その正式な名称は「若年性陰茎萎縮症」とよばれている。
成長期のホルモンバランス異常により、ごく稀に発症する病気だ。
ペニスが徐々に収縮し、最終的には排尿機能が阻害されるため
性器を切断しなければいけなくなる。
ちなみに従来の「陰茎萎縮症」と症状がよく似ているが
発生原因が同じでないとされている。
また発症する世代、治療法、その他細かい部分で相違点が存在し
全く別の病気と捉えられている。
新型の「若年性陰茎萎縮症」はホルモンの分泌異常が原因とされているが
その詳しいメカニズムは解析されていない。
おおよそ12〜20歳で発症し、初期症状に性器に痛みを感じる。
やがてペニスが縮み始め、尿道の口径も短縮するため
排尿しづらくなり、最終的には完全に尿道が閉じてしまう。
そうなってしまうとペニスを切断し、尿道を確保せざるを得なくなる。
また、睾丸についてもその際除去するのが一般的だ。
なぜなら末期には睾丸においても萎縮の症状があらわれ
生活に支障をきたすほど鈍痛を感じるからだ。
本来なら「若年性男性器萎縮症」と名づけるべきなのだろう。
つまり「若年性陰茎萎縮症」とは思春期の少年が性器全てを
喪失してしまう怖れのある非常に危険な病気なのだ。
ただ安心なことに治療法だけは確立されている。
ある種のホルモン剤をペニスに注入および塗布すればいい。
やがて痛みは薄れ、ペニスの収縮は止まる。
一定期間処置を続ければその後、完全に痛みは消え再発の恐れは無くなるのだ。
要するに「若年性陰茎萎縮症」とはきわめて珍しい病気で
その正体は不明であり、放置しておくと非常に危険であるものの
しっかりと治療さえ受ければ恐れることはないのだ。
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そして『その少年』は恥ずかしそうにうつむきながら母親に連れられて来院した。
中学生ほどの少年は受付ロビーで周囲の注目の的であった。
なぜならば当病院は『婦人科、産科、小児科』が専門の婦人病院だからだ。
風邪等の内科診察も行っているが、やはり中学生以上の男の子が
来院することは珍しく、院内は女性の患者さんで埋め尽くされていた。
「本日はどうされましたか?」
受付の窓口での私の質問に少年はうつむいたまま答えなかった。
困った顔した母親が代わりに前に出て保険証を提出した。
「実は〇×医科大学付属病院からこちらの病院を紹介されまして・・・。
その・・・、こちらの高崎先生がホルモン治療の専門だそうで・・・。」
もどかしそうに母親はそこで少し言葉を詰まらせて、吐き出すように答えた。
「若年性陰茎萎縮症って、診断されたんです・・・。」
瞬間、私は少年と目を合わせてしまった。
少年は私の驚きに感づいて涙目になって再び顔を伏せた。
「大丈夫ですよ。3番の診察室の前でお待ちください。」
私は平静を装って案内した。
私の記憶が間違いでなければ若年性陰茎萎縮症の患者が
当病院を訪れるのは初めてのはずだ。
当然、私達ナースの間でこのことが話題になるのは間違いなかった。
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「いやあ、ホント珍しいわね。」
高崎先生はタバコに火をつけて少し可笑しそうに苦笑した。
もちろん当病院は全面禁煙である。
病院裏の小さな区画に喫煙場所を設けてあり
当病院に勤める者たちでそこを利用する喫煙者は高崎先生と私だけだ。
高崎先生は一年ほど前に当病院に専属勤務しだした女性医師で
前述のホルモン治療はもちろん婦人科産科内科、婦人科形成もこなし
帝王切開等の外科処置も行う、酒とタバコを愛する30歳独身だ。
言うことの聞かない小児科の子供を独特の厳しさで叱り付けることもあるが
労働に対する意欲が薄いという点で私と通じる所があり
偶然当病院に勤めだした日が私と同じで喫煙者同士気が合った。
「全然関係ない用事でナースのみんなが診察室に顔だすから
