■古びた診療所
僕は健二と隆の三人で、山のふもとにある寂れた公園でサッカーをして遊んでいた。
この公園の隣には、廃墟になった気味の悪い、古びた診療所がある。
すでに廃院になっているのに、窓辺に立つ白衣を着た女性を見たと言う噂もある。
地元の人はその噂話を怖がり、誰もここで遊ばない。
不思議と僕はその診療所をあまり怖いとは感じず、ここで遊ぶのは昔から平気だった。
健二と隆は気味が悪いと言うが、思いっきりボールを蹴る事が出来るのはこの公園しかなかった。
「哲也、パス! ……あっ!」
健二が蹴ったボールは僕の右肩を霞めて、そのまま診療所へと飛び込んでしまった。
(ガシャン)
「バカっ! あーあ……」
何かが割れる音が聞こえ、僕たちは慌てて診療所へと向かった。
「すみませーん……」
声を掛けてみるも、誰の返事も無い。
看板の文字は擦れて読めず、入口の門も壊れている。
その奥に見える庭には雑草がうっそうと茂っていた。
やはりこの診療所は、無人の廃墟となっているようだった。
「やっぱり誰もいないよ、ボール取りに行こうぜ」
隆がそう言って診療所のガラス戸を開こうとしたその時、白衣を着た女性がボールを片手に持って中から現れた。
その表情はムッとしており、かなり怒っている様子だった。
「これは君たちのボールかしら?」
「うわっ! すっ、すみませんでした」
その姿はボロボロの診療所とは不釣り合いな、とても若く美しい女医さんだった。
女医さんはボールを返してくれず、僕たちに診療所の中に入るよう即した。
「さぁ、君たち。中に入りなさい」
「あ、あの……ボール」
「返して欲しかったら早く入りなさい!」
モタモタする僕たちに、女医さんは厳しい口調で命令した。
「ハッ、ハイッ!」
診療所の中に入ると、そこは外観とは違い綺麗に片付いていた。
待合室にはレトロな壁掛け時計が飾られ、木目調の豪華なテーブルやソファが置かれている。
僕たちはそのまま診療室に通された。
「見てみなさい」
「あ……」
女医さんが指差す方向を見ると、ガラスの破片が飛び散っていた。
その横には何かのガラス瓶が二つに割れてが転がり、入っていた何かの標本がグシャグシャになっていた。
僕たちは必死に許してもらえるように謝った。
「すみません! 許してください!」
「ダメよ、許さないわ」
「そ、そんなぁ……」
「これは、お姉さんの宝物だったのよ……」
女医さんはそう言いながら、グシャグシャになった何かを拾い上げると、優しく撫でるように崩れた形を整えている。
とても悲しそうな表情をしていた女医さんを見て、僕たちは何も言えなかった。
「とにかく、そこを片付けなさい」
「はい……」
僕たちは女医さんに掃除道具を借りて、床に散らばったガラスの破片や鉢植えを片付けた。
女医さんは、あの何かの標本を新しいガラス瓶の溶液に漬けて、棚の中に陳列していた。
「あの、片付けました」
「そう……そこの椅子に掛けてなさい」
「はい」
女医さんはそう言い残すと、奥の部屋へと入って行った。
その表情は固く、まだ僕たちを許してないようだ。
僕たちは諦めて、そこにあった古くて重厚な木製の椅子に掛けて待った。
「健二! お前が悪いんだぞ」
隆は健二に小声で怒鳴りつけた。
「違うよ! 取れなかった哲也が悪いんだろっ!」
「何で僕のせいなんだよ!」
ボソボソと口喧嘩をしていると、奥の部屋から女医さんが戻ってきた。
そして三人分のティーカップが乗ったトレイを手に持ったまま、僕たちを叱りつけた。
「男の子が口喧嘩なんてみっともないわね」
「す、すみません」
「責任は三人で取ってもらうわよ、連帯責任ね」
「連帯責任……」
「とりあえず、お姉さんの特製紅茶を飲んで落ち着きなさい。さあ、どうぞ」
「いただきます……」
僕たちはドギマギしながら、女医さんに出された紅茶を口にする。
あれが三人でないと弁償出来ないような高価な標本だったのかと思うと、少し指先が震えた。
とてもバイト代で返せるような金額では無いのだろう。
