「プロローグ」
僕には、トオルというちょっと変わった友達がいる。変わっていると言い切ったら言い過ぎかもしれない。他のやつらには、いたってフツーなのである。僕に対して変わっていると言ったほうがいいかもしれない。そんなトオルがブルマ検査のあと・・・。
第1章「トモダチ」
「ヨウちゃん、あそぼー。」
いつものことだ。学校から帰ってしばらくすると、必ずといっていいほどトオルが遊びに来る。いつもこのあと、他の友人も誘って公園に行ったり、駄菓子屋に行ったり、今人気のカードゲームで遊んだりと、毎日、街の夕方の時報が鳴るまで僕たちは遊んでいた。
今日は、僕たち2人と友人A、Bの4人で Aの家でテレビゲームをすることになった。2対2のプロレスのため、おもむろにチーム分けの話になると、
「ボク、ヨウちゃんとやるよ。」
すぐに、トオルが僕と組むと言ってきた。いつもこんな感じでトオルと僕はチームになる。
「いつも、ヨウスケとトオルは同じチームじゃんかよ。おまえらがタッグを組むと、ぜんぜん勝てないんだよ。卑怯だぞ。」
「へへへっ。ヨウちゃんとは1年生の時からの友達だもんね。一番気心が知れているからやりやすいんだよ。」
トオルは必ず僕とペアになることについて他の友人から指摘されると、必ずそう言ってうそぶくのだった。
確かにトオルとは小学校の入学式の当日に友達になったから、友人の中で一番付き合いが長い。でも、僕が気にしているのは、学校でも遊びでも、いつも必ずトオルが僕のそばにいるということだ。体育のドッジボールのチームわけの時も、クラスのグループ班を決める時も、とにかく何か少人数になる時になると、必ずトオルが
「ヨウちゃん、一緒にやろう。」
と言ってやってくるのだった。
ちなみに、1学年で2クラスしかない僕たちの学年で、2年生と4年生の時は僕とトオルは別のクラスになった。さすがにクラスが違うと、一緒にいられる時間はかぎられる。しかし、休み時間や放課後など少しでも空いている時間があれば、必ずと言ってもいいほどトオルは僕のところにやってきた。もちろん、6年の今年も含めて、同じクラスになったときは、トオルと一緒の時間が増えるのは言うまでもない。
そんなボク達を見て最近クラスの一部の女子から、僕とトオルのことを「オホモダチ」というやつが現れてきた。そのことを知ったトオルは
「ボクたちオホモダチなんかじゃないもん。仲のいい友達なんだ。」
そう言って、怒りをあらわにしていた。
さすがに冗談でもオホモダチなんて言われたら、僕もたまったものではない。
その日の放課後、トオルと遊んでいたとき、それとなく聞いてみた。
「ねえ、トオル。いつも僕と一緒に遊んだりチームを組んだりしているけど、たまには、違う人とも組んでみたりしない?」
「どうして?ボクはヨウちゃんといっしょにやるのがいいんだ。」
「でもさ、いつも一緒じゃ飽きないか?」
「ヨウちゃん、ボクのこと嫌いになったの。」
「嫌いじゃないよ。でも今日、僕たちのこと『オホモダチ』なんて言ったやつらいるだろ。」
「言いたいヤツはいわせていけばいいよ。ヨウちゃんはボクのこと『オホモダチ』だと思っている?」
「そんなわけないよ。」
「よかった。ヨウちゃんにボクが『オホモダチ』なんて言われたら、とても悲しいよ。」
「・・・・・。」
なんか的外れというか、かみ合わない会話に僕はなんと答えていいのかわからなくなってしまった。しかし、「オホモダチ」と言われたことを、全く気にしていないトオルを見て僕は少し安心した。
第2章「ブルマ検査」
小学6年生の僕たちには避けて通れない道がある。それがブルマ検査だ。検査を明日に控えた日の午後、僕たちは友人A、Bを含めた4人で集まっていた。
「なあ、いよいよ明日だよな。ブルマ検査。」
「・・・おれ、怖いよ。」
いつもは明るいA、Bもさすがに動揺が隠せないようだった。その日はブルマ検査を控えた前日ということもあり、午前中で学校は終了。午後は時間があり溢れていたけど、ブルマ検査の不安からかいつものように遊ぶ気持ちにはなれず、4人集まったまではいいけど、何もしないまま程なく解散になった。
自宅への帰り道、トオルと一緒に歩いている時、僕はトオルに気持ちを聞いてみた。
「なあトオル、ブルマ検査どう思う。僕はとっても怖いんだけど・・・。」
「ボクは怖くなんてないよ。ヨウちゃんはボクより体が大きいんだから、きっと合格するよ。」
「そうか、明日の午後また皆で男同士で再開できるといいね。」
「・・・・・。」
トオルは僕の顔を見て少し微笑んだだけで、それ以上は答えなかった。
翌日、ブルマ検査は予定通りにとり行われた。
保健室での検査のあと、合格者はグラウンドに集合、不合格者は施術場となっている体育館で施術となった。
「ヨウスケ君、合格です。」
その言葉を聞いた時、うれしくてたまらなかった。これでこれからも男でいれる・・・。
しかし、喜びの余韻に浸っている暇はない。AやB、そしてトオルはどうだったのか。すぐに合格者が集まるグラウンドに向かった。
「おい、ヨウスケ。こっちこっち。」
最初に僕に声をかけてきたのはBだった。そばにはAもいる。