可笑しくて表情に出さないようにするの苦労しちゃってね(笑)」
ナースステーションのみんなが好奇心を持つ気持ちはよく分かる。
それほど珍しくて興味深い病気なのだ。
高崎先生が言うには以前勤めていた総合病院で一件だけ扱ったことがあるという。
まだまだ謎の多い病気であるもののちゃんと治療を続ければ
ペニスの萎縮は止まり通院の必要もなくなるそうだ。
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「・・・よろしくおねがいします・・・。」
再び来院した少年はよほど恥ずかしいのか、消えそうなか細い声で
挨拶しながら真っ赤な顔をして診察券を提出した。
初診から一週間程経過している。
母親連れが恥ずかしかったのか、母親の都合かは分からないが
ともかく少年は一人で診察を受けに来た。
診察室前はまだ順番待ちの患者で混雑しているので
呼ばれるまで受付ロビーでお待ちください、と案内すると
少年は隠れるようにロビーの隅っこのソファに腰掛けた。
ここは主に婦人科が主な専門である以上女性患者ばかりだ。
内科診察に訪れる患者さんもほぼ女性で
中には少年と同学年の女子中学生も今現在診察を受けに来ている。
まさに当病院は女性の園と言っていい。
そんな中、少年はペニスが小さく縮んでしまう病気の治療に訪れているのだ。
私はそんな少年の心情を察すると少し愉快な気持ちになってしまった。
しばらくして少年は診察室に呼ばれ、
他の女性患者の不思議そうな視線を集めながら
ロビーを出て廊下の奥に消えていった。
聞く話によると少年の性器は萎縮の症状がすでに出ているらしい。
おそらくそんなペニスを医療関係者とはいえ女性に診察されるのは苦痛だろう。
しかも想像するにホルモン剤の投薬の効果を確認するなら
きっとペニスをノギスかなんかで計っているに違いない。
(よろしくおねがいします・・・、か)
さきほどの少年の搾り出すような挨拶を思い出して私は苦笑した。
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二度目の診察の結果、ホルモン剤投薬治療は効果があったらしい。
萎縮してしまったペニスは元通りという訳にはいかないが
このまま治療を続ければ症状の悪化は防げるだろう。
・・・そしてついに私はそこでふと考え付いてしまった。
『もし、なんらかの理由で治療を止めてしまえばどうなってしまうだろう。』
私は先輩のナースに休憩を取る旨を伝え受付を離れ、
誰もいない喫煙所でタバコに火をつけてしばし思案した。
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それはちょっとしたなんでも無い思い付きだった。
職場のパソコンで私は『若年性陰茎萎縮症』と打ち込んで検索をかける。
結構な数がヒットして画面上にあらわれる。
1ページ目から5ページ程かけて順に目を通す。
思った通り専門的な医学サイトばかり検索されている。
それらのサイトでは医学的専門用語が羅列され
素人には取っつきにくい内容になっていた。
私はフリーのメールアカウントを複数取得し
その複数のアカウントにて某大手ポータルサイトのアカウントを取得。
質問に答えた回答者たちに質問者がベストアンサーを選ぶというコーナーにて
若年性陰茎萎縮症に関する質問を投稿。
すぐさま別のアカウントに切り替えて回答を投稿。
さらに幾つかのアカウントを切り替えて別の回答を投稿。
そして最後に質問を投稿したアカウントに戻り、ベストアンサーを選び
回答の受付を打ち切った。つまり自作自演というやつだ。
そうして試しにもう一度『若年性陰茎萎縮症』を検索にかける。
予期したとおり先程の質疑応答の自作自演は上位で検索された。
これはちょっとした悪戯である。
難解な医学サイトの検索結果の中に
馴染みのある質疑応答コーナーを埋め込んだのだ。
さらに私は二枚のビラを作成した。