「(どうしよう……)」
僕は色々考えるうちに頭がいっぱいになって、そのまま何が何だかわからない気分になった。
そして、そのまま意識がプッツリと途絶えた。
■連帯責任
「!?」
ふと気が付くと、先ほどと同じ診療室の景色が目に飛び込んできた。
でも何かが違う……。
「えっ?」
僕の手と足と胴体は木の椅子に黄色いゴムのようなもので固く縛られていた。
そしてズボンとパンツが脱がされ、チンポとキンタマが露わになっていた。
「健二! 隆!」
「ウグググッ、ウグッ!」
ふと横を見ると、健二と隆も同じような格好で椅子に縛られている。
ただ、二人の口には何か丸いボールの様なものが咥えさせられていて、何も喋れない状態だ。
先ほどの紅茶には眠り薬が入っていたのだろう、僕たちは完全に拘束されてしまった。
「やっとお目覚めのようね」
僕の目の前には女医さんが椅子に掛けていた。
その横には台車が置かれ、その上には手術道具や何かの器具が並んでいた。
「僕たちに何をするんだ!」
「言ったでしょう? 責任を取ってもらうのよ」
「責任って?」
「君たちはお姉さんから宝物を奪ったから、同じように君たちから宝物を奪うのよ」
「たっ、宝物ってまさか!?」
女医さんは微笑みを浮かべながら口を開いた。
「そうよ、男の子の宝物……オチンチンとキンタマを切って取っちゃうのよ」
「そっ! そんなっ! 誰か助けてーっ!!」
僕は必死に大きな声で叫んで助けを求めた。
「フフフッ、いくら叫んでも誰も来ないわよ……ところで、その順番でいいのかしら?」
「えっ? 順番?」
僕の右に健二、そして左に隆が縛られている。
僕は真ん中だ……この順番に何か意味があるのだろうか?
「お姉さんは優しいから、一人一つずつで許してあげる」
「一つずつ?」
女医さんは健二と隆を指差してこう続けた。
「この子は右のキンタマ、こっちの子は左のキンタマ……」
健二が右のキンタマ、隆が左のキンタマを取られる。
じゃあ真ん中の僕は……僕は一瞬で背筋が凍りついた。
「フフフッ、真ん中の君はオチンチンよ」
予想通り僕はチンポを切られるようだ。
僕は必死にチンポを切らないようお願いした。
「嫌だ嫌だ嫌だっ!! 僕のチンポ切らないでっ!」
「チンポ? まだオチンチンでしょう? フフフッ……そこで見ていなさい」
女医さんはそう言うと手術用の薄いゴム手袋をはめた。
そして消毒液と脱脂綿を使い、三人の股間を綺麗に拭き取った。
僕はそのヒンヤリとする感覚にゾゾッとした。
「まずは君からよ。キンタマは一つあれば大丈夫だから、怖がらなくていいのよ……フフフッ」
女医さんは健二の前にしゃがみ込むと、そのキンタマ袋をそっと持ち上げグリグリと中身を確認している。
その指先がキンタマを捕える度に、健二の体がビクッ、ビクッと仰け反るように痙攣する。
「オチンチンが邪魔ね……」
女医さんは楽しそうな表情でそう言いながら、健二のチンポをグリグリと揉む。
そしてオナニーをするような手つきで茎をしごき始めた。
「ンッ! ンッ! ンンッ……」
「フフッ、お姉さんにオチンチンをしごかれて気持ちいいでしょう? 早く起たせなさい」
健二は勃起したらチンポに何かをされると思い、必死に耐えているようだった。
そんな苦痛の表情とは裏腹に、健二のチンポはあっさりと上を向いて起ちあがってしまった。
「フフフッ、まだ少し可愛いオチンチンね。そのままにしていなさい」
チンポが勃起して上を向き、健二のキンタマが丸見えになっている。
すると女医さんは、上を向いたチンポをガムテープのようなものでお腹に貼り付けた。
そして次に、台車のトレイからメスを手に取り、それを健二のキンタマへと近づける。
「ンーッ!! ンーッ!!」
健二は涙を浮かべながら、必死に体を捩って逃げようとしている。
しかし、きつく縛られた手足は全然動かず、ドッシリと重い木製の椅子も動かない。
「イイ子だから諦めなさい……」
(シュッ)
「ンーッ!!」
そのメスの刃先が、一瞬で健二のタマ袋を縦に切り裂いた。
