日帰り温泉
僕は春休みを利用して、ぶらり途中下車の旅に出発した。
今日は多抜沢村にある日帰り温泉を訪れている。
そして、その玄関に書かれた一文に悩んでいた。
『チンポが付いている方の入浴をお断りします』
しかし、入口から見える奥には「男湯」と書かれたのれんが見える。
それなのにチンポが付いていたら入浴出来ないなんて……全く意味が解らなかった。
僕はどうしようかとウロウロしていると、奥から若い女性が現れ玄関を開いた。
「お客様ですか?」
「あっ! はい」
「どうぞ、お入りください」
事務服を着た女性は普通に僕を招き入れる。
僕は一文を指差して、本当に入って良いのか訪ねた。
「これってどういうことですか?」
「お客様はチンポが付いてるのですか?」
「はい……一応」
「ご心配ありませんわ、あちらに貸しチン庫がありますから」
「えっ? 貸しチン庫?」
女性が指差す方を見ると、男湯ののれんの奥に貴重品ロッカーのような物があった。
気が付けば僕は受付カウンターの前に立っていた。
「入浴料は500円です、タオルはご入り用ですか?」
「はい、お願いします」
「合計で600円になります」
僕は成り行きで会計を済ませて男湯ののれんをくぐり、貸しチン庫の前に立つ。
それはどこからどう見てもただの貴重品ロッカーにしか見えなかった。
僕はどうしていいのか解らず、また悩みこむ。
「お客様」
「うわっ!」
背後から唐突に声を掛けられて驚いて振り返ると、そこには受付の女性が立っていた。
「貸しチン庫の使い方をご存じないのですか?」
「え? ええ、こんなの初めて見ましたし……」
「ではご説明しますね」
女性が貸しチン庫の扉を開く。
しかしそこには四角い空間があるだけった。
「こちらに100円玉を入れて、チンポを入れてください」
「え? はい……」
僕は財布から100円玉を取り出し、そこにセットする。
女性は貸しチン庫をジッと見つめながらそこに立っている。
「あの……」
「はい?」
「チンポを入れるんですよね?」
「はい、チンポを入れてください」
「その、見られてると恥ずかしいんですが……」
「私はチンポを見ても平気です、使い方を説明しますから早くチンポを出してください」
僕は変な気分になりながらも、ズボンのチャックを下ろすとチンポを取り出した。
若い女性の目の前にチンポを放り出す……僕は少しドキドキしてしまった。
しかし、受付の女性は表情一つ変えず僕のチンポをじっと見ている。
そして淡々と事務的に説明を続けた。
「そのチンポをこの中に入れてください」
「この中に……」
僕は意味も解らず、そっと腰を近づけチンポを貸しチン庫へと入れた。
「そのままジッとしていてください」
「はい……」
(ガチャン!)
「……え?」
一瞬、何が起きたのか解らなかった。
何かが物凄い速さで股間を横切った様な気がした。
貸しチン庫の中に一本のチンポがコロンと転がっている。
「チンポ?」
そっと股間に視線を下ろすと、さっきまで付いていたチンポが無くなっている。
指先でそこを弄るが、肌色の断面があるだけで何も無くなってしまった。
「うわわわわわっ!」
僕は慌てて中からチンポを取り出そうとする。
しかし、受付の女性が扉を閉めてしまった。
そして鍵を抜き取り、僕にそれを手渡す。
「それではごゆっくり」
「まっ! 待って! チンポを切るなんて聞いてないぞ!」
「はい? 何を慌てているのですか?」
「だって、チンポを切られたら男じゃなくなるじゃないか!」
「キンタマがあるじゃないですか、どう見てもあなたは男ですよ?」
「そうじゃなくて! 早く病院を! 救急車をっ!」
大事なチンポを切られて慌てふためく僕と女性の会話が全く成り立たない。
そうこうしていると後ろから老人が一喝した。
「なんじゃ騒々しい! どかんか!」
「は、はい……すみません」
老人は持っていた鍵で貸しチン庫の扉を開くと、少々長めのチンポを取り出した。
そしてそれを股間の断面にペタンと押し当てる。
すると、まるで手品のようにチンポは元通りに繋がった。
「そ、そんなバカな!」
「バカとはなんじゃ。失礼な若造めが……」