一枚は<若年性陰茎萎縮症治療のお知らせ>というタイトルのビラで
もう一枚は<子宮頸がんワクチン接種費用の助成制度のお知らせ>
というタイトルのビラである。
当病院のトイレの内部には男女ともに掲示板が設置されていて
今回用意した二枚のビラは『男子トイレのみ』に貼りだす予定である。
くだらない思いつきで始めた一連の悪戯は、大した手間もかからず
仕事の合間というより、むしろ仕事をする振りをしながらテキトーに完結した。
そうして、『そうなったら面白いだろうな』程度の気持ちで
ほんの少しの悪意を込めて男子トイレの掲示板に二枚のビラを貼りだしたのだ。
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そうして異変は起こった。少年の治療は順調に続けられ、
初診から二ヶ月ほど経ち陰茎萎縮の症状がほぼ見られなくなった頃だ。
突然、少年が来院しなくなってしまったのだ。
近隣の県外の病院でも手の余る病気である以上、
他病院での治療に切り替えたというのは考えにくい。
つまり少年による治療の放棄だ。
慌てた高崎先生が連絡をとると、少年は
「もう痛みもないし、おしっこも普通にでますから。」と答えて電話を切った。
症状を心配した高崎先生は母親を通して少年に
「もしまた痛みだしたりしたら、必ずすぐに病院に来てください。」と伝えた。
そして私は今更ながら、一ヶ月半ほど前に自分の仕掛けた悪戯を思い出した。
私は慌てて二枚のビラを回収した。
しかし、実のところ今回の少年が来院しなくなった理由が
この二枚のビラであるかどうかは、少年自身に尋ねない限り知りようがないのだ。
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ちなみにこの二枚のビラ、嘘偽りは一切記述されてはいない。
<若年性陰茎萎縮症治療のお知らせ>と書かれたビラには
『当病院にて若年性陰茎萎縮症の治療および検査を行っています。』的な内容と
若年性陰茎萎縮症の簡単な説明が記述されているだけだ。
もう一枚の<子宮頸がんワクチン接種費用の助成制度のお知らせ>と書かれたビラには
自治体が費用を出すので皆さんワクチンを受けに来てください的な内容が書かれている。
もちろんこれは事実であり、市が税金を投じて助成金を出す。
ちなみにこの制度、我が市だけが特別行ってる制度ではなく多くの自治体が行っている。
対象者は中学生〜高校生で、助成費用は自治体によって差があり、我が市は全額助成。
しかしながら<ワクチン接種費用助成制度>のビラに嘘はなくとも、少し演出を入れたのだ。
<中学生は無料。当病院の対象となる中学校は〇×中学校等。>
ちなみに〇×中学校は、かの少年が在籍する中学校である。
つまりまるで少年と同じ学校の女子生徒が当病院までワクチンを受けに来るように
意味が取れるように文面を演出したのだ。
実際には〇×中学校に程近い〇×医科大学付属病院に
ワクチンを受けに行く生徒がおそらくほとんどだろう。
なぜなら市内の中学生は市内の設備の整った病院ならどこでも
ワクチン接種費用助成制度が適応できるからだ。
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そしてこの私の悪戯で貼られた、いわば無許可の二枚の掲示物。
少年が目にしたとしたらどう思うだろうか? 状況を想像して考えてみる。
問題は『若年性陰茎萎縮症』のビラが女子トイレにも貼ってあるかどうかだ。
男子トイレに『子宮頸がんワクチン接種』のビラが一緒に貼ってあるくらいだ。
女子トイレに『若年性陰茎萎縮症』のビラが一緒に貼ってあってもおかしくない。
(ちなみに実際は女子トイレは人目が多く不都合があるので掲示していない。)
更に仮定して少年と同じ学校の顔見知りの女子生徒がそのビラを見て
病院内で少年と出会ったら、風邪を引いて内科診察にきたと言って信じるだろうか?