同時に健二の声にならない叫び声が診療室に響く。
友人の人生最大のピンチに、何も出来ない自分が悔しかった……。
そして女医さんは切り裂いたタマ袋から指先を入れると、健二の右のキンタマをニュルッと摘み出し、それを指先に乗せた。
「ついでだから性教育してあげるわね……白いけれどこれがキンタマよ。君の大事な精子が詰まった睾丸よ」
女医さんはキンタマの説明をしながら、それを指先でコリッと弄んだ。
「ンッ!ンーッ!!」
その瞬間、健二の体は一瞬ビクンと大きく仰け反り、低いうめき声を上げて気絶してしまった。
数秒後、意識を取り戻した健二は必死に首を振って止めてくれとお願いする。
女医さんはそれを無視して、メスの刃先をキンタマに繋がった管へと近づける。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ、左のキンタマが頑張ってくれるからね」
(ブツッ)
健二のキンタマは、いとも簡単に切り離され、女医さんの掌に転がる。
「ほら、キンタマが取れたわよ……君の宝物」
健二はそれを見届けることなく、低いうめき声を上げてビクンと痙攣すると同時に気絶した。
「ウフフッ、宝物の最後なんだから、しっかり見届けないとダメじゃない……仕方ないわねぇ」
女医さんは楕円形の健二のキンタマを、無造作に銀色の皿の上にコロンと転がした。
そして手際よく健二のタマ袋をサクサクと縫い合わせている
その取り返しのつかない状況に、僕は一瞬目を背けた。
「あら、お友達のキンタマの心配をしている場合かしら?」
そう言うと、女医さんは微笑みながら僕の前にしゃがみ込み、恐怖で縮んだ僕のチンポを優しく揉み始めた。
「やっ……やめてっ!」
「ダーメ! 君の宝物……このオチンチンを切り取ってやるんだから」
「嫌だっ! チンポ切ったら立ってオシッコ出来なくなる、オナニーも出来ないっ!」
「フフッ、そんなこと心配しなくても大丈夫よ……さぁ、君も早く起たせなさい」
女医さんは僕のチンポを膨らませるようにギュウと掴み、いやらしく揉み続ける。
「嫌だっ! ああっ……(気持ちいい)」
「ウフフッ、オチンチン気持ちいでしょう?」
「ンッ……ああっ!」
「フフッ……イイ子ね、カチカチに起たせなさい」
僕のチンポはその優しい指使いの刺激に耐えられず、あっけなくピンッと起ってしまった。
僕のチンポは女医さんの目の前で反り返り、先っぽを剥き出しにしてビクンビクンといやらしく脈動している。
「あら……起ったら一応はチンポなのね、切っちゃうのは可哀想かしら?」
「お願いだから、チンポ切らないで……ううっ」
僕は涙を流しながら、再び女医さんにチンポを切らないようにお願いした。
女医さんは、大きく反り返った僕のチンポの形を確かめるように指先で撫でながらこう答えた。
「そうね……キチンと女の子を喜ばせるチンポなら許してあげるわ」
「え!? 本当に? 本当に?」
「本当よ……これで射精しなかったら許してあげる」
「あっ!?」
(クチュ……)
そう言うと女医さんは僕のチンポを口で咥えてしまった。
その舌先が先っぽを優しく舐めて僕を刺激する……生れて初めて味わう快感が背筋を突き抜けた。
「あっ! あっ! ダメ! 出るっ……アッ」
(ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクンドクン……)
(ガリッ)
僕は女医さんの舌使いに耐えられず、あっと言う間に射精してしまった。
その瞬間、女医さんは僕のチンポにガブリと噛みついた。
「痛いっ! ヤメテッ! ごめんなさいっ、チンポ噛まないでっ!」
「もうっ! 女の子のお口に出すなんて最低な男の子ね。このチンポは男失格よ!」
女医さんはそう言いながら、洗面台で口をゆすいで僕の精液を吐きだしていた。
そして怒った表情のまま、ゴムチューブで僕のチンポの付け根をギュウギュウと締め上げると、パチンと先っぽを手の平で叩いた。