老人は何事もなかったように服を着て、温泉から帰って行く。
「ありがとうございました〜」
受付の女性はカウンターへと戻り、ごく普通にその老人客を見送った。
「ここは一体何なんだ……」
僕は一刻も早くチンポを元通りにして、ここを去りたいと思った。
しかし……この不思議な温泉。
他にも何か謎があるんじゃないかという好奇心がくすぐられる。
先ほどの老人のチンポが元通りになったのだから、きっと僕のチンポも元通りになるだろう。
僕は服を脱ぐと普通のロッカーに収め、少しワクワクしながら浴場に入る戸を開いた。
「なんだ、普通じゃないか……」
きっと他にも特別な秘密があると思ったこの温泉。
しかし、そこはごく普通の内湯と露天がある、ただの景色のよい温泉だった。
普通じゃないのはそこに居る数人の温泉客の股間にチンポが付いていないことだった。
チンポが無ければタオルでそこを隠す必要もなく、キンタマだけがぶらぶら、ぶらぶらと揺れる不思議な光景だ……。
「ここ、良い湯だな」
ヌルッとした肌触りでぬるめのお湯は最高だった。
僕は小一時間、ごく普通に温泉を楽しみサッパリとリフレッシュした。
これ以上ここに居ても、チンポが無い以上の不思議な事は起こりそうになかった。
僕は温泉から上がり、引き上げることにした。
「あ、あれっ? 鍵……鍵が無い!」
手首に着けていたはずの貸しチン庫の鍵が無い。
ロッカーの鍵も無くなっている。
僕は慌てて浴場中を探す。
「あった!!」
脱衣場の角で見つけたのはロッカーの鍵だった。
取りあえず冷静になり、ロッカーを開く。
すると、そこに貸しチン庫の鍵が置いてあった。
「良かったぁ〜……」
自分の大事なチンポが仕舞ってある扉の鍵を、こんな不用心な所に置くなんて自分でも信じられなかった。
とにかく急いで貸しチン庫へと向かう。
「あ、あれっ?」
僕のチンポを入れた貸しチン庫は10番だった。
しかし、すでにそこは空になっていた。
僕は慌てて鍵を見直す。
「えっ? 5番?」
僕は恐る恐る5番の貸しチン庫を開いた。
「なっ……なんだこれは!」
そこにはウインナーのような小学生の皮かむりチンポ……否、オチンチンが転がっていた。
「何だこれは! あああああああっ! うわああああああっ!」
僕はもうどうしていいのかわからず頭を抱えて叫んだ。
その叫び声を聞いて受付の女性が駆け付けた。
「お客様、どうかされましたか?」
「ぼっ、僕のチンポが無いんだ!」
「はい? そこにあるじゃないですか……」
「違う! もっと大きいチンポ!」
「はぁ……でもお客様の鍵がそれなら、そのオチンチンでは?」
「そんなバカなことあるわけないだろっ!」
「そうですね……でも、貸しチン庫でのトラブルの責任は負いかねますので」
受付の女性は壁に張られた注意書きを指差す。
そして温泉側に責任が無い事を訴えた。
「……畜生」
よく思い出すと、確か何人かの小学生が入浴していた。
彼らの内の誰かがイタズラしたのだろうか……。
「あの、チンポが無いとご不便でしょうから。取りあえずそれをお付けになったらどうですか?」
「これを……」
先ほどからオシッコに行きたかったのもあり、僕は仕方なくそのオチンチンを断面へと押し付けた。
すると、ヒュッと吸い付くようにそこにくっついてしまった。
体もキンタマも大人なのに、まるでウインナーのようなちっちゃいオチンチンがそこにプルンとぶら下がる。
「プッ! クククッ……し、失礼しますっ!」
「……」
先ほどまで淡々と事務的だった受付の女性。
しかし、この情けない姿を見ると急に笑いをこらえながら受付へと逃げて行った。
僕は大きなショックを受けた。
その後、休憩室で閉館まで待ったが僕のチンポは戻ってこなかった……。
「絶対にチンポを取り戻してやるからな!」
そう決意して、僕は村にある宿に宿泊した。
そして翌朝、開館時間に再び日帰り温泉を訪れた。
僕は玄関の前の一文を読み、愕然とした。
『キンタマが付いている方の入浴をお断りします』
ポカンと口を開けて唖然としていると、奥から受付の女性が現れ玄関を開いた。
「お客様ですか?」
「……」
(おわり)