特別な理由があるからこそ、わざわざ遠方から来院したと考えるだろう。
なにより女子生徒自身は子宮頸がんワクチン接種にきているのだから
当然少年が若年性陰茎萎縮症で来院してると感づくに違いない。
それは少年にとって、もっとも避けたい事態だろう。
問題は少年がそこまでの思慮にいたるかどうかだ。
もしかしたらビラの存在自体に気づかないかもしれない。
つまり『そうなったら面白いだろうな』程度の気持ちとはそういうことだ。
私は軽い気持ちで道端にバナナの皮を放置しただけなのだ。
『ひょっとしたら』少年が愉快にすべって転んでしまうかもしれないという期待をこめて。
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そして、私がビラを撤去して一ヶ月。ビラを作成したことすら忘れかけたころ。
『その少年』は両目を涙で腫らして両手で股間を押さえながら母親に連れられて来院した。
そのとき私は受付業務とは別の作業を行っている最中で
残念ながら少年と母親に応対することは叶わなかったが
そのあわただしい雰囲気から、少年が深刻な事態に陥ったことが遠目でもよくわかる。
すぐに高崎先生が駆けつけ、少年を連れて診察室に向かう。
私も仕事そっちのけでその後を追った。
診察室前の廊下のソファには多くの患者さんが順番待ちしていたが
少年は最優先で診察室に入った。
順番待ちの患者さんたちは、ただならない様子にざわめき
いったいどうしたのだろう、と診察室の中の様子が気になるようだった。
当病院は産科、婦人科を除いて内科、小児科の診察室は
プライバシー保護という点において十分とは言えない。
診察室のドアは開放されたままで、中待ち合いと診察室の区切りはカーテンだけだ。
待ち合いに居た若い女性が小さな驚きの声を洩らす。
カーテンの高さの関係上、廊下からでも先生と少年の足元が見えた。
そこには下ろされたズボンとパンツが見える。
「どうして、ここまで放っておいたのっ・・・!」
事の重大性を理解させるような深刻な高崎先生の声。
そして自分の運命を悟ったように少年は堰を切ったように泣き出した。
そのやりとりは廊下にまで聞こえてくる。
少年は泣き声でグダグダになりながら悲痛に訴えた。
『オナニーさえ我慢すれば、完治するってネットで見た』と。
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ここまでくればもう確信するしかなかった。
少年はビラを見て通院に不安を感じ困ってしまった。
そしてネットで解決策を見つけて大喜びしたのだろう。
『もう病院で恥ずかしい目にあわなくてすむ』と。
そしてもちろん少年が見つけた解決策とは
私が書きこんだ自作自演である。
私は『若年性陰茎萎縮症』の治療法について質問し
「自慰さえ行わなければやがて痛みは消え完治します。」
と回答し、ベストアンサーをあたえたのだ。
それを信じた少年は必死に痛みと自慰を我慢したのだろう。
そして少年にとって最悪の結末を迎えたのだ。
高崎先生の無情な告知が廊下にまで聞こえてくる。
「もう、これは切断するしかないわね。」
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少年の性器の全摘出は当病院にて、高崎先生の執刀のもと執り行なわれた。
少年の性器は末期に加速度的に萎縮したようで以前の半分ほどの大きさだったらしい。
「気の毒だけど、自業自得としか言いようがない。」
同僚のナースたちが少年について感想をもらした。
当病院の医療よりもネット上のデマを信用した少年が悪いという形で
今回の件は落ち着き、軽い気持ちでおかした私の悪戯は
誰に知られることなく闇に消えた。
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その後退院した少年は去勢した影響でホルモンバランスを崩さないよう
当病院でホルモン治療を続けることになった。
月に一度通院すればいい治療を、少年は週一回欠かさず通院してくる。
本来去勢すると睾丸で造られるホルモンが失われる結果、性欲が減退する。
ホルモン治療で投薬を行うと去勢による悪影響は防げるものの
失われるべき性欲は回復する。
去勢されても精子こそ造れないが射精することは可能だ。
つまり射精さえすれば性欲は解消できる。
そして哀れな少年は自力では射精できない身体になってしまっていた。
特殊な医療器具で尿道側から前立腺を刺激しないかぎり射精できないのだ。
病院側は便宜を図り術後のケアの一環として吐精看護を受け入れた。
つまり少年は『ナースに射精させてもらうため』に婦人病院に通っているのだ。
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少年は呼ばれて診察室に入り、中待ち合いに座った。