「痛いっ!」
「大げさね、切ったらもっと痛いわよ? お姉さんにはわからない痛さだけど……フフフッ」
きつく締められてうっ血した僕のチンポは、表面に血管が浮かべながらビクンビクンと軽く脈動している。
「嫌だっ! ごめんなさい、ごめんなさいっ! 切らないでーっ!」
「ダメよ。それに、最後にお姉さんのお口に射精したから満足でしょう?」
「嫌だーっ! セックス出来なくなるっ!」
「女の子を満足させるチンポしかセックスする資格は無いの。君のチンポはダメチンポだから切った方がいいわ」
女医さんはもう僕を許す気は全くないようだ。
淡々とチンポを切る準備を整え、手にしたメスの刃先を僕のチンポの付け根へと当てる。
それを見た僕は全身の筋肉が硬直した、一瞬で体温が下がった感覚に陥りガクガクと震える。
「ヒッ!」
「ずっとコレと一緒だったんでしょう? でも、もうお別れよ……チンポにさよならしなさい、フフフッ」
「ヤメテッ!?」
女医さんは躊躇なく僕のチンポにメスを入れた。
その刃先が、素早く僕の体からチンポを切り離していく感覚が脳に伝わる。
(サクッ……シュパッ)
「ウアアアッ!! 痛い痛い痛いっ!」
「大げさね! キンタマを切るよりマシなはずよ? だって、お口に何も咥えなくても耐えられてるじゃない」
キンタマを切られて気絶した健二よりマシ……確かにそうかもしれない。
僕はズキンズキンと走る痛みに歯ぎしりをした。
そして断続的に襲いかかる激痛に耐えながら、声にならない悲鳴を上げ続けた。
恐る恐る視線をチンポへと落とすと、そこには、まるでソーセージをストンと切ったような赤く丸い断面が覗いている。
僕はもう、普通の男のように立ってオシッコしたり、セックスが出来ない体にされてしまったのだ。
「畜生……ウウッ、僕のチンポ……僕のチンポが……」
「ほら見て、チンポって切ったら魚肉ソーセージみたいでしょう? フフフッ」
女医さんは、意地悪そうな表情で僕から奪ったチンポを摘みあげて、ブラブラとおもちゃの様に弄ぶ。
一しきりその感触を楽しむと、皿の中の健二のキンタマの横に、僕のチンポをコロンと転がした。
そして、女医さんは先ほどと同じように手際よく、ズキンズキンと熱を感じる僕のチンポの断面を縫い合わせる。
僕のチンポは、ただの丸い肌色の切り残しになってしまった。
「フフフッ、キンタマだけがブラブラしててカワイイわよ」
その後、女医さんは健二と同じ様に隆の左のキンタマを切り取ってしまった。
僕は放心状態でその一部始終を見つめる事しか出来なかった……。
「ウフフフッ、これで君たちの宝物はお姉さんのモノになったわ」
銀色の皿の上には、僕の物だったチンポが転がっている。
そしてその左右には、健二と隆のキンタマが置かれていた……。
「君たち、もしこの事を誰かに喋ったら、残りの宝物を全部削ぎ落すわよ……フフフッ」
■悪夢と現実と夢
「ん……」
いつの間にか眠っていた僕たちは、診療所のベッドの上で目を覚ました。
あの悪夢の様な手術から、一体どれぐらい時間が経ったのだろうか……窓の外はあかね色に染まっていた。
「あれ?」
ふと周囲を見回すと、女医さんの姿は何処にも無かった。
先ほどまで綺麗だったはずの診療室は、外観通りの古びた廃墟になっている。
「夢?」
僕たちは、あれは夢だったんだと期待してズボンに手を入れてそこを確認した。
「……無い」
しかし、そこは手術された通りの状態だった。
健二と隆はキンタマを一つずつ、僕はチンポを奪われてしまった……。
「ボール……」
床には僕たちが遊んでいたサッカーボールが転がっている。
良く見ると、確かに僕たちが割った窓のガラスは割れたままだ。
しかし、床は綺麗に片付いている。
女医さんが陳列棚に置いた新しいガラス瓶の中には、確かに何かの標本が漬けられている……。
一体どこからどこまでが夢なのか現実なのか解らず、とにかく僕たちは逃げるように診療所を飛び出した。
「キンタマ取られちまった……どうしよう」