「おまえたちも合格だったのか。トオルは?」
「まだ、検査が終わっていないみたい。」
3人でトオルを待った。昨日僕に「怖くない」なんて言っていたから自信があるのだろう。でも、もしかしてということだってある・・・。
しかし、僕たちの心配をよそにしばらくすると、昇降口にトオルが現れた。
「おーい、トオル。」
「これでまた4人再開できたな。」
「・・・・う、うん。」
まだ、緊張しているのかトオルの口数は少なかった。
でも、僕はまた4人男のままで再会できた喜びでいっぱいだった。
第3章「月曜日」
ブルマ検査の日は緊張して疲れたせいもあって、帰宅後みんなとは遊ばずに早めに寝た。
その翌日の土曜日は学校は休みだった。しかし、ひとつ変わったことが起きた。それは、休みだというのにトオルが来ない。その日はきっとトオルも昨日疲れたんだろうと勝手に解釈して、僕もさほど気にしなかった。しかし、翌日の日曜日にもトオルは現れなかった。
いつもそばにいたことに慣れていたせいか、2日も続けて僕の前に現れないというのは少し気にかかった。風邪を引いて学校を休んだ時でさえ電話だけはかけてくる几帳面なトオルが2日間連絡すらしてこないとは・・・。
(まあ、明日になれば出てくるだろう。月曜日だし・・・。)
翌日、登校時に偶然AとBに出会った。2人に聞いてもやはりこの土日、トオルからの連絡はなかったという。
僕たちの通学路の途中にある神社のそばにトオルの家がある。いつもならこの神社に差し掛かると、
「ヨウちゃんおはよー。」
と言って陽気にトオルが飛び出てくる。しかし、その日はいつもどり神社に差し掛かってもトオルはいなかった。
少し心配になった僕は、A、Bとわかれて少し神社でトオルを待つことにした。
トオルを待って10分くらいしたときだろうか。背後に人の気配を感じた。振り向いて確認しようとした時、後ろからいきなり抱きつかれた。
「ヨウちゃん、おはよー。」
「ト、トオル!?」
僕は目を疑った。確かにトオルなのだが、ミニスカートに赤のランドセル姿。
「なんだよ、トオルその格好。じょ、冗談だろ。」
「ヨウちゃん。ボク、女の子だよ。」
「女の子って、トオルこの前ブルマ検査合格したはずだろ。」
「うん、合格したよ。でもねボク、ヨウちゃんより体もオチンチンもちっちゃいし、今年のブルマ検査じゃあ必ず女の子になれると思っていた。でも小さくても僕のオチンチンは合格だって言われたとき、正直ショックだった。」
「どういうことだよ・・・。」
「今まで隠していてゴメンネ。ボク、本当は女の子になりたかったんだ。それに、ボク、いつもヨウちゃんのところに行っていたけど、ヨウちゃんと一緒に遊んでいる時が一番楽しかった。ボクにとってヨウちゃんは友達以上の存在。憧れの初恋の人なのかな。でも、男の子同士だったから友達以上にはなれなかったし・・・。本当の気持ちも伝えられなかった。」
(や。やばい・・・。)
「それに、最近クラスの一部でボク達のこと『オホモダチ』なんていうヤツが現れたりして・・・。他の子達から見ればどう見たって男の子同士だもん。そんなこと言われたって無理もないよね。でも、もうボク女の子だから、ヨウちゃんとボク『オホモダチ』なんかじゃないよ。」
「さっきから自分のこと女の子って。もしかしてトオル、おまえオチンチン・・・。」
「うん。ブルマ検査では合格だったけど、ボクどうしても女の子になりたいことを帰ってからお母さんに言って、土曜日になって何とか認めてもらえた。それで昨日、ブルマを志願ということで病院に行って施術をしてもらってきた。だからもう付いてないよ。嘘だと思うのなら触ってみる?」
衝撃的なことを突然言われて僕の頭の中は真っ白だ。
「ヨウちゃん。女の子になったボクをよろしく。これでカップルになれるね。」
「カップルって、ちょ、ちょっと待ってくれ。」
「だって、この前ボクのこと『嫌いじゃない。』って言っていたじゃん。」
「その『嫌いじゃない。』は好きとか嫌いとかじゃなくて・・・。友達として・・・。まさかトオルがそんな気持ちだったなんて・・・。」
「んー。ボク一生懸命ヨウちゃんに本当の気持ち伝えたのに、何その態度。男らしくないぞー。」
もうどうしていいかわからず、トオルの前から逃げ出した。しかし、すぐにトオルは僕の後を追いかけてきた。登校途中の道端で男女(?)がドタバタしているものだから、周りから注目される。逃げている途中、出会ったクラスの女子からは
「やっぱりあの二人、愛し合っていたんだ。」
などという言葉が飛んできた。もう何もかもがめちゃくちゃだ・・・・・。
「エピローグ」
一番仲がよいと思っていた友人のトオルが、実は女の子になりたいというブルマ志願者で、しかも僕のことが好きで、そのうえ愛の告白までされて・・・。
突然の衝撃が次々と襲ってきて、もう本当にどうしたらよいのか・・・。心の整理が付くまで悩ましい日が続きそうです。
(おしまい)
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投稿:2012.11.23
トモダチ
著者 やかん 様 / アクセス 10894 / ♥ 1