狭苦しい中待ち合いで少年は奇しくも
同い年くらいの数人の女子中学生たちと同席した。
彼女達は子宮頸がんワクチンの接種に当病院にきたのだ。
ワクチン接種の際、彼女達は上半身下着姿になる必要がある。
そのせいで少年のことが気になるようだった。
少年は高崎先生に呼ばれてカーテンをくぐる。
形式だけの問診を一分たたずに終わらせて高崎先生は私を呼んだ。
「吐精処置おねがいします。」
私は診察室の奥、医師やナースが通る動線部のスペースにベッドを用意する。
その位置からは隣の診察室で受診する患者さんが視界に入った。
古い簡易開脚台とブラインド用の小さなカーテンを用意し少年に声を掛ける。
「少し恥ずかしいけど我慢できるね?」
有無を言わさない視線で少年を見つめ、優しい口調で尋ねると
自業自得という罪悪感に縛られた少年は涙目に小さく、こくんと頷いた。
私は少年をズボンとパンツを脱がし簡易開脚台に腰掛けさせて大きく足を開かせ
少年の胸のあたりのブラインド用のカーテンを引いた。
もちろん他の診察を受ける患者さんのプライバシーを護るためだ。
ブラインドのカーテンから丸出しの下半身が無様に露出している。
私は意地悪く、診察室と中待ち合いを仕切るカーテンの入口に向けて
必要以上に少年の両足を高く広く滑稽に掲げた。
その中心に本来あるべきペニスは存在しなかった。
「じゃ、次の人、入ってください。」
そうして高崎先生は表情を変えずに次の患者である女子中学生を呼んだ。
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その後ペニスの無い少年が尿道に棒状の医療器具を差し込まれて
ナースに弄ばれる様に射精させられる様子は
当病院を利用する多くの患者さんたちに目撃され話題となった。
少年が診察室に呼ばれると面白半分で中を覗く患者さんも出始め
自身の診察中に射精する瞬間をケータイ動画で撮影するのに成功した女子中学生や
医師とナースの不在のタイミングを狙って中待ち合いから侵入し、
見よう見まねで少年を射精させたつわものの女子高生たちもいた。
やがて少年は『潮吹きくん』という恥ずかしいあだ名で噂されるようになった。
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「潮吹き君、今日あたり潮吹きにくるんじゃない?」
受付で一緒に働く同僚が愉快に苦笑した。
近頃、週1回でのペースでの通院が週2回に増えた。
たしかに今日当たり来てもおかしくない。
ちょっとしたなんでもない思いつきで行った悪戯で
少年は性器を失い、頼らざるを得ないはずの病院側の信頼を失い
病院内でのプライバシーを失い、そして男子のプライドを失ったのだ。
婦人病院はその性格上、利用する女性患者は男性が来院するのを嫌悪しがちだ。
開脚台を使った診察は女性の苦痛というべき診察で
そういうことを行う場である婦人病院に男性に土足で踏み入れられたくないのだ。
「女性のテリトリーに侵入するのであれば相応のペナルティを覚悟すべき。」
見よう見まねで少年を射精させた女子高生たちは
笑いながら自分たちの武勇伝をみんなに自慢しながら正当化した。
少年にとって当病院は何処まで行ってもアウェーだ。
そして皮肉なことに少年はアウェーでしか射精という行為が行えない。
ペニスを失い、自身で射精するすべを失った少年は今後も通院し続けるしかない。
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そして少年は今日も恥ずかしそうにうつむきながら来院した。
少年が来院したと知ると、受付ロビー中の視線が少年に向いた。
「・・・よろしくおねがいします・・・。」
やはりよほど恥ずかしいのか、消えそうなか細い声で少年は
挨拶しながら真っ赤な顔をして診察券を提出した。
3番の診察室の前でお待ちください、と案内すると少年は廊下の奥に消えていった。
「潮吹き、よろしくおねがいします、だってさ(笑)」
ロビー内の誰かが可笑しそうにつぶやくと
ロビー中がクスクスと苦笑を重ねた。
ホルモン治療は少年が成人するまで続けられる予定だ。
治療終了後は性欲が減退し、自慰の回数も月一回ほどで済むようになる。
その程度の頻度なら市販の使い捨てのカテーテル等で自分で自慰を行っても
消毒さえしっかりすれば感染症にかからないだろう。
それまでは特殊器具とプロの腕に頼らざるを得ない。
その回数、週二回のペースで計算するとおおよそ730回。
私のホンの少しの悪意という毒に侵された少年は
この婦人病院というアウェーで、女性という天敵たちの見守る中
敗北するように潮を吹き続けるだろう。
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投稿:2012.11.12
1mgの悪意
挿絵あり 著者 うっかり 様 / アクセス 34147 / ♥ 14