのだ。
「最後に充分楽しめたでしょ?」
晩餐会が終われば後は審判が下るのみ。
私は意地悪く指をハサミの形にしてチョキチョキさせてみせると少年は遂に心が折れるように懇願した。
「御願いですっ!謝罪しますから、オナニーさせてくださいっ!」
泣き崩れる少年の言葉には彼のむき出しの魂のようなものがこもっていた。
その言葉に私の心は甘く暗い陰湿な感情で満たされた。
「それはつまり自分の罪を認めるということね。」
震える声で少年に問いただす。追い詰めるなら今だ。
「だったら再審請求を取り下げなさい。」
その一言を予期していたように少年はポロポロ涙をこぼす。
少年にはその決断は出来ないだろう。
なので代わりに救いの手を差しのべてやる。
「心の底から反省し、心を込めて謝罪すれば被害者の方の心に届くでしょう。
被害者の同意があれば刑の執行後でも再接合手術によって男性機能の回復が許されることもあるわ。」
その悪魔の囁きを聞いて少年は涙ながらに
本当ですか、本当ですか、とすがりつくように尋ねてくる。
現在の医学技術はかつてのものとは比較にならない。
とくに臓器などの保存技術は革新を遂げた。
「取り下げます、再審請求取り下げますっ…。」
少年は小さな子どものように泣きながら頭を下げた。
私は「よくできました」と言わんばかりに少年の頭を撫でる。
ご褒美に存分に楽しみなさい、と声をかけると、
ありがとうございます、ありがとうございますっ!と
涙まみれの笑顔を浮かべた。
その顔は何を得て何を失ったかという損得勘定すら出来ていない間抜け面だった。
再審請求の取り下げにまでこぎつけたところで
DVDの映像が流れるモニターの下にビデオカメラをセットする。
私は少年に自慰を続きをしながら被害者に謝罪の言葉を述べなさいと指示をする。
「うわべだけ言葉を繕って謝罪しても気持ちなど伝わらない。
まず君は法廷で否定した自分が痴漢犯罪者であることを行動によって証明しなさい。」
少年はその言葉に従うようにカメラの前で自慰を再開した。
私は少年に今何をしているのですか?と問う。
少年は痴漢モノのアダルトDVDを見てオナニーしてます、と泣きながら答える。
私は少年にあなたの犯した罪は何ですか?と問う。
少年は僕は被害者の方の前で性器を露出しました、と自慰をしながら答える。
私は少年に犯した罪を反省していますか?と問う。
少年は涙で顔をクチャクチャにして反省しています、と答える。
私は少年に罪を償うために罰を受ける気持ちはありますか?と問う。
少年は遂につかの間の快楽と引き換えに、罰を受けます、と答えた。
少年は溢れ出る感情を押さえきれないように大声で泣き出した。
もう涙でモニターが見えているのかどうかもわからない。
最後に私は特別に少年に教えてあげた。
「マユミさんよ。」
少年を罠にはめた本来加害者で有るべきはずの少女の名前。
「すみませんでした、マユミさん、すみませんでした…!」
子どものように泣きながら少年は必死で許しを請うように自慰を行う。
その姿は私の心を打った。喜怒哀楽の全てがそこにあった。
「君は性器露出という痴漢行為を行ないながらも去勢という罰を受けることで罪を償う機会を得ました…。」
そうして痴漢冤罪という卑劣な手段で
去勢という罠に陥れた少女を許さないという少年の信念に止めを刺す。
「更正という機会を与えてくれたマユミさんに何か伝えておくべきことはありますか?」
女性車両内で性器を露出させられ痴漢として連行され
遂には冤罪で去勢されるという屈辱を与えた少女に、
「マユミさん、ありがとうございましたっ…!」
悲鳴のような感謝の言葉を叫びながら、少年は最後の射精を終えた。
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「それ」を数日後、剪定所の視聴覚室のVTRで目の当たりにした少女は、驚きの余り言葉を失った。
少女にとって少年の姿を見るのは判決が下った法廷以来である。
不当判決に呆然とした少年が法廷係官に連れられて退廷する際、
傍聴席にいた彼女は少年に駆け寄って小さくガッツポーズして見せたという。
少年は逆上して、必ず自分の潔白を証明して
少女を被告席に立たせてやる、とわめき散らしながら連行されていった。
その法廷から1週間もしないうちに少年の信念は跡形も無くなってしまったのである。
敵意むき出しであった少年は涙顔で自慰を晒しながら、自分の罪を認め少女に必死で謝罪している。
そして少年の罪は他ならぬ少女がでっち上げた嘘だ。
だからこそ、「嘘…、信じられない…。」と正直な気持ちを漏らしてしまった。
失言に気づいてあわてて取り繕おうとする少女に、
公衆の場で女性を注意するなら配慮が必要よね、とフォローを入れる。
勿論、少年と少女の最初のトラブルの件のことだ。
その言葉で少女は一辺に私に対して警戒心を解いた。
「あなたのしたことが咎められることはないわ。
何せ相手は弱者にしか振るえない正義の持ち主だからね。お仕置きされて当然ね。」
私は少年対しての率直な感想を述べた。
その言葉に共感するものがあったのだろう、少女はやや興奮した面持ちで、
剪定官さんってすごいんですね、すごいんですね、と目を輝かせた。
すっかり警戒心のとけたところで彼女に尋ねる。
「ゲームは貴女の完全勝利よ、どう、感想は?」
私はモニターを指差す。
ちょうど少年が少女の名前を出して射精しながら感謝の言葉を叫ぶシーンだ。
モニターを見つめる少女の表情はやがて薄暗い微笑みに変化した。
(ああ、本当に無様…。)
少女は声にはならないものの、確かにそう唇を動かした。
彼女にはまだ話していない用件があったのだが、当然彼女自身も気がかりだったのだろう、
私が切り出す前に彼女が先にそれを口にした。
「ところでこの子、今どうしてるんですか?
