去年の夏、僕はチンポを失った。
「……熱い」
今夜と同じように寝苦しかったあの夏の夜。
僕の浮気のせいで嫉妬に狂った彼女、陽子の手によって一瞬で切り離され、失ったはずの僕のチンポが疼く。
陽子と僕のチンポの行方はようとして知れていない。
「ああ……僕の……チンポ……」
今夜、それを失ってから久しく忘れ去っていたはずの男の感覚が突如として沸き上がる。
チンポとキンタマ……男の全てを失ったはずの股間が熱く火照る。
目に見えないチンポがそこでカチカチに勃起し、軽く脈動している。
薄いタオルケットを蹴飛ばし、僕はそこに手を潜り込ませた。
(ギュム……)
「!?」
マネキンの様にツルンと平らになっていたはずの僕の股間に懐かしい握り心地を感じ取り、僕はベッドから飛び起き、トランクスを脱ぎ捨てた。
「チ……チンポ……そんなバカな!?」
一年前に失ったはずのチンポがビクッビクッと先端を震わせながらそこに存在していた。
その下には重量感のあるキンタマがぶら下がっている。
「これは一体……夢……夢なのか?」
(バチン)
「痛っ!」
思わず握りしめたキンタマから、懐かしい激痛が走る。
その激痛がこれが夢でないことを告げた。
「こんなことって……信じられない……」
なぜ失ったはずのチンポとキンタマが生えたのか?
この不思議な現象への疑問よりも、今はただ一つの事しか頭に浮かび上がらなかった。
「(射精したい)」
初めてオナニーを知ったあの頃と同じように僕はひたすらチンポを擦った。
リズミカルに、ギュッと握りしめ、上下にシコシコと擦り続けた。
男として生き続けることに希望を失い、廃人のように過ごしてきた一年間を忘れるように擦った……。
僕は生き返った……そう思った。
「ああっ! 出る!」
(ドクッ、ドクンドクンドクン……)
僕は最大限に誇張したチンポの先端から大量の白いザーメンを吐き出し、部屋中にまき散らした。
すっかり忘れていた快感と達成感に僕は涙を流しながらベッドにグッタリと横たわった。
「フッ……フフフッ……フハハハハハハッ! ヤッター!!」
とにかく今夜、僕は男として復活した。
明日からまた男として生きることができる、そう思うと笑いが止まらなかった。
「よかったわね、信二」
高笑いする僕の後ろから聞き覚えのある女性が僕の名を呼んだ。
「よっ! 陽子!?」
間違いない、僕のチンポとキンタマを切り離して失踪した陽子だ。
「陽子! 一体今まで何処に居たんだ……僕のチンポ切りやがって!」
「ずっと信二の傍に居たわ……」
「えっ?」
僕は急に冷静になった。
陽子の表情は少し青白く、来ている服もあの時と全く同じだ……その手には僕のチンポを切った時の返り血も着いたままだ。
「陽子、お前……まさか!?」
「そんなに怖がらないで信二」
陽子はそう言いながら僕の横に座り、唇を重ねる。
その唇は少し冷たくひんやりとした感触だった。
そしてその腕が僕の背中へと伸び、そのままギュウと抱きしめた。
「あの時はごめんなさい……また会えてうれしいわ、やっぱり愛してる」
「まっ!? 待って、待て待て、うわぁああああああああっ」
僕は陽子を振り払おうと必死に抵抗をした瞬間、僕の体はピクリとも動かせなくなった。
そして、先ほどまで熱を帯びていたチンポが氷のように冷たく感じた。
そこに視線を落とすと、付け根の部分に切り離した傷が見え、そこから先のチンポは血の気が無く真っ青になっていた。
その刺すような冷たさがジワジワと僕の体へと広がり、ゆっくりと体温を奪うのが分かった。
「や、やめろ……陽子……何をするつもりだ」
「また信二と一緒に暮らしたいの、傍に居るのに気づいてくれないのはもうイヤ……一緒に逝きましょう」
「い、嫌だ! 僕は死にたくないっ! 生きたいんだ!」
「嘘よ……オチンポが無い信二はまるで生きる屍のようだったもの……一緒に逝けばまたオチンポで愛しあえるのよ?」
「いっ……嫌だ……し、死にたくない……」
「愛してるわ……信二」
それから僕は再びこの部屋で陽子と暮らし、愛し合う日々を過ごしている。
新しい入居者は僕と陽子の存在に全く気付く素振りは無かった。
ただ、真夏の迎え盆のこの夜だけは少し寝苦しそうな表情を浮かべている。
その傍らで僕と陽子は氷のように冷たい唇とチンポで愛し合い続けている……。
(END)
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投稿:2013.07.19更新:2013.07.19
真夏の夜
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