「キンタマ取られてこのまま黙ってられるか! 訴えてやろう!」
「訴えるったって、あの女医って絶対人間じゃないよ、どうするんだよ」
「じゃあ健二は許せるのかよ……畜生!」
健二と隆はキンタマを取られた事に憤る。
しかし僕はこの事を、チンポが無くなった事を誰にも知られたくないと思った。
それに、女医さんが口止めした時のあの言葉も気になる……残りの宝物、もしキンタマまで失ったらと思うと全身が震えた。
「僕は嫌だ……」
「どうしてだよ哲也! お前はチンポを切られたんだぞ!」
「だから嫌なんだ! チンポを切られたなんて皆に知られたら……僕はもうここで生きていけないよっ!」
「哲也……」
僕はその場で膝を付き、悔し涙を流しながら地面を殴り続けた……。
僕たちは誰の助けも得られないまま、一生をこの体で過ごすしかないようだ。
僕たちは、無言のままフラフラと絶望しながらそれぞれの家へと帰った。
家に着くと僕はそのまま布団に潜り込み、涙を流しながら膝を抱えて丸くなった。
「不公平じゃないか……」
健二と隆はキンタマが一つ無くなっただけだ。
立ちションもできるし、オナニーだって出来る。
セックスも出来るから彼女だって作れる。
でも僕はもう、一生セックスはおろか立ちションも出来ない。
普通の男として恋愛したり、彼女を作る事も出来ないのだ……。
「畜生……」
オナニーも出来ないと思い不安になった僕は、平らになったチンポの断面を指先で弄る……しばらくすると、そこは硬く勃起した。
しかし、そこをコリコリと弄り続けても、微かに気持ち良いだけで一向に射精しそうになかった。
一瞬、あの女医さんに口でチンポを舐めてもらった快感が思い出される。
「アァッ! 頭がおかしくなる! 出したい! 苦しい……苦しいよぉ」
僕はジンジンと疼く股間を押さえながら、布団の中でゴロゴロと悶絶する。
そして居てもたっても居られず、寝巻姿のままあの古びた診療所へと駆け出した。
誰も居ないあの公園を横眼にひたすら走った。
そこには暗闇にボーっと診療所の輪郭が浮かんでいる……。
必死に診療所の扉を叩くが、やはり人の気配はなかった。
「ううっ……どうしよう」
僕が諦めて向きを変え、家に帰ろうとした瞬間、背後で診療所の灯りがともった。
慌てて振り返えると、そこには寝間着姿の女医さんが扉からこちらを覗いていた。
「いらっしゃい、やっぱり来たわね……入っていいわよ」
「……はい」
僕は女医さんに手を取られ、そのまま診療所へと入った。
そこは最初に訪れた時と同じように綺麗な待合室が広がっていた。
そして再び、あの診察室へと通された。
「……チンポが無くて苦しい?」
「苦しいよ! 僕のチンポを返して欲しい!」
「それは無理よ、もうくっつかないわ」
そう言うと、女医さんは一つの瓶を陳列棚から取り出した。
その瓶の溶液の中で、僕のチンポと健二と隆のキンタマが、ワンセットで標本になっていた。
「そんな……酷い」
僕はこの絶望的な状況に顔から血の気が引き、全身が軽く震えだした。
女医さんは無言でもう一つの瓶、あの時、僕たちが壊してしまった標本を持ってきた。
その中には、割れたガラスの破片でズタズタに痛んでしまったチンポとキンタマの標本が入っていた。
その傷はとても痛々しく、他人のチンポとは言え正視出来ない程だった。
「これって?」
「これはね、お姉さんの大切だった人のチンポとキンタマよ……私の宝物なの」
「それを僕たちが……」
「そうよ、だから許せなかったの……でも、酷いことしちゃったわね」
「……」
標本のチンポをダメにされたからと言って、僕がチンポを切られるなんて全く釣り合いが取れない話だ……。
「大切な人はどこなの?」
「もうどこにも居ないみたい……また生まれ変わった時に、このチンポとキンタマを求めてここに戻って来ると信じていたのに……」
女医さんが俯くと、数滴の涙が床に流れ落ちた……。
女医さんは昔の恋人との再会を待つ幽霊なのだろうか?
あるいは人間ではない、何か特別な存在なのだろうか?
