不老不死の契り
「先輩って、もしかして美代姉さんですよね?」
「え?」
「僕、健です…二宮隆の息子です」
「あっ!? 健君?」
新しいバイト先の居酒屋で僕に仕事を教えてくれていた女性。
その姿には見覚えがあった、しかしそれはありえない事でもあった…。
その容姿、口調、表情、雰囲気の全てが十数年前と全く同じだったからだ。
「やっぱりそうなんですか?」
「君、あの健君だったのね…私のこと覚えてたんだ」
「いや、でも信じられない」
「でしょうね…」
初めて彼女、美代姉さんと出会ったのは僕がまだ小学生だった頃だ。
父親の彼女、と言うよりはガールフレンドのような存在でよく家に来ていた。
他界した母親代わりのように僕とよく遊んでくれていた。とても大好きだったお姉さんだ。
しかし彼女は半年ほどで居なくなってしまったのを覚えている。
「えっと、とりあえずこの事は内緒よ?」
「はい」
バイトが終わり店の近くにある公園のベンチで僕は美代姉さんを待っていた。
昔と全く変わらないのは一体どういうことなのか? 単に整形手術でもしているのか? 色んなことを考えながら…。
「お待たせ、コーヒーでよかった?」
「あ、ありがとう」
美代姉さんはあの時と変わらない笑顔で自販機買った缶コーヒーを僕に手渡すとベンチの横に腰かけた。
「コーヒーを飲むなんて健君も大人になったわね〜」
「あの、本当に美代姉さんなんですか?」
「そうよ…信じられないでしょ?」
「ええ、でも確かに美代姉さんだ」
「えっと、健君いくつだっけ?」
「僕? 20になったばかりです」
「じゃあ同い年ね、姉さんはやめてよね、フフッ」
「えっ!?」
美代姉さんはそう言うと少し俯き悲しそうな表情でゆっくりと語り始めた。
「健君は私の言うことを信じてくれる?」
「話を聞いてみないとわからないよ」
「そうね、私は20から年を取ってないの…もう100年以上もね。わかりやすく言えば不老不死ってこと」
「ひ、百年以上って…不老不死!?」
突拍子もない話に僕は飲んでいたコーヒーでむせ返りそうになった。
「まだ徳川様の時代、私は遊女だったの」
「遊女?」
「そう、今でいう風俗嬢」
「そんなの信じたくないよ」
「ううん、本当なの。これでも太夫だったのよ、トップ5ね」
「…そうなんだ」
作り話だと一蹴したい所だが、あの頃と変わらない容姿がそれを肯定する。
「ある晩楼主、お店のオーナーが変な僧侶の様な恰好をした変な男を連れてきたの」
「僧侶?」
「そう、妙な呪文を唱えながら全ての太夫と夜を共にしたの」
「まさか、それで不老不死に?」
「そうよ、他の太夫もまだ生きているわ…オーナーが私たちを老けさせないために手配したわけ」
「そんな酷いことをするなんて許せないよ」
「そうね、でももう恨む気力もないわ…辛いのも通り過ぎちゃった」
軽く笑いながらそう語る美代姉さん、その辛い人生は頭では想像が付くが理解を超える事実に上手く言葉が出ない。
ただ、何もしてあげられない自分の無力感を感じて軽く震えていた。
「健君、心配してくれてるの?」
「どうすればその呪いが解けるの?」
「仕方ないわ、その僧侶はもう死んじゃったし」
「そんな、僕に何かできないかな?」
「クスッ…お父さんと同じことを言うのね」
「えっ?」
「お父さんは元気? 新しいお母さんと仲良くしてる?」
「再婚したの知ってるの?」
「ううん、約束を守れなかったから多分そうかなって思っただけ」
「約束?」
「そう約束。でもいいの、お父さんは悪くないから」
「そんな、その約束を守れば美代姉さんは楽になれるの?」
「そうね、みんなと同じように普通の時を過ごせるようになるわ」
父親が果たさなかった約束。そのせいであの時美代姉さんは居なくなったのだろうか?
