正しい行いというものは勇気のいるものだ。
今、公共の交通機関であるべき列車内で、幾人かの柄の悪い女子高生が
他の迷惑を顧みない大きさの声で談笑しながら、その一部を私物化している。
その話の内容も公衆の前で話すべきではない下品なものだ。
車内はそう混雑はしていないが乗り合わせた乗客は皆、眉をひそめている。
中には他の車両に移る者までいた。
私は新参ながら社会人として、マナーの悪い女子高生達にに注意すべきか思案していた。
恥ずかしい話だが、恐らく私は心のどこかで臆していたのだろう。
私の決心がつく寸前にすぐ側にいた予備校生風の若者が
いいかげんにしろ!耳障りな話で勉強に集中できない!と叫んでいた。
瞬間に凍りつく車内。
その緊迫感に、これならまだ耳を塞いで
我慢していた方が良かったとまで思ってしまう。
怒鳴られた女子高生たちは訳が分からない様子で呆然としていたが
それが自分達に向けられた怒りという感情だと分かると
逆に丁度いい暇つぶしを見つけたかのように薄暗い笑みを浮かべた。
「聞いた?コイツ私らの話を盗み聞きしてたってさ。」
「うわっ、変態じゃん。」
「これは久々に罰ゲームだね(笑)」
女子高生たちは都合の良いように話をすりかえると
「ちょっと私達に付き合ってくんない?」
と予備校生の胸倉をつかんで数人で逃げられないように囲むと
タイミング良く入構した駅に彼を引きずり降ろすように途中下車した。
ホームに下りた女子高生達はやはり他の迷惑など気にしない様子で
ゲラゲラ下品に笑い、手拍子を刻みながら
『罰ゲーム♪ 罰ゲーム♪』とはしゃいでいる。
そしてその声も列車が動き出すと次第に遠くなっていった。
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その夜、私はどうしても今日あった出来事で眠れなかった。
後悔と安堵。
予備校生風の若者が連れ去られる際傍観してしまったこと。
わずかな差で声を掛けるのが遅れたおかげで
トラブルに巻き込まれたのが私で無かったこと。
その両方の感情が入り乱れて、その事件の『結末』が気になって眠れなかった。
そこで女子高生たちの会話を思い出す。
予備校生をホーム引きずり降ろし、遠ざかる声で罰ゲームとはしゃぎながら
そのうちの一人が「ゲロにあげよう(笑)」と言っていたのだ。
そのときは気づかなかったが、ゲロとはとある画像アップローダーの略称で
つまり彼女たちが言うその『罰ゲーム』の様子を記録して
ネット上にアップロードし、仲間内で回覧できるようにするつもりなのだろう。
私はそれに気づくとパソコンを立ち上げそのアップローダーをチェックする。
数あるデータの中に『罰ゲーム』とコメントが付けられたものを見つけた。
パスワードが掛けられていたが、複雑なものではないだろうと予測して
パスワード解除プログラムを走らせて待つこと十数分。
ついにダウンロードが開始されゆっくりとモニターにあの事件の『結末』が浮かびあがる。
予備校生風の若者の末路・・・。それは何かの歯車が狂っていたなら
私自身がたどっていた末路であったのかもしれない。
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投稿:2012.07.30
結末
挿絵あり 著者 うっかり 様 / アクセス 18786 / ♥ 3