それは僕にはよく解らなかった。
「シンミリしてごめんなさいね。出したくて苦しいんでしょう? お姉さんが出してあげるわ」
「えっ! チンポが無くても出せるの?」
「ウフフッ……そうよ」
女医さんは棚から綿棒と何かの液体を取り出すと、僕に寝間着を脱いでベッドに横になるように即した。
僕は寝間着を脱ぎ、チンポを失った部分を隠しながら横になった。
「あら、隠すモノなんて無いでしょう? お姉さんに見せなさい……」
僕は男では無くなった悔しさと恥ずかしさで、少し内股になりながらそこから手を離した。
「ウフフ……カワイイ」
(チュ)
「アッ……気持ちいい!」
女医さんは僕のチンポの切り残しにキスをして、そのまま舌で断面を撫でるように舐めてくれた。
その気持ちよさに、僕の切り残しはあっと言う間に硬く膨らんだ。
体の中では付いていた時と同じように硬くなり脈打っている。
しかし、表面は平らで何も出っ張らない……男として悔しさを感じ、歯ぎしりをした。
「悔しがらなくていいのよ、チンポが無くても君は男の子なんだから。ほら、立派なキンタマが二つもあるじゃない」
「……そうだけど」
「じゃあ、気持ち良くしてあげるわね」
女医さんは綿棒にトロリとした液体を付けると、それを僕の切り残しに空いたオシッコの穴へと近づけた。
僕は一瞬怖くなり、腰を引いてしまった。
「男の子でしょう? 怖がらないの!」
「で、でもっ……」
(ニュッ)
「あっ!?」
綿棒の先がヌルヌルと僕の体中に入って来る……。
僕は気持ち悪さと同時に、言いようのない不思議な快感を感じた。
射精の最中に感じる、あの快感が連続で僕を襲う。
僕はベッドの上で吐息を吐きながら身悶えする。
女医さんはその様子を楽しそうに眺めながら、僕の中を犯し続けた。
「ひゃああっ! 何か変になる! 気持ちイイっ!」
「フフフフッ、気持ちいいでしょう? 出していいのよ」
「ンッ! うんっ…… アアアッ! 出るっ」
(ドピュッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ……)
僕は、今まで感じたことのない快感に仰け反りながら、チンポの切り残しから大量の精液を勢いよく発射した。
「フフフッ……いっぱい出せて良かったわね」
女医さんは、僕の顔を優しく撫でながらそう言ってくれた。
僕はそのまま余韻に浸り続けた……。
「あの……お姉さんの名前は何て言うんですか?」
「あら、チンポが無いのに私を口説いてどうするつもりなの?」
「そんな言い方……酷いよ」
僕は、自分の大事なチンポを切った冷酷なこの女性を好きになってしまったのだろうか?
頭でそれを否定しても、どうしてもこの女医さんに魅かれてしまう。
「私は彩香よ……君は?」
「僕は哲也、工藤哲也」
女医さん、否、彩香さんは驚いた表情で僕の顔を見つめた。
「哲也……あの人と同じ名前なのね」
「そうなんだ」
「私のこと、好きになっちゃった?」
「うん、でも彩香さんには大切な人が……」
(チュ……)
「(!?)」
彩香さんは僕を強く抱きしめると、いきなり僕の唇にキスをした。
その瞬間、全身に電撃の様な感覚が走った。
僕の中の何かが、漠然とした何かが蘇る感覚に襲われた……ただ、それが何なのかはハッキリしなかった。
「あぁっ! 哲也、哲也、哲也! 戻って来てくれたのね! 嬉しいわ!」
「僕が……僕が彩香さんの大切な人……なの?」
「そうよ! きっとそう! 間違いないわ!」
「彩香……さん」
「あの時はごめんなさい……なのに、また哲也の宝物を切ってしまうなんて……私を許して……」
生まれ変わる前の僕と彩香さんの間で何があったのか、それは思い出せないし解らなかった。
僕はただ自然に沸き上がる、懐かしい感情で彩香さんを抱きしめた……。
「哲也、もう絶対に離さないわ……愛してる」
「僕も離さないよ、彩香さん……愛してる」
その日から僕は、必死に勉強して医学部へと進み医師になった。
そして、この古びた診療所を地主から買い取り、綺麗に元通りにして開業した。
綺麗に直った診療所の窓から、彩香と二人で公園の風景を眺める日々を送っている。
ただ、彩香と愛し合うたびに、そこにチンポが無いことだけが悔しい日々を……。
(END)
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投稿:2013.04.10更新:2019.05.16
古びた診療所の女医
著者 いち 様 / アクセス 22828 / ♥ 38