「じゃあ僕が約束を果たす」
「ダメよ、健君が不幸になるわ…それに健康な男の子がこの約束を守るのは無理だから」
「どういうこと?」
「私と接吻、キスをして49年後に契りをするの」
「契りって?」
「契りよ、セックスのこと」
「49年後って…僕が生きていればいいけど」
「大丈夫よキスをしたら不老不死になるから」
「キスだけで不老不死? 呪いってそんな単純なものなの?」
「そうよ」
キスをするだけで不老不死になれる。そんなおとぎ話のような展開に少し半信半疑になってしまった。
「じゃあ、キスしてくれる?」
「うん」
幼心に憧れていたお姉さんとキスをするのはとても不思議な気分だった。
美代姉さんは横に寄り添い僕の方を向き静かに目を閉じて待っている。
僕はその肩にそっと手を置き静かに唇を重ねた。
生まれて数えるほどしかキスの経験が無い僕は緊張して軽く震えた。
「…健君、キスに慣れてないの? 緊張しちゃった?」
「ごめん、あまり慣れてなくて」
「そうなの…もしかして初めて?」
「正直言うとそんな感じかな、恥ずかしいけど」
「そうなのね…罪悪感感じちゃうな」
「そんなことないよ、美代姉さんのこと好きだから」
「後悔しない?」
「絶対しない!!」
僕はそう言い切ると再び唇を重ね先ほどとは全然違う大人のキスをし続けた。
数回続けたところで僕は体の異変に気付いた。
「あ、あれ? なんか頭が…体がフワフワする」
「それが呪いの力よ」
「あ…力が入らない」
僕はそのまま体に力が入らなくなり美代姉さんの太ももにぐったりと横たわってしまった。
美代姉さんはそのまま数回僕の頭を撫でると持っていたハンドバッグを枕にしてそっとベンチへと寝かせてくれた。
その時にバッグから何かを取り出したのが見えた。
「絶対に後悔しないでね」
そう言いながら僕のズボンのジッパーを開くとキスの興奮で勃起したチンポが飛び出して跳ねた。
「み、美代姉さん…何を」
驚いて体を起こそうとするが痺れて動けない。
「これは私からの餞別」
そう言うと美代姉さんはそのまま僕のチンポを口に含み刺激を与える。
甘噛みしながら優しくねっとりとそこを愛でてくれた。
その慣れた愛撫に遊女だと言ったのは本当なんだなと悟った。
「美代姉さん…気持ちいい…あっ」
体は痺れているがそこは敏感で僕はすぐに果てた。
美代姉さんはビクンビクンと小刻みに震え射精するチンポを口に含んだまま笑みを浮かべる。
「まだカワイイ部分が残ってたのね、クスッ」
「ご、ごめん…口に出してごめん」
「私は大丈夫だから…続きは49年後にしましょうね」
「うん…」
「健君…ごめんね」
そう言うと美代姉さんは先ほどバッグから取り出した何かを手に取り僕のチンポへと当てがった。それは切れ味の良さそうな小刀だった。
その瞬間、チンポから痛烈な感覚が全身をへと広がった。
「ウグッ!」
「ごめんなさい…本当にごめん!」
「な、何で! 何でチンポ切るんだよっ! 痛っ…あ、あれ?」
突然の出来事にパニックに陥ったが急に痛みが無くなりそこに違和感を感じた。
目に見える速さで真っ赤なチンポの断面は皮膚で塞がり肌色の切り株へと変化していた。
「こ…これって一体!?」
「これが不老不死なの、大きな怪我でも死なないわ」
美代姉さんの手にある切り取られたチンポも同様に断面が塞がりまるでディルドのようになった。
「酷いよ! そこまでしなくても約束は守るつもりだったのに…」
「そうね、酷いよね…ごめんね」
「それにチンポ切ったらもう美代姉さんとセックス出来ないじゃないか!」
「ううん、ちゃんと出来るのから」
「え、えっ?」
「健君のチンポはちゃんと生きてるから、そこに当てれば今すぐにでもくっつくわ」
「ど、どういうこと?」
「49年間このままチンポ無しで我慢してくれたら約束は果たされたことになるの、それが呪い」
「そんな…」
49年間もチンポ無しで生きていくなんて絶対に無理だと思った。
美代姉さんは切り取ったチンポを優しく僕の手に持たせた。
「辛くて我慢出来なくなったらいつでもくっつけて。くっついたら唇に感触が伝わるから…その時は諦めるわ」
「…」
僕は寂しそうな表情でそう言う美代姉さんに何も答えられなかった。
「じゃあ49年後にまたここで会いましょう」
「え? どうして? 一緒に居ようよ」
「ダメよ…傍にいたら49年間も私が我慢できないから」
「そんな! せっかく会えたのに…」
「我儘でごめんなさい…じゃあまたね」
「美代姉さん待って!」
去って行く美代姉さんを追おうとするが体の自由はまだ効かなかった…。
その後ろ姿が公園の街灯から静かに消えていった。
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美代姉さんはあれからバイト先にも現れず僕の前から完全に姿を消してしまった。
子供のころ居なくなった時と同じ寂しさを味わうことになってしまった。
僕の枕にしていたハンドバッグだけが置き土産となった。
あれ以来僕は男子トイレで立小便も出来ず色々と不自由な日々を過ごす。
衝動に駆られると悶々としながら必死にチンポの切り株を弄るが射精するまで時間がかかる。
毎日の様に切り取られたチンポをくっつけたい衝動に襲われた。
約束を守れなかった父親の気持ちが痛いほどよくわかった。
美代姉さんはそんな僕の心境を読んでいたのだろう。
置き土産のハンドバッグにはピンクローターと美代姉さんの半裸のスナップ写真、そして手紙が入っていた。
『健君、また居なくなってごめんね。
私も四十九年後の再会を楽しみにして待っています。
でも、本当に辛くなったらくっつけていいからね。私は恨みません。
追伸、ローターは切ったトコに当ててみてね。 美代』
僕はあの夜の公園の感触を思い出しながらローターをそこに当て快感を得る日々を過ごしている。
そして切り取られたチンポを貸金庫に預けようかと悩んでいる。
(おわり)