この施設内で拘留されてるんですよね…?」
私は「気になるなら、今会わせてあげるわね。」とクスクス笑って、
スーツケースのなかから小さな桐の木箱を机の上に出した。
少女はまさか、と目を丸くして生唾を飲み込んだ。
震える手で木箱の蓋をとり、中から出てきた布包みを解く。
中から現れたのは去勢された少年の包茎。
少女はそれを確認にした瞬間、二度、三度身体を硬直させて甘い吐息を噛み殺した。
私は彼女の身に何が起こったかを知りつつも、平静を装った。
「本来、私達が管理するものだけど受刑者の希望と私達剪定官が認めた場合により、
謝罪の証として被害者にその処分を委ねることができる。」
必要なきものとして私達に返還しても、生ゴミとして処分してもいい。
少年の目の前で犬にエサとして与えてもいいし、
少年が在籍していた学校に標本として寄付するのもかまわない。
「元の持ち主に返してあげることもできるわよ。」
残酷にも現在の医学なら元通りくっ付けることが可能だ。
当然、目の前の少女はそれをきっぱり拒絶した。
「これを返して、また彼が露出行為に及んだら
返した私の責任になっちゃうじゃないですか。」
その一言に私は思わず吹き出してしまった。
成る程、確かに無いものを露出させることはできない。
が、元より露出行為に及んでいない少年には痛烈な皮肉だ。
彼女の一言を少年に聞かせたならどんな反応を示すだろうか。
「でも、今回の件で、剪定官って職業に憧れちゃいました。」
少女は私を羨望の眼差しで見つめる。
「貴女はその資格をすでにもっているわ。」
えっ、と驚く少女にその証拠を見せてあげる。
スーツケースの中から私はもう一つの桐の木箱を取り出した。
まさか、と驚く少女に追い討ちをかけるように
私は次々とスーツケースから木箱を取り出す。
その数全部で17個。
「私も貴女位の年頃は、羽目を外して遊んだものよ。」
そして私も出会ったのだ。
私が罠に陥れた少年17人全員の再審請求を取り下げさせ、
私の目の前で感謝の言葉を述べさせながら、少年自身に去勢させた憧れの剪定官に。
ならば、また目の前の少女も次の世代の憧れにきっとなるだろう。
そうして優秀な剪定官がまた新たに誕生するのだ。
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少女が希望を抱いて剪定所から出て行くのと入れ替わりに、
絶望にうちひしがれてまた新たな少年が剪定所に入ってくる。
少年は無実を訴え、被害者の少女こそが冤罪に陥れた加害者だと吼え散らした。
そして『たとえ、去勢されてもプライドだけは失わない』とか何とか勝手に宣言するのだ。
この少年も数時間後にはカメラの前で謝罪と感謝を叫びながら射精し、
やがて去勢されたペニスとなって『加害者の』少女と惨めに再会することを想像すると、
私は身体の芯が熱くなるのを感じた。
人は私達を非公式に剪定官と呼ぶ。しかし、それは間違った認識だ。
私達は狩り取る果実を剪定などしてはいない。
無実のペニスをも切り落とす終末者(ターミネーター)なのだ。
モニターの少年「マユミさん、ありがとうございましたっ…!」
少女マユミ 「私たち女の子に逆らうから、こうなっちゃうんだぞ(笑)」
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投稿:2012.07.02更新:2012.07.19
終わりなき連鎖
挿絵あり 著者 うっかり 様 / アクセス 24847 / ♥ 9